603 名前:3巻 第4章 桐乃視点「1/2」【SS】[sage] 投稿日:2011/03/19(土) 21:48:09.16 ID:2KOwm08v0 [9/10]

扉を開けたら,怪訝そうな顔をした兄貴が立っていた。

「……どうかしたのか?」
「……なんでもない」

しかし,兄貴は引き下がろうとしない。

「なんでもなくはねーだろバカ。――なんか心配事でもあんなら言ってみ。
 で,話したらさっさと寝ろ。早く治して部活やら仕事に出てーんだろうがよ」

「……どうしたの……あんた。珍しく優しいじゃん」

いつもは――――あんなに嫌そうな顔するのに。

「ハッ。さっさと治ってもらわねーと,俺に伝染るだろうが」

そう言ってふいっとそっぽを向いてしまう。
その姿が可愛らしくて,思わず「ぷっ」と吹き出してしまった。

……素直じゃないよね,こいつもさ。

「ばかじゃん。……ふん,まあいいや,入って。あんたごときじゃ,
 どうにもならないとは思うけど。……聞きたいなら,話してあげる」

604 名前:3巻 第4章 桐乃視点「2/2」【SS】[sage] 投稿日:2011/03/19(土) 21:48:57.03 ID:2KOwm08v0 [10/10]

兄貴が出ていった後,あたしはそのままベッドに倒れ込む。

「フ――――」

あたしだけなら,まだいい。
自分で書いた小説がほめられて,勝手に舞い上がって,だまされた。
それだけなら,まだいい。

でも――――今回はそうじゃない。

いつからだったか,あたしたち兄妹は互いを無視し合ってきた。
あいつはあたしの事が嫌いみたいだし,あたしだってあいつの事なんか嫌いだ。
これからだってその関係は変わらない……ずっとそう思ってきた。

でも,うっかりエロゲーを落として,それをあいつに見つけられて,
それをきっかけにあいつに人生相談を持ちかけて……
あたしたちの関係は,少しずつ変わっていった。
今回の取材だって,今までのあたしたちだったらとても考えられなかったことだ。

だからあたしは,一生懸命書いた。今までの想いを込めて,この小説を書いた。

なのに――――

なのに……それを踏みにじられた!
あいつと一緒に作りあげたものを,それに込めた想いを,無かったことにされた!

悔しくて,悔しくて,悔しくて…………ッ!!    ――――でも,どうにもならなくて。

「……でも,なんでだろ」

あいつの顔見たら,そんなことはどうでもいいとも思えてきてしまう。

勉強や部活を頑張って,アニメやゲームに夢中になって,学校やオタクの友達と一緒に遊んで……
あたしはそんな自分が好きだし,そんな毎日が愛しくてたまらない。

そして今は,そんなあたしを守ってくれる人がいる。
あいつがそばに居てくれるならあたしは……

「……ハッ,何考えちゃってんだか」

気付いたら,あたしはベッドに顔をうずめて泣いていた。
熱で頭がおかしくなったのかもしれない。あんなに泣いたのに,どんどん涙が溢れてくる。

兄貴に聞こえないように,あたしは声を押し殺して泣き続けた。



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最終更新:2011年03月20日 22:39