759 :名無しさん@お腹いっぱい。 :sage :2011/03/21(月) 17:03:56.23 (p)ID:WWhqJ8J7P(2)
※京介は家を出て一人暮らしをしてる設定。桐乃はよく寝泊りしていく押しかけ状態を前提でどぞ
「それじゃ部長、お先に失礼します」
「お?高坂、今日は早いじゃねえか。何かあんのか?」
「ええ、まあ。今日はお店に頼んでおいたもの取りに行かないといけないんで」
「店に頼んだもの?……ああ、そういえば今日はそんな日だったか。カミさんと結婚してからしばらくそういうことしてなかったからすっかり忘れてたぜ」
「そういうことです。おっと、時間が押してるんで」
「おうよ。美人の妹さんによろしく言っといてくれや」
「……妹、ね。それも今日しだいか」
「何か言ったか?」
「いえ。何でもないっス。それじゃお先です」
「よし。無事に受け取れたぜ。3倍返しなんてよく言うが、ある意味これも間違ってないよな。3ヶ月分も3倍は3倍だし。
……『これ』見たら桐乃、なんて言うだろうな……」
『これ』はある意味俺の決意表明ともいえるもんなんだが、あいつが素直に受け取ってくれるかどうか……
勿論、あいつの想いを疑ってるわけじゃないが、どうしても尻込みするんだよなぁ……高校時代から結構年月がたっているにも関わらず俺のチキンっぷりはかわらんらしい。
「ま、やるって決めたしな。さて鍵鍵っと……? 開いてる? 桐乃、帰ってるのか?」
あいつ、今日は撮影あるって言ってたはずなんだが。遅くなるとも言ってたような……
まあ、帰ってるなら都合がいい。さあ覚悟を決めるか。
「ただいまー」
「あ、お帰り。兄貴。」
「おう、今帰った。というかお前仕事どうしたんだよ? 今日遅くなるって言ってなかったか?」
「んー? なんかさぁ、撮影先で事故があったらしくって現地入りできなかったんだよね。
で、しばらく立ち入り禁止ってことになっちゃって結局撮影は中止。だから割と早く帰ってきてたよ?」
「事故か。最近多いな。お前も移動のときとか気をつけろよ?」
「それぐらいわかってるって。何? 心配してくれんの?」
ニヤニヤとからかい口調で、態度がいかにも「あーあー、これだからシスコンはw」と言っているが、これぐらいは流石にもう慣れた。
だからこそ返し方もいい加減わかってるわけで。
「当たり前だろ? 妹のこと心配して何が悪いってんだ」
「うわっ、言い切ったよこのシスコン。キモッ、キモッ!」
なぁんて言ってる妹様であるが桐乃よ、そんなに顔赤くしてにやけ顔で言っても全然説得力無いから。
「まあ、冗談はこれぐらいにして」
ほら、な。最近こんなやり取りばかりだから展開ぐらいは読めるって。
「とりあえずさっさと着替えてきたら?夕飯はあたしが作っといたからありがたく思いなさいよ」
「なん……だと…!? ちゃ、ちゃんと味見はしたんだろうな……?」
「な!? あ、あんたまだあの時のこと根に持ってるワケ!?―――もうあの時のことは忘れなさいよ!
あたしだってちゃんと学習してるっての! この前だってお母さんに褒められたんだから!」
「そ、そうか。それならいいんだ。……もしかして練習してたのか?」
「う、うるさい! 別に、アンタに食べてもらいたくて練習してたワケじゃないし! ほら、さっさと着替えてきなさいよ!」
おーおー焦っとる焦っとる。昔なら桐乃のこういう言動もいちいち真に受けてたが、なんというか、見方が変わればこうもわかりやすいものもないよな。
……昔の俺は相当鈍かったんだなあ…しみじみそう思うわ。
ぐいぐいと背中を押されて、部屋へと押し込められた俺はぱっぱと着替えてリビングに向かう。
リビングの食卓には美味そうな食事が二人分並べられていた。
「おお、美味そうじゃねえか」
「美味そうなんじゃなくて美味いのよ。ほら、さっさと座る!」
「へいへい」
「「いただきます」」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「「ごちそうさまでした」」
「すっげぇ美味かった。いや、マジで」
「ふっふーん。あたりまえじゃん。あたしをだれだと思ってんのよ」
「これなら毎日でも食いたいぐらいだぜ」
「……バーカ。何言ってんのよ、このシスコン」
割と本心からなんだけどね。これからやること考えれば今言ったことも冗談でも何でもないんだが。
「食器は後で俺が洗っとくから水につけとくだけでいいぞ。おまえに渡したいものもあるしな」
「ん。わかった」
二人分の食器を桐乃がキッチンに持って言ってる間にさっき受け取ってきた物を用意する。さあ、ここからが本番だな。
「んで、渡したいものって何?」
おっと、用意してる間に桐乃が戻ってきてたみたいだ。
「ん、まあわかってるとは思うが今日は3月14日だ。つまりホワイトデーだな。まあ、その、つまりそういうわけなんだが」
「へぇー、わかってると思うけど3倍だかんね。さ・ん・ば・い」
にこにこというよりもにまにまという表現がぴったりな顔はひっじょーーーーに忌々しい。
こいつのこういうところはちーっとも変わりゃしねえ。安心しちまうじゃねえか。
「それは問題ねえよ。そのかわりに、これを受け取るには条件がいる」
「はあ? 何言ってんのあんた。お返しに条件つけるってどういうつもりよ。
――ま、まさかアンタ、あたしに変なことさせるつもりじゃないでしょうね!? この変態!!」
「ちっげーよ!何勝手に勘違いして暴走してんだよ!」
「んじゃぁ何なのよ。その条件って言うのは」
「まあ、とりあえずその条件は後だ。ほらよ」
「ん。あ、ありがとね。……正直、期待してなかったから嬉しい、かな」
そうはにかむ様に笑う桐乃は本当に可愛い。そう素直に思えるようになった。
桐乃も、昔よりも素直に思ったことを伝えてくれるようになった。
「開けていいの? これ」
「ああ。でも、受け取るかどうかはそれをあけて、条件を聞いてからでいいぞ」
ラッピングが施された手のひらサイズの箱。それが桐乃の手によって包装を解かれて、中身がでてくる。
その箱を開いた中に納まっているのは、一組のシルバーリング。
それを目にした桐乃は目を見開いて数瞬固まっていたが、ややあって戸惑った風にこっちをむいた。
その目は、少しだけ潤んでいたかもしれない。
「あんた、これ……」
「……条件を言うぞ、桐乃。それを受け取るなら、お前はぜってぇ嫁にはやらねえ。俺の傍からも離さねぇ。
お前はずっと、俺と一緒に過ごしていくんだ。どんなことがあっても、これから先ずっとな。それが、それをお前が受け取る条件だ」
これは正真正銘のプロポーズだ。もっとムードとか、そういうのを考えたほうがよかったと思うかもしれねぇが知ったこっちゃない。
ずっと、どうしようか迷っていた。
俺は桐乃のことが好きだし、桐乃も自惚れでもなく俺を好いてくれてると思ってる。
だけど、俺達は兄妹だ。
世間がそういうものに対して冷たいってのも重々承知もしてるんだよ。
それでも、俺は決めた。桐乃と一緒にいたいから。ずっと傍にいて欲しいと思うから。
なにかの保障があるわけじゃない。戸籍で、証明できるわけでもない。だけど確たるものが欲しかったんだ。
だから送ったんだ。俺達を結ぶ確かなものを。それを桐乃はどう思ってくれるだろうか。
「……バカよ、アンタ」
「…………」
一筋の涙が桐乃の頬を伝う
「あたし達、兄妹なんだよ?」
「ああ」
「どんだけあたし達がお互いを思ってたって、結婚、できるわけじゃないんだよ?」
「ああ」
「あたしを離さないとか、嫁にやらないとか、勝手過ぎんのよあんた……!」
「重々承知だよ」
「だったら! あたしだって、アンタのこと絶対に離してやんないからね!? アンタがどれだけ嫌がったって、離さないから!!」
「俺はお前から離れたりしねえよ。ずっと傍にいる」
「ほんとに?」
「ほんとだ」
「ほんとに、ほんと?」
「ああ。ほんとにほんと、絶対だ。お前に渡したそれが、その誓いだ」
一筋だった涙は、後から後から溢れて床を濡らしていた。
桐乃、俺は昔からお前を泣かしてばっかりだな。
「桐乃。その指輪、受け取ってくれるか?」
「――うん!」
涙に濡れた顔。そこに輝かしいばかりの笑顔をうかべて、桐乃は頷いてくれた。
思わず胸が一杯になってしまって桐乃を抱きしめて、「ありがとう」と、自然と声に出していた。
「ねえ、あに……京介。指輪、アンタがあたしにつけてよ」
「わかった」
箱から取り上げたシルバーリング。桐乃の指に合わせて作られたそれをゆっくりと、桐乃の左手の薬指に通した。
「じゃあ、アンタにはあたしがつけてあげる」
「頼むよ」
桐乃の手によって、俺の左手にも同じように指輪がつけられた。
そしてそのまま桐乃は俺の胸に身を寄せるように抱きついてくる。
「あたし、こっちに引っ越すね」
「もうほとんどこっちに私物置いてんのに今更って感じもするけどな」
「うっさい。お父さんとお母さんにする言い訳、アンタも考えなさいよ」
「あの二人を説得するのは骨が折れる作業だな」
「アンタがあたしを傍に置くって言ったんじゃん。責任、取りなさいよね」
「わかってるよ」
「ねえ」
「ん?」
「これからずっと、死ぬまで一緒だかんね」
「お前もな」
顔を上げた桐乃と目が合った。その目に引き寄せられるようにして俺達は
「京介、愛してる」
「俺もだ桐乃。愛してる」
ゆっくりと唇を重ね合わせた。
END
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最終更新:2011年03月26日 23:16