793 名前:【SS】はじめては京介に…[sage] 投稿日:2011/03/21(月) 23:58:58.17 ID:Gvfj9iww0
――夜0時。
俺と桐乃は……俺の部屋にいた。
いつもとは違い、俺の部屋にいた。
……ギシッ。
「――後悔はしないんだな」
「しないって言ってんでしょ?」
……ギシッ。
「――本当に俺が……?」
「あんたしかいないんだから……仕方がないでしょ?」
俺のベッドで桐乃は俺と視線をあわせずに答えた。
それでも俺は躊躇する。
「しかしな……、」
……ギシッ!
「あたしがいいって言ってんじゃん? ってか、あんたはいいじゃん。何も失うものも、痛くもないんだし。」
キッ!と俺に目を合わせて、自分の意志を主張する。
――いや、そういうもんじゃねぇだろ?
そのあと、桐乃が独り言のようにつぶやいた。
「――今まで大切に守ったものがなくなるけど……
……これからもっと大事なものが新しくできるから、いい」
「そういうもんか?」
「そういうもんよ。あんたには分かんないと思うけど」
決意のある声。しかし、目がうるんでる。
その顔につられてかわかんねーが、
「わかったよ。……自信ねーけど責任もって面倒みるぜ」
「……ばかじゃん? こんなことで責任だなんて……」
桐乃は声では罵倒していたが、しかし笑顔だった。
「じゃ、じゃ、い、いくぜ?」
「なんかあんた震えてない?」
どうやら俺のほうが心の準備ができていないらしい。
「うっせ、っていうか、俺初めてなんだよ。 どういうもんかは分かるけど、実際やるとなるとなんか緊張してんだよ。わりーか!」
「あたしもこういうの初めてだし? あんたがそんなんじゃ、困るんだけど」
「誰だってどんなことでも初めてがあるんだから、そこは目をつぶってくれ」
「仕方ないなー。ま、そのうちあんたもケーケン積めるからよしとする」
なんか偉そうだ。
でも、こんなやりとりで気が紛らわすことができたのか、ようやく落ち着いた。
ふー、と息をつき、
「イヤだったら、いつでも言えよ。途中でとめるからな?」
「くどい。あんた、私を誰だと思ってんの? もう覚悟はとっくに決まってる。……やって。」
「へ、じゃ、いくぜ!」
「ん」
そして、俺は……
ヤ○オクの出品のボタンをクリックした。
「あ"あ"あ"あ"あ"〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!! やっぱどうしようかな〜〜〜!?」
「おいおい、やっぱやめるか? 今ならキャンセルできるぞ?」
頭を抱えて桐乃は俺のベッドでゴロゴロとあばれまくる。
覚悟決まっていたんじゃねえの?
ってか、そこに頭グリグリしたり、顔をフガフガとうずめるのは勘弁してください!
「うううう、こんなのは、こんなのは、私のポリシーに反するのに……」
ボロボロと涙を流している。マジ泣きだ。
「だって、おまえがやれっていったんじゃねえか? ヤ○オクは18才以上じゃないと使えないからとか言ってさ」
ちなみに桐乃のPCではなく、俺のPCでやってるのは俺名義で出品してるからだ。
……別に俺のPCからアクセスする必要はない気もするが。
「くうぅぅぅぅ! 次の人が大事に愛でてくれれればなー! そのまま放置して、ケースも傷だらけになるなんて想像しただけでももう耐えられない!」
「だから責任もって質問する人とか、落札者の対応まで最後までちゃんと面倒みてやっからよ! 出来るだけちゃんとしたやつに落札するようにしてやるって!」
自信ねーけどさ! 初心者だし! って出来んのかそういうの?
「ごめん。なぎさちゃん、ほのかちゃん……。でも、やっぱり、あたしはメルルから離れられない!」
なに、その不倫したけど、夫から離れられないみたいな発言は?
ここまで行くと、拍手したくなるぜ。パチパチパチ。
……もう想像がついているやつもいるかもしれないが、桐乃のコレクションのスペースが足りなくて、泣く泣くプリキュア関連のグッズを手放さなければならないという状態になったわけだ。ってか集めすぎだろ。
……今日の夜はこの後悔に付き合わなくてはならねえのか。
もう自分のベッドの上で転がってくれよ。
「あ"あ"あ"あ"あ"〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜どうしよう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
「お、おい! もう少し声おさえておけ! 親父とかお袋に聞かれたらやばいだろ!」
一応確認のため、いつぞやのようにドアに向かい開けてみた。
すると……
――――親父がいた。
――――なっ!!
「……………………」
「……………………」
こっ、こっ、こっ、これはどういうことだ!
声を出せない。
…………が、なんなんだ、これは?
親父はドアの前で片ひざを立てて、時代劇のような『ただいま参上』のような座り方をしている。
しかし、体の正面は俺の向きじゃない。ちょうど直角になっている。しかも、微動だにしない。
――――――ギロッ!
「―――――ゴクッ」
そのままの姿勢で目だけが俺のほうを向いた。
怖えぇ……と普通は思うが今回はなにか違う。そういう感じがしない。
そして親父はそのままスクッと立ち上がり、腕組みをして
「静かにしろ。――いま何時だと思ってるんだ?」
「……………………」
……正論だが、やはりなにかがおかしい。
そもそも色々間違っている気がする。しかし、何が間違っているか分からない。
正直この状況に対して俺はいまだ頭が回ってない。
桐乃をちらっと見てみると、ベッドの上で四つんばいになって( ゚д゚)みたいにポカーンとしている。
俺以上に今という状況を把握できていないようだ。
「二階が騒がしいからここに来ただけだ。……勘違いするな。偶然、ここに来たら急に腰が痛くなり、ドアによりかかって座っていただけだ」
「…………そ、そうか、体大事にしてくれよ」
陳腐な返事しか出なかった。
それ以上に何があるというんだ、親父?
「……何もなかったか。――そうか。まあ――、よかった。」
「……………………………」
桐乃の大声のことだよな?
――『まあ』が少しひっかかるが。
「……ともかく、あとは任せたぞ、京介」
「……あ? ……あ、ああ」
適当な返事しか出なかった。
任せるって何を? ヤ○オク?
「では寝る。……おやすみ」
「…………お、おやすみ」
「…………おやすみさい」
ようやく桐乃も声を出した。
親父は大きな背中を見せながら、階段を下りていった。
「…………いったいなんだったんだ……」
「…………さ、さあ?」
とりあえず、桐乃のヤ○オクの断末魔がおさまったのは感謝するべき…………か?
「……ま、もう遅いか。もう寝ようぜ」
「……う、うん、わかった。……おやすみ」
バサッ。
…………。
「…………なんで、そこで寝ようとする?」
「……あ、ご、ごめん! ……おやすみ」
「……おやすみ」
バタン。
まだ混乱していたのか? ありえないことをしやがる。
桐乃が素直に謝って部屋を出る。
――あの桐乃が。
なにかがおかしい。
――そして親父も。
…………。
…………いや、俺が間違っているのか?
俺はヤ○オクの出品ページをみて一人つぶやいた。
おわり。
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最終更新:2011年03月26日 23:20