58 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/03/24(木) 22:44:34.84 ID:FQFG1Pew0
SS『あやせのおかげ?』
「お兄さん、お兄さん?」
「うーん、ラブリーマイエンジェルの声がす………はっ!?」
「やっと起きましたね、お兄さん。」
「あ、あやせたん?えーと、あれ?何で俺の部屋にあやせたんが………?ま、まさかっ!」
「ちっ、違いますっ!何を考えているんですかっ!ブチ殺しますよ!」
「お、俺は何も言ってないのにっ!?」
「そのにやけ顔を見たら、お兄さんが何を考えてるかくらい分かります!」
にやけ顔とはひでーじゃねえか?
でもよ?朝起きたらとびっきりの美少女が俺のそばに居るんだぜ?
嬉しいと思わないほうがおかしいだろ?
「とりあえず、起きるか………って、体がうごかねーし!?」
「お兄さんの体はベッドに固定してあります。」
「ひ、人の部屋に押し入った挙句、拘束かよ!?」
「仕方ないじゃないですか………」
そういうと、あやせの体から急激に青白く揺らめく炎があがる。
目も光彩が消え、手には………包丁!?
「ま、待て、その包丁は!?」
「この包丁、家から持ってきたんですよ。
良い包丁ですよね?よく研いであって、刺したらニンゲンくらい貫通できそう。」
じゅ、銃刀法違反!?
つーか、研いでるの!?
人間を貫通って死ぬじゃん!?
「や、やめてくれ、まだっ、俺は死にたくないっ!」
「ふふっ………全部、お兄さんが悪いんですよ?」
「おっ、俺がお前に何をしたってんだよっ!?
………いや、普段のセクハラくらいは許容範囲だろ!?………ですよね?」
「それもありますっ!………でも、今日はその件ではありません。」
な、なんだっ、俺があやせに殺されるような事したかよっ!?
俺は必死に考えるが、全く思い当たる事がない。
「分からないようですね。それでは教えてあげます。
私が怒ってるのは、私自身の事ではありません。」
「えっ?」
「桐乃を………桐乃の心を散々弄んだ挙句、桐乃から逃げるような真似をしましたね?」
「な、何言って」
「桐乃から聞きました。桐乃に好きだだの、愛してると言っても良いだの言った挙句、
他の女と付き合うことにするそうですね?」
「ちょ、ちょっと待て!」
「桐乃に………好きだの愛してるだの言ったのは………
全部嘘、嘘ですね?嘘だったんですね!?」
この女っ、怖いよ!
誰か助けてっ!?
「それじゃあ、返事も無いようなので、これでお別れですね。」
ま、まだ死にたくねー!
もう全部ぶちまけてやるっ!
「ま、待てっ!」
「………………………」
「お、俺は桐乃を本気で愛してる!」
「………ウソ。それじゃあ、なんで他の女と付き合うんですか?」
「仕方ねーだろっ!だってあいつは妹なんだよっ!本気で愛しちまってるけど、肉親じゃねーかっ!」
「………………………」
「あいつが………桐乃が妹じゃなけりゃ………いや、妹であっても付き合いてーよ!
でも、そんな気持ち悪い俺じゃ、あいつも嫌がるんじゃないかって………」
「ふうん。そうやって、逃げたんですね?」
「ちょっ!?」
「うふふ………どんなに言い訳しても、桐乃を傷つけた事に変わりはないですよね?お兄さん♪」
「た、たすけ………」
「それじゃあ♪サ・ヨ・ナ・ラ♪」
あやせの持つ包丁が俺の心臓を深々と刺し貫き………
俺は、死んだ………
「ハッ!?………生きて………る?………夢………かよ」
ええと?桐乃を傷つけた事にぶち切れたあやせたんに殺されてたよな………
それにしたって、あまりにリアルな夢だったな?
「今?………夜10時か………」
コンコン
「ひっ!?」
「あ、兄貴!?」
「な、なんだ、桐乃か………入っていいぞ。」
「うん。」
桐乃は寝巻きのまま、俺の部屋に入ってくる。
夢の中では本心がでちまったが………
「それにしても、あんた、さっきは何に怯えてたの?」
「い、いや、夢の中であやせに殺されてな?」
「何それ?馬鹿じゃん?あやせがそんなことするわけないでしょ?」
いや、お前はあの女の本性をまだよく分かってないだけだ。
「それでね、そのあやせなんだけど………」
「えっ?」
「なんか、明日の朝早く家に来るらしいの。」
「な、何のために!?」
「よくわかんない。なんかあんたに大切な用とか、ぶちなんとか?とか言ってたケド」
ぶち?………………………ブチ殺す!?
そ、それってまさか………さっきの正夢!?
「とりあえず、そんだけ。それじゃ、あたしは戻るから。」
「ま、待て」
このまま桐乃を返したら、ぜってー俺は死ぬ事になるよな!?
だ、だがどうしたらいいんだよ!?
「何よ?あたし、まだやることあんだし、さっさとしてよね」
どうせ死ぬんだったら、もう言っちまおうか………
これまで隠しておいてなんだが………コイツの事、最後くらい正直に………
言わずに後悔するより言って後悔しろ、だったよな?
いや、桐乃の願いも叶えられて、俺がたぶん死なずに済むかもしれない、
一石二鳥の手段という事にしておこう。そうだ、そうしよう。
「なんもないんなら呼び止めないでよね。」
ええいっ、もう、こうするしかねーんだよ!
そうだ、俺は妹が好きなわけではなく、自分の命を守る為に言うだけだかんなっ!
「桐乃、お前に言わないといけない事がある。」
「な、何よ。あらたまって」
「桐乃、俺はお前の事が大好きだ。」
「な、なぁっ!?」
桐乃の顔は一瞬で羞恥に染まり、言葉さえ出てこないようだ。
この………こんなに可愛い妹の事を、後数時間しか見てられないなんてな………
「最後くらい、おまえに本当の気持ちを伝えておきたかったんだ。」
「ほ、本当の気持ちって………」
「俺は、本当はおまえの事が大好きで大好きで、でも、いつもいつも隠してたんだ。
おまえが俺の事を好きな事も気がつきながら、気がつかないふりばかりしていた。
本当にすまなかった………桐乃………」
「あんっ………あんたっ………京介っ!」
桐乃は………俺の愛しい人は、泣きながら俺の胸に飛び込んでくる。
こんな………幸せな気持ちになれるんだったら………
はじめから、こうしておけば良かったんだ………
今になって、俺の心は後悔に埋め尽くされる。
「黒猫には悪いけど、断ることにする。」
「うん………」
「死ぬまで………おまえの事、見続けるから………」
「うん………うん………!」
「桐乃………好きだ。」
「あたしも………京介………大好き………」
翌日の朝、俺は桐乃と二人あやせを待ち受けていた。
いくらあやせがアレであっても、まさか桐乃をブチ殺すことはないだろう。
それに、桐乃と一緒のほうが、ちゃんと俺の言い訳も聞いてくれるだろうしな。
………いや、だって、昨日は死ぬ覚悟だったけどさっ?
やっぱ、大切なものが出来たら、生きていたいと思うじゃん!?
「おはよう。桐乃。」
「うん、おはよう。あやせ。」
「おはようございます、お兄さん。」
「お、おはよう………」
「それにしても、お兄さん、起きてたんですね〜」
い、いきなり、俺の起床の確認!?や、やっぱ、ここで俺死ぬの!?
「それでは、早速なのですけど………」
あやせは、右手を肩バッグの中に差し入れ………って、ま、まさか?
「こっ、殺さないでっ!」
「………は?お兄さん、何を言ってるんですか?」
「だ、だって、今取り出そうとしてるのって、ほ、ほう………雑誌?」
「いくらなんでも、雑誌ではお兄さんを殺したくても殺せないですよ?
ほんと、失礼なんですから!」
「す、すまん。それで、その雑誌がどうかしたのか?」
「これですっ!」
あやせは雑誌を大きく広げ、俺の目の前に突き出してくる。
「えーと………なんだ、この妙なぬいぐるみは?」
「ぶち猫ですっ!ぶち猫っ!知らないんですか!?」
「あ、思い出した。あやせって、そのぬいぐるみのファンなんだっけ?」
な、なんだとぉ!?
『ブチ』殺す、ではなく『ぶち』猫だとぉ!?
「そ、それで、どうしたんだよ?」
「見て分かりませんか!?明日発売の限定生産品ですっ!」
「ええと?渋谷で?10時から?」
「そうなのっ!桐乃、私本当にこれが欲しいのに、今日の午後から仕事が入ってるのっ!」
「えーと、それで、俺にどうしろと?」
「あんた、ほんっと物分かりが悪いのね。
つまり、今から渋谷のショップ行って、明日まで並んどけってことに決まってんじゃん。」
「さすが桐乃!私の親友だけあるよね!」
「お、俺の意思は無視ですか!?」
「「うん!」」
見事にハモリやがったよ………
ま、まあでも、ブチ殺されなかっただけあって、良かったのかな?
「それじゃあ、お兄さん。宜しくお願いしますね?」
「あやせ、安心して。あたしが無理にでも買いに行かせるから。」
「本当にありがとね?桐乃。それじゃあまた明後日ね。」
ラブリーマイエンジェルは、輝く笑顔を残し、去っていってしまった。
………それにしても………っ!
「見事に独り相撲だったわけだな………」
「ん?何か言った?」
「いや、俺にはこんな可愛い彼女がいて幸せだなぁってな」
「ばっ、馬鹿じゃん!」
桐乃は頬を膨らませてツンとそっぽを向いてしまう。
この程度で恥ずかしがるんだから、ほんと、可愛いやつだ!
「それじゃ、あんた、行く準備は出来てんでしょう?」
「あ、ああ?」
「あんた一人じゃ、買い逃すの心配だし………
あたしが付いていってあげるから、感謝しなさいよね!」
「ああ!」
俺たちは手をつなぎ、一緒に歩いていく。
今からもう、騒がしい喧騒が聞こえてくるようだ。
End.
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最終更新:2011年03月26日 23:44