287 名前:これあげる【SS】1/3[sage] 投稿日:2011/03/27(日) 07:16:20.67 ID:4kKmWJ700 [1/3]

「お兄ちゃん、まってよう」
「うっせーなぁ、なんだよ?」

今年で小学3年になる妹の桐乃に呼び止められる。
ここんとこ毎日だ。

「いっしょにあそぼ。きょうね……」
「これから田村さんちの手伝いに行くんだよ。じゃあな」
「あっ……」

次の日も。

「お兄ちゃん、まって……」
「お前と遊んでる暇なんてないんだっての。いま田村さんちは『かきいれどき』ってやつなんだよ」
「で、でも、あのね」
「じゃあな」
「あっ……」

その次の日も。

「……ねえ、また田村さんちにいっちゃうの?」
「そうだよ」
「なんでそんなに毎日いくの? たまにはうちに居てよ」
「家に居たってしょうがないだろ。それに田村さんちの手伝いしたら、和菓子をご馳走してくれっからな」
「……和菓子?」
「そうだよ。じゃあな」
「…………」

そしてその次の日の朝。

「お兄ちゃんお金貸して!」
「なんだよ急に?」
「いいから! いますぐいるの! あとでかならず返すから!」

今日に限って妙に食い下がる桐乃。
金貸してくれなんて、これまで一度も無かったのに。
まぁ面倒だし、さっさとお金渡して追い払っちまおう。

「わーったよ、ほら」
「……ありがと」
「それじゃ……」
「ま、まって! あたしが帰ってくるまでちょっと家でまってて!」
「なんでだよ?」
「すぐもどるから! まだいかないで! かってに居なくなったらおこるから!」

そう言い捨てて、家を飛び出す桐乃。
なんなんだよ一体。
仕方ないのでリビングで時間を潰すこと10数分。

288 名前:これあげる【SS】2/3[sage] 投稿日:2011/03/27(日) 07:17:04.83 ID:4kKmWJ700 [2/3]

「はぁ……はぁ……ただいま……」

息を切らせて戻ってくる桐乃。どうやら走ってきたようだ。
途中で転びでもしたのか、膝のあたりが汚れている。

「おかえり。んじゃもう良いか?」
「ま、まって!」

出掛けようとしたところを、服の裾を掴まれて呼び止められる。
そうして、桐乃は俺の前に何かを差し出してきた。

「あの、これ……」

コンビニあたりで売ってる大福だろうか?
それが桐乃の小さな手に乗せられていた。

「あのね、これあげる」
「ん? あ、ああ……どうしたんだよ急に」
「この和菓子あげるから……だから、今日はあたしと一緒に居て?」

まさかこのために?
桐乃は縋るような瞳でこっちを見返してくる。

俺は――


pipipipipipipipi

目覚ましの電子音で目を覚ます。
今日は休みだってのに、目覚ましをかけたままにしちまったみたいだ。
珍しく子供の頃の夢なんて見たもんだから、目が冴えて二度寝も出来そうにない。

そのまま朝食を終え、今は自室だ。
桐乃は朝食後すぐにどこかへ出掛けたようだ。
俺はどうするかな……。

久しぶりにゲー研にでも顔を出してみるか。
確か新作の製作に取り掛かるって言ってたし、多分誰か居るだろう。

玄関に向かったところで、ちょうど帰ってきたらしき桐乃と出くわした。
ライトブラウンの髪に洒落た服装、生意気そうな瞳。
昔とは随分変わっちまったなコイツも。
変な夢を見たせいか、ついそんな事を考えてしまう。

「おかえり。こんな朝早くどこ行ってたんだよ」
「どこでも良いでしょ。つかアンタ出掛けんの?」
「ん、まあな」

素っ気ないやり取り。
冷戦状態だった頃よりマシになったとはいえ、コレが今の俺たちの関係だ。
もう慣れたけどな。

289 名前:これあげる【SS】3/3[sage] 投稿日:2011/03/27(日) 07:17:48.41 ID:4kKmWJ700 [3/3]

「んじゃ……」
「ちょ、ちょっと待って」

横を通り過ぎようとしたところで、急に服の裾を掴まれる。

「なんだよ?」
「あたしこれから買い物行くんだけど、荷物持ちやってくんない?」
「おい、俺これから出掛けるって言ったろ」
「タダとは言わないからさ。ほら、これあげる」

そう言って俺に何かを押しつけてくる。
見ると、コンビニあたりで売ってそうな安物の大福だ。

「お前な、こんなもんで釣られると思って……」

そう言いかけて、手の中の大福を見つめる。
なんの偶然か、今朝の夢に出てきたものと一緒だ。

「……それで? 行くの? 行かないの?」

桐乃は不機嫌そうに睨み付けてくる。
でもその瞳に、何故か既視感のようなものを感じて――

「わーった。行くよ」

貰っちまったもんは仕方ない。今日一日くらいは付き合ってやろう。
桐乃は俺の答えに満足したかと思いきや、そっぽを向いて悪態をついてくる。

「な、なにニヤニヤして。あんたそんな安物貰って嬉しいの?」
「うっせ。これ俺の好物なんだよ」

大福を頬張りながら答える。
田村屋の和菓子とは比べるべくもない粗い味。

それでも俺は、昔からこの味が嫌いじゃなかった。


End



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最終更新:2011年03月28日 00:07