350 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/03/27(日) 20:41:41.97 ID:nGqTnLLX0 [2/3]

SS『簡単なお仕事』


「やべぇーーーーっ!金っ!金がねぇっ!」

ある日の朝、俺は財布の中身を見て愕然とする。

「た、たった592円かよ………」

一昨日、桐乃に連れられて行ったアキバで、
『かみぱに!』と『ココロの住処』と『美乳淫妹 遥』を買ってしまったのがいけないのか!?

………い、いや、あれだ。
別に、俺が買いたくて買ったわけじゃなくてな?
桐乃に「コレ絶対オススメだから!」とか「あんた買わないつもり?死んだ方がいいよ」
とか脅迫されてな!買わざるを得なかったんだよっ!
………だから、まだ2つしかクリアしてねーぜ?本当だって!

そ、そんなことは兎も角だな?
ああっ!後ほぼ一ヶ月、無一文で生活しなけりゃならないのか………
まあ確かにバイトもしてねー俺が、こんな金遣いすりゃ当然だよな。
でもなー、さすがにこの時期にバイトとか無理だしなー

プルルル………プルルル………

「っと、メールか?差出人は………ふぇ、フェイトさん!?
 件名は………『短時間で終わる簡単なお仕事をしませんか?』!!!」

後になって考えれば、差出人の事をよくよく考えりゃー良かったんだよ。
そんなに甘い話はないだろうってな!
だが、その時の俺は、金の匂いに誘われて簡単にOKの返事を送ってしまったんだ………
だってよ?2時間で10万円だぜ!?ありえねえだろう?





えーと?ここか?
指定された場所に着いた俺は、早速自分の選択を後悔するはめになった。
ここって、いつぞやのレンタルルームじゃん?
………ぜ、ぜってーマトモな仕事じゃねーよな!?
か………帰ろっかなー

プルルル………プルルル………

「うぉっ!?メ、メールか………!?」

『逃げちゃダメよ!逃げちゃダメよ!逃げちゃダメよ!』

ふぇ、フェイトさん!?
俺、監視されてんじゃねーだろうな?
と、とりあえず受付のお姉さんに部屋を………

「すみません、高坂京介といいます。フェイトさんが部屋を取ってると思うんですが。」
「プッ………フェ、フェイトさまですか?ええと………」

笑った!?今、この人俺を笑ったよね!?お、俺が何をしたって………
てか、よくよく見ると、前来た時のお姉さんじゃねーかっ!
わ、笑われるわけだよなっ!ぐ、ぐぉぉぉぉぉっ!思い出したくねー過去がっ!

「お待たせしました。伊織・フェイト・刹那さまの事ですね。
 高坂さまの事は伺っております。301番のお部屋になります。」
「………うぃっす。」

俺はお姉さんに力なく頷いて、301番の部屋の前に立った。
幸いにも目前の扉には、他の扉と同様、鈴はくっついていない。
だが………。ぞくっと奇妙な既視感を覚えながら扉を開く。
ガチャッ―――

「あ、兄貴。」

ええと?………俺は見なかったことにして扉を閉めた。

「………………………な、なんだいまのは………?」

両手で扉を固く押さえつけながら、呟く。
桐乃の幻影が見えたような気がするが、気のせいに違いない。俺の見間違いだよね?
い、いや………自分が見たものを信じたくないというか………その………。


ごくっ………。生唾を飲み込む。額の汗をぬぐう。
すうはあと深呼吸してから、恐る恐る、再び扉を開ける。
ガチャッ―――

「あ、あんたっ!何扉を閉めてんのよ!」

扉を開けた瞬間、俺を出迎えた(?)桐乃は唐突にプッツンした。

「つか、何であたしがこんなことっ!」
「き、桐乃ちゃん落ち着いてね。だってほら、『契約』したもんね。」
「くっ………くぅっ!」

フェイトさんは、桐乃の前で紙をひらひらさせながら、余裕の表情だ。
つーか、『契約』?また盗作でもしようとしてんのかよ?

「フェイトさん。また悪い事しようとしてるんですか?
 さすがに犯罪行為には俺も荷担できませんし、桐乃も連れて帰りますよ。」
「ま、待って………犯罪じゃないし、桐乃ちゃんにも変な事するわけじゃないわ。」
「うーん………なんとなく、桐乃の嫌がりようからは納得できないですが………
 桐乃?お前も嫌なんだったら断れよ。さすがに以前の件で懲りてるだろ?」
「べっ、別に嫌なワケじゃないし………
 それに、もう仕事するって契約しちゃったし………。」
「お、おまえなぁ!仕事を持ちかけてきたのフェイトさんだろ?少しは疑えよ!」
「お金に釣られてきたあんたに、そんなこと言う資格ないし。」

ぐっ………まったく正論だ。

「高坂くん、ごめんね。私の説明が足りなかったわ。
 私も実は雇われで、あなたたちに仕事の紹介をするのがお仕事よ。
 それで、このお仕事は高坂くんと桐乃ちゃんだけで出来るお仕事ね。」

ん?俺と桐乃だけ?………そんなら、とりあえず桐乃は安全か。
最悪、フェイトさんが犠牲になるだけで何とかなるよな?

「それでね。途中でお仕事やーめたっ!って言われないように、
 契約書を書いてもらうようにって言われてるのよ。」
「あー、さっきの紙っすか。」
「そう!おねがい~京介くん~。私の生活を援助してくれるつもりで『契約』して~」
「うわ、うっざ!大体あたしの貸したお金も返してないんだから、
 まず、きちんとした定職に就くべきじゃないんですか?」
「うっ………」

フェイトさんの胸に、深々とトゲが刺さったのが見えるようだ。

「ま、まあ、仕方ないっすね………。」
「あ、兄貴………ほんとに………いいの?」
「ん?だって、お前一人だけだとさすがにしん………えーと、仕事ができないんだろ?」
「そっ、そうだけど………」

なんだ?こいつ、なにをそわそわしてやがんだ?
俺は、桐乃の態度に釈然としないものを感じたものの、契約書に名前を書き終えた。

「さて、これで契約完了ね!
 それじゃあ、この封筒に入った紙に仕事が書いてあるから、後はヨロシクねっ!」
「ちょ、ちょっと、フェイトさんは!?」
「言ったでしょ?私は二人に仕事を紹介することが仕事だって。
 だから、契約書が取れれば、私の仕事は終わりなのよ♪
 あ~、これで明日からダンボールで眠らなくて済むわ~~~♪」

………よ、予想以上に酷い生活をしていたらしい………
あっけにとられる俺たちを尻目に、フェイトさんはさっさと部屋を出て行ってしまった。

「と、とりあえず、仕事の内容を確認するか?」
「ん?あたしはもう、仕事の内容分かってるし………」
「マジかよっ!?」

もう知ってたのかよ………
知ってて嫌なわけじゃないって?それなら特に問題無い仕事なんだろうな。
………桐乃が少し躊躇する程度の………なんか、不安になってきたな?
俺は封筒を開け、中身を確認する。

『高坂兄へ   ~桐乃スレ住人より愛をこめて~』

って、またあいつらかよっ!?
もうこの時点で、俺の心は不安で一杯だ。
フェイトさん以上に関わっちゃいけないやつらじゃねーか!?

『可愛い妹をぎゅっと抱きしめるだけの簡単なお仕事です。
 2時間10万円分、しっかり抱きしめてね(はぁと』

ぎゅっと抱きしめるだけの簡単なお仕事。じゃねーよ!?
そんなことしたら、殺されるっつーの!
ふと、桐乃への指示がどう書いてあったのか興味が湧いてくる。

「な、なあ、桐乃?お、おまえの紙にはなんて?」
「あ、あ、兄貴に、だ、だ、抱きしめられるだけのっ、か、簡単なお仕事っ!」
「お、おまっ、顔真っ赤じゃねーか!」
「うっ、うるさいっ!」

こんな仕事だってんならちゃんと注意してくれよ!
………あれ?桐乃は仕事の内容わかってたんだよな?えーと………?

「とっ、とにかくっ、し、仕事なんだからね。」
「ま、待て、おまえいくらなんでも―――」
「仕事は仕事っ!い、嫌な事でも絶対やんなきゃだめに決まってんでしょっ!?」
「だ、だって、おまえ、俺に抱きしめられるって………」
「うっさい!さっさとするっ!」
「わ、わかった」

い、勢いにつられて分かったって言っちまった………ど、どうするよ!?
俺の目の前で、桐乃は目をつぶって顔を真っ赤にしている………

―――ちくしょう………可愛すぎすんだよっ!

そ、そうだっ!この仕事やんねーとフェイトさん行き倒れだしなっ!

―――ホントに?ホントに抱きしめていいの?

それに仕事っ、仕事なんだしな!
俺は桐乃の背中に手を回し………

―――やわらけー………こんなにやせてんのに、なんでこんなにやわらけーんだよ………

桐乃を強く抱きしめた………

―――桐乃のおっぱいが当たってる………ましゅまろみてーだ………

あ、あれ?なんで俺、こんなにしっかり抱きしめてんだよ?

―――離したくねえ………ずっとこのままでいいよな………

桐乃も………俺を抱きしめている………





4時間後、レンタルの終了時間を知らせる電話のベルが鳴るまで、
一言も会話することなく、俺たちはずっと抱きしめ合っていた。

帰りの電車の中でも、俺たちは一言も喋らず………

でも、繋がった手の温かみだけで想いが通じ合っていた。


End.



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最終更新:2011年03月28日 00:21