588 名前:【SS】土手を歩く[sage] 投稿日:2011/03/29(火) 20:48:05.97 ID:JZcyli1r0 [2/2]
あの日、俺は学校のあと、お袋が封書を書留で出しておけって言うもんだから郵便局に行った。
その帰りに、土手を見上げた。
特に理由はないが、なんとなく土手を歩いて帰ろうと考えた。
――なんか、こう、大きい川をたまに見るのもいいもんだな。
そんなことを考えながら、歩いていたところ、
……タッタッタッ。
後ろから駆け足する音が聞こえた。
土手でジョギングか。
最近、世間で流行ってるっぽいからな。
そして、そのまま俺の横を駆け抜ける……と思ったらそいつは歩き出した。
疲れたのか? ……横を向いたら
桐乃だった。
「……なによ? ふん」
じろっと一度睨み付けて、すぐにそっぽを向きやがった。
――しばらく、そのまま俺たちは歩きつづけた。
……ふと、小さな疑問が浮かんだ。
そのまま、前を向きながら俺は聞いた。
「……おい、桐乃」
「……なに? 外なんだから慣れなれしくしないんでくれない?」
「おまえ、俺を探してたの?」
「はあっ!? なんでそうなるわけ?」
「だって、お前、俺のところに来たら走るのやめたじゃねえか? なんか用事なんじゃねえの?」
「ふ、ふん、土手で走りたくなって、そしたらたまたまあんたのところで疲れて歩きなくなっただけだっつーの! 何、勘違いしてんの? キモいんですけど」
なんかいつにもまして攻撃的だな。
ってか、もし疲れてたら、ゼーゼー息がもっと切れてるだろ。
ぜんぜん切れてねーじゃん、お前。
……なんてことを言ったら、またギャーギャーうるせえから言わないがな。
「……そうかよ」
こいつの行動は良く分からないが、それはいつものことだ。
俺は適当に返した。
――俺たちは歩く。
どちらかが遅くも速くもなく、そのまま並んで歩いた。
俺は何気なく呟いた。
「……綺麗だな」
「え!?」
「……いや、川が」
「あ、あ、あ、そう、かもね。」
よく分からない反応をしやがる。
何か別のことでも考えたのか?
その別のことだか分からないが、桐乃が視線だけを俺に向けながら何かを話しかけた。
「あのさ……」
「ん?」
「い、いや、なんでもない」
気になるが、言えよ!っていうとまたうるせえだろう。
その替わりにこう返事した。
「変なやつ」
「いま、なんて言った、あんた!?」
「なんでもありません! すいませんでした!」
「……ったく」
――いつものようなやりとりのあとは、俺たちは特になにもしゃべることもなく、しかしやはりそのまま並んで家に帰った。
――誰が見ても、仲の良い兄妹とは絶対に見えないだろう。
しかし、以前の俺たちだったら、一緒に帰るということすらもなかったはずだ。
桐乃だったら、そのまま俺を無視して走りすぎたか、あるいは俺を見かけただけで土手を走ることもなかったたかもしれない。それに比べたら、ずいぶんとよくなったのかもしれないな。だからと言って、妹が大嫌いであることは変わらないけどな。あいつだって俺のことが嫌いだろうしな。
「「ただいま」」
別にあわせるつもりもなかったが、俺たちは同時に帰宅したことを告げるあいさつをした。
――そして、今日も俺は土手を歩く。
なんてことない。
また土手を歩きたくなった気分になったからだ。
……横を向く。
もちろん、誰もいない。桐乃もいない。
――そういや、あいつ、あの日何を言おうとしてたんだろうな。
留学のことだったのか……。
それとも別のことだったのか……。
ふと俺は思った。
まあな、俺はぜんぜんっ、あいつのことなんて気にしてもいないがな。
何も言わないで行っちまった妹のことなんて知ったことか。
せいぜい向こうでがんばりやがれ、ばかやろう。
――また、あいつとここを歩くことはあるのかな。
歩きながら、ふと俺は思った。
おわり。
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最終更新:2011年03月31日 02:16