776 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/03/31(木) 00:40:32.65 ID:5KQa3QyD0

SS『初恋』※切ない系注意



「きぃ〜りぃ〜の〜、はやくあるこ〜ぜぇ〜?」
「あ〜んもう、まってよ〜」
「加奈子、ちょっとは落ち着きなさい。もう、来年は高校生でしょ?」
「うっせー、まだ中学生だっての〜」
「もうっ、子供じゃないんだからっ!」

学校からの帰り道、いつものようにあやせと加奈子とじゃれあって帰る。
二人とも、いつものようにハイテンションだ。

「あ、あやせっ、そんなに怒らないで」
「桐乃がそう言うなら………でも、加奈子、ちゃんとしないと怒るからね」
「お〜こえ〜こえ〜、って、そういや桐乃ぉ、最近よくケータイいじくってね?」
「え、そ、そんなこと、ないよ?」
「だってよぉ?いまもケータイ見てにやにやしてんじゃん」
「え、えっ?」

言われて気付く。
タイミング悪く、あいつからのメールだ。
帰り道気をつけろよなんて、マジでシスコンっ!

「桐乃?私達とお喋りするの嫌いになったの………?」
「ち、違うって!友達から馬鹿なメールがきただけだって」

あいつからメールを受け取ってるなんて言えるものか。
あたしは、ほんの少しだけ嘘をつく。

「へぇ〜、あんなにやにやしてっから、ぜってー彼氏だと思ったしぃ〜」
「桐乃に、か、か、彼氏っ!?」
「ち、違うって、兄貴からのメールなわけがないって!」
「ん?う〜ん、何か会話がかみあってねー気がすんだよな〜」
「そ、それはそうと、桐乃の初恋っていつかな?私興味があるなぁ」
「えっ、初恋………かぁ………」

初恋………その言葉には棘がある。
成就しない、幼い………恋………

「えぇ〜、桐乃なんてどーせもてるんだからよぉ?そんな話おもしろくね〜よ」
「そ、そうだね。それに、あやせ、加奈子。もう分かれ道だよ?」
「それじゃ仕方ないね。またね、桐乃」
「そんじゃなー」
「また明日ね。あやせ、加奈子」



それにしても、初恋………か。

家に帰り着いたあたしは、ふと、机に向かい、考えにふける。
頭の中に、何故か、明確なイメージが湧いてきている―――





「おにいちゃんおにいちゃん、つぎわ〜なにつくるの〜?」
「う〜ん、お山もつくったし、こんどはおしろだな!」
「うんっ!こんどはおしろ〜」

夕暮れの公園で、小さな男の子と女の子が、時間も忘れて遊んでいる。
男の子は、ふと、公園に据え付けられた時計を見た。

「あっ、まずいっ、もう六じだぞ?早くかえらないといけなかった」
「やだぁ、おしろつくる〜」

女の子の方は駄々をこねて、中々言う事を聞いてくれない。
男の子は、本当に困った顔をしている。

「こ、こまったなぁ、はやくかえらねーと、おやじにおこられちまうし………
 そうだ!きりの、早くかえるならおんぶしてやるぞ!」
「えっ、おにいちゃんおんぶしてくれるの!」
「どうかな〜、きりのはおんぶとおあそび、どっちがいいかな〜?」
「きりの、おんぶがいいっ!」
「よ、よしっ!それじゃ………よいしょっ!」

男の子は、女の子をおぶって、家路につく。
男の子だってまだ小さいのに、自分より小さい女の子を泣かせないように、
必死で、さっき言った言葉を取り消さないようにと、歩んでいく。

「うわ〜、おにいちゃんちからもち〜」
「そ、そうだ………ぞ、お、おもくなんてないからなっ!」
「おにいちゃん、だいすきっ!」

暗がりの中、二人のイメージが薄れる。



次にあらわれたイメージは、さっきよりほんの少し成長した二人。

「ひゃっ、冷たいっ!」
「どうだっ、おれの水鉄砲すげえだろっ!」
「も、もうっ、おにいちゃぁん、つめたいよぉ!」

夏休み、二人でビニールのプールで遊んでいる。
男の子の方は手で水鉄砲をつくり、
嫌がっている、ううん、楽しんでいる女の子に、水をかけていく。

「も、もうっ、きりのもはんげきしちゃうよっ!」
「ふんっ!水鉄砲はむずかしいんだぜっ!できるもんならやってみなっ!」
「ふ〜ん、それじゃ、えいっ!」
「う、うわっ!?ぴすとるは反則っ!」

女の子は、隠し持った空気圧の水鉄砲を使って反撃していく。
女の子をちょっとでもいじめたバチみたいなもんだ。

「も、もうまいった、こうさんっ、こうさんだっ!」
「ふ〜ん、ほんとうかな〜」
「ホント、ホント、きりのにはかてないな〜」
「おにいちゃんっ、だいすきっ!」

熱い真夏の太陽のなか、二人のイメージが揺らいでいく。



次は………そうだ、これは家族でのピクニックだ。
降り注ぐ、赤と黄色の落葉の下、家族の明るい声がこだまする。

「きょうのおべんとうはね?きりのとおかあさんがつくったんだよ!」
「ふむ。桐乃もよく頑張ったな」
「おっ、このおにぎりおいしいなっ!それにこのからあげもっ!」
「あらあら、桐乃のつくったものばかりね。」
「そ、そうなのっ?」
「え、えへへ………」

男の子も女の子も、流れる紅葉の川よりも、顔が真っ赤に染まっている。

「きりのはね、おにいちゃんのおよめさんになるから、
 りょうりもできるようにおべんきょうしてるんだよ」
「う、うん。」
「この子ったら、本当にお兄ちゃんの事大好きなのね〜」
「うんっ!おにいちゃん、だいすきっ!」

舞い散る紅葉が、紙吹雪のように二人のイメージを包み込む。



台所で、母と娘の声が聞こえてくる。

「桐乃、よく出来たわね」
「うん。よかったぁ」

台所には、中身が見えるようラッピングされたチョコレートが載っている。
手先が器用じゃない女の子が作ったのか、所々形はひしゃげてしまっている。
でも、それを見つめる女の子は、とても満足そうに見える。

「いったい誰にあげるのかしら?」
「ひ、ひみつっ!」
「そう?それじゃあ、お母さん、お兄ちゃんにチョコをあげよっかな〜」
「だ、だめっ!おにいちゃんには、きりのだけがわたすんだもん!あっ!」
「桐乃は本当に隠し事が苦手なのね」
「だ、だって、うそついちゃいけないんだもん!」

女の子は真っ赤になって、ちょっと泣き出しそう。たぶん照れてるんだ。

「ただいま〜」
「ほら、お兄ちゃん帰ってきたわよ?」
「う、うん」

女の子は慌てて駆け出していく。

「お、おにいちゃん、おかえりなさい。これっ、おにいちゃんにプレゼント」
「おっ、バレンタインチョコか?ありがとな、桐乃」
「う、うん!」
「でも、いいのか〜。バレンタインって一番大切な人にあげるんだぜ?」
「うんっ!きりのはおにいちゃんとけっこんするから、おにいちゃんにあげるのっ!」
「そ、そうか、てれるな」
「おにいちゃん、だいすきっ!」

家の周りでは、雪が降り積もり、仲の良い兄妹を覆い隠していく。



次にあらわれたのは、初めと同じ、公園だった。
二人は、また少し成長している。

「おにいちゃんおにいちゃん、つぎは、なに作るの〜?」
「う〜ん、砂遊びはこれくらいにして、別の事もしたいなぁ」

昼時の公園で、男の子と女の子が遊んでいる。
男の子は、ふと、公園に据え付けられた時計を見た。

「あっ、もう二時だ。あいつらと約束してるんだった」
「やだぁ、もっとあそぶ〜」

女の子の方は駄々をこねて、中々言う事を聞いてくれない。
男の子は、本当に困った顔をしている。

「こ、こまったなぁ、早くいかねーと、あいつらに悪いし………
 そうだ!きりの、早くかえるならおんぶしてやるぞ!」
「えっ、おにいちゃんおんぶしてくれるの!」
「どうかな〜、きりのはおんぶとおあそび、どっちがいいかな〜?」
「あたし、おんぶがいいっ!」
「よ、よしっ!それじゃ………よいしょっ!」

男の子は、女の子をおぶって、家路につく。
自分の友達を待たせないために。
幼い女の子は、ただ、おぶってくれて嬉しいとしか思わない。

「うわ〜、おにいちゃんちからもち〜」
「そ、そうだ………ぞ、お、おもくなんてないからなっ!」
「おにいちゃん、だいすきっ!」

春先の曇り空の下、二人のイメージが薄れる。



次にあらわれたイメージは、さっきよりほんの少し成長した二人。

「ひゃっ、冷たいっ!」
「どうだっ、おれの水鉄砲すげえだろっ!」
「も、もうっ、おにいちゃぁん、つめたいよぉ!」

夏休み、二人でビニールのプールで遊んでいる。
男の子の方は手で水鉄砲をつくり、
嫌がっている、ううん、楽しんでいる女の子に、水をかけていく。

母親の声がした。

「京介ー、麻奈実ちゃんが遊びにきてるわよ〜」
「あー、今行くー」

突然、知らない人の名前を聞いて、女の子は不安そうな表情になる。

「おにいちゃん?」
「桐乃、ごめんな。後で麻奈実のやつのこと、紹介してやるからな〜」

男の子はプールを飛び出し、駆け出していく。
後に残された女の子は、ただ、男の子の居なくなった後を見つめ続けていた。

「おにいちゃん………」

急に雲に隠れる太陽に、二人のイメージが溶けていく。



次は………そうだ、これは家族でのピクニックだ。
でも、そこに男の子は、居ない。

「きょうのおべんとうはね?あたしがつくったんだよ………」
「ふむ。桐乃もよく頑張ったな。」
「え、えらいっ?」
「そうだ、えらいぞ。よく、がんばったぞ。」

女の子の顔は、流れる紅葉の川よりも、真っ赤に染まっている。
でもそれは、恥ずかしいからでは、ない。

「おかあさん、おにいちゃんどうしていないの?」
「行く前にもお話したでしょ?麻奈実ちゃんとの約束を忘れてたのよ」
「おにいちゃん、まなちゃんといっしょなの………?」
「ええ、そうよ」
「まったく、京介も困ったものだ」

女の子の目からは、大量の水滴がこぼれだし………

「おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃん………」

紅葉の流れが一層強くなり、かき消されるように、イメージが消える。



台所で、母と娘の声が聞こえてくる。

「桐乃、前よりもよく出来たわね」
「うん。よかったぁ」

台所には、中身が見えるようラッピングされたチョコレートが載っている。
手先が器用じゃない女の子が作ったのか、所々形はひしゃげてしまっている。
それを見つめる女の子は、少し不満げに見える。

「いったい誰にあげるのかしら?」
「おにいちゃん!」

女の子は真っ赤になって、ちょっと泣き出しそう。たぶん寂しいんだ。

「ただいま〜」
「ほら、お兄ちゃん帰ってきたわよ?」
「う、うん」

女の子は慌てて駆け出していく。

「お、おにいちゃん、おかえりなさい。これっ、おにいちゃんにプレゼント」
「おっ、バレンタインチョコか?ありがとな、桐乃」
「う、うん!」
「それと、ほら!麻奈実から貰ったチョコレート見てみろよ!」

男の子の手には、袋に入ったチョコレートが握られている。
女の子の作ったものよりずっと立派で、たぶん、ずっと美味しい。

「さすがにさ、これは食べきれないだろ?だから、後でちょっと分けてやるよ」
「………うん」
「そうだ、こんどは赤城の家に行かないとなー。ちょっと自慢してやるんだ!」

男の子は、女の子のチョコレートをその場に置いて、
でも、別の女の子のチョコレートを手に持って、
またすぐに、家を飛び出して行ってしまう。

「おにいちゃん。だいすきなのに………」

家の周りでは、雪が降り積もり、仲の良かった兄妹を覆い隠していく。



これまでとは違うシーンが浮かんできた。
少し成長した女の子がたった一人、家の中でテレビを見ている。涙を流しながら………

「おにいちゃん………おにいちゃん………」

女の子の見ているテレビには、若い女の子と、髭面の男が映っている。

「なんで………七夏ちゃんを見てあげないのよぉ………
 なんでダメなのっ………妹だからってだけで………」

女の子の見ているテレビの画面が変わる。
さっきのアニメの………ラストシーンだ。

「七夏ちゃん、良かったね………おにいちゃんと結ばれて………
 あたしも………七夏ちゃんみたいになれたら………
 おにいちゃんが好きでいてくれたら………あたしの事、ちゃんと見ててくれたら………
 あんな………あんなやつっ………大っ嫌いっ!!!」

目の前が真っ白になり―――





あたしは、服が濡れてしまっている事に気付く。
そうだ、これが、あたしの初恋が終わるまでだったんだろう。

もう、自分が見向きもされて無い事に気がつかず、ずっと好きなままでいて、
当時はどうでも良かったハズのアニメで、ようやく気がついて………



でも、ずっと好き。

見つめて貰えない寂しさを紛らわすために、陸上を始めた。
見つめてもらうために、誰にも負けないように、勉強も、モデルも始めた。

妹モノのアニメや映画も沢山見た。数が少ないから、普通のアニメにも手を出した。
妹モノのエロゲーが有ることも知った。
兄と結ばれる妹になりきって、寂しさを紛らわせてきた。

でも………心の飢えは満たしてくれない。

今だってそう。
兄貴の事を、勝手にシスコン扱いして、気を紛らわしているだけ。
あいつの本当の気持ちさえ分かれば………
本当に、あたしの事だけを見つめてくれれば、あたしは満たされるのに………



満たされていたあの頃から、もう、長い年月が経ってしまった。
でも、あたしの心は、何一つ変わっていない。



『お兄ちゃん、大好き』



End.



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最終更新:2011年06月04日 11:08