258 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/03(日) 21:09:19.06 ID:LhyuwUDUP
>>121と>>215
この二つをふんだんに盛り込んだ話を書こうと思って書いていたら、こうなった
見比べつつ見ると面白い……かもしれない!
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「よう。いきなりこんなところに呼び出してなんの用だ?」
俺は今近所の公園に来ている。あやせとよく会っていたあの公園だ。
でも今回俺を呼び出したのはあやせじゃない。
「桐乃?」
「兄貴……」
そう、今回俺が呼び出された相手は桐乃だった。
「アンタに、言いたいことがあるの。すごく、大事な話」
「家じゃダメだったのか?」
「ダメってワケじゃなかったけど、あたしはここでアンタに伝えたいと思ったから」
「そうかよ」
大事な話か。
桐乃の目は決意に満ちた、覚悟を決めた人間の目をしていた。
これ以上は逃げられない。そう思わせる目だ。
それなら俺も覚悟を決めよう。そうしないと桐乃に失礼だ。
「あたしが伝えたいことっていうのは一つだけ。ホントはもっともっと言いたいことがあるけど、それはこれを伝えた後でいいから」
「一つだけ……」
「うん、それだけが、今伝えたいこと」
伝えたいこと……それはいわれずともわかっていた。
黒猫に、沙織に、あやせに。色んなやつに迷惑をかけた末の今だ。わからないわけがなかった。
「あ、あたし! アンタのことが――」
「桐乃」
あえて桐乃の言葉にかぶせるように名前を呼ぶ。
ビクリ、と体を震わせる桐乃に少しだけ悪いと思うがそこから先はダメだ。
「その先は言わないでくれ」
「あ……」
なんで言わせてくれないの? 言っちゃダメなの? それすらさせてくれないの? そう言いたげな表情をする桐乃。
でもこれは譲れないだろ。だってさ
「男の俺から言わせてくれよ。そうしねえと決まんねえだろ?」
そう言ったときの桐乃の顔はなんと言えばいいだろうか。
信じられないものを見るような、ありえないものをみたような、そんな顔をしていた。
「俺さ、桐乃。お前が好きだ」
無言の時間が流れる。
その時間をなんて形容すればいいだろう。一瞬だったような気もするし、それこそ永遠とすら感じた。
そんな時間が流れた後、桐乃はポロポロとその両目から涙を溢れさせた。
その事態に、覚悟していたはずなのについ動揺してしまう。
「お、おいおい。こんな時に泣くなよ……バカだな」
「うっさい! あんたが、アンタが……っ!」
「悪かったよ。ずっと、待たせてごめんな」
「―――っ!」
ドン、と勢いをつけて俺の胸に飛び込んでくる桐乃。
俺はそのまま桐乃の背に手を回し、ぎゅっと抱きしめた。
「ずっと、ずっとアンタが好きだった――!」
「ああ」
「なんで! ここまでやっても何であたしの気持ちに気付かないのって! なんでこんなに鈍感なのよって!」
「それは、悪かったと思ってる」
「それなのに余計に優しくされて、もっと好きになっていって……」
「…………」
「気持ちばっかりが膨らんで、どうすればいいのかわかんなかった」
「そう、か」
「だからこの気持ちに、決着をつけたかった。これ以上皆に迷惑をかけたくなかったから」
「そのためにあんなことをしたのか?」
「うん。結局皆に迷惑かけちゃったけどね」
「そうだな。今までにない大迷惑だったろうな」
「うっさいわね。その原因にアンタも入ってるって事、忘れないでよ」
「わかってるさ」
「……このまま時が止まっちまえばいいのにな」
「……キモッ。アンタにそんなキザな科白似合わないっての」
「うわ、ひでぇ」
「まあ、でも……」
「ん?」
「あたしも同じ、かな」
その言葉に胸がぎゅっと絞めつけられる。
桐乃の顔が見たくなって、肩を掴んで少しだけ距離をとった。
顔を上げた桐乃は顔を真っ赤にして、流した涙をふこうともせず、目を潤ませていた。
もう、止まれない。
「なあ、少しだけ、目瞑っててくれねぇか?」
「……バカじゃん。そういうのは口に出すもんじゃないっての」
初めての桐乃の唇は、ひどく甘い味がした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ねえ」
「ん? どうした?」
「ちょっとだけさ、遠回りして帰んない?」
「は? 何でだよ?」
「チッ、察し悪いなあ……わざわざ言わなきゃわかんないの?」
いや、なんとなく言いたいことはわかるんだけどよ。
ていうか桐乃。お前こんな風になっても何も変わんないのな! ま、そのほうが俺達らしいっちゃらしいんだろうけど。
「……もう少しぐらい、二人きりでいたいじゃん――ひゃっ!?」
視線を逸らして、顔を赤くしながら言う桐乃を俺は自分の中から沸いてくる衝動のまま抱きしめていた。
何こいつ。可愛いすぎるんだけど。
「ちょっ! あ、アンタまた――」
「ヤベーって」
「は?」
「お前があんまり可愛いこと言うからドキドキしてくるじゃねえか」
「か、可愛いって…!? あ、あたしは元から可愛いっての! このシスコン! は、放しなさいよ!」
「いやだ。放さねえ。ってか放したくねえ」
「んな!? あー、うー……もう、しょうがないなあ……。す、好きにすればいいじゃん」
文句を言う桐乃ではあるが、抱きしめられたまま暴れだすことはなかった。
そうしたまましばらく抱き合った後、俺たちはゆっくりと帰路につく。勿論、少しだけ遠回りして。
どちらともなく手を繋いでいたのは、心の距離の表れだったかもしれない。
「……俺さ、多分、お前のことずっと好きだったんじゃねえかな」
「何よ今更。『あの時』は気持ち悪そうな顔したくせに」
「し、仕方ねえだろ? 『あの時』ってのがいつかはわかんねえけど、お前の気持ちなんか知らなかったし。
俺も「兄貴だから」ってどっか意地になってた部分もあったしよ」
「フン……あたしがあのときどれだけ傷ついたか、アンタなんかじゃ絶対にわかんないわよね」
「だから悪かったって! い、今はこうしていられるんだからいいじゃねえか!」
「何よそれ。散々期待させられて裏切られて、今まで傷つけられたあたしに対するアンタの罪がその程度で許されると思ってんの?」
「ぐっ……な、ならどうしろってんだよ? またエロゲーの深夜販売でも行けばいいのか?」
「はあ? ったく、ホントアンタって想像力が貧困ね。そんなだからあたしが苦労するってのに……」
「……申し訳ないっす」
「もういいわよ。あんたがそういう奴だってわかってるし」
なんだろうこのやるせなさ。俺、まったくもって年上としての威厳というかそういうのが皆無だよね!
これじゃあどっちが年上かわかんねえよチクショウ!
「……あたし達さ、こ、告白もしたんだし、もう付き合ってるってことじゃん?」
「お、おう。そういうことになるな」
ヤベえ、改めて言われるとすげぇ恥ずかしい。俺顔赤くなってないよな?
照れ隠しに手をニギニギしてみる。そうしたらニギニギし返された。
まったく逆効果だった。
「だ、だからさ――今度、どっか連れて行ってくれて、それであたしが満足できたら許してあげる!」
「それって……」
「これ以上あたしに言わせんな! バカ!」
プイ、と頬を膨らませて明後日のほうへ顔を背ける桐乃。
態度とは裏腹に手にこもる力は強くて、それがこいつの想いを伝えてくれる。
「……わかった。予定決まったら言うわ」
「期待しないで待っててあげるわよ」
「へっ。その減らず口、後悔すんなよ?」
「あーはいはい、せいぜい頑張ってあたしを楽しませてよね『京介』」
「…………」
「…………」
「―っく」
「―っぷ」
「「あははははは!!」」
お互いに愉快そうに笑い合う。
きっとこれから、俺たちはこうやってずっと過ごしていくんだろう。
笑ったり、泣いたり、時には喧嘩したり。
もしかしたら、いつか別れる時が来るのかもしれない。
たとえそうだとしても、俺たちはそれまでこの幸せをかみ締めていこうと思う。
桐乃となら、それがきっとできるはずだから
「なあ桐乃」
「何?」
「これからも、よろしくな」
「うん!」
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最終更新:2011年04月03日 23:56