673 名前:【SS】欲しいものは……? 1/3[sage] 投稿日:2011/04/07(木) 13:23:22.71 ID:4IJZ1Sr7P [2/13]
お昼なので。



「アンタってさー、物欲ないよね」

ある日の休日、何の前触れもなく俺の部屋に押しかけてきた妹はそうのたまいやがりました。
てかお前なんで俺のベッドに寝転んでくつろいでんの?
普段から香水使ってるお前がそういうことすると匂いが染み付くからやめて欲しいんだけど。
言っても無駄だろうから口には出さねえけどさ。

「いきなり何だよ?」
「だってアンタの部屋って何にもないじゃん。精々コンポとCD、あと少しだけ漫画があるぐらいでしょ?
 何にお金使ってるわけ?」
「お前の感覚で物を言うんじゃねえよ」
「どういう意味よ?」
「俺はお前ほど裕福じゃねえの」

モデルのギャラや小説での印税をたらふく貰ってる桐乃とは違って、こっちはただの高校生だ。
毎月最低限の小遣いは貰えてるとはいえ、それだけだ。
バイトをやっているわけでもないし、高校になってからはお年玉ももらえてない俺は貯金もろくにない。
毎月好きなものを一つ、大きな買い物をしたら後は雑費でほとんど消えていく。
加えて、最近は桐乃達に付き合って出かけたりしてるから他にまわす余裕がないというわけ。
去年クリスマスに桐乃と出かけた時にピアスを買ってやったのも、実は断腸の思いだったのだ。
そういえばあのピアス今はどうなってるんだろうね? まさか捨てられたりとかは……してないよな?

「ふーん……じゃあアンタ今欲しい物とかないの?」
「あるっちゃあるけど……そんなの聞いてどうするんだよ?」

もしかして買ってくれるとでも言うのだろうか?……こいつに限ってそれはないな。
そんな優しい妹だったらどんなにいいことか。エロゲーで出てくるような妹とは天と地ほどの差だな。

「アンタ、今失礼なこと考えなかった?」
「…なんも考えてねーよ」

す、鋭いなこいつ。女の勘ってのは恐ろしいぜ……っ!

「……で?」
「ん?」
「だから、あるんでしょ? 欲しいもの。さっさと言いなさいよ」
「言ったからってどうかなるわけでもないだろ。それに妹に恵んでもらうほど落ちぶれちゃいねーよ」
「チッ、ウザ……アンタの都合なんてどうでもいいのよ。いいから早く言って。買ってあげるから」
「お前言ってることが無茶苦茶だぞ」
「うっさい! 妹が買ってあげるって言ってんだから、シスコンはさっさと自分の欲望を吐けばいいのよ!」
「おいおい…」

はぁ……ったく、こいつは何をムキになってんだ? めんどくせーな。
こうなった桐乃はちょっとやそっとじゃ引き下がりゃしないだろうし……どうしたもんかね。
……しゃーない、有耶無耶にして丸め込んで帰ってもらうか。
幸いこいつには突拍子もないことに弱いって弱点もある。そこをつけばどうとでもなるだろ。

「わかったよ。言えばいいんだろ言えば。何でもいいのか?」
「あたりまえじゃん。ま、アンタみたいなのが欲しいものなんてたかが知れてるし? それぐらいどってことないわよ」

いちいち腹立つ言い方するねこの妹様は!
……ふふふ、いいだろう。気が変わった。当たり障りないことを言ってお帰り願おうと思ったが――やめだやめ。
そこまで言うなら俺も相応の反撃をさせてもらうぞ。お前のその余裕、後悔させてやるわ!!

「桐乃」
「なによ?」
「いや、だから桐乃」
「あたしが何よ?」
「だ・か・ら! 桐乃が欲しいって言ってんだよ俺は」
「…………っ!?!?」

ふははははは!! 見ろあの桐乃の顔を! 顔を真っ赤にして目見開いて口をパクパクさせてやんの! ザマーミロ!
いつまでも俺がやられっぱなしだと思ったら大間違いだ! よし、このまま押し切って有耶無耶にしてしまえ。

「あ、あ、あ、アンタ!?」
「どうしたんだよ? 何でもくれるって言ったじゃねえか。アレは嘘か?」
「う、嘘なんかじゃないけど! で、でもそれは――!?」

よしよし、いー感じにパニクッてんな。ここらでダメ押しと行きますか。

俺は座っていた椅子から立ち上がって、桐乃に近付いていく。
絶賛混乱中の桐乃は、いとも簡単に俺の接近を許してしまう。
そんな桐乃に俺はそっと頬に手を添えた。
目を細めて、真剣な表情をしながら。――――演技だけどな!

「ダメか?」
「え、えっと……その……」
「そっか……ゴメンな、いきなりこんなこと言って。忘れてくれ」

いかにも残念だ、といった表情で言う俺。少しだけ悲しげにするのがポイントだ。
俺の迫真の演技にすっかり騙されている桐乃は、俺から目を逸らして口をもごもごとさせている。
ちょっとだけそんな桐乃を可愛いなんて思ってしまった俺の心中はともかく、そろそろ仕上げに入ろう。
俺は頬に添えていた手を離した。

「あ……」
「いきなりでびっくりしたよな。もう部屋に戻れよ」

お前の顔を見るのが辛いと言わんばかりに背を向ける。
落ち込んでいる様に見せかけて内心笑いが止まらない。我慢できずに体が震えてしまう。

「…………」

黙りこくってしまった桐乃は動く気配を見せない。
後ろを向いているせいで顔は見えないが、おそらく必死に頭を回転させているはずだ。
ここらが潮時か。そろそろネタバレして煙に巻いてしまおう。

そう思った俺はもう一度桐乃のほうを振り向き、

「な――――」

『なーんてな! 騙されてやんの、バーカ!』と言うつもりだった口は何かによって塞がれて言葉にならなかった。
唇に広がるのは暖かい感触。目の前にはドアップになった桐乃の顔があり、俺は一瞬我を忘れた。

え? 何? どうなってんのこれ?

今度は俺が混乱する番だった。

「ん、んふ……」

俺の頭はいつの間にか後ろに回された手によって固定され、桐乃から離れることができない。
そのまま10秒か20秒か。それとも5分か10分か。それとももっと長い時間だったのか、漸く桐乃が俺から離れた。

「こ、これでいいよね?」
「ぇ……」
「あ、あたしのは、初めてをあげたんだから、これであたしはアンタのもん。これで文句ないでしょ?」

言ってる意味がわからない。何を言ってんだお前は?
初めてをあげた? え? もしかしてさっきのこと?

「で、でもあたしだけがアンタにあげるなんて不公平よね」

何言ってんだ。もともとお前が言い出したんだろうが。何が不公平だよ。

「だから、あたしの初めてを貰ったアンタはあたしのもの! いい? これは決定事項だから」

何が決定事項だ。俺の意思はどうなるんだよ。でもあれ? 俺はさっき桐乃が欲しいって言って―――

「これからはアンタはあたしのなんだから、あたしの許可無く別の女と出かけたりしたら殺すからそのつもりで」

おいおい、随分物騒なこと言うじゃねえか。

「で、でもそのかわり、二人きりのときなら……その、あたしを……好きにしていいよ?
 だ、だってあたしはアンタのもんなんだから、と、当然の権利だもんね?」

す、好きにしていいって……どういう意味かわかってんのか? 桐乃は。

「あ。それと、今度から二人きりのときはアンタのことき、京介って呼ぶね?」

なんだ、この妙にこそばゆい感覚は。これじゃあまるで……

「そ、それじゃあ、今日は一回部屋に帰るね。また……来るから」
「お、おう」
「ん。それじゃ、ね。京介」

パタン

…………………………………………………………ええええぇぇぇえぇぇえぇええーーーーーー!?!?!!??

ちょ!? 何!? 何だこれ!? 何がどうなっちまったの!?
ま、待て待て。落ち着け俺。お、落ち着いて素数を数えるんだ。123456789……ってちげぇよ!!

何? お、俺が桐乃のもんで、そんで、桐乃が、俺のもの?
なぜに? why? まったく経緯が見えないんですケド!?

と、とにかく、とにかくだ! まったくもって意味不明な事態になってしまったがとにかく!



――俺、明日からどうなっちまうんだろう……?



END




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最終更新:2011年04月07日 23:56