512 名前:【SS】朝と早起きと妹と 1/3[sage] 投稿日:2011/04/06(水) 08:57:28.40 ID:4b60xGlfP [1/9]
朝なので。



妙に目が冴えて二度寝する気にもならなかった俺は制服に着替えて部屋を出た。
戸を開いたところでばったりと今起きてきたであろう桐乃と出くわした。

「おはよう桐乃」
「……おはよう。珍しいじゃんアンタがこんな時間に起きてくるなんて」
「たまたま早く目が覚めたんだよ」
「いつもそうだったらいいのに」
「まるで俺がいつも寝坊してるかのような言い方だな」
「してないの?」
「してねえよ!」

なんで俺朝からこんなにひどいこと言われないといけないんだろう。
誰だよ早起きは三文の得なんていったやつ。これじゃ得どころか損じゃねえかよ。

「とりあえず邪魔なんだけど。行くなら早くしてくんない?」
「お、おお。すまん」

桐乃を伴って階段を降りる。普段まずこんなことはないから新鮮だ。
リビングに入り、朝食の支度をしているお袋に挨拶をする。

「おはようお袋」
「おはようお母さん」
「おはよう二人とも。京介、あんたどうしたの? こんな早く起きるなんて。何か悪いものでも食べた?」
「俺はお袋の作ったもんしか食べてねえよ!?」

何なんだこの家の女どもは。俺になんか恨みでもあるの? 俺何か悪いことした?
俺ないてもいいよね?

「お父さんは?」
「お父さん、昨日から泊り込みでお仕事だそうよ。今日の夕方には帰ってこられるみたいだけど」
「そっか」

落ち込む俺をよそに女二人は話を続けている。そっか、親父今日は朝いないのか。

「じゃあ、もう少ししたら出来るから少し待ってなさい」
「「はーい」」


三人での朝食が終わり、さあ学校に行くかというところでまたも桐乃にでくわした。
どうやら桐乃も今から出るとこだったようだ。

「……なんでアンタも一緒なわけ?」
「別に、他意はねえよ。たまたま俺もこの時間に出ることになっただけだよ」
「……あっそ」

先導するように玄関を出る桐乃の後を追うように俺も家を出た。
桐乃とは途中まで登校経路が一緒だ。だから自然と一緒に歩く形になる。
つかず離れず。そんな表現がぴったりといえる距離感。
近くもなく、かといって遠くもない。手を伸ばせば届く、そんな距離。
そんな微妙ともいえる距離を保ちながら俺たちは歩いていく。

「…………」
「…………」

お互いに特にしゃべることもなく、無言の時間が流れる。
普段なら苦手だといえる時間。でも、不思議と今はそう感じることはなかった。


そうやってしばらく歩いていてわかったことがある。
桐乃は早足になったかと思えば、急にゆっくり歩いたりと妙に落ち着きのない歩きかたをしていた。
音楽を聴きながら歩いていてそれにつられて速度が上下するんならわかるが、桐乃はそうじゃない。
一体何を考えてるんだか。

こっちのことをまったく気にしてないかのように歩く後姿にふぅ、とため息が漏れた。
こいつは毎朝こんなふうに登校してるんだろうか? だとすればご苦労なことだ。もう少し普通に歩けばいいのによ。
まったく――――合わせるこっちの身にもなれってんだ。

そんなことを考えていると、チラ、と桐乃がこっちを伺うのがわかった。
さっきまでは、まるで俺のことを存在しないみたいに歩いてたのにどういう心境の変化だろうか。

「なんだよ?」
「別に。いつまでついてくんだろーって思っただけ。まさか学校まで着いてくる気じゃないよね?」
「アホか。たまたまお前と道が一緒ってだけだろ。へんな勘違いしてんじゃねーよ」
「チッ…………フン」
「ケッ」

ふいっとお互いに顔を逸らすかたちになる。
漸く口を開いたかと思えばこれだ。ま、何も期待しちゃいなかったけどよ。

そうこうしているうちに分かれ道になるT字路にさしかかった。
ここで桐乃は直進、俺は右に曲がる形で分かれる事になる。
一応ここまで一緒に来たわけだし、声だけかけとくか。

「んじゃ、俺こっちだから」
「そんなのどうでもいいし。早く行けば?」
「へいへい」

相変わらず可愛くないこった。
はなから色よい返事が返ってこないとわかっていた俺はそのまま角を曲がっていく。

「ねえ」

てっきり桐乃はそのまま行っちまうのかと思っていた俺は背後から掛けられた声に、「なんだよ?」と顔だけを向けた。

「い、いってきます」

一瞬何を言われたのかわからず、とっさに言葉が出なかった。
でもすぐにそれの意味を理解出来た俺は

「おう。いってこい」

そう言ってやった。
俺の言葉がかかるかかからないかの間に桐乃は駆け出していて、その姿は角の向こうに消えていた。
その寸前、髪から覗いた耳は真っ赤に染まっていたような気がした。
「きょうちゃーん」
「おう、麻奈実」

掛けられた声に答えるように手を上げる。
いつもの待ち合わせ場所に着けば、相変わらずほやっとした笑顔の麻奈実がいた。
こいつは相変わらず癒し効果がすげえよな。もしかしてマイナスイオンでもでてるんじゃないかと思う。

「おはよう、きょうちゃん」
「おはようさん。んじゃ、行くか」
「うん」

麻奈実を伴って歩き出す。
いつもと変わらない風景。さっきまでの変な時間とは違ういつもの時間だ。

「ねえ、きょうちゃん」
「ん? なんだよ?」
「何かいいことあった?」
「は?」

こいつは何を言ってるんだろうか。そういったことは特に心当たりはないんだが。

「いいことって……なんでそう思うんだよ?」
「だってきょうちゃん、すごく機嫌がいいときの顔してるよ?」
「……そんなことないだろ」
「ふふふ。そんなことあるよ」

いかにも“わかってますよ”と言いたげな麻奈実に俺は言葉につまる。
こういった時の麻奈実に嘘を言っても無駄だということは経験上わかりきってるんだよな。

「別に。――いいことがあったわけじゃねえよ」
「そう?」
「そうだよ。いいことなんかじゃなくて……そう、変なことがあったんだよ」
「変なこと?」
「ああ。変なこと」
「そっか」
「そうだよ」

俺の言葉に何か納得のいくものがあったのか、麻奈実はニコニコとした笑顔を浮かべていた。
なんとなく気恥ずかしくなって、目を逸らすように前をむく。

「きょうちゃん」
「なんだよ?」
「よかったね」

なんでそうなるんだよ。まったく、どいつもこいつも――


「ああ」


そう言って見上げた空は、気持ちのいいぐらいに晴れ渡っていた。


END

オマケ

「――でさあ、あたしがどんだけ歩くスピード変えてもあわせて後ろついてくんの。マジキモイ。
 何で後ろついてくんのよって感じ。後ろなんかじゃなくって横にくればいいじゃん! あやせもそう思うよね?」
「え? あ、う、うん。そうだね桐乃(はあ、今日は一日お兄さんの話きかされそうだなあ……)」







タグ:

高坂 桐乃
+ タグ編集
  • タグ:
  • 高坂 桐乃
最終更新:2011年04月07日 23:18