75 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/08(金) 12:16:21.74 ID:oKnclWHhP [1/10]
お昼、そしてスレタイに触発されたので
季節感?そんなもの知りませぬ




夏も真っ盛りのうだるような暑さの休日。
本来ならばエアコンという文明の利器によって楽園となっている家で過ごしているはずの俺は、尊大なる妹の手によってこの暑さの中外へと連行されていた。
ぶっちゃけマジで勘弁して欲しい。
恵まれている妹とは違い、俺の部屋にクーラーなどという物はなく夜は寝苦しいのを余儀なくされているのだ。
昼間のわずかな時間ぐらいそれに浸っていても罰は当たらんと思う。

「ちょっと、あんまり暗い顔しないでよ。てかあんたテンション低すぎ。せっかくあたしと出かけられるんだからもっと喜びなさいよ」
「うるせえよ。人が涼んでるところを無理矢理引っ張ってきたくせに偉そうなこと言ってんじゃねえ」
「いいじゃん。どうせ暇だったんでしょ?」
「確かにそうだけどよ……」
「だったら文句言わない。暑いからって涼しい部屋にばっかりいたら体おかしくなるんだから丁度いいでしょ。――荷物持ちも欲しかったし」
「どう考えても最後のが本音だよな!?」

相変わらず俺の扱いがひどいよねこいつ。自分の兄を召使いか何かと勘違いしてるんじゃなかろうか。
いい加減このいつの間にか出来上がった上下関係を何とかしてやりたいと思うが、いかんせん
この超スペック妹には色んな意味でかなう気がしないのでどうにもならないと半ば諦めている。
おいそこ、ご愁傷様ですとかいらんから。お願いだからやめて。泣いちゃうよ? 俺。

「はあ……もういいよ。で、今日はどこ行くつもりなんだ? アキバか?」
「アキバも行きたいけど、今日は渋谷。ちょっと欲しいものがあるから」
「欲しいもの?」
「そ。というより必要なもの?」
「さっぱりわからん」

渋谷で買えて必要なものねえ……もしかしてモデルの時に使うような化粧品の類だろうか。
そうなのだとすれば、むしろ一緒に来るべきはあやせとか加奈子のほうではないかと思うのだがどうだろう。
同じモデル同士のほうが何かと都合がいいだろうに。
などと思っていたのだが、桐乃の次の一言でそれが勘違いだと判明する。

「水着を買いに行くの」
「水着ぃ?」

まあ、確かに季節柄必要だといえなくも無い。だがまたよりにもよって水着とは……嫌な予感がする……



それから数十分後。はたして俺の嫌な予感は的中していた。
自分の周りには水着水着水着。いたるところが水着だらけだ。しかも女性物。
なんでそんなところにいるのかって? そんなもん桐乃に引っ張ってこられたからにきまってんだろーが!
俺だって勿論拒否したよ? でも桐乃は「いいから」の一点張り。
こんなところ桐乃を放ってでも立ち去りたいが、そんなことをすれば後がどうなるかわかったもんじゃない。
つまり、俺にはここに留まる以外の選択肢が無いのである。ああ、なんと言う無情。
ちょっとそこのお姉さん、俺怪しいもんじゃないからそんな目で見ないで!
そこのおば様も、こっち見ながら店員さんに声かけなくていいから!

その桐乃であるが、現在水着の試着中である。
どうやらお目当ての水着は決まっていたらしく、ほとんど時間をかけずに水着を見繕っていた。
一刻も早くこの場を去りたい俺としてはありがたい。

76 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/04/08(金) 12:18:36.84 ID:oKnclWHhP [2/10]
「兄貴、ちゃんとそこにいるー?」
「いるよ!」

もう俺のライフゲージは真っ赤っ赤だけどな!
さっきから回りの視線が痛くて仕方がない。針の筵ってのはこういうのをいうんだな。身をもって実感したよ。

「んじゃあちょっとこれ持っててよ。置くところ無いから邪魔だし」
「え? お、おっと!」

にゅっと試着室から出てきた手に持っているのは、さっきまで来ていた桐乃の服だ。
こっちをまともに確認せずに手を離すから落っことしそうになった。せめて受け取ったことぐらい確認してから手を離せと言いたい。
桐乃が手を出す際、チラッと見えた桐乃の素肌に不覚にもドキッとしてしまった。
いかん、血迷うな京介。あいつは妹だ。妹なんだ。妹妹妹妹妹妹……

「あと、これも……へ、変な気を起こしたら殺すかんね?」
「変な気? って、んな!?」

ちょ!? こ、これ、し、下――!?

パサッと既に持っていた服の上に落とされた爆弾に、俺の顔が瞬時に沸騰する。

いや、確かにね? 水着着るなら脱がなくちゃだろうけどさ! で、でもこれは―――!?
お、落ち着け俺。とりあえず『これ』が目に付くところにあってはマズイ。色んな意味で。
どうにかして隠さないと――そうだ! 桐乃の服の間に挟めばいいじゃねえか! さすが俺!
よし、そうと決まれば――。

なんとか視界から『それ』を隠蔽することに成功し、待つこと数分。
シャッという音と共に試着室のカーテンが引かれた。

「ど、どうかな?」

桐乃が着ていた水着は真っ赤なビキニだった。
肩紐の無いチューブタイプの水着で胸元と腰の辺りにある白いリボンがポイントだ。
ちょっと派手な感じもするが、桐乃の普段の活発な印象を思えばそれほどきついものではない。
しかし、俺はそんな水着よりも桐乃の肢体に釘付けになっていた。

中学生とは思えない均整の取れた体。出るところはしっかりでていて、それでいてくびれがヤバイ。
腰元から太ももにかけてのラインがいやに扇情的で――

「ちょ、ちょっと。なんか視線がいやらしいんだケド……キモッ」
「――ハッ!?」

うぎゃああぁぁあああーーーー!?!? お、俺は今何を考えていた!? 
ないないない! ありえないから! い、妹の水着姿に興奮するとかありえないから!!
そう、さっきの俺はどうかしていたんだ!

「ま、まあいいんじゃねえの? 似合ってる…と思う」
「チッ……これじゃまだ足りないか………まあ、あたしだし? 似合ってて当然なんだケド。
 それよりそのいやらしい目どうにかなんない? もしかして妹の水着姿で興奮してんの?」
「そ、そんなわけねーだろうーが!」
「どーだか。あんたシスコンだし? いつ襲ってきてもおかしくないって言うか」
「誰が襲うか!」

そんなに言うなら俺なんて連れてこなければいいじゃん!
何? 俺いじめて楽しいの? 俺、もう帰っていいかな? マジで。

77 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/04/08(金) 12:21:48.16 ID:oKnclWHhP [3/10]
「フン……まあ、あんたの意見はわかった。あともう一着あるからもう少し待ってて」
「ま、まだあるんスか?」
「何よ、たかだか二着じゃん。それぐらい我慢できないの? なんならもっと物色してもいいんだけど?」
「いやあ今度の水着はどんなか俺楽しみだなあ!」
「ウザ」

シャッと音を立てて桐乃がカーテンの向こうに消える。
くそう、どうして俺がこんな目にあわなきゃならんのか。もうさっさと家に帰りたい。
そんでクーラーの効いた部屋でごろごろするんだい。

そんなこんなでぶつくさ言うこと数分後、三度カーテンが開かれる。
もーなんでもこい。きょうちゃん何もこわくないよ。
そう思って振り向いたその先に――――天使がいた。

「ど、どうよ?」
「…………」

何の言い訳もなく見惚れてしまった。
桐乃が着ていた水着は、さっきの水着よりもさらに布の少ないタイプの紐のビキニだった。
薄い浅葱色というのか、青と緑の中間ぐらいの色の布地に白でふちどりをされていて、紐の部分もそのまま白で統一されていた。
さっきよりも布地が少ないにもかかわらず、いやらしい印象はむしろ減っていて可愛らしい。
桐乃のライトブラウンの髪ともマッチしていて、明るい感じにまとまっている。

「兄貴?」
「…………」

ヤバイ、これはヤバイ。何がヤバイってなんか胸がバックンバックンいってる。
顔も赤くなってるのがわかるし、どうしようこれ。
俺の、俺の妹がこんなに可愛いわけが―――!

「な、なんか言ってくれないと困るんだケド」
「う、え、えっと……すげえ似合ってる、と、思うぞ?」
「ホントに?」
「お、おう」

これ以上直視してたらおかしくなりそうだ。
そう思った俺はツイと桐乃から顔を逸らした。
その先にはたまたまとなりの試着してたであろう女性が出てきたところで、目が合ったそのお姉さんはパチンとこっちにウインクした。
随分ノリのいい人だな。俺はただそう思っただけだったんだが、桐乃はそうは思わなかったらしい。

78 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/04/08(金) 12:25:09.64 ID:oKnclWHhP [4/10]
「ムッ。ちょっとあんた、あたしがいるのに他の女見てるとかどういう了見なわけ?」

ガッと頭の両サイドを掴まれて、無理矢理桐乃のほうを向かされる。

「ご、誤解だ桐乃。俺はそういうつもりじゃ……」
「うっさい! あんた今日誰とここに来たか言ってみなさいよ!」
「き、桐乃とだろ?」

そんなわかりきったことを何で今更いうんだよ、こいつは。

「そう、このあたしでしょ!? だからね、あんたは――



       あ、あたしだけを見てればいいの!!



               わかった!?」

真っ赤な顔をしてそういう桐乃。
なぜか必死な様子の桐乃に俺は呆気に取られるが、なんとか「わ、わかった」とだけ返すことができた。
「わ、わかればいいのよ」と桐乃は漸く俺の頭を解放した。

「そ、それじゃああたし着替えるから。服返してよね」
「え、も、もういいのか?」
「うん。今日見たいやつはもう見たし、さっきもいったけど今日はこれだけ」
「そ、そうか。で、どっちにするんだ?」
「……あんたには教えない」

まるでひったくるように俺から服を奪った桐乃は、そのまま試着室へと消えていった。



その後、その時に買った水着は、皆で海水浴に行く時に披露されることになるのだが、それはまた別の話。

そしてとある冬の日に、何故かその時にみたもう一方の水着が披露されたのも、また別の話だ。


END



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最終更新:2011年06月05日 16:30