830 名前:【SS】そのミサンガに想いをこめて[sage] 投稿日:2011/04/11(月) 18:34:16.04 ID:8pkjDv8UP [2/7]
夕方なので
二番煎じになりますがミサンガで一つ書けたので投下
「はいこれ」
俺の未来を決めるであろう一大行事、大学受験の試験の当日の朝。
受験の準備をしていた俺に、突然部屋に乗り込んできた桐乃は俺の目の前に何かを突きつけてきた。
「? なんだよこれ?」
「ミサンガ」
「ミサンガぁ?」
「そ。所謂願掛けってやつ?
ヘタレなあんたじゃお守りだけじゃ何かと不安だし、ついでにこれもあげる」
おいおい、これから受験しようって兄に不安だとか何てこと言いやがるんだこの妹は。
「お前な……不安だとかそういうことを口に出して言うんじゃねぇよ。
心配してくれてるのかもしれねえけど、不謹慎だぞ」
「う……ご、ごめん。あの、別にそういうつもりじゃなくて……」
「わーってるよ。ちょっときつく言い過ぎた。こっちこそすまん」
どうやら俺も思ったより緊張していたらしい。思った以上に剣呑な声が出ていたことに自分でも驚いた。
桐乃の言ってることが本心からじゃないことはわかってるんだが、どうも精神的に余裕が無いせいで過敏に反応してしまった。
俺にたしなめられた桐乃は、自分の言いようも悪かったと反省しているようで、しゅんと顔を暗くしていた。
はぁ、ったく。そんな顔してんなって。お前は笑ってたほうが可愛いんだから。
「それで? ミサンガがなんだって?」
「あ、うん。これ……」
桐乃の差し出した手に乗っているのは、少し前に流行ったあのミサンガだ。
ずっとつけていて自然に切れたら願いが叶うとかっていうジンクスだって聞いたこともある。
「なんだ、わざわざ買ってくれたのか? ありがとうな」
今からつけたんじゃ自然に切れるなんてことはまずありえないんだろうが、さっきも桐乃が言ってた通り願掛けの意味が強いんだろう。
最近、前ほどツンケンしなくなったとはいえ、こういうことをしてくれることは素直に嬉しいと思える。
「えと、そうじゃなくってね……」
「ん? 違うのか? もしかしてもらうのに条件がいるとか言い出すんじゃないだろうな?」
「そんなこと言うわけ無いでしょ!? あたしが言いたいのは、それは買ったわけじゃなくて……」
「買ったわけじゃない?」
ということは誰かからのもらい物とかそういうことか?
「うん。それ、あたしが作ったの」
「桐乃が? マジか」
「うん」
マジマジとそのミサンガを見つめる。
これが桐乃の手作り……言われてみれば商品にしては少し形が歪だし、少しだけよれてしまっているところが慣れていないことを思わせた。
「ほら、わざわざあんたのイニシャルだって編みこんであげたんだから」
桐乃の言うとおり、伸ばしたミサンガの真ん中あたりに KvK とイニシャルが編みこまれていた。
でも桐乃。イニシャルはありがたいが間にあるのがハートなのはどうかと思うぞ。
831 名前:【SS】そのミサンガに想いをこめて 2/2[sage] 投稿日:2011/04/11(月) 18:35:22.24 ID:8pkjDv8UP [3/7]
「お前器用だな……わざわざありがとな。これ結構手間かかったんじゃねえの?」」
「別に。あたしはもう推薦で進学決まってるし、時間が少し空いてたからついでよついで」
そういう桐乃の耳は真っ赤だ。こいつは本当に照れ隠しが下手糞だな。
「そうかよ。でもま、ついででもありがてえ。お前の手作りってんならそれなりのご利益がありそうだ」
「それなりなんかじゃなくって、超あるに決まってるでしょ。何せあたしの手作りなんだから」
「へっ、よくいうぜ」
でもま、心強いことは確かかもな。
桐乃がこんなことをしてくれるのは予想外だけどその気持ちは嬉しい限りだ。
「それじゃ、あたしがつけてあげるから、左手出してよ」
「左手でいいのか?」
「右手につけたら書いてるときに気になって気が散るかもしれないでしょ? だから左手でいいのよ」
「言われてみればそうだな。じゃあ頼むわ」
「ん」
出した左手に少しだけくすぐったい感触がした後、それはしっかりと俺の左手に結ばれていた。
「これでよし。あたしがここまでしてあげたんだから落ちたりなんかしたら承知しないからね」
「わーってるよ。もともと落ちる気なんてさらさらねえし」
左手に結ばれるミサンガを見つめていると、不思議と力がわいてくるような気がしてくる。
桐乃と話していたおかげでさっきまでの緊張もいい感じに解けたみたいだ。
「あんた、そろそろあんた時間なんじゃないの? 遅刻して落ちました。なんて馬鹿なことはやめてよね」
「おっと、もうそんな時間か。じゃあ行ってくる」
「兄貴」
「ん?」
「が、頑張ってね」
「おう!」
桐乃の声援に背中を押さえれ、俺は意気揚々と家をでたのだった。
試験の結果はいうまでもないだろう。あの時貰ったミサンガは今でも俺の左手に結ばれている
「ほら兄貴、置いてくよ!」
「待てって桐乃!」
そして、桐乃の左手に俺とおそろいのミサンガが結ばれていることに気付いたのはそれから随分たってからのことだった。
END
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最終更新:2011年04月13日 01:02