955 名前:【SS】1/5[sage] 投稿日:2011/04/12(火) 16:40:40.25 ID:1i0uQxzy0 [4/11]
小鳥囁く月曜の朝。カーテンを大きく開き、兄貴の部屋に陽光を誘い入れる。
それは起床時間になっても起きる気配の無い兄貴の顔にも容赦無く照り付けるが、ほんの少し眉を顰めるだけ。
チッ。これで起きれば面倒が無いのに。
「ほら、とっとと起きなさいよ!」
我ながら不機嫌な声。っていうか何であたしがこんな面倒な事しなくちゃいけないワケ?
それというのも、この変態ダメ兄貴がだらしないせいだ。普段のだらしなさに目ぇ瞑ってやってるんだから、朝ぐらいはしっかり起きろってのよ。
あー……考えれば考えるほどムカついてきた。
このあたしが貴重な朝の時間を使って起こしに来てやってんのに、なんでこのシスコン兄貴は気持ちよさそうに寝てんの?
ほんっと有り得ないんですけど!?シスコンなら可愛い妹様の一言目で飛び起きて、拝め奉った上で足の1つも舐めてみせろってのよ!
「いいっかげんに、起きろ!」
ベッドのシーツを引っ掴み、テーブルシーツの要領で引き抜く。
勿論あたしの場合はその上に乗っかってる異物を引き摺り落とすのが目的なわけで、テーブル芸とは対照的に、よりバイオレンスに、より乱暴に引き抜いたのは言うまでもない。
「どあああああ!?」
これはこれで芸になりそうなキリモミを見せ、兄貴が頭から落下した。ふんっ。あたしに起こしてもらえるんだから、この位はご褒美だと思って欲しいもんね。
しかし、兄貴は一向に動かない。
……え?いや、ちょっと、冗談だよね?確かに頭は打ったけど、こんな大した高さも無いベッドから落ちたくらいでそんな……。
「ちょ、ちょっと……?」
うそ。起きない。おきない。オキナイヨ?なんで?もしかして、本当にヤバイ?やだ、やだやだやだ。こんなはずじゃないのに。ホントは起こしてやった事にちょっと感謝とかしてもらって、おはようとか言えれば幸せだなとか考えてただけなのに……。
「……つつつ。どうした、今日はやけに乱暴だな、桐乃」
言いつつ、兄貴がゆっくりと体を起こす。
よ、良かったあああああああああああああ。良かったよぉ神様!ホント怖かった!
何?こんなに妹に心配させるとか、本当にシスコン失格なんだからこの変態!
心配って言っても、勿論あたしがこんな変態を殺した程度の些事で罪に問われるような事が無いかどうかが心配だったのであって!
別にこのシスコン兄貴がどうなろうが知ったこっちゃないというか。
「まあいいか、桐乃が起こしに来てくれたんだからな」
そ、そうよ!このあたしが起こしに来てやったんだから、このくらいはご褒美……って、へ?
な、なによこの笑顔。違うでしょ?
いつものあんたなら、「てめぇ!ベッドから叩き落す前に、もっと平和的な起こし方があるだろ!」とか怒鳴るでしょ?
何でそんな、や、優しい王子様みたいな笑顔であたしを見てるの?
右手!右手差し出してきた。な、何するつもり?分かった!そうやって油断させておいて、何か復讐するつもりですねわかりまs……。
「おはよう桐乃。今日も可愛いな」
956 名前:【SS】2/5[sage] 投稿日:2011/04/12(火) 16:42:00.70 ID:1i0uQxzy0 [5/11]
優しく呟くと、兄貴は差し出した右手をあたしの頭に載せ、愛でるように撫で始める。
――――っ!……っちょ!ぬぁ、なあ、なああああああああああ!?
何で、よりバイオレンスに、より乱暴に兄貴を引き摺り落とそうとしたあたしが兄貴に王子様スマイルで撫で撫でしてもらってるの?
ゆゆゆゆゆゆ夢?潜在願望?むしろ本能?意味が分かんない。
恥ずかしくて嬉しゲフン気持ち悪くて顔が熱くて爆発しそう。ってかする。爆発する。このままじゃ爆発して鼻血出る。
や、ヤバイ。ヤバイヤバイヤバイ――。
気が付いたらあたしは、あらん限りの力で平手打ちを決めていた。
「……っにすんのよこの変態!シスコン!強姦魔!マジ有り得ないんですけど!?キモイ!宇宙開闢以来1番キモイ!死ねっっっっっ!」
桐乃が、何故か顔を真っ赤にして出て行ってしまった。
な、なんでだ!?俺、何かおかしいことをしたのか!?俺はいつも通りだったはずだ!
確かに俺は普段寝坊しないから、桐乃が朝起こしに来てくれるなんてイベントは殆ど起きない。
だが、……なんか最近の記憶が曖昧な気がするが……桐乃と俺は、あのくらいのスキンシップは当然に行っている、超仲良し兄妹だったはずだ。
桐乃は中学生になってもまだ「将来は兄貴のお嫁さんになる」といって憚らない可愛すぎる妹だし、俺は俺で桐乃の一生の相手は自分以外には居ないと思っている超絶シスコン兄貴。
だけどそんな俺の気持ちを聞いて、桐乃はいつも「じゃあ両思いだね♪兄貴ぃ☆」なんて言って甘えてきて、俺はいつも理性と本能の狭間で我慢を強いられてきた。……はずだったよな?
なのに、さっきの桐乃の反応は何だ?ちょっと頭を撫でただけで変態扱い?果ては強姦魔?俺の桐乃が、あんな事を言うはずが無い。……そうだ。
俺の妹が、こんなに可愛くないわけがない!!
あたしの兄貴が、こんなにデレデレなわけがない!!
ご飯もそこそこに家を出たあたしの頭の中で、そんな言葉がぐるぐると回っている。
お、おかしい。やっぱりおかしい。殴られた後の表情1つ見ても、あたしをからかおうとしてたような態度じゃなかった。
あたしはいつも兄貴の気の無い態度にヤキモキさせられてきたのに、今日に限ってあの態度は一体なに!?
あ、あんな笑顔で撫で撫でなんて……うひゃあああヤバイヤバイヤバイヤバイって!ちょ、ほっといたらあの後どうなってたの?どうなっちゃってたの?
これはちゃんと帰って真偽を確かめないと……!
からかってるだけだったとしたら……死刑。私刑。刺刑。
で、でももし……本当だったとしたら……あたしはどうするんだろう。
その夜、何事も無かったかのような声色で、兄貴のただいまが響いた。
(――キタッ!)
あたしは勢い良く立ち上がり、気合を入れるために持っていたブツを、兄貴に見つからないようベッドの下に隠す。
階段を上がる音を聞きながら、タイミングを図る。兄貴が部屋に入ったタイミングで乗り込む!そう決めていた。
しかし、兄貴の足音は期待とは裏腹に、私の部屋の前で止まる。
957 名前:【SS】3/5[sage] 投稿日:2011/04/12(火) 16:44:49.19 ID:1i0uQxzy0 [6/11]
コン、コン……
ノックの音。
返事を聞かずに、扉が開く。
「桐乃」
「な、なななな何っ!?勝手に開けないでよね!変態!」
気持ちの準備が出来てないうちに開けるな馬鹿っ!超どもった!恥ずかしい……!
あたしの声に、兄貴は一瞬驚いたように瞳を見開く。が、すぐに眉間にしわを寄せ、ため息をついた。
「桐乃。話があるから部屋に来るんだ」
「いやっ!あんたみたいな変態の部屋、何されるかわかんないもん。話があるならここでしなさいよ」
「桐っ……!」
間髪入れずに答えるあたしに一瞬何かを言い返そうとするが、またため息で押し殺す。
「わかった……ここで話そう」
あたしと兄貴は、テーブルをはさんで向かい合っていた。
なんとしてでも……兄貴の真意を聞き出してやるんだから……!
「まず桐乃……お前、何かあったのか?」
「はぁ?それあたしの台詞。いきなり妹の頭撫でるなんて、シスコンこじらせて犯罪者になっちゃうんじゃないの?マジキモイ」
兄貴が絶句しているのが容易に見て取れる。
驚く事に……兄貴は、どうやら本気であたしのあの態度が信じられないらしい。
「……お前、どうしちまったんだよ?昨日まではあんなに俺に甘えてくれていたじゃないか!それとも、何か俺に悪いところがあったのか?」
「は、はぁ?あたしが、あんたに、あ、甘えてた……?」
う、嘘だ!あたしは絶対に甘えてなんていない。声を大にして弁解したい!絶対に、絶ぇ対にありえない!
何を言い出すんだこのシスコン兄貴!妄想と現実の区別がつかなくなっちゃったんじゃないの?夢でも見てたとしか思えない。
ん?夢……?
……もしもあの時、あたしが兄貴にバイオレンスな振る舞いをした時……兄貴がこんな夢を見ていたとしたら?
そして今も、その夢と現実の区別がつかなくなってしまっているんだとしたら!?
あ、あたしのせいってこと!?
「あ、兄貴。あのさ……」
「なんだ」
「あんたの記憶にある……あたしのこと、ちょっと教えてみて?」
「はあ?」
訝しみながらも、兄貴はとつとつと語り出した。
「そうだな。まず家に帰ってきたら必ず桐乃は俺の部屋に遊びに来るんだ。そして、「ただいまのキス」のおねだりだ。
その後は俺の膝枕で漫画を読んで、俺の手が頭に乗っかっていないと気がすまない。
ご飯のときには食べさせっこ、お風呂の時には洗いっこ、寝るときには一緒に寝ると言って聞かないが、俺の理性が危ないので部屋で寝かせている.
それでもたまに桐乃は俺のベッドに潜り込んできて」
「にゃあああああああああ!もおやめてぇぇぇぇぇぇ!」
958 名前:【SS】4/5[sage] 投稿日:2011/04/12(火) 16:45:50.22 ID:1i0uQxzy0 [7/11]
ちょ、ちょちょちょちょちょっとこいつやっぱり変態だ!
変態だ変態だと思ってきたけど、まさか夢の中でここまであたしと……なんというか、イチャラブしてたとは思わなかった。
だ、だって、もうあたし中学生だよ!?あ、あ、あ、洗いっこって!どこ!?ねえどこを洗っちゃってたの兄貴!?
それに、理性が危ない!?もうその夢の時点で理性なんて欠片も残ってないでしょ!?もう理性捨てて禁断の果実コース一直線だって!
た、食べられちゃう……!あたしの禁断の果実が兄貴に食べられちゃうよぉぉぉ!
「……ど、どうした?桐乃」
「ちょっと!ちょっと黙ってっ……!」
「……いいや、黙らねぇ。聞けっ!桐乃!」
「!?」
「お前は、今朝から何かおかしくなっちまってる……。初めは冗談か、ちょっとしたイタズラ心なのかとも思ったが、違うみたいだった」
「ばっ!おかしくなってんのは明らかにあんたでしょぉ!?」
「いいや違う!お前は覚えてないのかもしれないが、俺達は確かに二人だけの思い出を沢山刻んだんだ!桐乃、お前忘れちまったのかよ!?俺の部屋で初めてした、ちゅーの味を!」
「やぁぁめぇぇてぇぇぇ!勝手にキモイ記憶捏造してんじゃないわよ!信じらんない!つーかちゅーって言うなぁ!キモイエロイ気持ち悪い!」
「捏造なんかしてねぇ!思い出してくれ桐乃!俺とお前はあんなにも通じ合っていたじゃねぇか!?」
「死ね死ね死ね死ね!ま、マジも一発ぶん殴るわよ!?そうすりゃ元に戻るよね!?」
「あーいいとも!殴りたいなら殴ればいい!だけどな、俺には分かるんだよ!憎まれ口を叩いていても、お前も本心は俺と一緒だってなぁ!」
「……え?」
強く肩を掴んで叫んだ兄貴のひと言に、あたしは言葉を失う。
「そうさ。お前と思いを重ねてきた今だから分かる。乱暴な言葉の裏に、俺を思う気持ちが隠れてやがるんだ。お前だって気付いているんだろ?……自分の気持ちに」
「あ……兄貴……」
「確かにお前は、俺との思い出を無くしちまったのかも知れねぇ。だけど、そのくらいで桐乃のことを嫌いになるような男じゃ、断じて無い!」
「だ、だからそれは……」
「桐乃。今からでもやり直そう。記憶をなくしても、思い出をなくしても、俺達の思いは、何ひとつ変わったりしないんだから!」
「……う、あ、兄貴ぃ……」
なんで?なんでだろう。
兄貴は間違ってる。あたしと兄貴のイチャラブな思い出なんて、一個も無い。悲しいくらい一個も無いんだ。
なのに、あのニブチンの兄貴があたしの気持ちに気付いてくれてる。全力で答えようとしてくれてる。
それなら……それなら、もう、良いんじゃないだろうか。
このまま、兄貴に全てを委ねても。
「あ、兄貴。ありがとう……あたし、あたしね……!本当は兄貴の事……!」
959 名前:【SS】5/5 fin[sage] 投稿日:2011/04/12(火) 16:47:33.79 ID:1i0uQxzy0 [8/11]
目覚ましを止める。
……なんだか頭が痛い。昨日の記憶が曖昧だ。
良く晴れた火曜日の朝。カーテンからもれる陽光に、俺の気分も自然と明るくなる。
(今日は良い一日になりそうだ)
そう思った瞬間、ふと隣に何かがあることに気づく。
見慣れた茶髪。
甘くとろけるような、女の子の香り。
憎たらしい……筈の我が妹が、同じベッドで気持ちよさそうに眠っていたのだ!!
「き、きききき桐乃ぉぉぉ!?」
「ふゃ……?兄貴……?」
とろんとした瞳で俺を見る。
な、何だこの可愛らしい仕草は。いつもの小悪魔的な笑みと汚物を見るような視線はどこに行った!?
そ、それどころじゃねぇ、なんでこいつ俺に抱きついて離れないんだ!?ま、まて、俺のリヴァイアサンが熱くうねりを上げて大変な事になっちまう!
「あーにきぃ~♪」
ぐりぐり。
「どどどどどどどどうしちゃったんですか桐乃さん!?いや、あ、ちょっとまって、ヤバイ!ヤバイって桐乃!」
俺の気も知らず、桐乃はうるうると輝きを帯びた瞳で上目遣い。そしてねだるようにこう言うのだ。
「ねぇ兄貴ぃ……おはようのちゅー、してぇ♪」
「き、き、き、桐乃……!」
「ねぇ……兄貴ぃ~♪」
「りょ、了解しましたぁ!」
そのとき流石に、俺は思ったね。
俺の妹がこんなに可愛いわけがない!ってな。
終わり
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最終更新:2011年04月13日 01:04