116 名前:【SS】1/5[sage] 投稿日:2011/04/13(水) 17:00:03.03 ID:BBmXsgBs0 [3/9]
「なに?ぼーっと突っ立ってんじゃないわよっ!」

ビシッ!

「……お、おう」

……およそ妹とは思えないような横柄な発言を叩きつけ、そのまま自室にこもってしまったのは俺の妹、桐乃である。
成績優秀、眉目秀麗、スポーツ万能。更には読者モデルまでつとめる完璧超人。
地味メンで成績平凡、スポーツ凡庸な俺なんかとは比べ物にならない人種……なのだが。
いかんせん、今の言動を御覧あれ。そう、どれだけもの凄まじいスペックの持ち主でも、あの性格じゃあどうしようもない。
更に!あの派手な見た目に反して重度のエロゲーオタク。どこをまかり間違ってこんな道に入っちまったんだか。
まあ、これほどのデコボコ兄妹だ。数ヶ月前までは俺自身のコンプレックスもあり、会話すらろくにしない関係だったんだけどな。
紆余曲折……本当に色々な事があり、今ではお互いそれなりに影響しあいながら生活している、というわけだ。

……ところで、今俺はとあるレポートをつけている。
別に学校のレポートと言うわけではない。
ただ、もしもこのレポートが正しい情報に基づいた物で……さらに完成の日を見れば、俺の生活上のストレスは大きく改善される事だろうと思う。
そのレポート……名付けて、

『高坂桐乃 癖毛研究レポート(KKR)』



前述した通り、俺はここ数ヶ月、前よりもずっと桐乃と接する機会が増えている。
それはつまり、桐乃の罵詈雑言に晒される頻度が増えた事であり、桐乃を観察する時間もより増えたと言う事だ。
そんな中、俺はある事に気が付いたのだ。
桐乃が感情を露にする際、俺を口汚く罵る際、エロゲーをやる際、漫画を読む際、ケーキを食べる際!
それぞれの瞬間、桐乃の癖毛が特徴的な動きを見せるということに!
因みに『桐乃の癖毛』というのは、左右にぴょっこりと跳ねた、あの毛の事を指している。
考えてみれば、あれだけお洒落に気を遣う桐乃が、自らの癖毛をそのままにしてモデル活動に勤しむだろうか?
いや、俺自身は下手にストレートパーマなんぞかけられるより、愛嬌のあるあの髪型の桐乃が好きゲフン個性があっていいと思うのだが。
とにかく俺はあの癖毛に、桐乃自身ですら無意識下でしか気付いていないような何かの意味があるのでは……と関心を持ったわけだ。
もしもそれを解明出来れば、普段から憎まれ口しか叩かない桐乃の本心が分かるかもしれない!
なんせ、あれだけ素直じゃない桐乃だ。ちょっとくらい明け透けな方が可愛いってものだろう。
というわけで、俺は俺自身の平穏の為にも、行動を開始する!さあ諸君!一緒に桐乃を追いかけようではないか!


117 名前:【SS】2/5[sage] 投稿日:2011/04/13(水) 17:00:49.94 ID:BBmXsgBs0 [4/9]
KKR調査 その① ~怒りの表現~

まず調べるべきは『怒っている時の癖毛の動き』だろうと思う。
何せ、桐乃の自己表現の大半がこれで説明できてしまうのだ。相当頻繁に出る動きだとも思うし、最も調べやすいだろう。
……だが、KKR調査団は、「一応怒鳴っちゃいるが、怒っているか分からない」などという曖昧な状況での調査をよしとしない。
確実に桐乃が怒るであろう状況を作り上げ、観察しようと思う。
さあ、行動開始だ!

午後2時55分。
リビングに降りた俺は、桐乃の姿がない事を確認し、冷蔵庫へと歩み寄る。
ゆっくりと冷蔵室を開けると、俺は密かにほくそ笑む。
前情報通りだ。多くの食材の中……桐乃が買ってきたケーキが鎮座している。
こいつは近場で売っているイチゴ付きのショートケーキだ。
味はまぁそこそこだが、お値段が大変リーズナブルな一品で、コストパフォーマンス上、良く桐乃が購入する。
桐乃にとってケーキなどの嗜好品は、モデルと言う職業上、幾らスポーツをやっているといっても過剰に摂取する事の許されない食べ物。
それがゆえ、桐乃の中でケーキの優先順位は相当に高いと思われる。

だが!
俺は!
それを!

貪り尽くす!

簡易包装された箱とラップを乱暴に取り払うと、白くコーディネートされた可愛らしいショートケーキが露になる。
それを一切の遠慮なく、鷲掴む!
そして、食す!!
一口で半分を食べた俺は、続いて赤く実ったイチゴに……

喰らい付く!

咀嚼、そして嚥下!
階段を下りる音が、廊下からかすかに響いてくる。……さあ、ここからが本番だ。

「……っ!あ、あああああああああああああああああ!!」

ドアを開けた瞬間、桐乃が般若の形相で叫び声を上げた。
……この瞬間!この瞬間の為の小細工だったのだ!見るんだ俺!KKR調査団の一員として、見届けろ!癖毛の動きを……!

桐乃の平手が視界を掠める中、俺は確かに見た。
真横にビシッとのびた、桐乃の癖毛を。

「この馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!」

調査① 結果:怒りの表現 = 癖毛が真横にビシッとのびる。


118 名前:【SS】3/5[sage] 投稿日:2011/04/13(水) 17:02:03.32 ID:BBmXsgBs0 [5/9]
KKR調査 その② ~悲しみの表現~

「あ、あんた、あたしが今朝から楽しみにしてたケーキ、何で食べんの!?信じらんない!マジ信じられないんですけど!?」
「お、落ち着け桐乃!これには深ぁ~いわけが……」
「ひとのケーキ勝手に食べるのに、深いわけなんかあるか!死ね!死んじゃえ!」

桐乃は平手だけでは気が収まらないらしく、頭や背中など、殴りやすいところを殴りつづける。
く、くそう……痛い。だが、ここは暴れさせるだけ暴れさせてやらないと、次の調査に結びつかないんだ……!
桐乃が暴れつかれてへたり込むまで、俺はその暴力に耐え続けた。いや、これは自業自得だから仕方ないのだが。

「……ホントに楽しみにしてたのに……最低……!最っ低!」

やっとへたり込んだ桐乃は、俺への怒りからケーキの喪失感へと気分を移ろわせる。
先ほどまで突き刺さんばかりに真横にのびていた癖毛が、急に力がなくなってしまったかのように下にへろへろと垂れてしまう。
心底がっかりした顔で、力なく呟く。

「今すぐ買ってこないと、絶対に許さないんだから……!」

調査② 結果:悲しい時の表現 = 癖毛が力無く垂れ下がる。



KKR調査 その③ ~喜びの表現~

恨めしく睨み付ける桐乃の視線を浴びながら、俺は深く頭を下げる。

「すまん!お前のケーキを勝手に食っちまったのは謝る。だから事情を聞いてくれ!」
「……によ、事情って」

未だに納得できない表情。当たり前だ。あのケーキを桐乃が楽しみにしていたのは、帰ってきたときの様子から知っている。
それを奪ってしまったのだから、ちょっとやそっと謝られたからといって許せるわけが無い。
だが。甘く見るなよ、諸君。
この俺が、可愛い妹をただ悲しませるような事を思いつくとでも思うか?

「その……な。実は、俺もケーキを買ってきてたんだ」
「……は?」

俺は、冷蔵庫の奥から……見つからないよう、食材の後ろに隠しておいた……ケーキの箱を取り出した。

「そ!それ、都内の超美味しいお店のケーキじゃん!!」

そう!桐乃がケーキを買ってきたことを知った俺は、都内有名店の、お高くて超美味い、ショートケーキを買ってきていたのだ。
気になるお値段は桐乃の買ってきたケーキの倍近くするため、場所の遠さも相まって、桐野ですらなかなか手を出す事の出来ないケーキ。
これが、俺の切り札だ!


119 名前:【SS】4/5[sage] 投稿日:2011/04/13(水) 17:03:10.88 ID:BBmXsgBs0 [6/9]
先ほどのケーキの包みが質素に見えてしまうような可愛らしい箱を、おもむろに開く。

「お、おおおおおおおおおおおおお!美味しそう……!」

桐乃の癖毛が……ぐるぐると回っている。まるで犬が尻尾を振るかのように。
唖然としてその光景を見守る間も、桐乃の視線はケーキに奪われたままだ。
それにしても、目がハート型になっていてもおかしくないくらいのはしゃぎ様。我が妹ながら可愛……いや、分かりやすいものだ。

調査③ 結果:嬉しい時の表現 = 癖毛がくるくると回る。



「あ、あんた、これどうしたの!?」
「……最近、お前とも結構話すようになっただろ?たまには、お前の好きなケーキでも一緒に食べながら、話が出来たらいいな……と思ってたんだが」

そこで俺は、バツが悪そうに頬を掻く。

「だけど、そう思ってた矢先に桐乃が嬉しそうにケーキを買ってくるが見えてさ。なんか悔しくなって……つい、衝動的に……」
「馬っ鹿じゃないの!?どんだけガキなのよ!」
「だってよ!お前はケーキの食べる量とか制限してるし、お前の買ってきたケーキを食べちまったら、俺と一緒に食べれねぇじゃねぇか!」
「あ、あんた……そんなにあたしと一緒に食べたかったの?……キモッ!シスコンすぎ!」
「何とでも言えよ……だけど、お前のケーキ勝手に食ったのは悪かった……。どんな理由があるにせよ、大人げねぇことをしたよ……」

この言葉は本心からだ。
どれだけ美味しいケーキを用意しようとも、一瞬でもあんな悲しそうな桐乃の姿を見るのは心が痛かった。
だが、これで癖毛の反応が掴めた。これからはああならないようにしていけばいいんだ。
そう、あんな風に垂れ下がった状態に……って、
あれ?

「ま、まあ、あんたがそこまで言うなら!一緒に食べてあげない事も無いけどさ?」

顔を背けてそんな事を言う桐乃の癖毛は、ピコピコと上下に動いていた。
新しい動きだ……。
まだ俺の知らない桐乃の感情があるんだ。俺は頭の中のKKR調査手帳に、忘れないようしっかりとメモした。

調査④ ○○時の表現 = 癖毛が上下にピコピコと動く。



諸君。俺は今、命をかけた潜入作戦に従事している。
ここは、桐乃のベッドの下。桐乃がトイレに立った際、密かに潜り込んだのだ!
何故こんなところにいるのかって?愚問だ。
桐乃がエロゲーをやっている時の感情表現を、この目で確かめるために決まっているじゃないか!
くれぐれも言っておくが、妹の着替えとかそういったものを覗きたい!などと言う邪な気持ちは、これっぽっちも含まれていない。
……含まれてないよ?ホントだよ?
そして今こそが佳境!桐乃が愛してやまないりんこルートの再プレイを始めたところなのだ!
着替えのシーン、下手くそな歌を密かに歌うシーンなど、兄貴として見るに忍びない場面もしっかり堪能し……じゃなく、頑張って乗り切った!
さあ見てやろうじゃねぇか!お前の感情表現を!


121 名前:【SS】5/5 fin[sage] 投稿日:2011/04/13(水) 17:17:06.70 ID:BBmXsgBs0 [7/9]
「ふぁぁぁぁぁあんあん!りんこりん~♪可愛いよぉぉぉ!」

……妹のなまめかしい声を聞いた瞬間、自分のいる場所じゃない事を急速に悟るも、俺はどうしようもなかった。
ヤバイ……痛々しすぎて直視できねぇ……!

「りんこりん!?ダメだって!そ、それはエロ過ぎるよぉぉ♪ウヒヒヒヘヘヘヘヘ♪」

我慢だ……我慢しろ。

「ちょ、いいの!?りんこりんの初めて、もらっちゃうよ!?」

が、我慢だ、我慢……!!

「ふぁあああ!もう我慢できないよぉ!ラブラブ気分マックスキター!!今すぐ可愛がってあげるぅ!」

「ま、ま、待ってくれええええええええええええええ!!」

ダメだった。もう我慢の限界とかそんなんじゃなく、本能がここにいちゃヤバイと告げたのだろう。
無意識のうちに俺は大声を出して飛び出していた。

「はへぇ?」

まだりんこりんラブラブモードの桐乃は、一瞬理解できないような表情でこちらを見返す。
そのとき、俺は確かに見た。
ラブラブモード時の桐乃の感情表現は……『癖毛がピコピコと上下に動く』だ!

ん?
おかしいな、この動きは確かどっかで……。

「あ、あああああああんた……!」
「は?」

正気に戻った桐乃が、顔を真っ赤にしてわなわなと震えている。
ああ、俺、人生終わったかもしれない。

ならばKKR調査団諸君!俺の尊い犠牲を無駄にせず、最期の俺の報告を聞いてくれ!
見ろ!これが俺の愛しい妹……桐乃の!

「この、変態!死ねええええええええええええええええええええええええ!」

桐乃の、愛情表現だぁぁぁぁぁぁ!



調査④ 結果:ラブラブモード時の表現 = 癖毛が上下にピコピコと動く。



終わり。


リスペクト
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=18113119



-------------

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年04月16日 10:27