306 名前:【SS】告白の目撃と対策[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 23:34:31.33 ID:FqgJbndh0
「ごめんねぇ、きょうちゃん。付き合ってもらっちゃって」
「別になんてことねぇよ。いつも勉強みてもらってんだ。これくらいはむしろさせてくれって」
今日は、少し離れた問屋さんから甘味料が届いたということだが、田村屋の男手が今ちょうどいなかった。
そこでお手伝いとして俺が運んでいるというわけだ。
ちょっと重い。麻奈実には大変だったろう。俺くらいだったらどうってことないがな。
そのまま、田村屋へ向かおうとしたところ、ある学校にさしかかった。
――あれ? そういや、ここって桐乃の学校の近くだったか。
なにげに校舎を見てみる。
……ふぅん、ここで桐乃とかあやせが勉強したり、学校生活を送ってんだ。
そのまま、グラウンドと校舎を見ながら学校を通り過ぎる。
……そういや、これが桐乃の帰り道か。なんか変な感じがするな。
そんなことを考えながら、角をまがると、
桐乃がいた。
そして、
桐乃の前に男がいた。
…………え。
一瞬俺は固まった……ような気がした。
こ、こ、こ、これはなんなんだ?
が、麻奈実は右折せずにすぐに壁に隠れたので、俺もつられて隠れた。
そして、麻奈実と俺は目を見合わせた。
麻奈実は目を見開きながら、
「きょ、きょうちゃん」
「ん、ん?」
「もしかして、あれって桐乃ちゃん、告白されてるのかな?」
やっぱりそういう状況なのか?
「ど、どうなんだろうな?」
「な、なんか緊張するね?」
「そ、そうかよ? お、俺は別にどうってことないけどな」
「声がふるえているよ?」
「そ、そうか?」
「やっぱり、桐乃ちゃんって『もでる』なだけあってもてるんだねぇ」
「は? だからなんだ?」
「なに怒ってるの?」
「べつに。ふんっ」
「あと、たしかあの人って、今度高校さっかーの全国大会にでる千葉代表のきゃぷてんの人だよ?」
「マジで!?」
「うん。昨日たまたまだけどチバテレビで見たから覚えてるもん。間違いないよ」
っかぁーー、何?、そんな桐乃とかと同じハイレベルのやつってそんなにうろちょろ歩いているもんなの?
クッ……!
なんか気にくわねえ。
まあ、男のことなんでどうでもいいが……まったくもってどうでもいいが……
……なんかこういうのを覗き見するようなのはプライバシーの侵害だよな、妹とはいえ。
あと、桐乃が告白されようが、ぜんぜんっ、これっぽっちも、まったく、さっぱり、気になんねーしな!!
へっ、どうでもいいだろ! ケッ!
「……おい、麻奈実。遠回りになるけどよ、この道避けて行こうぜ」
「……ご、ごめーん、きょうちゃん、な、なんか、あ、歩けなくなっちゃった」
俺の腕にしがみついてプルプル震えてやがる。
なに、そんなに緊張したの? 自分が告白されてるわけでもねーしよ。
で、腰が抜けたのか? おいおい、本当かよ。
仕方がねえな。
そこへ、背後から、
「お兄さん、何をしているんですか?」
「うおっ!?」
おっどろいたーーー!
しぃ!、と人指し指を立てる。
そして、あやせにあごで桐乃のいるほうを指した。
あやせはすっと壁から顔を出して様子を確認したあと、また俺のほうに振り向き
「……お兄さん、何をしているんですか?」
うおぉ! さっきと同じセリフなのに怖えぇ!
目から虹彩が完全になくなってやがる!
「桐乃が告白されるところを覗きみるなんて――」
「ち、ち、違うぞ! あやせ!」
「――ごめん、あやせちゃん。きょうちゃんじゃなくて、わたしがわるいのー」
「お姉さん。どうしたんです?」
「えへへ、き、緊張しちゃって、動けなく、なっちゃった」
「――なんで、お姉さんが……?」
しかし、俺と同じ発想をしたのか、
「まあ、わかりました」
ふぅっ、とため息をしつつ返事をしたが、俺をすがめ見る。
なんか信用してねえな。
「そういや、あやせ、止めなくていいのかよ?」
すると、もう一度あやせは壁越しに桐乃を確認してから、
「あの調子だったら大丈夫ですよ。それにいちいち止めていたら……ねぇ?」
じゃ、止めるときはなにするんですか、あやせさん!?
「……あやせちゃん、なんかこわいよ?」
おまえもようやくあやせの恐ろしさを理解したか。
「まあ、普通だったら手紙とかもらっても無視したりするんですけど、あれは多分半分待ち伏せだと思いますから少し用心しないといけないかも」
「手紙?」
「ラブレターのことですよ」
「え、メール使えるのにラブレターなんて出すやつなんているのか?」
「いますよ、たまに。だって携帯メール出すにしてもアドレスわからないと出せないじゃないですか」
「そ、そうだよな。じゃ、下駄箱に?」
「なんですかそれ。……ほとんどが学校にいる人たちの人づてで渡すんですよ」
そっか。やべ、エロゲーかぶれしすぎているのかもしれん、俺。
「ということは、あれってもしかしてストーカーか?」
「いえ、これまでもこういうパターンがありましたから、多分違うかな、と。桐乃の帰り道を待っていたんじゃないかなと」
「そ、そっか」
「もしストーカーだったりしたら……」
「……こ、こわいよ?」
だからよ、俺はともかく、麻奈実まで怖がらせるじゃねえよ。
少し間があいたためか静寂が走り、そこから桐乃の声が聞こえてきた。
あいつの声、ずいぶん通るよな。男の声はよく聞こえんが。
「――――。」
「……お気持ちは嬉しいんですが、ごめんなさい」
――断ったか。
ふぅ、――――! いや、別に安心しているわけじゃねえぞ!
そりゃ、麻奈実じゃねえが、そ、そりゃ人の告白のところに出くわしたら誰でも緊張するもんじゃね?
「――――?」
「……いえ、いませんけど」
ん? どういう会話の流れだ?
「――――?」
「……タイプですか……。優しくて、頼りになる、ところかな。どんな大変なことがあっても、立ち向かうような人ですね」
! 桐乃のタイプの話か!?
……別に顔が良いとか、勉強が出来るとかいうんじゃねえんだ。
しかし、結構ありきたりだな。
いや、もしかしたらこれは適当にあしらうだけで、本音じゃないかもしれん。
「――――。」
「……そうですね、たとえば……。ぷぷっ、そうだ。深夜の東京から、もう電車が動いていない状態でここに明け方前までに来れます?」
深夜の東京?
「――――!」
「……そうですけど、普通はそんなお金もっていないですよね? タクシーを使わずになんとか出来ませんか?」
それって……。
「――――?」
「……実際にタクシーも使わずに来ることができたやつがいるんです。……べ、別にそいつが好きってわけじゃないですよ? あくまでも最低限のレベルですから」
やっぱり秋葉原のあれか。
……しかし、ハードル高いな。
竹取物語のかぐや姫かよ。
あれって、たまたま部長がいたからなんとかいたもんだから、そうそうできるこっちゃねえだろ?
こうやって言い寄ってった連中を実例を挙げて撃沈してんのか?
こりゃハードル高すぎだわ。こんな調子じゃ、一生彼氏なんてできねーんじゃね?
「――――。」
「いえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえ! すいませんがこれって言葉悪いんですけど、虫除けみたいな感じで雑誌のプロフィールを載せただけですよ、本当に。ぜんぜんっ、これっぽっちも、まったく、さっぱり、気にしてないんで。勘違いしないでください!」
突然偉い剣幕でなんか主張しやがった!?
……雑誌? ……プロフィール? ……虫除け?
……モデル仕事絡みの話か?
なんのことだ?
「あやせ、あれって何の話してるかわかるか?」
「……だいたい検討つきますけどね。まあ、ほんっっっとうにどうでもいいんで、お・兄・さ・んは気にする必要はまったくないですよ?」
「そ、そっか? ま、俺もさほど気にしていないしな。雑誌って言ったからお前にも関係する話かなと思ってさ」
「……ふん」
なんかご機嫌ななめだな。
ま、桐乃もあやせもなんかご機嫌ななめな様子だから、なんかこいつらの逆鱗に触れるようなことでも言ったのか?
へ、じゃ、なおさらご愁傷様ってやつだな。
そんなやりとりをしていたら、いつのまにか向こうは話が終わっていたようだ。
「――――」
「では、すいませんがこれで」
そして、足音がこっちに来ているようだが……
やべ、こっちに来る?
「あやせ、悪いけど桐乃をちょっとこっちに来るのを引き止めてくれないか?」
あやせに耳打ちする。
なんかいいニオイだが、今はそれどころじゃない。
「え、どうしてですか?」
「いや、俺はいいんだけどさ、桐乃のやつ、麻奈実のことを嫌いだかなんだかわかんねーんだが、面倒なことになりそうでよ」
「……そういうことなら仕方がないですね」
「すまん。――おい、麻奈実、もう歩けるだろ?」
「うん、大丈夫。ごめんね。きょうちゃん。」
「気にしてねーよ。じゃ、あやせ、あとはよろしくな」
そして俺たちはその場を急ぎ足であとにした。
――その日の晩。
俺はまた桐乃の部屋に引きずりこまれた。
「で、何だよ?」
「あのさ、あたしってちょー可愛いじゃん? だから、結構言い寄られることもあんだけどさー」
ああ、今日の昼間のやつとかね。
「まあ、ほとんど相手にしないんだけどー、どうしても直接断らないといけないときもあってさ」
「ふうん、それで?」
「……なに? あんたシスコンなのに、別に気にならないわけ?」
「別にー」
まあ、今日ああいう場面に遭遇しなかったらちっとは気になるかもしれないが……
……ま、そうでなくても気にならないだろ? 俺をなんだと思ってんだ?
ってか、俺のこと本当にシスコンと思ってんのか?
「ふんっ、まあ、いい。で、最近、ちょっと断り方がきついかなーと思ってね。直そうかなと思ってんのよ」
「なんで? 断るんだったら別にきつくてもいいんじゃね?」
「はぁ? あんた本当にそう思ってんの? 断り方が悪かったら、みんなが持つあたしのイメージを壊しちゃうかもしれないでしょ? どういうふうに噂が流れるかわかんないし」
ああ、世間体というやつね。お前もホント細かいところに頑張ってんなー。
「それと、いま俺がお前に呼び出されるのってなんか関係あんのかよ?」
「だからー、うまく断る練習をしようかなと思ってさ。ちょっと手伝いなさいよ」
「なんで俺がそんなの手伝わないといけねーんだよ? 適当にイメトレでもしろっつーの」
「……これはあんたのためでもあんのよ」
「ああ?」
「これからあんた、告るときがあるかもしんないじゃん? しかもこのあたしが練習相手よ? お金を出さなければいけないくらいのレベルの練習をタダでしてあげるっつうの」
「ぜんぜんっ、意味わかんね! しかも、断られることが確定での練習ってなに?」
「ああ、もうっ! もうそんなに時間かからないから、つべこべ言わず手伝え!」
なんかいつにもまして支離滅裂だな。
まあ、いい。ちったあ付き合ってやるか。
「はいはい、分かりましたよ。――じゃ、どうすりゃいい?」
「はあ? そんなの自分で考えなさいよ?」
ふむ――。ま、練習だから適当でいいだろ。
って、なに緊張してんだ?
おまえ、告られる回数多いくせに、いつもそんなに緊張してんのか?
「じゃ、行くぜ」
「う、うん」
「――桐乃」
「は、はい」
「よかったら付き合ってくれないか」
「は、はい」
「おいおいw、断る練習じゃないのかよ?」
「あ、あれ? ……そ、そうだ、うまく断ろうって考えてたけど、そしたらなんか肯定的な考え方しか出来なくってさ」
「そんなんで大丈夫かよ?」
「う、うっさい! もう一回やって!」
「――桐乃」
「は、はい」
「よかったら付き合ってくれないか」
「う、うれしいけど……」
「嬉しいけど?」
「……うれしい、かも」
「アホかー! なんで『うれしいけど、うれしい』とかいうわけ分からない返事なんだ!」
「う”、な、なんか『やさしい断り方』ということ意識すると結構難しいかも。も、もう一回」
「じゃ、ちょっとバリエーションかえるぞ。――桐乃」
「う、うん」
「だ、大好きだ。だから、付き合ってくれ」
「な、な、な、な、――そ、そ、それは、ま、前に聞いたし……!」
「おい、いいかげんにしろ! 何勘違いしてんだ! ったく」
「う”う”、おかしいなー、もう1回!」
「――桐乃」
「う、うん」
「――結婚を前提につきあってくれ」
「け、け、け、け、結婚? キ、キモ! つ、通報するけど、い、いいの? 市役所に」
「それって、うまい断り方だかなんだかぜんぜんわかんねーんだけど。あと、市役所じゃなくて警察だろ」
どうもうまくいかないな。
何事も本気っていうのもでいいかもしれないけどさ、兄貴相手に緊張する必要ないだろ?
はぁ。こんなんじゃ余計心配だぜ。
こいつ、テンパった状況になったら弱くなっちまうからな。
もしかしたらうっかりOK出しかねねー。
「……仕方がねえな。本気で『つきあってやるよ』」
「な、な、なにマジ顔で言ってるの?」
「だから、うまく断ることができるようにちゃんと練習につきあってやるって」
「……そ、そっか、そうだよね。……ちゃんと『つきあってよね』」
「おっしゃ。じゃ、またいくぜ」
……結局うまくいかなったけどな。
おわり。
540 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/16(土) 22:09:22.87 ID:WJIOKJFM0 [1/2]
最終更新:2011年05月01日 22:20