694 名前:【SS】恋愛の神様[sage] 投稿日:2011/04/17(日) 20:38:32.09 ID:SzvmQYDV0 [1/3]
以前に投下した
恋木神社ネタの正式版が完成したのでろだに投下します。
リッチテキストドキュメント(
rtf)版になります。
「ん~…」
あ~…やっと着いた…。
ここは福岡県にある恋木神社。
俺と桐乃は千葉から6時間かけてここまでやってきた。
何でわざわざ福岡までやってきたって?
それは…今朝やっていた情報番組が切欠だった…。
土曜日早朝からやっている、4チャンネルの情報番組。
先日開業した九州新幹線の新しいもの特集を放送していて、俺と桐乃は雑談を交わしながらこの番組を見ていた。
博多・新鳥栖・久留米とグルメ系のものばかりを映していたんだが、次の筑後船小屋では「広い公園の中に出来た駅」と、今迄の駅とは違う角度で放送されていたので思わず見入った。
そして、次に出てきた「日本唯一の恋愛成就の神様を祀る『恋木神社』」という件に、桐乃が食い付いたのだった。
筑後船小屋駅の部分が終わって次の新大牟田になった時、桐乃が唐突に切り出した。
「兄貴、今からここに行くから付いてきて」
俺は一瞬、耳を疑ったよ…。
桐乃…お前…今…何て言った…?
「今からこの恋木神社に行くから、一緒に付いてきてって言ってんの」
…俺は二の句が告げなかったぜ…今から福岡に行くって…。
「おま…バカも休み休み言え! アキバに行くような感覚で行ける場所じゃねーだろうが!!」
俺は思わず怒鳴ってしまった。
「いいじゃん、今は春休みなんだし。 お父さんもお母さんも旅行であたしたちは明後日まで留守番になるんだからさ」
そりゃそうだが…だからって、親に内緒で行く場所でもないだろうよ…。
そりゃ俺だって旅行ぐらいはしたいさ。
だけど、ものには順序というものがある。
未成年の兄妹だけの旅行となると、さすがに親の許可が要る。
俺はそう言って桐乃を諭した。
しかし…
「じゃあ、今からお父さんの許可をもらう。 お父さんが許してくれたら行ってもいいんでしょ?」
桐乃はケータイを取り出して、親父に電話を始めてしまった…。
一度決意した桐乃は絶対に意思を変える事は無い。
その辺りはいい意味でも悪い意味でも親父そっくりだ。
親父と電話を始めて3分…。
さすがに親父はそう簡単に許可を出すわけがない。
桐乃もしつこく食い下がるが、あまり芳しくなさそうだ。
「しゃーねぇな…ったく…」
俺は桐乃に電話を変わるようにジェスチャーで要求し、親父との電話に出た。
「ああ、親父? 悪いな。 いや…桐乃が急に言いだしたからさ…ああ…」
とりあえず説明をしない事には何も始まらないので、俺は親父に、ここまでの経緯を説明した。
「でさ…親父、俺も付いて行くし、俺が全面的に責任持つからさ、今回だけは許してくれねーか?」
俺からも親父に許しを乞うが…やはり、そう簡単にはいかないか…。
「あのさ、桐乃だってもう高校生だし、俺だって大学生だ。 心配なのは分かるけどさ、そろそろ兄妹だけの旅行ぐらい許してくれてもいいんじゃねーか? 一人旅じゃないんだし、こういう事も経験させた方が色々な意味でもいいんじゃないのか?」
正直言うと俺自身はどっちでもよかったが、親父を説得しないと桐乃が悲しむし、桐乃は絶対に1人でも行こうとする。
それだけは絶対に回避しなければならない。
俺はとにかく親父に食い下がった。
「ああ…わかった。 親父、すまない。 今回だけ…ああ、遅くとも明日の夕方には戻るからさ。 じゃあ」
俺は電話を切って、それを桐乃に返した。
「今回だけ、特別に許してくれたぞ。 場所が場所だから、1泊だけなら外泊してもいいってさ」
「よかったぁ…。 ありがと…兄貴…」
俺の答えに、桐乃は安堵の表情を浮かべた。
…ん…? そういえば…旅費とかはどうすんだ…?
俺は貯金らしい貯金は無いし、肝心の先立つものが無ければ、動き様が無いよな…。
「兄貴、旅費は全面的にあたしが持つから心配しなくていいよ。 元々そのつもりで兄貴を誘ったんだし、お父さんを説得してくれたから…一応そのお礼」
…参った…。
用意周到じゃねーのよ…。
ホント、こいつの行動力には感心するわ…。
「んじゃま、今から準備でもするか」
「うん」
話にケリがついたところで、俺達は旅行の準備に取り掛かった。
ということで、俺達は千葉から成田エクスプレスで品川まで出て、そこから羽田空港まで京急、羽田から飛行機で熊本まで飛んで空港から熊本駅までバス、熊本から九州新幹線つばめと乗り継いで、何とか筑後船小屋まで辿り着いた…というワケだ。
「それにしても…」
恋木神社…日本唯一の恋愛神社だけあって、何から何までハート型だなぁ…。
鳥居の額束、花壇、御籤掛など、あらゆるものがハートを象っていて、御籤にいたってはピンク色だよ…。
うへぇ~…居辛ぇなぁ…。
「あのさ兄貴」
おれが圧倒されて突っ立っていると、桐乃が声をかけてきた。
「今からちょっと御祈祷を受けてくるから、その間…兄貴はあっちの水田天満宮でも参拝してきて」
そう言って、桐乃は神社とは違う方を指差した。
桐乃が指した方を見ると、神社に隣接する形で天満宮が建っている。
どうやら天満宮が本体で、この神社が末社になっている作りのようだ。
「分かった。 じゃあ後でな」
俺は桐乃と一旦別れ、促されるままに水天宮の方へ向かおうとした。
ちょうどその時、絵馬掛に掛けられている奉納された絵馬が目に入り、俺はなんとなく足を止めて絵馬を眺めた。
やはり場所が場所だけに圧倒的に女性の絵馬が多く、それも「結婚したい」「恋人になりたい」という願いのものが大多数だ。
暫く眺め続けていると、少数ながら男性が奉納したものを見つけた。
内容は女性と同じものばかりだったが、ふと目に入った絵馬があった。
『いつか義妹と結ばれて…いつまでも…一緒にいたい』
…なんとなくだが、俺はこの絵馬が気になった。
最近の桐乃は以前ほど刺々しい部分が無くなり、俺を慕ってくれるようになりつつあった。
そして俺の方も、接しているうちに桐乃の事を可愛いと思えるようになり、できればいつまでも一緒にいられたらいいな…と思うようになった…。
だからだろうか、この絵馬の奉納主の気持ちが分かる気がした。
…俺も、自分の心に素直になってみるかな…。
そう思った俺は社務所に赴き、御布施を払って絵馬に願い事を記入し…気になった絵馬の隣に奉納した。
「さて…そろそろ御祈祷も終わってる頃かな」
絵馬を奉納して30分ぐらいが経っただろうか。
時間的に頃合いだと思った俺は水田天満宮の参拝を終わらせ、再び恋木神社へと足を向けた。
その直後だった。
「兄貴!!」
桐乃の声が聞こえ、俺はその声に気付いて顔を上げた。
すると桐乃は恋木神社から全速で俺の元へと走ってきて…
「兄貴いぃ♥」
正面から俺に抱きついた。
「兄貴、兄貴♥ 兄貴ぃ♥」
桐乃は俺に抱きついたまま、何度も俺の名前を連呼した。
俺が桐乃の顔を覗き込むと、桐乃は涙ぐんだ笑顔を俺に向けてくれた…。
「兄貴…、兄貴の本当の気持ち…あたし…受け取ったよ…」
本当の気持ち…?
ああ、さっきの絵馬か…そりゃ見るよな。
わざと目立つ様な所に置いといたようなモンだしな…。
「あたしも…兄貴と…同じ願い事だったから…嬉しかった…」
そうか…。
桐乃も…俺と同じ事を考えていたんだな…。
俺は嬉しくなって、優しく桐乃を抱きしめた…。
あれからどれくらいの時間が経っただろうか…。
お互いの抱擁を解いた俺達はお互いの手を握って、先程の絵馬掛へと足を運んだ。
そこには俺が奉納した絵馬と、その隣には桐乃が奉納した絵馬がそれぞれ掛かっていた。
俺の願い事は…
『桐乃と、一生一緒にいられます様に』
そして、桐乃の願い事は…
『お兄ちゃんのお嫁さんになって、一生添い遂げられます様に…』
END
最終更新:2011年04月19日 14:49