あたしの小指に、赤い糸が結び付けられている。

 結んだ覚えなんてない。けど、とても大事なもののような気がする。

 糸の先は……見えない。あたしの小指に結び付けられたこの赤い糸は、一体どこまで続いているんだろう。

 あたしは糸を辿る。その先にあるものを目指して。

 始めはゆっくりと。だけど少しずつ早く。

 歩く程度の速度しか出していなかった足は、いつの間にか走り出していた。

 誰だろう。あたしの小指に結ばれた糸の先にいる人は。

 あるいは。もしかしたら。ううん、きっと。ぜったいあいつ。

 それは希望なのか。それとも確信なのか。

 わからない。わからないけれど、あたしは確かめたい。一刻も早く。焦る。焦る。

 どこまでも白い闇の中、糸の赤さだけが明確な自己主張を見せる。

 走って、走って、走り続けて――そしてようやっと、その糸の先にいる人が見えてきた。

 始めは小さかったシルエット。だけどその姿はどんどん大きくなり、あたしのよく知る人の輪郭に変わっていく。

 やっぱりだ。あたしの想いは届いてる。

 あたしの小指と、あいつの小指。赤い糸で繋がれたそれこそが、何よりの証拠。

 でも、今更素直になれるだろうか。ううん、素直になる。もう、意地を張る必要なんてない。

 このまま走る勢いを殺さないまま、あいつの胸に飛び込もう。ぎゅっと抱きしてめて、そして抱きしめ返してもらうんだ。

 どんどん大きくなるあいつのシルエット。影絵は大きくなるにつれて影絵でなくなり、その色彩を明確にしていく。

 あいつの小指。あたしと赤い糸で結ばれている小指。それを見るのが、何よりも嬉しい。

 ――けど。

 あたしは気付いた。気付いてしまった。直前の喜びが、そのまま怒りへと取って代わる。

 ムカつく。ムカつく。ムカムカ。ムカムカ。ムカムカムカムカ。

 苛立つ。ううん、そんなもんじゃない。なんだろうこいつ。最低すぎる。

 あたしはそのまま、地面を蹴って跳躍し――



「死・ねえええぇぇぇぇぇぇぇ――――ッ! この最低ジゴロ野郎ォォォォォッ!」



 渾身のドロップキックをぶちかましてやった。

 吹っ飛ぶあいつの小指には――四方八方に広がる、何本もの赤い糸が結び付けられていた。
「あああああああっ!」

 叫びながらベッドから飛び起きたあたしは、右に左にと視線を巡らせる。
 ここはあたしの部屋……時間は……朝。現状把握……オーケーわかった。今のは夢だ。
 夢の内容は、いまだ頭に残っている。ふつふつと怒りが湧き上がり、寝起きの顔に血が上る。
 あたしはすぐさまベッドから飛び降りた。

 バタン!と扉を開け。
 ドタドタドタ!と数歩の距離をわざわざ走り。
 そしてもう一つ扉をバタン!と開ける。

 突入した部屋の中。カーテンの隙間から差し込む朝日に、ベッドに横たわるバカは眩しそうに顔をしかめつつも寝息を立てている。
 そんなのんきな寝顔が、余計にムカつく。
 あたしは激情の赴くままに右足を高く振り上げ――

「この変態! シスコン! ハーレム野郎!」
「ぐええええええっ!?」

 叫ぶと同時、それを思いっきり振り下ろしてみぞおちにかかと落としを決めた。
 この……節操無しのバカ兄貴! あたしのドキドキを返せーっ!







 以上、赤い糸というキーワードで即興で思いついた短文でした。お目汚し失礼。







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最終更新:2011年04月19日 14:50