341 名前:親父の想い【SS】[sage] 投稿日:2011/04/23(土) 19:35:16.65 ID:DN9R0JH5O [2/2]
>>312を読んで、こんな話を思いついた

ピンポーン
「「はーい」」俺と桐乃が玄関に向かうと、そこにはお袋の姿があった。
「二人とも久しぶりね、元気にしてた?」
思わずお袋に抱き着く桐乃。
「あらあら、嬉しい歓迎じゃないの」
「…お袋、来てくれてありがとな。ところで、親父は?」
「うん、もうちょっと心の整理をする時間が欲しいって、今回はパスだって…」

※※※
久しぶりの会話に話が弾む母娘。そんな中、俺はお袋が訪問前の電話で言ってた話が気になっていた。
「お袋、そう言えば電話の時の話だけど」
「ああ、ちゃんと場所は空いてるみたいね」
「なになに、何の話なの?」
「もうすぐ分かるわよ」

ピンポーン
「こんにちは、〇〇家具店の者です」
大きな梱包を家具店の人が部屋に運び入れ、厳重な梱包を解くと、そこに桐の箪笥が姿をあらわした。

「立派な箪笥ね…」
「待てよお袋、俺は使ってない箪笥があるからって譲ってれるって聞いたつもりだけど
これどうみても新品だよな?」
「そうよ、新品。その点については、京介にも嘘をついてたんだけどね」
「いったい、どういうことなの??」

お袋は俺たちに2枚の写真を見せる。
「うわー、この写真、お父さんもお母さんも随分若いね」
「ん、こっちは最近の写真みたいだな。今とあまり変わってない」
「お母さん、もしかして二人の後ろに写ってる木が…」
「流石は桐乃、察しがいいわね。18年前に植えた桐の木が、年月を経てこれだけ大きくなって、
そして今、立派な箪笥に姿を変えてあなたたちの前にいるの…」

※※※
桐乃の名前の由来であるキリは、軽くて湿気を通さず割れにくい高級木材だそうだ。そして何より、成長が早い。
それで、女の子が生まれると桐を植え、結婚する頃には立派に成長した桐を使って
嫁入り道具の箪笥を誂える、そんな風習があるそうだ。

「実はね、お父さんは箪笥作りを迷っていたわ。本来は『嫁入り道具』のつもりだったから…」
言葉が見つからず互いに顔を見合わせる俺と桐乃
「でもね、わたし達の孫の写真が届いたあの日、お父さんは決心して、箪笥を誂えることにしたのよ。
『桐乃に、そろそろ嫁入り道具を持たせてやるとするか』って」
「親父…」「お父さん……」
「とりあえずは、この箪笥が、今のお父さんのあなたたち兄妹、いや、もう夫婦と言っていいわね、
二人への言葉だと思って頂戴」
俺の隣で、桐乃はぽろぽろ涙をこぼしていた。
そんな桐乃の頭を撫でてやる俺も、正直に言うと涙を堪えるのに必死だった。

※※※
「今度はお父さんと、家族みんなで会いましょうね」
「うん、お父さんに、ありがとうって伝えて」
「分かったわ。京介、桐乃と子供を頼んだわよ」
「まかせておいてくれ」
「その言葉を聞いて安心したわ。じゃあ、またね」

俺は真新しい桐箪笥に目をやる。
親父の桐乃を想う気持ちに応えて、改めて桐乃と我が子を大事にする気持ちを強く抱く。
「桐乃。家族みんなで、いつまでも幸せに暮らしていこうな」
「うん!」



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最終更新:2011年04月23日 20:15