530 名前:【SS】5巻 4章 桐乃視点 1/2[sage] 投稿日:2011/04/25(月) 00:00:00.99 ID:1ZTDl1ZsP [6/6]
なんでこんなもん書いてるんだろうと思いつつ、書き上げてしまったので投下しますよ
読んでも後悔しても……知らないんだからね!
「家で休め、か。あたし、どうすればいいんだろ……」
コーチから追い出されるように練習場から寮へと帰ってきたあたしは、そうつぶやいた。
あたしがスポーツ留学としてアメリカに渡米してから数ヶ月がたつ。
あたしは日本を出る際に自分に一つの枷を掛けた。
こっちでタイムで1勝するまではみんなには連絡しない。そういう縛りを。
その縛りがあたしに力をくれると思って。でも、あたしはまだ一度として勝つことが出来ないでいる。
何で勝てないんだろう。あたしはここまで自分を縛って、それを糧に歯を食いしばっているのに。
1勝。ただ1勝さえすれば、自分にかけた枷を外してあやせや黒猫達と連絡を取れるのに。
あたしはまだ甘いんだろうか? まだあたしには捨てなければいけないものがあるんだろうか。
もしこんな時にあいつがいたら……そう思ったときに気付いた。
――きっとこれが、あたしの最後の甘さだ。
あたしがどうしようもなくなった時、動くことができなくなった時、そんなときは何故かあいつが助けてくれた。
今、ここにはあいつはいない。でもあたしはどこかであいつに甘えていたのかもしれない。
――あいつに甘えるなんて、ゾッとしないけど。
だとすれば、あたしはあいつとの関係を切らなくちゃいけない。
そう。それこそ、会話すらまともにしていなかったあの時の関係に戻るように。
そうすれば、きっとそうすればあたしはもっと自分を追い込めるはずだ。
そこまで考えて、胸がズキリと痛んだ。
なんだろう、この痛みは。今更あいつとの関係が冷めようと、どうということもないはずなのに。
それに、あいつがあたしのことをどうとも思ってるはずがないのだから。
あいつに無茶な我侭を言って、あげく、黙って一人であの家を出たあたしなんかのことを。
ズキンズキンと胸が痛む。くそ、治まれ。治まってよ……!
痛む胸を無視するようにあたしは考える。今、あたしとあいつを繋いでるものはなんだろうと。
――考えるまでもない。それはすぐに思いあたった。
それはあたしがあいつと共有した秘密。あたしが最初にあいつにした人生相談。
きっと馬鹿なあいつは今も律儀にあのコレクションを護っているんだろう。あたしの言った通りに。
そうだ。今あたしとあいつを繋いでるものはただのそれだけだ。それ以外の繋がりなんて……きっと、ない。
だったら、話は簡単だ。それを……捨てさせればいい。
そうすれば、あいつとあたしは共有するものも、何もなくなる。
ズキリ
確かにあのコレクションはあたしにとってかけがえのないものだ。でもそれは結局物でしかない。
それは、たとえ今なくなったとしても後で取り戻すことは出来る。今少しだけ我慢すればいいだけなんだから。
それだけで今の状況を打開できるなら――どうってこと、ない。
531 名前:【SS】5巻 4章 桐乃視点 2/2[sage] 投稿日:2011/04/25(月) 00:01:23.41 ID:nBNuXGqJP [1/6]
ズキリ
携帯を鞄から取り出した。
メールを開いて、受信履歴の中から目的の相手を探し出した。
『高坂京介』
ただ一度だけ、「連絡しろ」とだけ打たれたメール。それに返信する。
きっとこれが最後のメールになるんだろうな。
ズキンズキン
本文を開いて文字を打ち出していく。
打つメールの内容は……『アンタに預けたあたしのコレクション ぜんぶ 捨てて』こんなところだろうか。
本文を打ち終わり、後は送信ボタンを押すだけ。
そうすればあいつのことだ。そのまま言った通りに捨ててくれるだろう……あたしとのつながりと一緒に。
ズキズキズキズキ
大丈夫、大丈夫。こんな胸の痛みなんてすぐになくなってくれる。
さあ、送信のボタンを押せ。それだけで、全部終わるんだから。
ズキズキズキズキ……
震える指を必死に動かして、あたしは最後のボタンを――――押した。
送信完了のメッセージ。それが携帯の画面に浮かび上がる。
本当に、なんて簡単で、あっさりしてることだろうか。
うん。これで、明日からあたしはもっと頑張れる。頑張れるはずだ。頑張れる、はずなのに……
なんで目の前の光景は、こんなに滲んでいるんだろう。
頬を伝って、座っていたひざに雫が落ちる。
ポタポタポタポタととどまることを知らないかのように次々と落ちていく――涙。
あたしは膝を抱え込むようにうずくまって顔を伏せた。
携帯が何度も何度もなっているのには気付いていたけど、それには出る気にはならなかった。
胸が痛い。涙が止まらない。今だけは誰にも会いたくなかった。誰の声も、聞きたくなかった。
ぐすぐすと止まらない嗚咽、涙、胸の痛み。
そうしたものに翻弄されているうちに、あたしはいつの間にか眠っていた。
ピンポーン
いつの間にか聞きなれたインターフォンの音にあたしは目を覚ました。
あたし、いつの間に眠ってたんだろ。
外を見れば既に夕方になっていた。結構な時間を寝て過ごしてしまったみたいだ。
そういえばさっきインターフォンなってたっけ。まだリアも帰ってきてないみたいだし、あたしが出ないとダメだよね。
トテトテと玄関に向かうあたし。なのに何故か胸の鼓動が高まっていく。
なんだろうこれは。何かの予感だろうか。こんな時間の訪問者にあたしは何を感じてるというんだろう。
そんな自分の変化に戸惑いながらあたしは玄関のドアに手を掛ける。
そして、そのドアの先には―――
「よ、久しぶり」
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最終更新:2011年04月26日 20:55