313 名前:【SS】忘れられた過去・兄妹の想い 1/4[sage] 投稿日:2011/04/27(水) 22:15:09.13 ID:kovFjOzMP [5/11]
ちょいと過去話を書いてみた。妄想過多なのでご注意を


「桐乃が風邪?」
「そうなのよ~。悪いけど頼まれてくれない?」

日曜の朝。
休日だろうと平日だろうと飯の時間だけは全員で集まることが決まっている我が家。
その朝飯の時に桐乃がいないことに気付いてお袋に聞いてみればさっきの返事が返ってきた。

「なんで俺がわざわざ面倒見なくちゃいけねえんだよ。母さんじゃダメなのか?」
「う~~ん、そうしたいのはやまやまなんだけどね。今ちょっとお薬切らしちゃってるのよ」
「薬って……風邪薬か?」
「それだけじゃなくって、薬全般。ほら、お父さん少しぐらい体調悪くても薬で何とかして無理しちゃうでしょ?
 ちょ~っと怠けたらこれだから困るわね。もういっそ訪問販売に頼っちゃおうかしら」
「母さん。そういうことは……」
「はいはい、わかってるわよ。あなたも仕事なんだからってのはわかってるわ」
「で、それがどう繋がるんだよ?」
「相変わらず察しが悪いわね。中学上がって少しぐらいその辺の気も回るようになるかと思ったけどそうでもないか。麻奈実ちゃんも大変よね」

なんでそこで麻奈実がでてくるんだよ。関係ないだろ今は。
 
「つまりね、ちょっと量が量だからしっかりした場所まで買いに行かないといけないの。だからその間面倒見ててってことよ」

そうならそうと初めから言えっての。一々回りくどいな。でも、桐乃の面倒、ね。

兄妹である俺と桐乃。俺より3つ下のあいつとは仲が悪い。いや、悪くなったと言うべきか。
少し前までは、普通の兄妹程度の仲ではあったと思うんだけど。
どうしてこうなったかはよくわかってない。俺にわかるのは、俺が中学上がったあたりからあいつの態度が悪くなってきたってことぐらいだ。
正直、あいつに何か気に障るようなことをした覚えもないんだけどな。どうしてこんなことになってるんだか。

そんなわけで、どことなく気まずいあいつの面倒を見るなんてぶっちゃけしたくないわけだ。

「面倒みるっつっても何するんだよ? あいつ風邪引いてるってことは今寝てるんだろ?」

とはいえ嫌々ながらも聞くだけ聞いてみる。
多分正面から断っても無理矢理押し付けられるに決まってんだ。「お兄ちゃんなんだから」とか何とか言って。
こんな時にでてくる母さんの「お兄ちゃんなんだから」っていうセリフが俺は大っ嫌いだ。
俺はいつだってその言葉一つで我慢を強いられる。桐乃が大切なのはわかるけどその十分の一でも俺に気を配ってほしいもんだ。

「あら、てっきり文句の一つでも言うものかと思ったけど。まあいいわ。
 別に大したことしなくていいわよ。桐乃、今寝込んでるから時折様子を見に行ってくれればそれでいいわ」
「そんだけか?」

もっと面倒なことを言われると思ってたから拍子抜けだ。ま、楽させてもらえるならそれにこしたことはないけどさ。

「ああ、あと少ししたら薬だけ飲ませてあげて。解熱剤なんだけど。あの子結構な熱が出ちゃってるから」
「薬切らしてんじゃねえの?」
「これが最後の一つなのよ。そういうことだからお願いね」

そう言って薬を渡される。
はあ、メンドクセー。なんで休みの日に妹の面倒なんて見ないといけないんだか。
こっちのこと嫌ってるやつのことなんてどうでもいいってのに。

それから少しして母さんは出かけて、父さんは仕事に行った。これで家には俺と妹の二人きりってワケだ。
とりあえず、一応とはいえ看病を引き受けた身としては一度桐乃の様子を見に行ったほうがいいだろう。

314 名前:【SS】忘れられた過去・兄妹の想い 2/4[sage] 投稿日:2011/04/27(水) 22:15:45.81 ID:kovFjOzMP [6/11]
「桐乃?」

カチャリ、と戸を開いて部屋を覗き込んでみれば桐乃が寝ているのが見える。
起きることはないだろうが、音を立てないように近寄った。

――こいつの顔をこんな近くで見るのは久しぶりだな。

いつも見ているはずの、でも今は少しだけ苦しそうな顔を覗き込みながらそんなことを思った。
別にそれがどうしたってわけじゃないんだが、少しだけモヤモヤとしたものが胸に燻る。

なるほど。確かに桐乃は風邪をひいているようだった。
顔は赤いし、少しだけ息が荒い。熱が高いってのも嘘ではないらしい。
多分母さんが出て行く直前まで見てたんだろう。頭に乗っているタオルを触ってみれば既にぬるくなっていた。

ちっ、メンドクセーな。

タオルを頭から取り上げ、近くに置いてあった桶の水に浸し、ギュッと絞ってもう一度桐乃の頭に乗せてやる。
少しだけさっきまでの苦しそうな顔がやわらいだ気がした。
しばらくそうして妹の顔を眺めたところで母さんから言われてたことを思い出した。
薬、飲ませねえとな。面倒なことこの上ないが、頼まれたししかたねえ。

水を入れたコップを台所から持ってきて寝ている桐乃の横に座る。
母さんからもらった薬は、簡単に水に溶けるタイプだったから飲ませること自体は簡単だ。
相変わらず息は荒い。少しだけ悪いと思うが、起きてもらわない事には薬を飲ませられない。
桐乃に軽く声をかける。

「おい、桐乃。ちょっと起きてくれ」

そういって言ってみるが桐乃が起きる様子はない。
もう少しだけ強く呼んでみても、軽くゆすってみても苦しそうにうめくだけで結果は一緒だった。

どうしろってんだ、これ。

途方にくれる俺。
まあ、ここまでやって起きなかったんだから桐乃が起きなくて薬を飲ませられなかったって母さんに言えば呆れながらも納得はしてくれるだろう。余計な一言はついてきそうだけどな。
そう思ってその場で立ち上がり、部屋に戻ろうとするがどうにも動けない。
立ち上がった俺が見下ろす目に入るのは、桐乃の顔。最近、どうとも思うこともなくなりつつある妹の顔。
苦しそうにゆがむその顔から、どうしても目が離せない。そのまま時間が過ぎる。

…………ちっ。あとで恨むんじゃねえぞ。―――起きないお前が悪いんだからな。

再びその場に腰を下ろした俺は、くっとコップの水を口に含んだ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆

315 名前:【SS】忘れられた過去・兄妹の想い 3/4[sage] 投稿日:2011/04/27(水) 22:16:26.86 ID:kovFjOzMP [7/11]
苦しい。頭が痛い。喉がカラカラだ。
フワフワとした感じのまま、あたしはそんなことを思った。
体がいうことを聞かない。目も開かない。暗い暗いこの場所はどこなんだろう。
頑張って何があったかを思い出してみる。
たしか朝起きて、頭が痛くって、それで……そこからおぼえてない。
ただわかるのは、ここはすごく寂しい場所だってこと。だって、あたし以外に誰もいないもん。
こうやって寂しくなるといつも思い出すのはお兄……兄貴のこと。
中学に上がってから全然あたしにかまってくれなくなった兄貴。
そのことを寂しいなんて思ったことなんて……ないわけじゃないけど、しかたないって思う。
多分、きっとそういうものだから。
ああ、つらいな。寂しいな。誰か、傍にいてよ………。
そこまで考えて、なんとなく気付いた。誰か、傍にいるの?
目が開かないのは変わらない。けど、傍に誰かがいてくれるのを感じる。
何かが頭からどけられて、その後にまた同じところに乗せられる。冷たいそれが、すごく気持ちいい。
誰なんだろう? 酷く懐かしいようなあたたかさに胸が締め付けられる。

「――――」

呼ばれてる。それが誰の声かなんてわからないけど。ずっと聞きたかった声。
何度も呼び掛けられる。聞いてるよ。聞こえてるよ。
そう答えたいのに、体は言うことを聞いてくれなくて。

さっきから続く頭の痛みは消えない。のども、ずっと渇いたまま。
ふわり、と自分の口に何かが押し当てられるのがわかった。すごくあつい何かが。
それは動かないあたしの口を割って、冷たい、甘い水をあたしに流し込んでくる。
少しづつ、少しづつ、あたしの口に流し込まれてくるそれは、自然にあたしののどのおくに流れ込んでいく。
ずっとのどがかわいてたあたしは流し込まれるそれをむちゅうで飲みほしていった。
熱いものが離れてはまた押し当てられ水が流し込まれる。その途中、何かが自分の歯に当たった。
さっきまで甘いだけだった水に、鉄の味がまざる。おいしいとは思えない。でも、それを飲むのはいやじゃなかった。
そんなことが何度かあって、それはあたしから離れた。あたしの頭をなでながら。
あたしは頭をなでられるのを、ボーっとした頭で感じてた。
さっきまでのさみしさはない。頭がいたいのもかわらないけど、そのなでる手にあたしはすごく安心してた。
そして、そのままあたしはゆっくりと眠りに落ちていった。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆

316 名前:【SS】忘れられた過去・兄妹の想い 4/4[sage] 投稿日:2011/04/27(水) 22:17:33.58 ID:kovFjOzMP [8/11]
「あら桐乃。もういいの?」
「うん。ありがとねお母さん。もう大丈夫だよ」

夕飯の時間。朝からひどかったかぜはだいぶ治ってご飯が食べれるようにはなっていた。
お母さんは心配なのかあたしのおでこに手をあてる。

「ん~…熱はだいぶ引いたみたいね。これならご飯食べても問題ないか」
「うん」

そんなやり取りをしていると、後ろでガチャリと戸が開く音がした。
ふり返ってみたら、お父さんと兄貴がリビングに入ってきたところだった。

「……風邪、よくなったのか」
「……あんたには関係ないでしょ」
「そうかよ」

つくえにすわった兄貴にいきなり声をかけられてすぐに返事ができなかった。
そんで出てきたのは、最近じゃもう自然に出るようになってしまったにくまれ口。
いきなりなんなんだろう。心配でもしてくれたのかな。

「味噌汁とサラダ……母さん、今日カレー?」
「そうよ。何か問題あった?」
「いや、ちょっと舌先切っちまって。それがしみるかなあって」
「それぐらい我慢しなさい」
「へーい」

いただきますってみんなで言った後、サラダをぱくつきながら兄貴を見た。
「っつ、しみるなあ」って言ってる兄貴を見て思う。

ばかじゃん。そんなにしみるならのまなければいいのに。

あたしはプチトマトを口に放りこみながら、なんでか鉄の味が口に広がるのを感じていた。



-おわり-



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最終更新:2011年04月28日 09:31