582 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/29(金) 21:03:42.78 ID:KdiOIwQT0 [4/4]
題 :欲しいものは
注意事項:妄想過多 誕生日ネタ エロゲの主人公のような兄貴
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「そういやさ、アンタってもうすぐ誕生日だっけ?」
少し肌寒い春の夜、現在午後11時。妹は突然そんなことを言い出した。机に広げていた専門書――
といっても初回学習者向けの簡単な入門書ではあるが――から視線を向けると、ベッドの上の桐乃は
仰向けの状態から俺を見上げている。
「………なんだよ。 おまえ、なんか俺にプレゼントでもくれるつもり?」
いつかの桐乃の台詞――出来るだけ感心なさ気な、けだるい口調で返してやる。
「む。 なによ、その言い草」
鮮やかに染めたライトブラウンの髪がふわっと持ちあがる。妹は身を起こし、読んでいた週刊漫画
をぽいっと投げ捨てると、両腕を組んで詰め寄ってきた。唇をむっと尖らせ、
「あたしがアンタにプレゼントしたら悪い?」
拗ねたように、そんなことを言ってくる。
「……いや、悪かったよ。 別にそういうのじゃないって。 ただ――」
誕生日―――世間一般の認識はどうか知らないが、俺にとって、間違いなく特別な日だった。
娘を溺愛している両親ではあるが、誕生日ばかりは息子の俺も平等に祝ってくれている。
お袋の手料理に舌鼓をうち、「おめでとう」と言って貰えるその日は、俺にとっても家族愛を感じ
る事の出来る貴重な一日ってわけだ。
ただ、妹との間で、お互いの誕生日について話したり、ましてやプレゼントするなんてことはサッ
パリなかった……少なくともここ数年は。
その妹が、どうやら俺の誕生日に何かしてくれるらしい。
「…………キモ。 なにニヤついてんの?」
「に、ニヤついてなんてねーよ!」
「あ、そう言えばアンタって、前にあたしからプレゼントされて泣いて喜んでたよね~」
「ぐっ……!」
「あは。 ねぇねぇ、誕生日プレゼント欲しい? ちょうかわいい妹からのプレゼント、欲しいんで
しょ~?」
「へ、へっ! なに言ってんだバーカ!」
頬が熱くなるのを感じて、机の方へと視線を戻す。
相変わらず可愛げのない奴め。そんな風にからかわなくたっていいじゃねーか。あーやだやだ、な
んで俺は「妹からプレゼント貰えるかも」なんて思ったんだろーね。馬鹿じゃねえの?
…………馬鹿じゃねえの?
ふてくされる俺の肩を後ろから桐乃が掴む。そのまま、くっと体重を掛けてきた。甘く爽やかな香
りが鼻孔をくすぐり、顔のすぐ横から困ったような声が聞こえる。
「も、もう。 なに拗ねてんのよ、バカ……」
「―――――!」
がたっ。びっくりして頬杖をついていた肘が滑り、机に顎を打ちつけそうになった。
「おま、近いって!」
「あ、ご、ごめん……イヤだった?」
桐乃はシュンと落ち込んだ様子で俺から離れる。
くっ………!ずりぃヤツめ!そんな顔すんじゃねーよ……!
「い、イヤなんかじゃいぞ!」
「………ウソ。 だってアンタ、こういう時っていっつもそんな反応だし」
「それは………だな………」
「……それは? なに?」
「…………恥ずかしいんだよ……言わせんな、バカ」
妹は意外そうな顔で暫しきょとんとしていたが、すぐに眉根を寄せる。
「なにそれ。 意味わかんないんですケド?」
「や……だからな、なんつーか、まだ慣れてないんだよね」
……桐乃とこういう関係になったことに後悔は無いが、俺は健康な、もうすぐ19歳になる男だ。し
かも、苦労して合格した大学では、そのテの下種な話題で盛り上がっている連中もちらほらいるわけ
で―――どうしたって、そういうことへの関心や焦りが強くなってしまう。
桐乃は自分の容姿にこそ自信はあるんだろうが、どうもその……俺を刺激する事について、無頓着
過ぎると言うか……無防備すぎると言うか。ぶっちゃけ、見慣れたはずの妹の部屋着姿が超眩しい。
しかしやはり、相手は実の妹だ。そして今のところ、俺たちの関係を知っているのも極々わずかな
友人たちのみであり、その彼らですら全くの手放しで俺たちの関係に賛成してくれた訳じゃない。
そんなわけで、俺は自分に制約を掛けている。せめて俺が、桐乃との関係に責任を持てる年齢にな
って、こいつと釣り合うまでいかなくとも、しっかりやっていけるって自信が持てるまで……桐乃に
手を出しはしないのだと。
……きっと、それが兄貴としての―――――そして男としての、責任だと信じている。
俺がそんな事を考えていると、怪訝そうな表情だった桐乃は、ちらちらと俺の顔を見て、
「……もう。 はやく……じゃないと…………出来ない……」
何事か呟いていた。小声だったのでよく聞こえない。
「え? なんだって?」
「な、なんでもない。 ―――とにかく! 今年はアタシ、あんたにプレゼントしたげるから!」
「お、おう…………けど、突然どうした?」
「だって、去年はあたし、アメリカに行ってて何もできなかったし……そ、それにサ」
頬を赤く染め、反応を窺うような上目遣いで、
「……か、彼氏に誕生日プレゼントとか……してみたいし……」
らしくもなく、気弱な声でそう言った。
俺は胸の中に暖かいものがこみ上げてくるのを感じた。
「……おう。 ありがとな、桐乃」
「あ、あたしのプライドにかけて、さいっこーのプレゼントしたげるから、覚悟しなさいよ!」
ぱっと顔を明るくして、俺の妹はそう宣言した。
「そう言えば高坂、おまえってもうすぐ誕生日だっけ?」
翌日。午後の講義を終え、大学から帰る途中、赤城の奴が急にそんなことを言いだした。
野郎と反対側を歩く麻奈実がぽやんと微笑む。
「……………………なんだよ、おまえ、なんか俺にプレゼントでもしてくれるつもりか?」
赤城のイケメン面が渋柿でも噛んだかのように歪む。
「…………あほか。 なんで俺がおまえに誕生日プレゼントをやらにゃならんのだ。 そういうのは
田村さんとやってくれよ」
「そりゃなによりだよ」
俺の非常に不快な予感は外れてくれたらしい。
「きょうちゃん、今年は何がいいかなぁ?」
「なんでもいいって。 あんま気ぃ遣って高いものとかじゃなければな」
「そっかぁ。 じゃあ、がんばって考えるね」
「おう。 楽しみにしとくわ」
そんな俺たちの遣り取りを見て、更に顔を渋くした赤城が言う。
「…………うらやましいやつめ」
「そうかぁ?」
赤城は俺と麻奈実の仲を誤解してやがるから、そんな風に思うんだろうが、俺たちにとってみれば
子供のころから続いてきた行事ごとのようなもんなんだけどな。もちろん、そういう相手がいるとい
うこと自体、かけがえの無いことなのだが。
しかしこいつは推薦での大学入学後、スポーツマンのイケメンとして、相変わらずモテてやがるク
セして、どうして俺を羨ましがるんだろうか。サッパリ理解できん。
「でも、赤城くんだったら色んな女の子からぷれぜんと、してくれるんじゃない?」
どうやら麻奈実も俺と同じ事を考えていたらしい。流石は幼馴染。
「そうは言うけどさ、田村さん。 俺の知ってる女の子で、誕生日にプレゼントくれるような仲のい
い娘って言えば、せいぜい1人か2人だぜ?」
「そうなの? わたしも、誕生日ぷれぜんとくれる男の子って、きょうちゃんくらいかなぁ」
そりゃよかった。今のところ、このお婆ちゃんの魅力に気付くようなファンタスティックなやつは
あらわれていない、ってことだ。…………なぜ俺は安心しているのだろう。
「ま、俺も誕生日プレゼントくれる女子なんて、こいつと妹くらいかな」
そう言うと、赤城が怪訝に眉をひそめる。
「……なんでそこで妹が出てくる。 今は誕生日プレゼントをくれる異性の話だろうが」
言われてハッと気づく。そう、今は赤城の言うように、自分に誕生日プレゼントするくらい、仲の
いい異性がいるかとか、そんな話だったはずだ。つまり家族はノーカンなのだ。
ただ、俺は色んな意味で、ちょっと事情が違う。
『……か、彼氏に誕生日プレゼントとか……してみたいし……』――――思っていたより、俺は桐乃
の気持ちが嬉しかったらしい。少し顔が熱くなって、赤城を睨みつける。
「………悪かったな。 家はずっと兄妹仲悪くて、妹は今まで俺に誕生日プレゼントなんてしてくれ
た試しがなかったんだよ! でも今年はプレゼントしてくれるんだよ! 嬉しくて悪いか!?」
「イキナリなにキレてんだよ!? ていうか落ち着け!」
どうどうと、赤城が引き締まった腕で俺を制止する。反射的にというかムキになって抵抗してしま
ったので、この場にこいつの妹がいたならば、あらぬ妄想を繰り広げるに違いないほどに密着して暴
れしまった。現に麻奈実があわあわと慌てた様子で、
「ふ、ふたりとも、なにしてるの!?」
目をパチクリさせながらそう言った。
ハッと冷静になった俺と赤城の体が離れる。うぇぇえ。気持ち悪い。
「はぁ……はぁ…………高坂、おまえってマジでシスコンなのな」
「……はぁ……てめぇにだけは…………言われたく、ねぇよ」
赤城はふん、と胸を張り、不敵な笑みを浮かべる。
「おう。 まぁ、俺の瀬菜ちゃんは天使だからな。 毎年誕生日には何かくれるし、俺も当然、妹の
誕生日には毎年プレゼントしてるぜ!」
「SMグッズとか、ボンテージ衣装とかな」
「え、えすえむ!? ぼんてーじって!? あ、赤城くん…………!?」
「ちょ、おま、高坂! 田村さんの前でなんてこと言いやがる!?」
へっ。お返しだバーカ。
赤城は誇らしげだった顔を羞恥で赤くし、麻奈実から逃げる様に顔を隠してしまう。図体のデカイ
筋肉質の男のその様子は、大変キモい。っていうか喜色悪いわ!
「でも、そっかぁ」
ふと、幼馴染が顔をほころばせる。いつもと変わらない、俺の本当の家族のような暖かい笑顔。
「よかったね、きょうちゃん」
「…………なにがだよ」
その顔を見て、いつかは麻奈実にも、ちゃんと話さなきゃな、と…………そんなことを思った。
未完
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最終更新:2011年04月29日 23:14