628 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/11(水) 20:11:45.71 ID:gvCZmZBDP
勢いって言うのは、時に人をとんでもない境地へと連れて行ってしまうことがある。
その場の空気、流れ、状況。そのほかにも色々と絡む要素はあるが、総じて言えるのは深く考えずに行動しているということだろう。
だからこそ、その時どれだけ自分がバカなことをしているか気付かないし、後で後悔することも多いのだ。――今の俺のように。
何で俺がこんなことを考えているかといえば、その原因は目の前に鎮座する携帯にあった。
何の変哲も内容に見えるこの携帯。だが、これは今や恐ろしいまでの兵器へと姿を変えていた。
クルッとその携帯を裏返す。そこに張られているのは……2ショットプリクラハートフレーム仕様。
まるで恋人同士の様にとられているそれは、妹――桐乃と撮ったものだ。
携帯を持ち替えて、カパッと携帯を開く。
そこに写る待ち受けには、先ほどのプリクラに写っている人物。桐乃の水着写真がデーンと写し出されている。
更にそこから操作。メニュー画面を開く。そしてそこでも姿を現す桐乃の姿。
諸君は着せ替え携帯というものをご存知だろうか。待ち受けだけではなく、メニューの先々にもそういった絵を組み込むことができるようになるあれだ。
――つまりはそういうことなのである。
今やこの携帯は、完全に、桐乃一色に染められているのである。
しかも、電話の着信音は「ちょっと~、早く出なさいよ。まったく、ノロマなんだから」
そしてメールの着信は「キタキタキタキター!ほら、手紙がきたわよ!」 (全て桐乃の生音声)
という徹底ぶりである。
正直、自分でも何故ここまでやってしまったのか疑問に尽きる
しかも、それで手に負えないのは……この携帯を自分でもまんざらでもないと思っているところだ。
確かに、確かにだ。あの夏休みにあった出来事以降、自分がシスコンだというのは自他共に認めることとなった。
だがしかし、流石にこれはそういうのとは何か違うのではないか。
自分の携帯を妹一色に染めて、それを見て笑う兄貴……どう見ても変態である。どうしてこうなった。
一応、ではあるが、桐乃の携帯も現在、俺一色に染まっていることであろう。
何せこの設定、お互いがその場でいるときにやったものなのだから。
携帯にプリクラを張って、待ち受けをお互いの写真にした。
ここまではまだよかったのだ。その程度なら、仲のいい兄妹なら誰でもやっていることだろう。
問題はその後だ。
桐乃が沙織に頼んで、俺の着せ替えメニューを作って見せびらかしたてき。どうだ、これでもっと恥ずかしいだろうと。
そんなことをされれば俺もやり返さないと気がすまない。
当然その晩に沙織に頼んで同じようなものを作ってもらうよう頼んだのだった。
そうしてみせた時の桐乃の真っ赤に染まった怒りの顔がいまだに忘れられない。
何で怒り顔まであんなに可愛いんだあいつ。……ん?俺前までこんな風に思ってったっけ?……まあいいか。
そしたら今度は桐乃が「今からあんたの声を録音するからこのマイクに向かってこれをしゃべって」と言ってきた。
何に使うかと聞いてみれば着信音に使うと言い出したのだ。
お前、そこまで俺に恥を欠かせないと気がすまないのかと。
もちろん、そんなものに素直に俺が協力するわけがない。
交換条件として桐乃の音声も撮ることにしたのである。俺専用に。
そんな感じであれよあれよという間に出来上がったのがこの携帯というわけだ。
今思い返してみれば、なんともお互いにバカだったと思う。
これ恥ずかしいの使ってる自分じゃん!と気がついたのが、携帯を麻奈実に指摘されてからだというのが実に終わっている。
はてさてどうしたものか。設定を変えてしまうのは簡単だがどうも後ろ髪を引かれる気分になるのは何故だろう。
そこまでこの携帯が気に入ってしまったのか、俺は。
そのまま悩むこと10秒。出た結論は……「まあいいか」。
これを学校に持っていったところで見られなければいいだけの話だ。
使ってるのを指摘されたところで、今や地の底まで落ちている学校での評判に傷がつくなんてこともあるまい。
せいぜいシスコンの名がそこに追加されるだけだろう。今更である。
この携帯を桐乃の目の前で使うことであいつの可愛い顔を見れることに比べればなんてことはない。
そう結論を出した俺はばふっとベッドに寝転がる。
時間を見てみればもうじき日付が変わる時間だ。寝るとしよう。
携帯アラームをセットして目をつむる。ちなみにアラームも桐乃声だったりするのだが……それの紹介はここで省こう。
どうせ朝になれば聞けるのだから。
それを楽しみにしながら、俺は眠りに落ちた。
そして……
「ほら、起きろ京介!。起きないと遅刻するよ!」
桐乃の生声で起こされて、ひどく狼狽したのは翌日の朝のことであった。
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最終更新:2011年05月14日 17:31