112 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/16(月) 23:25:36.19 ID:x/+pZBNIO

【SS】「桜並木の下で」~それぞれの未来~(桐乃END)
 桐乃の人生相談から10年後、京介が桐乃のマネージャーをしているという設定です
 FUNKY MONKEY BABYSの「桜」を「君に届け Secret Party~北幌高校学校祭アナザーサイド」というアルバムの中で
 京介の声優の中村悠一さんがカバーしていたのを聞いて、妄走が暴想し勢いでやりました。
 無駄に長くなりましたが、お暇なら読んでやってください。
 中村さんVer.の「桜」は必聴だと思います。機会があったら是非。
 


「ふぉぉぉぉぉお!すごい……。今、まさに見ごろって感じじゃん!よくこんなピンポイントでオフ取れたね。
 あんたがこういう才能あるって知んなかったよ。」
 
 俺は今、モデル、タレント、小説の執筆とマルチに活躍する桐乃のマネージャーをしている。
 多忙なスケジュールの合間を縫って、地元の公園に二人で花見に来ていたところだ。

「まーな。でも明日からまた忙しいから、あんまはしゃぎ過ぎるなよ。」
「わかってるって。ケド、久しぶりの休みなんだしさ、ちょっとくらいいいじゃん。」

 柔らかく吹いた春の風に桜と桐乃の髪がなびく。その桜を見上げている桐乃の笑顔がとても愛おしい。

「そうだな。それにしても本当に満開だな。天気も良いしな。」
「それにしても、あんたがあたしのマネージャーやってるなんてね。あの頃は想像もつかなかったな……。
 そういえばあんた、加奈子のマネージャーの真似事みたいな事もやってたよね。」
「あれはあやせに無理やりやらされたんじゃねーか。それにマネージャーと言うよりも、付き人みたいな感じだったしな。」
「加奈子と言えば突然引退しちゃってビックリしたよね。念願の人気絶頂アイドルだったのに。
『かなかなぁ、普通の女の子にもどりまぁす』とか言っちゃって、
 当時同じく人気アイドルだった○○くんと電撃入籍しちゃうし。」
「でもあいつ、『これでやっと堂々とタバコが吸えるぜぇ』とか言ってなかったか?」
「あれは、加奈子なりの照れ隠しなんだって。それにあたしも○○くんに会ったことあるケド、
 誠実で頭も良いし、将来有望だね。多分、加奈子がベタボレなんだと思うよ。きっと。」
「そんなもんかねぇ。お、そういえばあやせは今どうしてんの?」
「……なに?気になるの?あやせのこと。」
「……いや、別に気になるっつーか、あのメルルのコスプレ大会の時は大変だったな。って思い出しただけで……。」
「あやせ超綺麗になったよ~。それで今、御鏡さんとヨーロッパにいるよ。あやせ、エタナーの専属モデルになったから。
 ふっふっふっ…、これは女の勘なんだけど、あの二人良い感じだと思うんだよね~。
 仕事とはいえ、あやせが男の人と二人きりで海外に行くなんて考えられないもんね。
 それに、御鏡さんが直接あやせに専属モデルの話お願いしたらしいから。
 そんで、いきなりヨーロッパに連れてっちゃったんだよ。絶対あの二人は結婚まで行くね!」
「…そっか、あやせと御鏡がねぇ……。あいつもこれから大変だな……。」
「…そ…そだね……。で、でも、あたしやあんたで大分免疫も出来てきたし……だ、大丈夫だよ!」
「だといいがな……。」
「結婚って言えばさ、沙織の結婚式凄かったよね~。いろんな意味で。」
「たしかにな。大企業の社長令嬢と御曹司同士の結婚式じゃ凄くもなるわな。だが一番驚いたのは、
 沙織の結婚相手が三浦部長だったってとこだな。
 今思えば、あの自転車も、ゲー研の部室にあった参考書も部長のだったんだもんな。
 いくらアルバイトしてたからって、普通の高校生が揃えられる量じゃないよな……。
 それに、統率力あったし、察しはいいし。見ず知らずの俺に自転車貸してくれたり。
 器のでかい人だよ。企業のトップに立っても全然おかしくねえよ。」
「あたしが一番感動したのは、新郎のインタビューで聞かれてたプロポーズの台詞かな?
『僕のそばにずっといて下さい。僕から離れて行かないで下さい』ってお願いしてるんだよ?
 沙織、前に言ってたじゃん?仲間が離れちゃって悲しいって。だからあのプロポーズの台詞に
 ズキュウゥゥゥンってきちゃったんだと思う。それに沙織、お見合いの時またあのグルグル眼鏡掛けて
 “ござる語”で行ったらしいんだけど、そのバジーナの状態のまま付き合いたいって言ってくれたらしいよ。」
「そりゃ嬉しかっただろうな。俺達、最初バカにしまくったからな……。一生懸命考えてくれた格好だったのにな……。」
「でも、さすがに披露宴では槇島沙織だったね。眼鏡外してウエディングドレス着た沙織はまさに絶世の美女って感じだったし!
 あ、披露宴って言えばさ、せなちーから招待状来てたけど見た?」
「ああ。見た……。俺は先に赤城の方から聞いてたけどな……。」
「あっ、……あんたのシスコン仲間だったもんね、せなちーのお兄さん。じゃあ大変だったっしょ?」
「シスコン仲間ではないが……大変だった……。毎日毎日電話掛けてきやがるしよ……。
 真壁くんをもっと信用しろっての。」
「だよね。せなちーから聞いたんだケド、真壁さん専業主夫になるらしいよ。」
「まじで?!」
「うん。なんかね、せなちープログラミングの仕事してたじゃん?高校生の頃からの夢だったんだって。
 でね、結婚したことで夢を諦めさせたくないって真壁さんが。」
「別に、結婚してからも二人とも働けば問題なくね?」
「はぁ……。相変わらず察し悪いなぁ。てゆーかせなちーのお兄さんからなんも聞いてないんだ?」
「は?」
「だからぁ……。せなちーね……、“おめでた”なんだって!」
「なに?!くっそーあのやろ……。グチグチ文句ばっか言ってた割には
 そういう大事なことはぼかしやがって。現実逃避してんじゃねぇ!」
「でもさ……夢を応援してくれる人がいつもそばにいるって、いいよね…。」
「……そうだな……。」
「夢を叶えたって言えば、瑠璃今度3本目の連載決まったって。今や超売れっ子漫画家だよね~。」
「あいつ努力してたもんな。おまえのアドバイス素直に受け取って絵も凄く上手くなったしな。」
「だよねだよね!改正に改正を重ねて大賞獲った『ベルフェゴールの呪縛』だってモデルはあたしなんだし?
 それが大反響だったおかげで今のあいつがあるわけだし?もっとあたしに感謝するべきだよね!」
「でもよ、いくらあいつでも連載3本もこなせるんかね。」
「それなんだけど、さすがにアシスタント雇ったらしいよ。その子男の子なんだけど、瑠璃の大ファンなんだって。
 マスケラも大好きらしくてさ、厨二病全開なんだって。でもね、そんなこと言いながらもなんか嬉しそうなんだなこれが。
 まんざらでもないって感じで。イヒヒヒ。」
「そういえば『ベルフェゴールの呪縛』を雑誌に応募する前に、麻奈実に許可取ってから応募したらしいな。
 あいつも変わったよな。丸くなったっつーか、棘がなくなったつーか。」
「うん…。最近あたし瑠璃とケンカしなくなっちゃたし…。」
「フッ。なんか寂しそうだなおまえ。」
「はぁ?そんなワケないじゃん?お互いもうそんな歳じゃないっての!」
「へえへえ。あ、麻奈実で思い出したんだが、あいつ3人目できたってさ。」
「知ってる。こないだ、まなちゃんから聞いた。てゆーか3人目じゃなくて、4人目だから。」
「は?今2人で何で、いきなり4人になんだよ?」
「ほんっと頭弱っ。双子だからに決まってんでしょ!」
「ふ…双子だ…と?そんな話聞いてねーぞ!」
「ま、しょうがないんじゃない?せなちーのこととかでいっぱいいっぱいだっただろうし。」
「まーな。あいつもこれから大変だよな。」
「でも、こないだまなちゃんに会って双子って話聞いた時、すっごい幸せそうだったよ。
『こうちゃんもとっても喜んでくれたんだ~。えへへ』って。」
「あいつもファンタスティックなやつだったって事だな。」
「なにそれ?」
「まぁ…こっちの話だ…。」
「ふん。別にいいケド。それにしてもみんな結婚したり、いい人がいたり、子供出来たり幸せいっぱいで羨ましいな~。」
「……そういうおまえは…結婚…とかしないのかよ?」
「……そういうあんたはどうなのよ?」
「……俺は……おまえが……したら……考える…かな?」
「ハァ?だってあんた、あたしがいないと寂しくて死んじゃうんでしょ?それじゃあ…あたしも……できないじゃん。
 あたしがいなくなって…死なれたら……ヤダ……し。」
「そうか……。それじゃあ俺達、いつまでたっても……できないな。」
「……否定しなさいよ……シスコン。」
「フッ…そうだな。」

 俺は桐乃の頭の上にポンっと手を乗せた。

 パシッ
「あたし、もうすぐ二十五になるんですケド?いつまでも子供扱いすんな!」
「俺にとっては、何年たっても三つ年下の可愛い妹なんだがな。」
「な…なに言ってんのよ……。バカじゃん?…………。」

 しばしの沈黙あと、桐乃がボソリと呟いた。

「……もっかい……。」
「ん?」
「だから…もう一回してって言ってんの!何度も言わせんな!」

 俺はもう一度、桐乃の頭の上にそっと…手を乗せてやった。

「……ところで、なんで今日花見に行こうとかいいだしたワケ?」
「俺さ…おまえがアメリカ行っちゃったとき、一人でここに桜を見に来たんだ。その日もちょうど満開でさ…。
 桜って一年に一度しか咲かないだろ?だから花見に来た時の事って結構記憶に残ってるんだよな。
 昔はよく家族で来たな…なんて思い出してたんだ。
 
 地元の公園だし迷子になんてならないだろうと、親父とお袋は二人でのんびり歩いている。
 おまえは大はしゃぎで、見えなくなるくらいの所まで走って行く。
 俺はなんとなく心配で、おまえを追いかける。やっと捕まえたと手を掴んでおまえを見ると、
 上を向き、桜を眺めながら笑っていたんだ。
 その笑顔が可愛らしくて……愛おしくて……。なんだか幸せだと感じた。
 
 そんな事を思い出していたら、俺はいつの間にか一人で泣いていた。
 おまえがいなくなってから気が付くなんてバカな兄貴だよな……。
 だから今日、おまえをここに連れて来たんだ。
 もう一度あの笑顔が見たく、て。
 ……もう一度じゃないな。来年も再来年も、ずっと……ずっと何年後も。
 二人でまたここに桜を……おまえの笑顔を見に来たい。その笑顔を守りたい。」
「えっ……、そ、それって……。」
「俺は―――おまえが大好きだ。ずっと俺のそばにいてほしい。」
「……ほんとに……ほんと?」
「嘘なんかじゃねぇ。本当に本当に本当だ。だからこれからもおまえの夢を応援させてくれないか?」
「……だからあんた…あたしのマネージャーやりたいとか言い出したんだ……。
 でも……あたしの夢はもう叶っちゃってるんだけどな……。」
「……そうか……。おまえの夢ってなんだったんだ?」
「……あんたがそこまで言ってくれたから教えてあげる。あたしの本当の気持ち。
 あんた前にあたしに聞いたじゃん?『なんでおまえ、妹もののエロいゲームばっか持ってんの?』
『どうしてそういうのを、好きになったんだ?何かきっかけとか、理由とか……あるのか?』って。」
「……ああ。聞いた。」
「でね、その時『分かんない』って答えたんだけど…あれ嘘……だったんだ……。
 ほんとは……そういうアニメのヒロインの行動とか仕草を覚えて、兄貴に見せたら喜ぶかなって思って始めたんだ……。
 でもなかなかピンとくる妹がいなくて、ギャルゲ、エロゲと手を広げていったのね。そこである事に気が付いたの。
 そういうゲームは妹が頑張るんじゃなくて、お兄ちゃん達が頑張るって事に。
 そしたら、急にあんたがムカついてきた。エロゲの中のお兄ちゃんと違って全然優しくないって……。
 そして……嫌いになった……。係わり合いを持たないと決めた。
 あたしはますます妹達にのめり込んでいった。自分のことを慕ってくれる妹達に。
 でもなぜか虚しかった……。もちろんしおりちゃんたちは可愛いよ?それでももやもやしたものは晴れなかった。
 そんな時りんこりんに出会った。ついに見つけたの。理想の妹を。
 最初は、なに?この妹、全然可愛くねーって思った。生意気だし……素直じゃないし。
 だけど、だんだんりんこりんのことを知っていくうちに気付いたの、この子……あたしに似てるって……。
 そしてもう一つ……、りんこりんの兄貴が…あんたに似てるって……。素直じゃない妹のために頑張って……。
 それで思い出したのね、あたし、あんたのこと嫌いになろうとしてただけだったって……。
 …だから……あたしは兄貴に伝えたい。最後は自分の気持ちに素直になったりんこりんのように……。
 ……ずっと、ずっと、好きだったよ。……って。」

 言っていることはむちゃくちゃだが、桐乃の熱い想いは伝わってきた。
 さらに桐乃は顔を上げ、俺の眼をまっすぐ見て一言一言かみしめるように続けた。

 ……あたしの趣味、バカにしないでくれてありがと……。

 ……人生相談に乗ってくれてありがと……。

 ……お父さんからあたしのコレクション守ってくれてありがと……。

 ……オフ会、一緒に行ってくれてありがと……。

 ……あやせと仲直りさせてくれてありがと……。

 ……あたしの妹空、取り返してくれてありがと……。

 ……アメリカに…迎えに来てくれて…ありがと……。

 ……あたしを…選んでくれて……ありがと……。

 ……あたし…を…大好きって…言って…くれて…ありがと……。

 ……あたし…の…兄貴で…いて…くれて…ありが…と……。」

 一つ一つの『ありがと』が、俺の心に染み込んでいく……。それがやがて涙となって溢れ出す。

「……あり……が……とね……。京介……。ううっ……ひっく……ぐすっ。」

 俺は桐乃の泣き顔を見たくなかったのか、自分の泣き顔を見せたくなかったのか、桐乃の体をそっと胸元へ引き寄せた。
 小刻みに肩を震わせて俺の体に身を委ねるその姿は、
 ずっと誰にも言えなかったこの台詞を言わせるのには十分過ぎるほどだった。


「……好きだ。桐乃……。愛してる。」



 どれくらい抱き合っていただろうか?肩の震えが止まり、落ち着きを取り戻した桐乃が沈黙を破った。

「あ~もう!遅いってーの!いったい何年待ったと思ってんの?」
「……俺がおまえに人生相談持ちかけられたあの頃だとしたら……10年くらいか?」
「ううん。20年。あたし…幼稚園の頃から京介のお嫁さんになるのが夢だったんだから!」
「でも、本当にいいのか?普通の夫婦って訳にはいかないかもしれないぞ?」
「ん……いいよ。京介の本当の気持ち聞けたし……。」
「世間的にだって…悲しい思いや、つらい思いするかもしれないし……。」
「だから、いいって言ってんの!だってあたしのこと守ってくれるんでしょ?」

「―――ああ。」
 
 何を迷っていたんだろう?俺は桐乃と共に生きる道を選ぶ。後悔なんて絶対しない。この笑顔にそう誓って。


 どちらからともなく手を繋いでいた俺と桐乃は、満開の桜並木を歩いていく。少しずつ散り始めた桜の花びらが、
 今日から始まる……ずっと……ずっと続いていく新しい未来を祝福してくれているようだった。

 ~終~

 参考:FUNKY MONKEY BABYS「桜」
 


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最終更新:2011年05月23日 00:34