※編集者注 48-50では未完結のもの。完成版はアップローダーより。174がリンク代行。
48 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/05/21(土) 00:33:15.37 ID:dU8gWvMg0 [1/4]
その日あたしは一日中落ち着かなかった。昨夜から気になって仕方がないことがある。
早くそれを確かめたい。放課後が待ち遠しいなんて本当に久しぶりだ――
「ねぇ、桐乃、今日は部活休みだったよね?一緒に帰ろ」
「あ、ごめんあやせ、今日はちょっと寄るところがあるんだ」
「え?どこに行くの?」
「市役所にね、書類取りに行かなくちゃなんないの」
「そうなんだ」
「時間かかるみたいだし付き合わせるのも悪いからサ」
「うんわかった、じゃあまた明日ね」
「うん、また明日」
――そしてあたしは市役所に向かう。
あの時なんでも自分で用意していればこんなに気になることもなかった。
だけど『それ』があたしを駆り立てる、期待してしまう――
アメリカ留学の時、あたしはお金のことでお父さんを説得するのに精一杯でパスポートのことまで手が回らなかった。
そしてそれを用意してくれたのはお母さんだった――
親心?うん、普通はそう思う。だけどあたしは一つの仮説を立てた。
もしも『あたしに見られたくないもの』があったとすれば?
パスポートをとるには戸籍謄本が必要になる、そして当然、その書類には記載されてるものがある。
昨夜クリアしたエロゲで知ったなんて人には言えないけど、養子、実子の記載がある。
あのゲームのヒロインはそれを知ってついに兄への思いを告げた――そしてハッピーエンドだ。
妹ゲーで義理だなんて邪道だって言う人もいるかも知れないけど、あたしはこの際どっちでもいい。
あのヒロインたちが幸せになれるんなら……
もしあたしか兄貴のどちらかが養子だったなら?
うちの両親なら…ううん、そうでなくても普通なら子供が成長するまで黙ってると思う。
特に、あたし達みたいに気が付いていないなら当然だ。
あの時お母さんがあたしの代わりにパスポートを用意してくれたのはきっと……
「あの、すみません…」
市役所に着いたあたしは案内窓口で説明を聞いて、目的の物を取りに行く。
でもさ~、市役所に書類取りに行くとかもらいに行くとかいうけど、
お金かかるんなら『買いに行く』が正しいと思うのはあたしだけじゃないよね?
長々と待たされる時間もなんとなくワクワクしてて楽しい――
もし、本当に養子だったらあいつどんな顔するかな?
どんなタイミングで、どんなシチュエーションで言ってやろうか?
ううん、それよりも告白する前に教えるか、後に教えるか、どっちにしよう?
あいつのことだからきっと兄貴ぶって平静ぶって一人で悩むんだろうな。
でも大丈夫、あたしがそばに居てやるからサ!
あたしの持ってる番号札の番号が窓口の電光掲示板に出る。
颯爽と駆けつけてお姉さんから戸籍謄本の写しを受け取る――
「……………あたしって……お茶目さん……」
あの女のことバカに出来ないなぁ…
ゲームなんかに影響されて、あんな妄想に浸って……
そして、違うってわかって本気でショック受けてるなんて――
「りっぱな厨二病じゃん」
書かれていたのは実子の証。
あたしとあいつが紛れもない実の兄妹だっていう証。
二人ともお父さんとお母さんの子供なんだっていう現実――
目の前が真っ暗に見えるような絶望感――これはあたしの想いの裏返しかな…
国道を渡る歩道橋の上から周囲を見渡す――
色んな人がいるのに……たくさんの人がいるのに……
なんであたしだけがダメなの?なんであたしには最初から資格がないの?
あの人もこの人もあやせも加奈子も黒猫も沙織も!地味子にだって!
あいつの…京介の隣にいる権利が、そうなれる資格があるのにっ!
なんであたしだけ……妹っていうだけで……っ!!
「……ずるい」
みんなずるい。なんであたしだけが最初から外されるの?
競争して負けるならまだいい。納得できないかもしれないけど、我慢はできる。
でも、勝負すらさせてもらえないなんて……ずるい……
吹きすさぶ風が冷たい、頬が濡れてるからだろうか、余計に冷たく感じる――
次第にあたりも暗くなる。もう帰らなきゃ……
――――――――――――――――――――
「コレ、どうしよう?」
冷静に考えればあたしがわざわざこんな書類を取りに行く事情なんてない。
ここ数日、机に仕舞ったままにしていた戸籍謄本の写しの始末に悩む。
変に勘ぐられてもウザいだけだし、破ってから捨てないと……
「………ふふふ、バカみたい」
冗談で自分の欄にバカげた願望を書き足す。もしもそうだったなら――
考えても意味がない、ビリビリと破りそのままゴミ箱に突っ込んだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
最近、桐乃の様子がおかしい。
数日前、目を赤く腫らして帰って来てから口数も少なければ食欲も無いようだ。
そんな様子だから何かあったんじゃなかろうかと心配もするってもんだろう。
え?なぜかって?
……そりゃ、俺はあいつの兄貴だからな。
とは言っても、普段から邪険にされてる俺としては妹の悩みなんて
想像もつかなけりゃ教えてももらえないわけだ。
俺があいつの悩み相談に乗るなんて、あいつから言い出した時でなきゃ無理なんだよ。
どことなく重苦しい雰囲気の夕飯――
親父もお袋も桐乃がなんとなく落ち込んでるのは気付いてるはずだ。
なんか、こう、きっかけとかないものかね?
「あ、そうだ二人とも。明日はゴミの日だから、部屋のゴミは今日中に出しておきなさいね」
「ヘーイ」
ま、桐乃と違って俺の部屋からゴミなんてそうそう出ないんだけどな。
あいつは買い物した時の袋や包装のゴミやらなんやらが出るからそれなりだけど……
あ、これ使うか。
「ごちそうさま」
食事を終え、部屋に戻り軽く掃除をした後、桐乃の部屋に向かう。
「お~い桐乃~、ゴミあるならついでにもってくけど、どうする?」
「ベツにいい」
「なんだよ人がせっかく……」
「親切の押し売りなんてウザいだけだし、っていうかなんで勝手に入って来てんの?」
「ちょっとくらい良いだろ、それよりお前なんかあったのか?最近ちょっと変だぞ?」
「別にそんなことない、今まで通り」
「………ならいいけどさ」
いつも通りの悪態をつく桐乃――
本当にその通りならいいんだけど、そうじゃないことくらいわかるさ。もう少し粘らねえとな。
「ゴミあるじゃん、持ってくぞ」
「あ、ちょっと勝手にさわんな変態!」
「誰が変態だっ!」
「女の子のゴミ箱あさるなんてりっぱな変態でしょ!」
「うるせー!さっさとよこせ!」
「あ、コラっ!!」
強引に奪った為、ゴミ箱の中身が散らばる――
「わ、わりぃ」
「い、いいからもうあっち行ってよ!」
そういわれても片付けるのが筋だろう。
桐乃を制しつつ散らばったゴミを集めるととんでもないものが目に入ってきた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
兄貴が固まってる――
あたしが捨てた戸籍謄本の写しを見て固まってる――
あたしが書き足した文字を見ての事だろう。
「これ……どういう事だよ?」
「な、なんだっていいでしょ、さっきも言ったけど人のゴミ箱漁るとかストーカーかっての」
「だ、だってお前……」
「いいからもうそれ以上しゃべるなっ!」
よく見れば印刷された文字とボールペンで書き足した文字の違いくらいすぐに分かる。
自分でも馬鹿なことしたってわかってるんだから、これ以上惨めな思いをさせないでよ。
「さっさと捨ててきてよ、そのために来たんでしょ?」
「……お前、このことで落ち込んでたのか?」
「は?」
「いや、だから最近お前が落ち込んでたみたいなのは、この書類のせいなのかってことだよ」
なに?ひょっとしてあたしの書いた文字と書類の文字の区別がついてないワケ?
それであたしがショックを受けてるって思ってるの?
――暗い悪戯心が湧いてきた、いつもあたしだけが悩んでいたのって不公平じゃない?
そうだ、こいつも悩めばいい。あたしとの関係で悩めばいい。
……うん。どうせなら言ってしまおう。
勘違いしたままでもいいし、字の違いに気付いてもいい。
ずっと悩み続ければいい――
、、、、、、、、
「あたりまえじゃん」
あたしは嘘は吐いてない――この書類を見てショックを受けたのは本当のこと。
字の違いに気付かないなら、あたしとの関係に悩むがいい。
妹じゃないんだって思ったら、こいつはあたしにどんな態度をとるんだろう?
字の違いに気付いたら、あたしがどうしてそんなことをしたのか想像してみればいい。
あたしの気持ちに気付いたら、こいつはどういう行動に出るんだろう?
「お父さんお母さんには言わないでね、あたしがこんな事したなんて、二人とも知らないんだから」
そう簡単に逃げ場なんてやらない。こいつ一人で考えてくれなきゃ意味がない。
「わかったよ……」
「……ありがと」
あたしと一緒に悩めばいい、あたしの事だけ考えてればいい。
これからずっと、死ぬまで一緒に、悩んでれば――。
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最終更新:2011年05月23日 23:20