441 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/22(日) 15:43:01.49 ID:73O86J7j0

少し怒ったような、恥ずかしそうな、そんな顔で
「なにニヤついてんの・・・・・・キモ」
と桐乃は静かに言った。
何いってやがる、お前だって笑う寸前じゃねーか。必死で隠したって頬が緩んでるつーの。
「いちいち言わなくてもいいんだろ?」
キッと睨み付けてくるが口元がそれじゃ迫力もなにもあったもんじゃない。
構わず何度も繰り返すうちにとうとう桐乃が笑い始めやがった、笑うタイミングか? 失礼なやつだ。
もちろん笑われたぐらいでやめてやったりはしない。



夕日がまぶしい。
顔から火が出るように熱い。心臓の鼓動が煩くてなにも聞こえない。頬が筋肉痛のように痛い。
笑いすぎて顔が痛いなんてのは何年ぶりだろうか。
桐乃は 無理! 無理! 限界! もう降参! ってな感じでフラフラしながら部屋に戻っていった。
「・・・・・・やべーなんかすげえ楽しかった」
本当にヤバイ感想だよ。普通の兄妹ならこうはなるまい。もし彼氏彼女なら・・・・・・もっとならねーかW。
なんにせよもうすぐお袋達も帰ってくる。顔でもあらって頭を冷やさないとな。


――1時間ほど前――

「ああ! もうやめやめ!」

受験勉強ってやつは我慢大会だな。
本当にそれが身になったら確かめることが出来るのは当分先のまま自分が出来ない部分をひたすら探して穴埋めしていくって感じだ。
――あらかたつぶした大量のプチプチ(お菓子に入っている緩衝材ね)につぶしモレがないかをチェックするような感覚――
毎日理解度やら応用力やらが数値化されてパラメータ表示でもされりゃいいとは思わないか?
反応してくれない相手に同じ姿勢を保って努力するってことは本当に難しい。

リビングの扉を開けると例の如く我が妹が携帯片手にソファに踏ん反り返っていた。
タオル生地みたいな超短い短パンをはいてスラリとした足を放り出している。薄手だが吸水性のよさそうなキャミの上からペラいパーカーのようなものを羽織って――というより肩丸出しで腕だけ通してる感じか。暑いなら脱げばいいのに。

まーあれだ。もはや毎度の光景、目が吸い寄せられるのにも慣れたってもんだ。肩紐がやたら細いけどまさかノーブラ?
(あ、ヤベ・・・・・・)
一瞬目があってドキリとする。女って男の視線に敏感だよな。

麦茶を飲んですぐに部屋に戻れば良かっただけの話なんだが、もう一つのソファーで粗方読み終わった雑誌を読み直すことにした。
無論深い意味も浅い意味もないぞ? 特に危機感もない状態で受験勉強を一日やってりゃわかるだろうが、一息ついたら中々再開するのは難しいんだよ。
そうじゃないか? 人生の先輩諸君よ。もしもいるなら後輩達は覚えとけよ、何事もぶっ続けでやるより休み休みやるほうが逆に難易度が高いんだ。昔から言うだろ? 『デカいエンジンは動き出すまでが大変なんだ』 ってさ。え? 言わない?

「んー、へー、そーなんだ」

電話の会話ってのはどうしてこう気になるんだろうね。相手の分のセリフが聞こえない上に桐乃はほとんど聞き役に徹していて
どんなヤツが話しているか検討もつかない。しかし随分おしゃべりなヤツもいるもんだ。あやせあたりがよからぬことを吹聴してなきゃいいが・・・・・・

桐乃はチラリとこちらを見ると電話を中断もせずゆっくりと立ち上がりこちらのソファーに近づいてくる。
あれ? なんか怒らせたか? なんてビビっていると、そのまま静かに俺の横に座ってきた。
尚、先ほど迄桐乃が座っていたソファーより狭い。

「な、なんだよ、あっちに」
と言いかけると桐乃は声には出さず口の形だけで

(で ん わ ちゅ う)

と、さも当然のように主張してきた。殆ど密着状態で右半身がやたら熱い。
腕も下手に動かせないから漫画も読みにくいったらないし、なにより気が散って頭にはいらない。

妹相手になにを緊張してるんだって? ここ一年の俺たちの軌跡をしらない奴ならまあそう思うだろうな、なんとも説明しにくいがこいつは妹であって妹じゃないんだよ、勿論赤城じゃあるまいし妹つかまえて天使だなんて事は言わないが……
じゃあ天使じゃないの?っていわれたら返答に困る。

そんな事を考えながらオタオタしていると、桐乃はさらに密着してきて、俺を背もたれみたいにしてきやがった。
(お、おい)
桐乃に顔を向けながら僅かに威厳を込めて(小声なのが情けないが)講義すると、ん? なに? と言わんばかりにコチラに振り向き目をパチクリさせてやがる。
顔が近いんだよ! もうちょっとで当たるところだったろうが! あぁぁぁもぅ無防備過ぎんだよこのバカ!
俺はちょっと大げさに上体をそらして距離をとることしか出来なかった。

……もう少し顔寄せてから同じ事をしたら桐乃は同じように振り向くのだろうか、そしたら事故が起こるわけだ。兄妹でも事故なら仕方ないよな。だってワザとじゃねーもん、多少位置を調整したってそれは……

――その時桐乃は『どんな顔』をするのだろうか――



おっと俺としたことが思考ループに落ち入ったぜ、慌てて目線をあげると、桐乃は唇に人差し指を当てて静寂をもとめていた。
なんだよその余裕の態度は、いつもならとっくにキレてね?
なに意識しちゃってんの? シスコンきもっ(←可愛い)とか言ってくれたほうが気不味くないんだけど!

結局桐乃が超密着状態の間、俺が何をしていたかと言うと、妹の胸元やら足やら横顔やらをチラッチラみてた。
ええ、みていたんですよすいませんねぇ。
だってほら、あんた、あんなもん目の前にあったら見るでしょ!?
野球に興味なくてもイチローが目の前にいたらみるよね? アレだよアレ。
ほら、うちの妹の美少女具合って世界クラスなんでしょ? ほーら仕方ない。うん仕方ない。

まあ、待て。言っとくけどな、俺だって一年前まで妹萌えとかありえねー畑の人間だったよ? 本当だよ?
でもこいつったらココ一年急に可愛くなりやがってさ、いや、前から顔だけは可愛かったんだけどよ。性格はそりゃもう最悪だったね。

都合のいい時ばっり「お願~い」なんて言ってくるしよ、目が合っただけで顔真っ赤にして怒るし、取材とかいってあちこち連れ回すし、いきなりアメリカなんぞに行っちまうし、兄に彼女が出来ても反対しないし、自分だけ我慢すればいいなんて生意気な事考えるし……
とにかく全く可愛げが無い。最悪『だった』なんて言ったが今だって『似たようなもん』だ。
俺だけドギマギしてこいつは平然としてやがる。実に面白くない。

桐乃が電話を終えた瞬間だったと思う。
「俺さ、お前の事好きかも」

口をついて出た言葉だった。多分対した意味はないんだろう、緊張もせず恐怖も無かった。
あぁ以前逆の事があったなそういえば、こいつは俺から好きだのなんだの言われると大層嫌がるから、もし動揺でもしたらあの時の桐乃のように笑ってやろう。「なんて言うとでも思ったかw」ってな。
あの時の俺のようにさぞ悔しがるだろうぜ。

「ハイ ハイ 知ってる知ってる~いちいち言わなくていいってば」

やれやれ、知ってるときたか。
何処までも可愛く無い妹だよ全く。俺がお前のことをどれだけ『好きじゃない』か、お前にわかるわけがないだろう?
なにせ俺にだってわからないんだからな。

「あ~やっぱ撤回するわ」

「は? なにそれ、けっこうムカつくんですけど」
終始余裕だった妹がやっと表情を変えたので俺は少しうれしくなった。
この前から達観したみたいな顔しやがって、そんなんは俺が好きな桐乃じゃねーんだよ

「好きかも じゃないな」

桐乃の表情がさらに変化する。何かを期待した顔ってやつだ。いいねいいね。たまらないね
だけどよ、この石頭にどんなセリフを言ったって無駄、そんなことも同時に感じていたんだ。

「桐乃」

だから俺は『どんな顔』をするか確かめてみることにした。

――そして――

何がおきたか把握できてないといった表情の桐乃の目を見てこう言った。

「俺さ、お前の事好きだわ」

少し怒ったような、恥ずかしそうな、目にいっぱい涙を浮かべたそれは俺が望んだ表情そのものだった。
そして、これは勘なのだが・・・・・・多分俺も似たような顔をしているに違いない。

――END――



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最終更新:2011年05月23日 23:36