571 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/22(日) 23:10:08.80 ID:7hdm3Jki0

【SS】佳乃さんの日記

1巻前:
5月×日
天気:晴れ
夕食:ポークカレー
相変わらず、京介と桐乃は仲が悪い。
京介はいっつも桐乃から目を逸らすし、桐乃はあからさまに京介を遠ざけているみたい。
ただ桐乃の方はいつも京介にキレイな姿を見せようとしているし、良い意味で意識しているのは間違いないわね。
大介さんは気にするなと言っているけど、なんとか昔みたいに仲良くできないかしら。



1巻中:
6月△日
天気:晴れのち雨
夕食:野菜カレー
最近桐乃が前にも増して明るくなった。
携帯で話している会話から、あの趣味に関して話し合えるお友達ができたみたいね。
京介をあからさまに遠ざけることも少なくなったし、京介がお兄ちゃんとして頑張ったのかしら。
ただ、話せる相手ができた分、油断が大きくなっているみたい。
大介さんにバレなければいいんだけれど。



1巻後:
6月▲日
天気:晴れ
夕食:シーフードカレー
京介はお兄ちゃんとして良く頑張りました。
いざとなったら私がお酒を使ったり色々動いたりして大介さんを止めるつもりだったけど、どうやら必要なかったみたいね。
桐乃の為に怒っている大介さんに向かっていけるなんて、知らないうちに成長していたのね。お母さん嬉しいわ。
京介のあんな姿を見るのは初めてだけど、やっぱり大介さんの血を受け継いでるってことなのかしら。
大介さんもお酒を飲みながら「これからは桐乃を京介に任せても大丈夫か」なんて、嬉しそうに語っちゃってほんと親馬鹿ね。



2巻中:
9月○日
天気:雨
夕食:キーマカレー
京介にまたカレー?と言われた。
さすがに作りすぎかしら。
大介さんにそれとなく聞いてみたけど、大介さんは満足そう。
それなら問題ないわね。

最近桐乃の元気がない。
京介も気にしているらしく、ちらちら桐乃のほうを見かけたり、桐乃の調子なんかをそれとなく聞いてくる。
本当に良いお兄ちゃんになってきたわね。
新垣さんの娘さんと一緒にいるところを見ないし、喧嘩でもしているのかしら。



2巻後:
10月▲日
天気:晴れ
夕食:クリームシチュー
久しぶりにクリームシチューにしてみたけれど、大介さんには不評みたい。
やっぱりカレーがいいのかしら。

桐乃が元気になりました。
と思ったら今度は桐乃が京介のほうをちらちらと見たりして、ずいぶん気にしているみたい。
また京介が頑張ったのかしら?
このまま前みたいに仲良くなって欲しいわね。



3巻中:
1月×日
天気:曇り
夕食:カレーうどん
最近桐乃の調子が悪い。
風邪のひきはじめ見たいなんだけど、気にしないで携帯ばっかりいじくってる。
携帯小説っていうのを書いているみたいだけど、根を詰めすぎてはいないかしら。
注意しようかと思ったんだけど、大介さんが「京介に任せておけば問題ないだろう」って。
がんばれ、お兄ちゃん!
ところで、イヴに京介と桐乃が一緒にどこかに出かけたのは問い詰めるべきなのかしら。



3巻後:
2月▲日
天気:晴れ
夕食:外食
今日は桐乃の小説発売を記念して、みんなで外食に行った。
大介さんはカレー、私はクラブサンド、京介はハンバークセット、桐乃はカルボナーラのパスタを注文した。
大介さんの呟き、聞き逃しませんでしたからね。
今度は何のカレーにしようかしら♪

桐乃の小説は読んだけれど、少し過激じゃないかしら。
大介さんは顔をしかめながら何処が良いのかまるでわからんって呟いていたけど、私も同感。
イヴに二人でどこに行っていたのかと思っていたけど、渋谷に取材に行っていたのね。
あの日から桐乃は同じピアスばかりつけてるし、
指輪を貰った時よりピアスを貰ったときのリノの描写が詳しかったから、まず間違いないわね。
ずいぶんと仲良くなたのは嬉しいけど、まさか一緒にラブホテルまでは入っていないわよね・・・
あとがきを見る限り、今回もお兄ちゃんは頑張ったのね。
それにしてもあのあとがき、京介が読む可能性をまったく考えてないわね。



4巻中:
2月●日
天気:晴れ
夕食:カレイのカレーかけ
もう少しで桐乃が海外に行ってしまう。
大介さんも二人の前だといつもどおりに振舞っているけど、お酒を飲むといつも桐乃の自慢と愚痴ばかり吐き出す。
その言葉を桐乃に直接伝えたらあの子も考え直すでしょうに。
そう言うと「桐乃が希望して、俺は条件を出した。桐乃はその条件をクリアした。俺はもう何も言えん」だなんて、
あの人の頑固は相変わらずね。
あの二人もそんなところばかり似なくても良いのに。
とりあえず録音しておいたから、桐乃の結婚式にでも流しましょうか。
それにしても桐乃は、ちゃんと京介に伝えられるかしら・・・



4巻後:
3月▲日
天気:曇りのち雨
夕食:カレー鍋
京介の機嫌が悪い。
桐乃の友達が様子を見に来ても、そのときは元気になっても帰ると前よりも落ち込んでいるみたい。
桐乃のことを気にしているくせに、桐乃の話をしようとするとすぐに逃げる。
桐乃が何も伝えずに行ってしまったのがずいぶん答えているみたいね。
桐乃からしか近況を聞きたくないみたい。
桐乃も桐乃。複雑な気持ちはわかるけど、もう少しお兄ちゃんに優しくなれないのかしら。

けどそれ以上に大介さんの様子がひどい。
お酒も飲まなくなったし、休みの日も日がな一日ボーっとしてる。
カレーを食べているときだけ元気になるので、最近はほとんど毎日カレー。

桐乃、早く帰ってこないかしら・・・



5巻中:
4月×日
天気:晴れ
夕食:カレーピラフ
桐乃のお友達が京介の後輩になりました。
京介もまんざらじゃないみたい。
最近はずいぶん明るくなってきた。
それにしても黒猫さん、あれは京介に気があるわね。
桐乃と同じくらい京介のことが好き、といった感じかしら。

桐乃が向こうで体調を崩しているみたい。
電話越しの声は元気だけど、あれは虚勢ね。
京介のことを話すとちょっと元気になるけど、自分から聞こうとはしない。
向こうに行って少しした時に京介が怒っていないか聞いてきたけど、あれが最初で最後だったわね。
ほんと、二人とも意地っ張りなんだから。
けど桐乃、意地を張るのは良いけど、つらかったらちゃんと言ってね?
大介さんなんて、桐乃が助けを求めたらその日中にアメリカまで行っちゃうわよ。
最近あの人は毎日毎日アメリカに行く用意をしているんだから。



5巻後:
6月×日
天気:晴れ
夕食:ポークカレー
お帰り桐乃!
さすがお兄ちゃん、大介さんでも無理だと思っていたのに、見事桐乃を説得してきました!
桐乃の身体が心配だったけど、思っていたより元気みたい。
いや、あれは元気になって帰ってきたのかしらね。
それにしても気になるのは桐乃の京介を見るあの目。
まさかとは思うけど京介、あの時の大介さんみたいに桐乃に迫ったんじゃないでしょうね。
確かに京介は大介さんの血を引いてるし、桐乃は私の血を引いてるわけだから、あんな風にされたら間違いなく落ちるわね。
もっとも、大介さんにあんな風に迫られて篭絡されない女の子はいないでしょうけど。
とにかく、京介が今桐乃に迫ったら間違いなく桐乃は受け入れちゃうから、京介が桐乃に手を出さないように見張っていなくちゃ。

とりあえず、もう無理はしないでね。



6巻中:
7月×日
天気:晴れ
夕食:カレー茶漬け
帰ってきた桐乃は前と同じように京介に接しようとしている。
近くで見ているとすごく京介を意識しているのがわかるのにね。
けど京介はそんなことに気がつかないで戸惑っているみたい。
詳しくは聞けなかったけど、無理やり連れ帰ってきたって言ってたし、嫌われたはずだとと思っているのかしら。
本当はその逆なのに。

最近大介さんの機嫌がすごく良い。
毎日毎日お酒を飲んで、京介と桐乃のことを褒めちぎっている。
「やはり最低でも京介位の男でなければ桐乃は任せらん」って、どれだけ京介と桐乃のことが好きなのかしら。
ちょっと妬けちゃう。



7巻中:
8月×日
天気:曇り
夕食:カレーチャーハン
桐乃が動き始めた。
京介をデートに誘ったみたい。
映画館行ってご飯食べて、ゲームセンターに行って、それだけなら普通の兄妹でいいんだけど・・・
京介の新しいコレクション置き場にあったあのプリクラは何かしら?
百歩譲ってあのプリクラはいいとして、その隠し場所にある意味って・・・何かしら?

桐乃のコレクションの奥、その奥のさらに奥に12枚のトランクスを見つけた。
匂いからするとこれは京介のね。大介さんのじゃないから最低限の安心ではあるんだけど。
スカトロ*シスターズや無くなったはずのアルバムを見つけたとき以上の衝撃ね。
あの子だって年頃だから異性の下着に興味があるのはわかるんだけど・・・本当にそれだけかしら。
まさかくんかなんて・・・してないわよね。
とりあえず京介のトランクスを買い足して、桐乃にそれとなく注意しておかないと。
それにしても、使用済み下着コレクションってあんなに気持ち悪いのね。
大介さんのを洗濯して返しておきましょう。



8巻中:
天気:晴れ
夕食:カレーおにぎり
京介に彼女が出来た。
相手は京介の後輩で桐乃の友人の黒猫さん。
桐乃に負けないくらい京介のことを好きだとは思っていたけど、黒猫さんから告白するのは意外だったわ。
部屋で京介と楽しそうにしているところは何度か見たけど、桐乃のこともすごく気に掛けているみたい。
その桐乃だけど、最近はほとんど趣味のゲームもやらないでボーっとしている。
部屋の前を通ったときに泣き声も聞こえてきたし・・・
京介に彼女が出来たこと納得はしているみたいだけど、体調崩したりしないかしら。
酷だけど、このまま普通の兄妹に戻ってくれると良いんだけれど。

黒猫さんは大介さんに気に入られているみたい。
この間京介と入れ違いで黒猫さんが来たとき、一時間くらい大介さんと話してたけど、そこで打ち解けたみたい。
話の内容がほとんど桐乃のことだったのが気になるけど。
「あの子は桐乃のことを良く考えてくれているようだな」って、やっぱり桐乃中心なのね、あの人は。

それにしても黒猫さんが時々見せる寂しそうな顔が気になる。
何を考えているのかしら。



8巻後:
天気:雨のち晴れ
夕食:カレー風クリームシチュー
京介が振られました。
最近元気がなかったのはそれが原因みたい。
黒猫さんが引っ越したからだって聞いたけど、あれは嘘ね。
桐乃と温泉に行ってから立ち直ったみたいでまた元気になった。
ついでに今まで恥ずかしがってた桐乃がずいぶんと素直になった。
温泉に行ったのは黒猫さんに会うためよね。
見ていて不安になるくらい京介と桐乃の仲が良い。
温泉に行ったのは黒猫さんに会うためよね。それ以上はないわよね。
まぁそれはともかく、桐乃の態度だけど前は「京介が好き」と「兄貴が好き」で揺れ動いていたみたいだけど、
今は「兄貴が好き」で落ち着いたみたいね。
まずは一安心かしら。
けど京介も桐乃もまだまだ自分の気持ちに整理がついていないみたいだし、
もうしばらくはキチンと見張っておかなくちゃ。

冷蔵庫のプリクラを見てから時々大介さんが何か言いたそうにしている。
あのプリクラについては「ずいぶんと仲が良くなったんだな」って的外れなことを言っていたけど。
今度大介さんと二人で温泉に行って、そこで一緒にプリクラをとりましょうか。




私は筆を置いて一息ついた。
一年前と比べ、二人について書く事が増えてきた。
それは二人が仲良くなった証拠なんだけど、その仲のよさを考えると少し複雑かしら。
昔も仲が良かったけど、それでも仲の良い兄妹以上ではなかったと思う。
京介も桐乃も、ずいぶんとお互いを無視し合っていたから、お互いの距離の取り方が解らなくなっているみたい。
あの日から桐乃が頑張るようになって、そのせいで京介と距離が出来て、今ではまた話すようになったけど、
お互いをどう扱っていいかわからず、戸惑いっぱなしなのね。
この夏休み二人で沢山の事を経験して、前よりも、ずっと前よりも解り合える様になったけど、
自分がどう考えているのか、どう想っているのか、どう扱って欲しいのかの整理がまだついていないんじゃないかしら。
早く自分に素直になって欲しいけど、兄妹として間違ってしまわないかちょっと不安。

私は日記を机にしまい鍵を掛けると、そっと部屋を出た。
目的地は二人の部屋。最近のこの時間帯は、どちらかがどちらかの部屋に遊びに行っている事が多い。
京介は受験勉強で忙しいので遠慮しているみたいだけど、何かをするわけでなくても二人で一緒にいたいのね。

今日は京介の部屋に桐乃が遊びに来ているみたい。
少しだけ開いた京介の部屋のドアから明かりが漏れているのが解る。
私はいつものようにドアにそっと近づき、中を覗いた。

京介は机に向かって勉強していて、桐乃は京介のベッドの上で横になっている。
ちょうどあそこは黒猫さんがよく転がっていた場所じゃないかしら。
桐乃はパソコンで何かをしているようだけど・・・あれは多分桐乃の最近のお気に入り『シスシス猛将伝』ね。
二人は何を話すでもなくお互いの作業に集中しているように見えるけど・・・やっぱり意識しているみたい。
ギスギスしているわけでも、桃色な雰囲気でもなく―ただそこにいるのを気にしているって感じ。

何もしないのに部屋に入り浸る。仲の良い兄妹ならギリギリセーフなのかしら。

しばらく観察し、何事も起こらないようなので引き返そうとしたとき、京介が口を開いた。
「なあ、桐乃」
桐乃はパソコンから目をそらさずに答える。
「なに?」
再びの静寂。私は息を殺しながらドアに密着して中を覗きこむ。

「―俺、お前に会えてよかった」

続く言葉に、喉から言葉が漏れそうになった。

部屋の空気に緊張感が漂い始める。
「・・・・・・」
桐乃は何も言わずにパソコンを見つめ続ける。
でも指はまったく動いていないし、後ろから見てもわかるくらいに耳が朱に染まっているのが解る。

―変な事を言うようなら、すぐにでも飛び込まないといけないわね・・・

「俺たち二人はさ、ずっと前に別れちまって、同じ家の中にいてもすれ違ってばかりで、お互いさえも見ないで、
ずっとこのままなんだと思ってた」
言葉を続ける京介の耳も、ここから見てもわかるくらいに染まっている。
「けど、一年と三ヶ月前、俺たち兄妹はようやく再会できたんだ」
去年の六月、桐乃は京介にあの趣味のことを知られてしまった。
その後色々とあって、兄妹はお互いを見るようになって、二人は長いときを経て、ようやく『出会った』。
清清しい京介の顔も、嬉しそうに、そして照れくさそうに京介の顔を見るの桐乃の姿も、昨日の事のように覚えている。
出会いをやり直して、ケンカをやり直して、すれ違いをやり直して、思いやりをやり直して、今兄妹はここにいる。
「前はお前のことなんか大嫌いで、どうでもいいって思ってたし、今だってお前のことは大嫌いだけど―

―今はもう、お前のことをどうでもいいとは思えない。
お前がいないと寂しいし、お前と―お前のおかげで出会えた奴らと一緒にいると楽しい。
何より桐乃が世界でたった一人の、掛け替えのない大切な妹だってわかったから―

―桐乃と再会できて、本当に良かったと思ってる。
桐乃のために頑張れて、本当に良かったと思ってる」

喉から言葉が漏れそうになった。けれど言葉が出なかった。
出せる言葉が思いつかなかった。
京介は、私が思った以上に正しいお兄ちゃんとして頑張っている。
それが、とても嬉しい。

「あんたさぁ、妹にいきなりそんなこと言い出して、恥ずかしくないの?
このシスコンマジキモーい!」
桐乃が顔をパソコンに向けたまま、そう言う。
私たちの前では見せないくらい、嬉しそうにそう言う。
相変わらず、本当に素直なくらいに素直じゃないわね。
「シスコンはお互い様だろ?お前はそれに加えてブラコンじゃねーか」
「あたしはいいの!妹だから」
「妹だからいい、か。ブラコンってことは否定しねーんだな」
京介は相変わらず参考書に向かいながら、からかうようにそう言う。

「―しないよ。あたしも、その、あんたに会えてよかったから」

部屋の空気は穏やかなまま変わらない。
「・・・・・・」
京介は何も言わずに参考書に向かっている。
しばらく前からページをめくる音は聞こえてこない。

ここから見える二人の耳はもう赤くはなくて、その表情は柔らかなものだろうと感じさせる。

「あの時あんたに会えたから、あたしはずっとあたしのままでいられた。
あんたがいなかったら、あたしはたぶんどこかでダメになってたと思う」
京介はずっと桐乃のため頑張っていた。
いやなことも、つらいことも、認めたくないこともあったと思う。
本当に、母親として誇らしくなるくらいに、京介は頑張っていた。
そしてたぶん、その中で京介は妹を見つめなおして、桐乃は兄を見つめなおして、少しずつ兄妹に戻っていったのね。
「前はあんたのことなんか大嫌いで、あんたのことなんか知らないって思ってたし、今もあんたのことは大嫌いだけど―

―今はもう、あんたのことを無視できない。
あんたが悲しいとあたしも悲しいし、何とかしてあげたいと思う。
あたしの兄貴はあんたしかいないし、あたしは京介が大事だって気づけたから―

―京介と再会できて、本当に良かったと思ってる。
京介の一番で、本当に良かったと思ってる」

真っ直ぐではなくても、少し捩れていても、桐乃は京介のことを兄として慕っている。
たとえそれ以外の感情があったとしても、それは間違いなく本物だろう。

「これからも何度も喧嘩するし、すれ違うし、
もしかしたらあたしと京介にお互いに認められる彼氏彼女が出来るかも知れないし、
あたしがどっか遠くに行っちゃうかも知れない」
桐乃はパソコンから顔を離し、京介のほうを見て、

「でもどれだけ離れても、もう京介とは別れたくない」

そう口にした。
真剣そうな、心配そうな顔で京介を見つめる。
「そうか」
いつの間にか、京介も桐乃のほうを向いており、

「じゃあ俺と桐乃は、ずっと一緒だな」

嬉しそうに微笑んだ。
その言葉に桐乃は幸せそうに顔を染めると、京介の視線から逃れるようにパソコンへと向き直る。
「―ん。まぁ、そういうコト」
桐乃は猫が機嫌よく尻尾を振るように、足をばたばたとする。
京介は嬉しそうにそれを見ていたけど、しばらくして参考書に目線を戻した。

時間がたち、京介が参考書をめくる音と、桐乃がパソコンを操作する音が聞こえ始める。
まだお互いに意識しあっているけど、前よりも空気が和んでいるみたい。
私はゆっくりとドアから離れると、京介の部屋を後にした。

部屋に戻り一息つく。
まだ心臓は早鐘を打っているし、顔の赤さも取れていないと思う。
―ずいぶんとまぁ、仲が良いところを見てしまったわね。
本当に仲が良すぎて心配してしまう。
でも、それでも
「どうした。ずいぶんと嬉しそうだな」
いつの間にかリビングから部屋に戻っていた大介さんにかけられた。
「あら、わかる?」

―顔がにやけるのが止められない。

「ちょっと京介と桐乃が仲良さそうに話しているのを見ちゃって、
やっぱり兄妹っていいわねって思っていたのよ」
「そうか」
大介さんはそれだけ言うと視線を新聞に戻す。
大介さん。うまく隠したつもりなんでしょうけど、口元が嬉しそうなのは見逃しませんでしたからね。

二人が仲良くなりすぎるのは心配だけど、二人が仲良くなるのは嬉しい。
―もともと、こうなってしまったのは私のせいなのだ。
二人が小さいとき、二人がどうにかするだろうと、二人が離れていくのを止めなかった。
二人が大きくなったとき、二人が仲良くなろうとしているのが嬉しくて、近づきすぎるのを止めなかった。
今まで、私は何もしなかった。

だからもう少し、そう―二人が再会するまで必要だった時間と同じ時間が過ぎるまで、静かに二人を見守ろうと思う。

それに、ひとつ考えがある。
「ねぇ、大介さん」
もっと嬉しく、楽しく、幸せになるための考え。
「なんだ?」
二人にとってお互いが掛け替えのないただ一人の兄妹なら―
大介さんにとって掛け替えのないたった一人の一番だった私が、掛け替えのない「三人」の一番の中の一人となってしまったように―

「もう一人、欲しくない?」

悩みも増えるだろうけど、きっともっとずっと楽しくなる。

-END-



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最終更新:2011年05月23日 23:40