145 名前:呼び方【SS】[sage] 投稿日:2011/05/25(水) 00:42:13.64 ID:uiOJ5m5SO [1/2]
あたしが兄貴のことを「京介」って呼ぶようになってからしばらく経つ。
最初は、兄貴に『彼氏のふり』をしてもらった、例のデートの時。
あの時は、あたしも舞い上がってたと言うか、単純にその呼び方のほうが恋人っぽいって思ってたけど、
その言葉を口にした途端に何とも言えない想いが込み上げてきて、あたしは顔を真っ赤にしていた。
それから、兄貴が『人生相談』をしてきた時。あの時の兄貴は、心底参ってたんだと思う。
いきなりあたしの目の前で泣くくらいだから。あたしは、そんな兄貴を何とかしたかった。
だから、兄貴に励ましの言葉を掛けて、兄貴を抱きしめて、そして
何故か兄貴をまた「京介」と呼んだ。
それから折に触れて、兄貴のことを「京介」と呼ぶ機会があった。
「あんた」って呼び方も相変わらずしてるし、正直自分でも「京介」と呼ぶことが今や特別なことなのか、
イマイチよくわからない。まあ、それくらいに兄貴を名前呼びするのが違和感なくなってきたんだけど…
最近、なんか物足りなくなった。だからちょっと呼び方を変えてみる。
どんな顔をするかな、あいつは……
※※※
お父さんとお母さんが泊まりで出掛けてる今日。
「桐乃、頼まれてた物、買ってきたぞ」
「ありがとう、京介『さん』」
「ブホッ」
「どうしたのよ、京介さん?」
「……なんだよ、その呼び方は?」
「だって、『京介』って呼び捨てじゃ、妹として流石にまずいカナって思って。
敬意を込めて『さん付け』してみたんだけど」
「そりゃそうだが、何か違ってる気がするんだが」
「…わかった。じゃあ『さん付け』は止めにする。
ところで、今日はご飯を先にする?それともお風呂を先にする? 『あなた』?」
例によって再び兄貴は激しくむせた。
「今日のお前はおかしすぎるだろ。エロゲーのやりすぎか?それとも新しい小説のキャラ作りか?」
「…本心…だとしたら?」
「本心って、何だよ?」
思い付いたときは、ここまでするって想定してなかったけど、
でも、兄貴の呼び方を変えてみる、それだけじゃあたしの気持ちはもう、おさえきれなかった…
「京介のことを『さん付け 』とか、『あなた』って呼びたい気持ちが本心だって言ったら……」
「桐乃……」
「もう、前みたいに語尾に『かも』なんてつけないし、引っ掛けるつもりもないから。
あたしは、京介のことが、好き……」
初めて『京介』って呼んだ時みたいに、あたしは顔を真っ赤にしながら、精一杯の気持ちを伝えた。
しばしの沈黙のあと、兄貴は口を開いた。
「マジなのか……まったく、しょうがねーな。『俺の嫁』は」
「あ…アンタ、今何て言ったの?」
「何度でも言ってやるよ、桐乃。今日からお前は『俺の嫁』だ!反論は認めないからな」
「京介……」
「それから、さっきの質問だが、今日は先にお風呂にする。嫁さんと一緒にな」
想像力を越えた展開に、あたしは、ついお馴染みのフレーズを口にした。
「…キモッ、シスコン! …でも、あなたがそうしたいなら……いいよ、京介。
一緒にお風呂入ろ♪」
こうしてあたしと京介は、夫婦になった。なーんてね……
※※※
「おい、桐乃、朝だぞ早く起きろ」
「うーん、わかったあ」
ふふっ、いい夢見ちゃった。京介ったら素敵すぎ。
だから今日はまた、京介にこれまで言ったことのない呼び方をしてみる。
「おはよう、ダーリン」
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最終更新:2011年05月29日 22:55