409 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/05/26(木) 01:21:33.95 ID:en9EhWct0

『おまえがどんな趣味持っていようが、俺は絶対バカにしたりしねえよ』

  あれから二日後、あたしは京介の部屋のドアノブに手を掛けたまま立ち往生していた。
 一体あたしはあいつになんて言うつもりなんだろう?切り出す時の台詞は決まっているはずなのに……。

 京介から例の物を返して貰ってから、どうにも部活や勉強が手につかない。
 あやせや加奈子にも、
「桐乃、なんかボーっとしてるね。大丈夫?」
「恋煩いじゃねーの?桐乃ぉ~、相手は誰だよぉ~?加奈子にも教えろよぉ~。ニヒヒヒw」
 なんて言われちゃうし……。でもあやせが加奈子連れてどっか行っちゃったから、それ以上追求されずにすんだケド……。
 それにしてもあたし……ホントにどうしちゃったんだろ?

『おまえがどんな趣味持っていようが、俺は絶対バカにしたりしねえよ』

 ここ二日間、あたしの頭の中で何度も繰り返されている京介の言葉だ。
 正直に言うと、どうやらあたしはあの台詞が嬉しかったらしい。
 もう死ぬまで隠し通すしかないと思っていたあたしの秘密……バカにしないって。
 多分、不良が子犬に餌あげてた的な印象最悪な奴がちょっと良いことしただけで好印象?みたいなアレだと思うケド、
 バカにしないって言うならちょっとくらい見せてあげてもいいカナ。

 そうだ。あたしはあいつに、あの趣味のコレクションを見せようと思ってたんだっけ。
 でも……本当にあいつを信用してもいいのかな?
 だってあいつ、あたしのこと嫌いだし。もちろんあたしだってあんなやつ大っ嫌いだけど!
 それに……あいつに話したところで何かが変わるとは限らないし……。
 だけど、このまま大好きな趣味の話を誰にもできなくて……世間に引け目を感じて……。
 そんな生活をこれからも続けるつもり?ううん、そんなの絶対にイヤ!
 大好きな事を大好きって言いたいもん。メルルやしおりちゃんのことを誰かに教えてあげたいもん。

『おまえがどんな趣味持っていようが、俺は絶対バカにしたりしねえよ』

  …………ウソだったら……絶対許さないからっ!

  あたしはついにドアノブを回した―――

 ……カチャ……
 なるべく音を出さないようにドアをあける。
 中から漂う匂いが、この間嗅いだイヤな匂いとは少し違うような感じがするのは何でだろ……?
 静かに部屋に入り電気のスイッチに手を伸ばす。『起きないで……』と心で祈りながら電気を点けた。
 青白い蛍光灯の光に部屋の中が照らし出される。ベッドの上には京介が寝ていた。
 とりあえず、まだ目を覚ましていないようだ。
「ホッ……」と胸を撫で下ろし、忍び足で京介の元へ向かった。

「マヌケ面……」
 半開きの口から寝息が聞こえてくる。
 しばらくそんなアホ面を眺めていた。
  京介の上に馬乗りになりながら。
 いつの間に乗ったのだろう?自分でも全く違和感がなかった。無意識の行動だった。
 それがまるであたりまえの事であるかのように。

 馬乗りになって思い出す。
 ……あたし、寝ているこいつによくこうやって乗っかったっけ……。
 それでも…全然起きないんだよね……。
 ……こんな至近距離でマジマジと顔見るの何年ぶりだろ……?
 ……………………。
 寝顔……昔から……変わって無いな…………。



 …………ちゅっ…………



  !!!!!!!!

 な!な!な!なにやってんのあたし?!ば、バカじゃん?!
  マジ?!キモっ!!ウザっ!!!!
 ありえないし!意味わかんないし!!信じらんないし!!!!
 うがーーーーーーーーっ!!!!
  よりにもよってこんなヤツに……こんなヤツに……こんなヤツに!!!!
 ……あ、あたしの……ファーストキス…………だったのに……。



 …………きゅうぅぅぅぅぅぅぅぅん…………



 ……なっ!なに今の?!変な感じした!!
 ちょっ!ちょっとなにこれ?!
 あ、わ、わ、わ、わ、わ……。ど、どうしちゃったんだろ?あたし……。
 なんか……心臓ばっくん、ばっくんいってるし!!
 うわ、うわ、うわ、うわ、気持ちワルっ!!
 ……ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ……。
 なんでかわかんないケドなんかムカつく……。
 ムカツク!ムカツク!!ムカツク!!!!

 次の瞬間、あたしは京介の頬におもいっきり平手打ちをかましていた。

 ~本編へ続く~



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最終更新:2011年05月29日 23:00