278 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/29(日) 21:40:37.84 ID:VOOU6kaJ0 [2/3]

【SS】月夜と祭りとすれ違い

「今週末、お祭りに行くから」
突然うちの妹様がそう切り出したのは、新学期が始まってから半月ぐらいたった時だった。
つまり、黒猫を捕獲しに温泉に行ってから、半月後ということになる。
あれから一週間くらいはお互いにお互いを意識しながら、それでも桐乃が素直になったからか、それなりに仲良くやってたと思う。
しかし一週間くらい前からか、桐乃が少しずつ俺を避け始めるようになった。
別に前みたいに無視されるわけじゃねーし、時にはゲームに誘われたりもするんだけどさ、なんか前に戻っちまったみたいで、あんまりしっくりこねぇんだよな。
あんなことがあったんだからもっと俺たちの関係に変化があってもいいはず―とは思うものの、
俺が桐乃のために何かした後もいっつもこんなんだったな、と納得するところもある。
やっぱりゲームと現実は違うって事かね。
でもまぁ、一番じゃないと嫌だと言われた俺としては、もっと桐乃にかまって欲しい―もとい仲良くなりたいわけで、
黒猫が最後に残していったゲームに誘ったり、
新しい携帯の待ち受け(黒猫にエロゲをやらせてにやにやしている姿)を見せたり、
桐乃仕様にデコった筆箱を見せたりしたわけよ。
でもその度に顔を真っ赤にして怒りやがって。
おまえが一番だって示してやってるのに、いったい何が不満なんだか。
先週末に誘ったデートも忙しいからって断られたしな。
今日も桐乃がかまってくれないので、仕方なく一人寂しく受験勉強してたんだが、そんな折に突然俺の部屋に入ってくるなり桐乃が行ったのが上の言葉だ。
「そっか。あやせたちと一緒に行くのか?気をつけろよ」
別に友達と一緒にお祭りに行くのに俺に報告なんか必要ないだろう。
それにしてもお祭りか。ラブリーマイエンジェルあやせたんの浴衣姿を見るために、桐乃の保護者役としてついていくのもいいな。
俺の返事に、桐乃は顔をしかめ、腕を組む。
「は?あんた何言ってんの?あたしとあんたの二人で行くの」
・・・・・・俺と桐乃の二人で?
「なんで俺たち二人でなんだよ。お祭りに行くならあやせとかと一緒に行ったほうが楽しいんじゃないか?」
そういう場所はあやせたちと一緒に言ったほうが楽しいって前に言ってたしな。
「いいじゃん別に、たまにはあんたと二人でもさ。あと、あんたに拒否権はないから」
最近ちょっとは素直になってきたと思ってたんだが、相変わらずうちの妹様は一方的だな。
まぁ、俺としてもおまえと二人でどっかに行きたいと思ってたし、まったく問題はないんだけどな。
「そうだな・・・・・・」
あとは俺の都合か。最近桐乃や黒猫にかまっていた時間が長いので、勉強時間が短くなっている。
黒猫にも言ったとおり勉強をおろそかにはしていないので、今の調子でもまず問題はないはずだが、週末がつぶれるとなると前倒しで勉強しておくべきか。
「―やっぱり、駄目?」
俺の答えが遅かったからか、桐乃が節目がちにそう言った。
「黒猫とは一緒に行けても、あたしとはイヤなの・・・・・・?」
少しだけ苦しそうに、桐乃はそう続けた。
なんでここで黒猫が出てくるのかは分からないが、俺が考え込んでしまったせいで勘違いさせてしまったようだ。
「そんなことねぇよ。おまえと一緒にお祭りに行けるなんて、今から楽しみだぜ」
そう言い、桐乃の頭に手を乗せ、ゆっくりとなでる。
そう、桐乃と祭りに行けるなら、今から週末まで連日徹夜で勉強したとしても苦ではないぜ。
「妹と二人でお祭り行くのがそんなに楽しみだなんて、あんた本当にシスコンだよね」
先ほどの表情は何処へやら、俺の手を払うと桐乃はそう言う。
・・・・・・まあ、いつもの事なんだけどね。
「でも、あたしと一緒にお祭りに行けるのが、そんなに楽しみなんだ」
ふーん、と意味ありげにこちらを見る桐乃。
「なんだよ、おまえは楽しみじゃないのか?」
その言葉に桐乃は一瞬だけ口をつぐみ、視線を逸らす。
「そりゃ楽しみなんだけど・・・・・・ちょっと、ね」
言いたいことがあれば言えばいいだろうに、言いよどむなんてこいつらしくない。
まさか、本当は行きたくないんじゃないだろうな。
「―とにかく、あんたはあたしと一緒にお祭りに行くの!わかった!?」
こちらを睨みつけると、桐乃はいつものように居丈高に宣言した。
まったく、なんなんだろうね。
「へいへい。ところで、一体何処のお祭りに行くんだ?」
桐乃が再び目を逸らす。こいつ、何を隠してやがるんだ?
こいつが変に隠し事をするときには、大抵ろくなことにならないんだが・・・・・・
「―ここ」
桐乃は少しだけ言いづらそうに口を開くと、プリントアウトしたらしい、とある広報を俺の前に差し出した。
「月見―か」
月見の祭り。季節を感じさせるその言葉は、俺に黒猫との最後のデートを想起させた。


そして週末、俺は桐乃と一緒にとある神社に来ていた。
日が落ちきる前に来たのだが、すでに神社の近くは祭りに参加している人たちの喧騒や出店でにぎわっていた。
道の脇に並ぶ出店を見ると、あの時のことを思い出す。一月も経っていないのに、ずいぶんと懐かしい。
あの日―花火大会の夜に俺は黒猫に振られた。
結局黒猫の思惑もよくわからなかったし、こういう雰囲気にはあんまり良い思い出が―
―いや、そうでもないか。
確かに悲しい思いはしたけれど、あの日黒猫と一緒に出店を見て回った思い出は、あの楽しかった思い出は決して間違いなんかじゃないんだから。
あの時思った、一生の思い出となるだろうって考えは、きっと正しい。楽しい思い出と、辛い思い出を織り交ぜて、ずっと心の中に残るだろう。
「・・・・・・」
出店が始まる場所で立ち止まった俺を、隣で桐乃がじっと見つめている。
「どうした?」
俺と目が合うと、桐乃はさっと目を逸らした。
「・・・・・・別に」
何なんだ一体。ここに来るまでもやけにはしゃいでるかと思えば、考え事をしている間にいつの間にか静かになっていてこちらを見ていたりする。
―まったく、おまえが変なのはいつものことだけどさ、せっかく今から祭りを楽しもうってのにその態度はないだろう。
まぁ幸いにも、今だけ使える桐乃を元気付けられる言葉を、俺は知っている。このままなのも気分が悪いし、仕方ないからその言葉を使おうか。
「なぁ桐乃」
「なによ」
桐乃がこちらを向く。
俺は一度大きく息を吸い、桐乃の目を見て、言った。

「今日のおまえ―綺麗だな。その浴衣、おまえによく似合ってる。まるで天女だぜ」

家を出てからずっと言わなかった言葉。・・・・・・別に、桐乃に見惚れて言葉が出ないうちに言いそびれたわけじゃないぞ?
俺の言葉に反応して、桐乃の顔が赤く染まっていく。
あれ?予想以上の反応だな。
「ふんっ!」
突然桐乃が俺の向こう脛を蹴り上げた。
「っ痛!桐乃、おまえ何するんだ!」
涙目になりながら脛をこする。知っているか桐乃、そこを攻撃されると武蔵坊弁慶ですら泣くんだぞ。
「うっさいっ!デリカシーのないあんたが悪いの!」
・・・・・・?なんで綺麗だって褒めたのにデリカシーがないってことになるんだ?
「でもまぁ、その、褒めてくれたことは嬉しいし?だから許してあげる」
許すのなら蹴らないでください妹様。
「あ、あと」
桐乃が腰を下げ、しゃがみ込んだ俺の顔を覗き込む。
桐乃は一度大きく息を吸い、俺の目を見て、言った。

「お父さんには敵わないけど、京介の着流しも似合ってるよ」

顔に血液が集まるのがわかる。
な、なるほど。兄妹に服装を褒められるのってこんなに恥ずかしくて嬉しいもんなんだな。
「ほら、行くよ!」
桐乃は脛をさする俺の手をつかむと腰を上げる。
桐乃の手から熱が伝わり、足の痛みを忘れ立ち上がる。
「あ、ああ」
桐乃は俺の手を引き駆け出し、

―すぐにその手を離した。

「―え?」
少し先を駆け出す桐乃を前に、俺は手を伸ばしたまま一歩を踏み出せない。
「なにやってんの?」
桐乃が振り向き問う。
「あ、あぁ。今行くよ」
俺は答え、桐乃のほうへと歩いていく。桐乃はうきうきとした調子で俺が近づくのを待つ。
―よくわからないが、桐乃の機嫌は直ったらしい。
ただ何故か少しだけ寂寥感を覚え、俺はまだ熱の残る手を握った。


花火大会よりも小さな規模ながら、この祭りも十分に賑わっていた。
いつぞやのデートとは違い、桐乃は秋葉原でそうするように、俺をあちこちへと引っ張りまわした。
桐乃にメルルがプリントされた袋に入ったわた飴を見つけてはしゃいだたり、
ヨーヨー釣りで桐乃と競ったり、射的がまったく当たらず怒った桐乃に銃を向けられたり、
型抜きでメルルに挑戦するも完成直前に真っ二つに割ってしまった桐乃を慰めたり、
ゲームが当たるくじで桐乃が見事にシスシス(全年齢版・初回特典付き・留学中に発売されたため今じゃ手に入らないと桐乃を悲しませた一品)を当てたりした。
もちろん全部俺のおごりでな!
ここに来るまではもしかしてこれってデートなんじゃないかとも思ったが、この様子だとただの兄妹でのお出かけのつもりらしい。
まぁあの時のデートは俺の気を引くためにでっち上げたものらしいし、桐乃を一番に選んだ今ならそんな雰囲気は不必要だってことだろう。

―でもなんでだろうな。桐乃とのお出かけと、あの日の黒猫とのデートを重ねてしまうのは。

射的が当たらず怒っている桐乃を見て黒猫は器用だったなとか、
くじで大当たりを当てた桐乃を見て黒猫ははずれしか引けなかったなとか、
黒猫は俺に奢らせるのを渋っていたなとか、つい考えてしまう。
「・・・・・・」
少し前を歩いていたはずの桐乃が、いつの間にか隣に立ってこちらをじっと見ていた。
まずいな。黒猫のことについて考えていたのがばれたか?
そうなると何時もの様に二人でいるときに他の女のことを考えるなという罵声が―
「はい」
身構えた俺に、桐乃が爪楊枝に突き刺したたこ焼きを差し出した。
「美味しいから一つあげる」
あげるって、それさっき俺が買ったやつなんだけどね。
突き出されたたこ焼きの上ではうねうねとかつお節が踊っている。
「こ、このまま食べるのか?」
確かに美味しそうなんだが、もしかしてそのまま食べろと?せめてその爪楊枝をこちらに渡してくれ。
「あ、そうか」
桐乃はたこ焼きを手元に引き戻し、

ふーふーと息をかけて冷まし始めた。

「はい、これでいい?あんた熱いの苦手だもんね」
事態が悪化した!?
「あ、あぁ」
とは言え、せっかくの桐乃の好意を無碍にはできない。それにせっかく桐乃から歩み寄ってくれているんだ。ここで受けなきゃ男が廃るぜ!
俺は覚悟を決めると口を大きく開き、差し出されたたこ焼きにかぶりついた。
「あふぁっ!」
桐乃に冷ましてもらったがそれでもたこ焼きは熱く、口の中が容赦なく蹂躙される。
「ちょっと!一口で食べなさいよ!」
涙目で桐乃のほうを向くと、半分になったたこ焼きが爪楊枝から落ちそうになっている。
そんな事言ったってその大きさの熱いたこ焼きは一口じゃ食えねぇって!
落ちる前に次の一口を食べようと、口に残ったたこ焼きを咀嚼する。
だが口の中が空く前にたこ焼きは滑って行き、

パクっと桐乃が残ったたこ焼きを食べた。

お互いにお互いを見ながらたこ焼きを味わっていく。
しばらくして口内のたこ焼きが無くなる。口内を火傷したからだろうか、顔が熱い。
「なぁ、桐乃」
「なに?」
「たこ焼き美味かった」
「そう。じゃあさ、今の半分しか食べられなかったし、あと一口食べる?」
俺は黙って頷いた。


出店を一通り見終わったころには、すっかり日は落ち満月が夜空に輝いていた。
「さて、月も昇ったしどこかで団子でも食べながら月を眺めるか」
「そうだね」
俺は先ほどの出店で買った団子やらくじで当たった景品やらを手に、月見にいい場所がないか探す。
少し戻ったところから階段を上り境内に上がれば眺めはいいんだろうが、生憎出店と人で落ち着いて月を見れそうな場所はなかった。
さて、どうしたもんかな。そう考えていると、服の袖を引かれた。
「こっち」
桐乃は一言だけそういうと、袖から手を離し俺の返事も待たずに出店から離れるように歩き始めた。
俺は桐乃の背中を見失わないように追いかける。
しばらく無言のままくらい町の中を歩いていると、桐乃が横道にそれる。
桐乃の後をついていくと、どうやらそこは丘の上に建つ神社の裏側へと続く道のようだった。
ここに来るのは初めてだと思ったのに、桐乃のやつはどうしてこんな道のことを知ってやがるんだ?
前に親父やお袋と一緒に来たことあったっけな?
それとも、あまり考えたくもないが、誰か俺の知らない奴に誘われたりしたのかな―
そんなことを考えながら、お互いに無言のまま階段を上がってく。
桐乃は先ほどまであんなにはしゃいでいたのが嘘のように静かだ。
こちらも見ずに一人さっさと上がっていく桐乃を見ていると寂しくなったので、早足で桐乃のすぐ隣に並ぶ。
桐乃は隣に来た俺を一瞥したが、一歩横によけるとそのまま前を向いて早足で階段を上がっていく。
ちぇ。少しくらい仲良くしてくれてもいいだろうに。

階段を上がると、そこは開けた場所となっていた。それほど広い場所ではないがベンチも置いてあるし、町と空を一望できる。
幸いな事に先客もいないようだった。
ただ灯りもないため、頼りにできるのは満月の光だけだ。
俺はベンチに近づき懐からタオルを取り出すと軽く払い、その後裏にしてベンチに置くとその隣に座った。
桐乃も無言のまま俺の隣に座る。
俺はひざの上に団子のパックを載せるとフタを開け、中から一本桐乃に手渡す。
桐乃が団子に口をつけるのを見た後、自分の分を取り出し食べ始める。
お互いに月も見ずに、お互いのことをちらちらと確認しながら団子を食べていく。
五分くらい経っただろうか。先に口を口を開いたのは桐乃だった。

「ねぇ、私とのデートどうだった?」

食べ終わり咥えていた団子の串が口から落ちる。
「え?これってデートだったの?」
「はぁ!?あんた何だと思ってたの!?」
桐乃が俺に詰め寄る。
「えっと、ほら、兄妹でのお出かけというか、せっかく仲良しに戻ったんだし二人でどっかに行きたかったのかなーって」
「それをデートって言うんじゃない」
「でもほら、前にデートしたときとぜんぜん違うじゃねぇか。前はこっちにリードさせようとしてたのに今回は引っ張りまわすし、
一緒に秋葉に買い物に行くときのノリかと思ったんだよ」
「うっ。でもそれは、その・・・・・・」
俺の反論に桐乃は言葉に詰まる。
「俺だってな、ここに来るまでおまえとデートできるんだって楽しみにしてたんだぜ?
でもおまえは何時も通りだし、時々じっとこちらを見てるし、俺一人で舞い上がってたんじゃないかって寂しかったけど、
それでもおまえと一緒に遊べるんだし、おまえが楽しめるように頑張ったんだよ。
それにな、ただのお出かけなのに俺がデートだと思ってたらおまえ嫌がるだろう?」
桐乃は下を向いて「別に・・・・・・嫌じゃ・・・・・・」とかつぶやくがよく聞き取れない。
しばらくして桐乃は面を上げると
「別にあたしとデートするのは嫌じゃないんだよね?」
「当たり前だろ?この間だってデートしようぜって誘ったじゃねぇか」
「あんたの場合どこまで本気なのかわかんないんだもん。どこ行くつもりなのか聞いても考えてないって言ってたし」
失礼な。俺は何時だって真剣だぜ。ただ最近は思いついたら即実行が染み付いて考えが足りてないかもしれないがな!
「じゃあさ、デートだって知ってたらさ、態度変わったりした?」
今回がデートだと知ってたら?
そうだな、桐乃の格好を誉めたり、欲しいものを買ってやったり、楽しそうに遊んでいる桐乃を近くで眺めたり、たこ焼きを半分こしてみたり・・・・・・
あれ?何も変わってないんじゃね?
「変わらん気がするな」
「―そう」
桐乃は少しだけ目を細めてそう言った。
・・・・・・なんでそんな表情するのかわかんねーけどさ、俺はそんな顔は見たくねーんだよ。
「でもな、桐乃」
「なに?」
「デートだったと知ってたとしてもさ、たぶん今とおんなじで
―すっごく楽しかったと思うぜ」
黒猫とデートしたときと同じで、今回のデートも俺の心にきっと一生残り続けるだろう。
「―そう」
納得してくれたかはわからないが、とりあえず機嫌は直ったみたいだな。
「じゃあ次の質問」
「まだあんのかよ!」
「あたりまえじゃん。あんたには色々と聞きたいことがあんの」
マジかよ。あと何回か桐乃のご機嫌を伺わないといけないわけ?
くそっ!次は間違えねーぞ!冷静に答えれば桐乃が満足する答えが出せるはずだ。今までだって何とかうまくやってこれたしな!

「あんたさ、今日のデートで何回黒猫のこと考えた?」

「すげぇ答えづらいこと聞いてくるな!オイ!」
というかやっぱり気付いていたんですね!
「気付かない筈ないじゃん。あんたの考えてることなんて顔を見ればすぐにわかるっつーの」
みんな俺の心を見透かしたような事言うけどさ、俺ってそんなに分かり易いの?
「まあ答えは聞かなくていいや。なんとなくわかるし」
「じゃあそもそも質問しないでくれますか桐乃様!」
俺の純情ハートをもてあそびやがって!
「あんたさ、あんなにきっぱりと振られたし自分でもあきらめたのに、何?まだ未練たらたらなの?」
あきらめる原因となった妹様に言われたくねーよ。
「・・・・・・未練がないって言ったら嘘になるけどさ、でもそれが原因じゃねぇんだよ。
あんな終わり方になっちまったけどさ、黒猫と一緒にいたときは本当にすっごい楽しかったんだよ。
俺が好きな人が俺のことを好きでいてくれて、俺のことをすっごい好きでいてくれる人がさ、俺と一緒にいたがってくれて、俺に喜んでもらおうとしてくれてさ。
俺にとってそんなのは初めてだったんだよ。忘れられるもんじゃねぇし、ふとしたことで思い出しちまうんだよ」
正直な気持ちだった。
あの夏の日々はすべてが初めてで、すべてが刺激的だった。忘れられるはずもないし。忘れたくもない。
これからも、今ほどではないにせよ、ふとしたことであの日々のことを思い出すんだろう。
「・・・・・・じゃあさ、地味子とはどうなの?あいつだってあんたの事好きなんでしょ?」
「地味子っていうな。何度も言ってるだろ?真奈美は彼女じゃねぇって。
真奈美は何て言うか家族って言うか、一緒にいると楽しいって言うより落ち着くんだよ」
「・・・・・・家族だと、落ち着くだけ、か・・・・・・」
再び桐乃はぼそぼそと喋る。
あれ?また選択肢間違えた?
「でもあれだ!黒猫とのデートのときも結構おまえのこと考えちまってたぜ?黒猫は何も言わなかったけどな」
慌ててフォローの台詞を言う。でもなんか言わなくてもいいことを言った気がする。
「はぁ?あんた彼女とのデートの最中に妹のこと考えてたの!?キモ!最低!」
桐乃が顔を赤くして俺に迫る。ううっ確かに悪いことしちまってたな。
「好きな人と一緒のときに妹のこと考えるだなんて、あんたシスコンこじらせすぎ。
まさか桐乃ならこうなのに~とか言ってないでしょうね?」
言いました。ごめんなさい。
「―まぁ、でも、そっか・・・・・・
うん。許してあげる」
「いいの?」
「あいつだってあんたの考えてることなんかわかるだろうし、それで何も言わなかったんならそれについてあたしも何もいえないじゃん?
それにあいつが不問にしたんだったらあたしも不問にする」
そりゃ良かった。それにしても、どうして黒猫は何も言わなかったんだろうな。
「次の質問」
まだまだ続くのか・・・・・・こうなりゃ覚悟を決めるぜ!

「どうして黒猫のこと本名で呼んであげなかったの?」

「―え?」
突然話題が変わっただろうか?俺の頭は今の言葉をなかなか理解できなかった。
「黒猫から聞いたんだけどさ、あいつがあんたの名前を呼んでも、あんたはあいつの本名を呼ばなかったらしいじゃん」
「それは―」
何故だろうか。黒猫とデートする前日なんか、あいつと名前を呼び合う姿を妄想していたっていうのに。
あいつに名前を呼ばれて、くすぐったかったけど嬉しかったっていうのに。
―そういえば、ちょっと前にもあったな。こんな自分でも自分の心が分からなかった時が―
「あのさ、おまえには言ってなかったけどさ。俺黒猫に告白されたときさ、すぐに答えられなかったんだよ。
何でだと思う?」
「ヘタレたからじゃん?」
間髪いれずに答えるな!確かに俺はヘタレだけどさ!
「そうじゃなくてさ、俺は答える気があったんだけど体が動かなかったんだよ。
その理由が後になって分ったんだ。おまえに彼氏を作るなって言っておいて、自分が作るわけにはいかねぇって思ってたんだなって」
「あ―」
「たぶん、それと同じなんだよ。
黒猫ってさ、何かある度に呼び方変えてくるじゃん。それなのに彼氏になっても『先輩』のままで寂しかったんだ。
でもさ、実際呼び方が変わって本当に彼氏彼女になったんだなって思ったらさ、なんか名前を呼べなかった」
「・・・・・・」
「俺が名前を呼んじまったら、俺たち全員の間柄が変わっちまってさ、せっかく桐乃とも仲良くなってきたっていうのに、
また疎遠になっちまうんじゃないかと思ったら、怖くなった」
あの時は無意識だった。でも、きっとそういうことなんだろう。
「―それってさ、黒猫と彼氏彼女と認め合うより、あたしと離れたくなかったって事?」
「うっ!た、確かにそういうことになんのかな?」
「キモ!本当にあんた救いがたいくらいのシスコンよね」
そう言われると滅茶苦茶恥ずかしくなってきやがった!
今の俺の顔は真っ赤だろう。だが、満月の光しか明かりがないからバレないだろう、たぶん。
隣で笑っているであろう桐乃の顔色は伺えないし、さっきみたいに近づかれない限りは平気なはずだ。
「本当に黒猫が可哀想。あんたを振りたくなるのも分るわね」
土下座でも何でもするからもう追撃しないでください!
「うん。分った。そういうことか」
これ以上俺のシスコンぶりを理解しないでください!シスコンだってのは認めるけどさ、おまえにからかわれると恥ずかしいんだつーの!
「それじゃあ、最後の質問」
ふう、ようやく最後か。今までより答えづらい質問だろうから気を引き締めないとな。

「黒猫と別れたのって、何回目のデート?」

「はい?」
予想外に答えやすい質問に拍子抜けする。
「何回目のデートでフラれたかって聞いてんの!」
「あ、あぁ」
黒猫との逢瀬のことを一つ一つ思い出しながら、指折り数を数えていく。
「―回目だな」
「ふ~ん。そう」
なんでデートの回数なんか気にするんだ?
「そっか、だからか」
え?今ので何かわかったの?
「何がわかったんだ?」
んとね、と言い、桐乃は町のほうを見る。

「なんであんたがあの時フラれたか」

「はい?」
何で今のでわかるの?
「え?なんで?何で俺あの時フラれたの?」
「教えてあげない」
「いいじゃん教えてくれても!俺なんかまずいことしたの?」
「たぶんまずいことしかしてないけど」
俺ってそこまでまるでダメな雄、略してマダオ!?
「教えてくれないといつか彼女ができたときに同じ理由で振られるだろう!」
「フラれた方がいいから教えない」
桐乃はそっぽを向く。
そうだった。こいつは俺に彼女ができて欲しくないんだった。
「それに、あの時にフラれた直接的な理由はそれじゃないし」
え、どういうこと?
「理由はたぶんあたしだから―気にしなくていいよ」
「どういうことだ?」
わけがわからないよ。
「はい、この話はおしまい!」
桐乃はそう言うと勢いよく立ち上がった。
「それじゃあ帰ろうか!」
え?帰るの?色々と謎を振りまくだけ振りまいておしまいって、そりゃないだろう。
「ちょ、ちょっと待て!」
踵を返そうとする桐乃の腕を掴み静止させる。
「なに?」
「おまえからの質問に答えたんだ。俺からもひとつだけ訊かせろ」
「―なに?」
祭りに来る前からずっと気になっていたこと。それは―

「なんで俺を誘ったんだ?」

「そ、それは―」
「おまえ、最近ずっと俺を避けてただろ?
そっちの理由も気になるけどさ、避けてたのに俺を誘うって事はなんか話したいこととか、して欲しいことがあったんじゃないのか?」
「そ、それは今訊いたじゃん」
桐乃は俺の腕を振り払うと何歩か後ろに下がる。
「それだけならわざわざここまで来る必要なかっただろ?
それにさ、今無理矢理切り上げようとしたじゃねぇか」
普段のこいつは勝気で何にでも突っかかっていくが、理由はわからないが偶に弱腰になって一歩引いてしまうことがある。
―こいつがアメリカに行く前の夜なんてのはその例だ。
あの時桐乃が一歩引いたのを気にしなかったから、俺は『選択肢を間違えた』。
正しい選択肢を選ぶべきだったのかは、今となってはわからない。
でも、絶対に後で後悔はしたくない。

「俺はおまえみたいになんでもできるわけじゃねぇし、頼りにならないかもしれない。
でも俺はさ、おまえが大事だからおまえの力になりてーんだよ」

暗くても、少し離れたところで桐乃が小刻みに震えているのがわかる。
やばい、怒らせちまったか?
「―ならないはずないじゃない」
「なんだ?」
「―なんでもない!」
怒鳴りやがった。やっぱり怒っていやがるな。
心を落ち着けるためか、桐乃は一度大きく深呼吸する。
「あんた勘違いしてるみたいだけどさ、本当に用事は終わっちゃってるの。意味があったかはわからないけどさ。
訊きたいことも聞けたし、あたしはもう満足しちゃってるの」

「じゃあさ、おまえ―なんでそんな表情してるんだよ」

「え?」
「おまえ、今にも泣き出しそうじゃねぇか。そんな顔されたら絶対に引き下がるわけにはいかねぇじゃねーか」
桐乃は一歩下がると手で顔を触った。
「嘘。この暗さだと、そこから見えるはずないし」
「嘘じゃねーよ。俺は桐乃に泣いて欲しくないから、泣きそうだったらわかるんだよ」
俺はこのデートが楽しかった。きっと桐乃にとってもそうだろう。だからそんな思い出の最後を、悲しいものになんかしたくない。
―そう、あの時のような。
「俺じゃ力になれないかもしれないけどさ、言うだけ言ってみろよ」
「うっさい!本当に何もないの!ここで帰んないといけないの!」
帰らないといけない?
「帰らなくちゃいけないって、それどういう意味だよ」
「あ・・・・・・」
口を滑らせてしまったんだろう、桐乃が両手で自分の口をふさいだのがわかる。
「やっぱりなんか理由があるんじゃねーか。そりゃ俺には絶対に言いたくないことかもしれないけどさ、それならせめて安心できるようなことを言ってくれよ」
その言葉が桐乃の琴線に触れたのか、桐乃の態度ががらりと変わる。

「―あたしはあんたとデートしたかっただけなの!」

暗くても肩を怒らせているのが分る。
「あんたさぁ、ずっと黒猫にフラれたの気にしてたじゃん。だからそれを忘れさせてあげようと思ったの!」
黒猫に振られたのを気にしていた?
「そんなことねーって!もう気にしてねーし桐乃を大事にするって決めたから、おまえともっと仲良くしようとしてるんじゃねーか!」
ちっと桐乃が舌打ちするのが聞こえた。
「気にしてないはずないじゃん。じゃあどうしてあんたあたしをあのゲームに誘ったの?」
あのゲーム?黒猫が最後に作ったシューティングゲームのことか?
「待ち受けにも黒猫が写ってたし、筆箱のデコにも黒猫のシールがワンポイントとして貼ってあったじゃん!
あんたは気づいてなかったのかも知んないけどさ、そういう未練がましいのマジムカつくんだっての!」
桐乃に言われてやっと気がついた。
確かに俺は無意識に黒猫の影を追い続けていたのかもしれない。
そうだよな・・・・・・おまえを一番に選んだってのに、振られた相手に未練を持ってたりしたら、そりゃいい気もしないよな。
「それに仲良くしようとしてる?本当にそれだけ?もしかしてあんたさぁ、
あたしを黒猫―彼女の代わりに見ようとしてない?」
「え?」
妹を彼女の代わり?
「前にあたしがいなくなって寂しくて、黒猫に代わりにするなって言われたらしいけどさ、それと同じじゃないの?」
「あ―」
前に桐乃が留学してしまったとき、俺はその寂しさを埋めるために黒猫にかまった。
もちろんそれだけじゃなかったが、それは決して否定は出来ない。
「だからデートでもデートじゃなくても同じだったんじゃないの?あたしとデートしたかったんじゃないの?」
「それは違う!」
そこだけは否定しなくちゃいけない。
「確かに黒猫と別れて寂しいって気持ちがあったのは間違いないし、黒猫にかまっていた代わりにおまえにかまおうとしていたんじゃないかって言われれば否定できない。
でもな、おまえはおまえだよ。それとは関係なく今日おまえと一緒だったのは楽しかったし、デートとかデートじゃないとか関係なくおまえといるのは嬉しいんだ」
俺の一番でいたいと言った桐乃を俺は一番に選んだ。だから俺はもっと桐乃仲良く良くなりたい。
それだけは決して間違いなんかじゃない。

「俺は本心からおまえと仲良くなりてぇんだよ。俺はまだ桐乃のことが嫌いだし、桐乃も俺のことが嫌いなんだろ?
だから仲良くなってさ、桐乃にちょっとは好きになって欲しいし、桐乃のことをもっと好きになりてーんだよ」

「・・・・・・」
桐乃からの言葉はない。少しくらいは俺の気持ちが伝わったんだろうか。
二人とも無言のまま時間が過ぎていく。
先に口を開いたのはまたしても桐乃だった。
「あたしさ、兄貴の一番でいたいの」
こちらを見ずに、俺の足元の方を見ながら桐乃はつぶやいた。
「兄貴に一番に考えて欲しいの。あたしといるときは他の女のことを考えてほしくないの。
でもあんたは黒猫のことを忘れられないみたいだからさ、せめて上書きしてやろうって思ったの」

「それが、あたしがここにあんたを誘った理由」

「・・・・・・」
そうか。だからお祭りなのか。
確かにおれはこのお祭りで何度も黒猫のことを考えた。そしてこれからは多分、一緒に桐乃のことを思い出すようになるんだろう。
俺は桐乃に歩み寄るとその頭をなでてやる。
「そうだな。俺はたぶん黒猫のことを忘れられない」
手の下で、桐乃の体が固まる。
「でもな、これからは浴衣を見たらおまえの姿だって思い出すし、射撃をしたらおまえの下手な腕前を思い出す。
たこ焼きを食うたびにおまえの顔が頭をちらつくし、月を見たら今のことを考えちまう」
桐乃の体から力が抜けるのがわかる。


「俺にとって桐乃が一番だからさ、きっと黒猫よりもお前のことを思い出す」


「―そっか」
桐乃はなでられるままとなる。
「ねぇ兄貴」
「なんだ?」
「あたしはね、ここであんたと別れて帰らなくちゃいけなかったの」
「だからなんでだよ」
「教えてあげない」
「言わないならそれでもいいけどさ」
どうせ俺じゃ理解できない理由なんだろうさ。
「それに、もう我慢できないし」
我慢?いったい何を言っているんだ?
「だからさ、

ごめん、黒猫。あたしあんたより1ページだけ先に行くから」

桐乃はそうつぶやくと、俺の手を払い顔を上げ、

俺の首に手を回した。

「桐乃っ!?」
一気に顔が高潮するのがわかる。
俺の視線の先では、桐乃が俺と同じく顔を朱に染めている。
「京介には黒猫のことばっか考える呪いがかかっているみたいだからさ、
あたしが―解呪してあげる」
桐乃の顔が近づいてくる。
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!
これ以上近づかれると、今度はお前のことしか考えられなくなっちまうじゃねーか!
さらに桐乃の顔が近づく。
桐乃の兄でも見とれてしまうような整った顔は現在目が瞑られており、俺も何故か目を瞑ってしまう。
そして―


満月の明かりの下、二つの影が重なる。


十秒か二十秒か、永久にも等しい時間が過ぎたあと、桐乃が離れる。
顔が熱い。思考がまとまらない。
「それじゃあ帰ろうか!」
くるりと桐乃は振り返ると、階段を駆け下りようとする。
「ちょ、ちょっと待て!」
俺は無意識のうちに桐乃の腕を掴み静止させる。
「なに?」
「まだ全然月を見てねぇじゃねーか。
少しぐらいさ、ゆっくりしていこうぜ」

ベンチに座りながら、今度こそ二人で中秋を照らす満月を眺める。
秋の始まりだと言うのに、体は熱く動悸は激しい。
でも何故か、心はしっとりと休まっている。
左肩に重みと暖かさを感じたが、そちらを見ずに月を眺める。
形容しがたい心の動きに突き動かされ、俺は桐乃の頭に手を置くと、ゆっくりと撫で始めた。
手を止めることなく、心の赴くままに髪を撫で付ける。
桐乃も俺のほうを見ずに、月を眺めているようだった。
しばらくして、俺は気になっていた事を尋ねた。
「なあ桐乃」
「なに?」
「おまえさ、手を払わないのか?」
「・・・・・・いい」
「なんでだよ」
「満月しか灯りがないからさ、別にいい」
「・・・・・・?」
よく分からんが、別に嫌いってわけじゃなかったんだな。
「あたしからもさ、ひとつ質問」
「なんだ?」
「あんたにも本物の彼女が出来たけどさ、やっぱり今でも妹も彼女も変わんないって思ってる?」
「・・・・・・そうだな、やっぱり『妹』も『彼女』もたいして変わんねぇよ」
「・・・・・・そっか」
「ああ。『彼女』と一緒にいると楽しいし、何考えてるか分かんねぇし、放っておきたくないし―
やっぱり『妹』も『彼女』もたいして変わらねぇな」
「―なんだ、そうだったんだ」
「・・・・・・?」
俺の返事に何を納得したのか、肩への重みが増した。
「えへへ」
桐乃が嬉しそうに笑う。
―まあ、喜んでくれるのなら何よりだ。

ずっと月を見ていると、ふと『誰か』の言葉を思い出した。
西洋では、満月と言うのは人の心を狂わせるものらしい。
今日ここでのやり取りは、もしかしたら満月のせいなのかもしれないな。
「ねぇ京介」
「なんだ、桐乃」
だからきっと
「あたし、京介のことが―」
「なぁ桐乃、今夜は―」
桐乃の言葉に割り込んだ俺が



『月が綺麗ですね』



こんなことを言ってしまったのは、月が俺を狂わせてしまったからだろう。

一拍の後、俺の言葉を聞いた桐乃は
「はぁ?」
頭の上に乗っていた俺の手を容赦なく払うと、俺に詰め寄った。
「あんたさ、人の言葉遮っておきながらもっとマシなこと言えないの?
せめて月よりもおまえが綺麗だとか、
かぐや姫よりおまえのほうが素敵だとか!」
桐乃さん近づかないで下さい。顔を覗き込まないで下さい!
俺は桐乃から逃げるように顔をそらすと、勢いよく立ち上がり、置いておいた荷物を手に取った。
「うるせぇ!
ほら、月も見たしもう帰るぞ!」
桐乃に手をつかまれる前に、俺はダッシュで階段へと向かった。
「ちょっと!待ちなさいよ!」
後ろから桐乃の声が聞こえたが、俺は無視して階段を下りていく。
今のこんな顔をおまえに見せられるわけねーだろうが!


こうして、俺たちらしくない夜の祭りは終わった。
このやり取りで少しは桐乃のことが分かるようになった気がするし、桐乃とも仲良くなれたと思う。
ただそれと同じくらい、俺たちは分かってほしいことを分かってもらえず、伝えたいことを伝えられなかったんじゃないかって感じている。
まあそれも仕方がないだろう。俺たちはいつだって違う立場にいるし、違うものを見ている。
俺たちが互いを見るようになったのなんて一年半前からだし、兄妹のように接することが出来るようになったのはそれよりもずっと後だ。
前にも思ったはずだ。俺たちはまだまだ子供だし、分かり合うにはまだまだ時間が足りないってな。
間違いを繰り返しながら、それでも必死になってお互いを知る努力と、お互いを知ってもらう努力を続けていく。
もしかしたら、どこまで行っても平行線で、お互いに交わる場所なんてないのかもしれない。
それでも俺には俺なりに真っ直ぐと進み続けることしか出来ない。
なに、俺たちは兄妹で、時間なんてまだまだたくさんあるんだ。
交わることがなかったとしても、いつかそのすぐ隣を歩んでいくことぐらいはできるようになるだろうさ。
伝えたかった気持ちは、きっとそのとき伝わるだろう。

だからそう―今の俺たちは、すれ違うくらいでちょうどいい。

-END-



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最終更新:2011年05月29日 23:18