295 名前:278[sage] 投稿日:2011/05/29(日) 22:38:20.64 ID:VOOU6kaJ0 [3/3]

【SS】後日と電話と逃した魚

「さて、それでは契約通り、今日あった事をすべて話してもらうわ」
「うん。まぁそういう約束だしね」

・・・・・・

「でさぁ、あいつこのときになってようやくあたしの着物姿褒めんの。遅すぎだっつーの」
「でも催促しなくても褒めてもらえたのでしょう?彼にしてみればマシなほうじゃないかしら」
「まあそうだけどさ、アレ絶対あんたと比べてたね。
だってさ、『まるで天女だぜ』だよ?ほんと無神経だよね、あいつ」
「フフ、天女ね。かぐや姫の化身たる私の勝ちかしら」
「はあ?ベガと比べたら月なんてちっちゃなもんだし」
「あら、でも月のほうが圧倒的に近くないかしら」
「あいつはアルタイルだからいいの!」

・・・・・・

「射的の時も型抜きの時もずっとあんたと比べてたみたい」
「そうでしょうね。彼何度もすごいって言ってくれたし。
それで、あなたはくじでなにを当てたのかしら?」
「欲しかったシスシスの限定版」
「・・・・・・あなたの幸運はどこまで不条理なのかしら」

・・・・・・

「たこ焼きを食べあいっこした」
「・・・・・・そんなことはしなかった筈なのだけれど」
「しょうがないじゃん。あいつあんたのこと考えてボーっとしてるんだもん。
インパクトの強いイベントで気を引かなきゃ」
「嫉妬するのはいいけれど、私のフラグを根こそぎ折ろうとするのは止めて貰えないかしら」
「うっ。・・・・・・やりすぎたかも。ごめん」

・・・・・・

「結局手はつながなかったな」
「手ぐらいつなげば良かったのに」
「うん。結局あんたも初めの一回しか手をつなげなかったんでしょ?
だから、いいかなって」
「そう。でも京介は寂しがったんじゃないかしら」
「どうだろう?はぐれるなって言ってたけど、そこから手は取ってくれなかったし」

・・・・・・

「そんで、例の場所で月見を始めた。
お団子を渡してくれるのはいいんだけどさ、普通あ~んってしない?」
「普通の兄妹は間違ってもそんなことはしないと思うわ」

・・・・・・

「それで、あんたのこと聞いたらすっごいきょどってんの」
「―そう」
「―あんたのこと未練がないわけじゃないってさ」
「―そう」
「名前で呼びたかったけど、あたしに遠慮しちゃったんだってさ」
「―そう」
「あんたもさ、もっと我侭言えばよかったのに」
「―そうね」
「あたしの言うこと真に受けてさ、もうちょっとだけ一緒にいても良かったのに・・・・・・」
「―いいのよ。私は京介といられて十分幸せだったし、あれ以上長くいると切り出せなかったと思うわ。
だから、むしろ彼のおかげで決心がついたのよ」
「でも、未練はあるでしょ?」
「―そうね。もっと甘えておけば良かったわ」

・・・・・・

「あいつさ、いつもは期待したことはしてくれないのに、時々期待以上のことをしてくれるよね」
「そうね。あなたに似てとても性質が悪いわ」
「なにそれ。あたしはあいつみたいに鈍感じゃないし」
「そうかしら?私からすればあなたも兄さんと同じくらい鈍感で素直じゃないわ」
「だから、そんなはずないっての!」
「はいはい。解ったわ。それで、京介はいったいなにをしたのかしら?」
「あたしが一番だって言ってくれた。あたしが一番で、好きになって欲しいし、もっと好きになりたいって」
「―そう、良かったわね」
「それだけ?」
「そうね。正直言うと少し嫉妬しているわ。けれどね、私の『理想の世界』にはあなたたちが二人とも必要なのよ」
「はぁ?相変わらず意味わかんない」
「解らないならいいわ。
―そうね、じゃあ一つだけ言わせて貰うわ」
「なに?」
「知っているかしら?兄妹では結婚できないのよ?」
「くぁwせdrftgyふじこlp!」
「フフフ。素敵な呪詛をありがとう」

……

「やっぱり妹も彼女も変わらないって言われた」
「そう。やっぱり立場が変わっても妹は妹でしかないのね」
「そうじゃなくって、妹も彼女も一緒にいると楽しいし、放っておけないから同じなんだってさ」
「あぁ、そういう意味だったのね。
でもそうすると……中々面白いわね……」
「どうかしたの?」
「逆に考えてみただけよ」
「?」

……

「黒猫、ごめん」
「どうしたのかしら?」
「あたし、京介にキスした」
「―そう」
「驚かないの?」
「桐乃ならそうすると思っていたわ」
「……そうだったんだ」
「でもさすがはビッチね。あなた私になんて言ったか覚えているのかしら?」
「――!覚えてるけどさ、でも仕方ないじゃん!あんな雰囲気になったら止めらんないって!!」
「だからそうすると思っていたって言ったでしょう?
ところで、桐乃は京介のどこに口付けしたのかしら?」
「―」
「もう少しハッキリと言ってくれないかしら」

「左のほっぺ」

「っくっくっくっくっ!」
「笑うな!」
「流石純情ビッチね。自分のことだといざという時にヘタレるのは京介そっくりね」
「うるさい!」
「でも安心したわ」
「だってさ、さすがに口だとあんたに悪いじゃん?
それにさ、まだ恋人になったわけじゃないんだし……」
「……今聞き捨てならない言葉があったけれど、あえて聴き逃してあげるわ。
それにね、私は口でなかったこともそうだけど、そこに口付けしたことに安堵しているのよ」
「左のほっぺだと何でいいの?」

「私が『呪い』を掛けたのは右の頬だからよ」

「はぁ!あ……あんた、恋人になってからキスしてないって言ってたじゃん!」
「そうね。恋人になってからはしていないわ」
「じゃあいつしたの!?」
「―それは言えないわ。沙織や瀬名には言えても、桐乃にだけは言えないのよ」
「なにそれ」
「知りたければあなたの兄さんに訊くことね」
「わけわかんない……
まぁ、なんにせよあんたがあの日逃した魚は大きかったわね」

……

「でさ、最後に月を見て、月が綺麗だって言われて、おわり」
「そう。
……月が綺麗といわれて?それはなんて言われたのかしら?」
「えっと確か……『月が綺麗ですね』って。
ほんと何が言いたかったのかわけわかんない。月よりもっとあたしを褒めろっての!」
「……ク……ククク……クククククク」
「な、なに?どうしたの?」
「クククククク!アハハハハハハハッ!」
「何いきなり笑ってんのよ!」
「ククク!いえ、あなたがあまりにも愚かしくてつい笑ってしまったのよ」
「だからなんで笑ってんのよ!」
「あなた、さっき私に逃した魚は大きいって言ったけれど、あなたほどじゃないわね」
「だから一体なんなのよ!」
「ククク……
別に言わなくてもいいし、敵に塩を送ることになるのだけれど……
桐乃の可愛らしく愛らしい反応が見れそうだから特別に教えてあげるわ」
「ちっ。なんかわかったんなら早く言いなさいよ」
「数多の知識を司る神に先ほどの言葉を伝えてみなさい?」
「えっと……google先生に聞けばいいのね?」
「一言一句間違えずに打ち込みなさい」
「えっと……
『つ・き・が・き・れ・い・で・す・ね』
変換、と」



「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



隣から突然聞こえた叫び声に、俺は勉強を中断し慌てて部屋を飛び出した。
な、なんだ!?桐乃になんかあったのか!?
「どうした桐乃!ゴキブリでも出たのか?それとも変質者か!?それともあやせがベッドの下にでも隠れてたのか!?」
あいつならあり得る!
「ななななななななんでもない!」
「なんでもないわけねぇだろうが!早く開けやがれ!」
俺は何度も扉をたたく。
くそ!この間みたいに鍵がかかっていなけりゃすぐに入れるのに!
「べ、別に平気だから!
とにかくあんたは入っちゃダメなの!
ゴキブリも変質者もあやせも入ってきていいけど、あんただけは絶対にダメ!」
お、俺はゴキブリや変質者や不法侵入したあやせよりも下なのか……
ずいぶんと嫌われたもんだぜ……

結局この後親父とお袋が駆けつけて、この騒ぎは俺のせいじゃないかと疑われた。
どうしてどいつもこいつも俺のことをそんな目で見やがるんだ。
俺はただ冷蔵庫や玄関や扇風機にツーショットプリクラを張っただけじゃねーか。


余談だが、この日から数日の間毎日、夜になると桐乃にコンビニへの買い物に付き合わされた。
その度に桐乃に「今日の月ってどう思う」って聞かれたんだが……


―さてあいつは一体、俺になんて答えて欲しかったんだろうね。

-END-



-------------

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年05月29日 23:19