320 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/05/30(月) 00:13:44.19 ID:W1TuvYR/0
――着信――
「あのさ、リビングに携帯ないかみてくんない?」
桐乃かよ、知らない電話番号だったからしばらく無視しちゃったじゃねーか。
ってことはこれは誰か別人の携帯なわけね、男友達じゃねーだろうな・・・・・・
「なんだ置き忘れたのか? ちょっとまってろ」
階段をドタドタと駆け降りてリビングを見渡す。
「ないなあ、アイフォン?ガラケー?」
「ガラケー。アイフォンでかけてみるから」
♪妹恋のテーマ
どこかにはあるな、ただ微妙に音が反響してどこから鳴っているのかわかりにくい。
「あ、曲なったわ」
「よかったー 色々忙しくて夜まで帰れないけど、あるのがわかればそれでいいや、ありがと」
『ありがと』・・・・・・か、あんまり素直にお礼言われるとまた『どっか行っちまうのか』って不安になるぜ。
「探さなくていいのか?」
「うん。勉強の邪魔してごめんね」
『ごめんね』か。なんか最近すげえ自然に会話できてんな、俺達。
・・・・・・なに言ってんだ俺は、あーあバカくせぇ妹と普通に会話しただけで喜んじゃう兄ってなんだよ。
携帯はどうせソファーのクッションに埋れているか隙間にはいったかしたんだろうさ。
気が向いたら探してやろう。
さて、夜まで誰もいないわけだ。と、なれば……
「さーて勉強すっか!」
なんとはなしにリビングで教科書をひらく。
麦茶も飲みやすいし、テレビも見られる。快適だねえ。親も桐乃もいない、なんてのは久しぶりだ。
クーラーない俺の部屋とは雲泥の差だね。
つまらない選択肢? こんなもんじゃねーか? 勉強もはかどるし何の問題があるってんだ。
――勉強邪魔してごめんね――
はいはい勉強がんばりますよっと。
♪マスケラのテーマ
おぉっと。焦った……
それなりに集中していた俺は飛び上がるほどではないが、見られてみっともない程度には驚いた。
だれも見ちゃいないけどよ。
これって黒猫だよな
メールなのかすぐに音が止む。
新しい学校でも相変わらずなのだろうか?
孤立してなきゃいいがなぁ
♪ハットリくんのオープニング
バジーナ……せめてガンダムとかにしてやれよ。
そういえば最近すこし疎遠になっちまったな。よく相談にのってくれたのによ。
お前のアドバイスは大体ちょっと的外れなのに効果テキ面だったぜ。いろんな意味で。
二人からメールがあるってことはなんらかの集まりでもあるのだろうか。
もっとも、あの二人ならアイフォンのアドレスもしってるだろ。
本当に急ぎだったらそっちにもメール送るはずだしな。
一時間ほど勉強したあとであろうか、俺が麦茶を飲んでいるとまた新しい曲が流れてきた。
♪世にも奇妙な物語のテーマ
ブッーー!
……ゲフッゲフッ まさか、あやせか。あやせなのか?
だとするとひどくね?
・・・・・・まあ『本人がいるところでは鳴らないの』が着メロとか着うたの面白いところかもしれんが。
だからってなあ、まあ気持ちはわからんでもないが・・・・・・
多分以前は違う音楽だったんだろうよ、目頭が熱くなるぜ。
俺だったら・・・・・・エクソシストとか?
本人の前で聞かれたら死んじゃうからなんかもう少し天使っぽい曲にしよう。
ほら、エヴァとかさ。
あやせにはちゃんとお礼とお詫びしないとな。
どうもあいつを目の前にすると調子がおかしくなっちまう。
というか、こいつ『一人一人別の曲』にしてんのか。
選曲はともかく友達を大切にしてるのがよくわかる。
万年『マナーモード』の俺とはエライ違いだ。
そしてまたしばらく後。
今のところ勉強を中断するのは桐乃の携帯が鳴った直後だけだ、
♪メルルのテーマ
加奈子かな?
……ダジャレじゃないぞ。
アイツはいまは何してんだろね。
基本いい奴なんだが、あいつ態度悪りぃからなぁ。
誤解されて事務所から煙たがられないといいが。
あ、もしかして今俺上手いこといった? うんうん、未成年の喫煙はよくないな。
♪マスケラのテーマ
また黒猫か。んですぐ切れる。
反応がなかったから確認メールでも送ったのかね。
この分なら緊急の要件とかじゃなさそうだ。
もしかしたらアイフォンは仕事中で電源落としてるのかもしれないけど。
♪アニメ版カイジのop
ちょっと何の曲か思い出すのに時間かかったぜ・・・・・カバーだし。
まー賭博的な意味で絶対フェイトさんだろうな。
また金に困ってなきゃいいが。あの人天性のクズだし。
・・・・・・ってコール長えよ!
留守電に切り替わらないのか?桐乃の携帯。
……腹すかせてんのかな。電話したほうがいい、とか?
まあ、何度かしつこくコールあったら俺から連絡してやろう。
餓死とかされたら夢見が悪い。
♪???
ワンツーマッスル!ワンツーマッスル!
兄貴ィィィィィィ(金切り声)
・・・・・・な、なんだこの曲……
・・・・・・なんだこの曲!……
なんかのアニメか?……まあ赤城んとこの妹だろうぜ。
あんまり腐ったの桐乃に見せないでほしいなぁ……
♪ダースベーダーのテーマ
お?これは判断が難しい。
親父とか、あやせとか、バジーナとか。
あやせ、バジーナは既に可能性濃厚な曲が出てるし。親父は仕事中だろう。
まあ知らない誰かから電話があったっておかしくない。
知ってる範囲で可能性があるとすれば、出版関係とか、アニメ関係かもな。
ぷーりんさんとかなら俺もこんな曲設定するかもしれん。
その後もこまめに携帯はなり続ける。
桐乃の交友関係は多岐に渡るようで俺が把握してるのなんてごくわずかだが、イントロで誰かを想像するのは楽しかった。
答え合わせが出来ないのがつらいけどな。
ん?、答えって一人確実にわかるじゃねーか。
たいして考えもなく俺は桐乃に電話をかける
ガラケーはこっちだよな……っと。
「ただいまー、あれ?あんたここで勉強してたの?」
「ああちょっとな」
「リビングに電気ついてたからお母さんかえってきたのかとおもった。……って、なにニヤついてんの」
まあまあ、睨むなって。
「いゃあ、お前が俺の電話ワンコールで出る理由わかったわ、恥ずかしいなら、あんなのにしなけりゃいいのによ、フヒヒ」
「べ、べつにワンコールでなんてでででてないじゃん、あ、あんた、も、もしかして電話かけたの?」
はいもしかしますぅ
「ちょっと携帯探してやろうと思ってよ。知らない曲だけど素敵な曲だったな」
桐乃は相変わらずこういうシチュエーションに弱い。
目を見開いて硬直している妹をしばらく待つことにした。
「はっ!・・・・・・べ、べつに適当に選んだだけだつーの、なに意識しちゃってんの、きもーい」
「そうかい」
お前は適当に着うたとか購入して個別に設定しちゃうワケね。ハイハイ。
何の曲だって? それは秘密だ。
桐乃はワンコールででるほど恥ずかしがるが、もう本当に普通のラブソングだったぜ。
べつにヤバイような音声だったり、兄妹をイメージさせるもんでもなかった。
誰に聞かれても何とも思われないそんな曲だ。
もちろんアニメやエロゲーとかそういった曲でもない、流行歌といわれる類のもんだよ。
ちょっと古いけどな。
正直拍子抜けしたのは認めよう。俺の妹が普通であったことなど記憶にないからな。
だけどその普通が、妙にくすぐったくて、嬉しかった。
既にみつけてある桐乃の携帯を渡す。
あぁそうそう、携帯をみつけて、ひとつ発見したことがあるんだ。
プリクラの上からネイルなんかにつかうトップコートってあるだろ?
あれがかなりの厚みで塗ってあって厳重に保護されててよ、大切に、本当に大切にされてるような気持ちになって。
俺はまたくすぐったくなった。
「な、中はみてないよね?」
「さすがにな。興味はあるけど」
「・・・・・・こ、このシスコン!」
「なんすか、妹様」
こいつは友達も親も仕事仲間も大切にしている。それが改めてわかったぜ。
そしてずっと大嫌いで、その、あれだ、自惚れていいなら最近嫌いじゃなくなった俺のことも本当に大切にしてくれている。
「ッ! コノ・・・・・・開きなおんな! バーカ」
んべっとベロを出す桐乃がたまらなくらく愛おしい。
こいつの友達や仕事仲間も桐乃のことを愛おしく思ってくれているだろう。
ただ電話が鳴った。それだけのことだがなんとなく俺はそう感じていた。
そうそう、ついさっきのことだが、俺は生まれてはじめて着うたってやつを設定した。
俺の一番好きな曲。初めて設定するんだから当然だ。
ん? 何の曲だって? 俺以外の人間には別になんてことはない流行歌だぜ? 興味ないだろ。
……おっと、忘れてた。
俺は携帯を持ちはじめてから初めて、『マナーモードをオフ』にした。
次にこいつから電話がかかってくる時が楽しみだ。
俺は不思議そうな顔をしている桐乃をみながらそう思った。
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最終更新:2011年05月30日 06:23