319 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/06/01(水) 14:25:03.46 ID:3wEbZf+90 [2/5]
SS『五更家の姉妹』
あたらしい家に移ってから、高坂くんとその妹さんが遊びに来る事が多くなった。
「日向ちゃんー、珠希ちゃんー、こんにちはー!!!」
「あ、はーい!」
高坂くんの妹さん、桐乃さん。
ルリ姉はビッチなんて呼んでるけど、とっても綺麗な人で、正直ルリ姉の何倍もカッコいい。
だってルリ姉、素材は良いけどいつもヘンな格好してるもんね!
あたしとしては、なんでこんなモデルみたいな人がルリ姉の友達やってるのか疑問でしょうがない。
「おっ、日向ちゃん。こんにちは」
高坂くん。ルリ姉の彼氏らしいけど、信じらんない。だって、あのルリ姉だよ?
あんなヘンな事ばかりしてるルリ姉に、やさしそうでちょっとイケメンな彼氏とか、
天地がひっくり返ってもありえないと思ってたし。
「高坂くん、桐乃さん、こんにちはー」
「黒猫は?」
「ちょっと買い物。上がって待っててって」
「あいつったら、あたしたちが来る事わかってんのに何やってんのよ」
「まあ、そう言うなよ。とりあえず上がろうぜ?」
「おっけー」
高坂くんと桐乃さんって、ほんっと仲良いよね。
普通、年の近い兄弟姉妹って、もっと難しい気がするんだけど・・・
それとも、男同士や女同士とは、兄と妹の関係って違うのかなー?
「日向ちゃんっ!!!珠希ちゃんはっ!?どこー!?」
「ひっ・・・え、えと、お茶の間に・・・」
「行ってくる!」
・・・ううん、多分桐乃さんも普通じゃないから・・・だよね?
「ごめんな、日向ちゃん。あいつ、珠希ちゃんのこと無茶苦茶気に入ってるみたいでさ」
「あ、あはは・・・ま、まあ以前来た時の惨状からわかってるよ」
「まあ、でも仕方ねーよなー。珠希ちゃん、確かに可愛いもんなー」
「・・・ロリコン?」
「ロリコンじゃねえっ!」
「冗談だよ。あたしから見ても、珠希って可愛いもんねー」
「ああ、そうだな。桐乃が暴走するわけだぜ・・・ったく」
あれー?なんか高坂くん寂しそう?実は本当にロリコンだったとか?
・・・さすがにルリ姉と付き合うくらいだし、違うか。
「それにしても、あのまま放っておいたらやばいぜ?」
「そうだね、珠希を助けにいこっか!」
「おうっ!」
お茶の間にたどり着いたあたしが目撃したのは、顔をだらしなく緩ませて、
嫌がる珠希に頬ずりしてる『ビッチさん』の姿だった・・・
やっぱ、ルリ姉の友達してるだけあるよね。
「あーーー可愛いぃーーー!珠希ちゃんー、後で一緒にお風呂入ろうねーフヒッ」
「お、おねえちゃん、おにぃちゃん・・・たすけて・・・」
「桐乃、珠希ちゃん嫌がってるぞ?」
「えっ、ま、マジ!?」
「マジだ」
桐乃さんは、珠希が嫌がってる事すら気がついてなかったみたい・・・
「珠希、大丈夫?」
「はい・・・こわかった・・・」
「よしよし、あたしがそばに居るからね」
「はい・・・」
ふと桐乃さんの方を向くと、結構ショックを受けてるみたいで、
見るからに落ち込んでしまってた。
「桐乃、大丈夫か?」
「うん・・・あたしって、そんな怖かった?」
「いや、怖かったっつーか、キモかった?」
「・・・」
「いやっ!俺は可愛いと思ってるぞ!ただ、子供相手にアレはねーだろ」
「ん、わかった。それにしても珠希ちゃん、マジ可愛いーーー!」
あれ?一瞬で機嫌が治った。
ま、いっか。
「珠希。ビッチさんもね、珠希のこといじめたいわけじゃなくって、
珠希のこと可愛がりたいだけだから許してあげてね」
「はい、わかりました」
うん。確かに可愛いよねー。
あたしも『オタク』ってのになってたら、桐乃さんみたいに気持ち悪い事してたのかな?
そう思うと、ルリ姉の交友関係が暗黒物質のように思えて・・・ってルリ姉みたいな言い方っ!
「それにしても、あいつ遅いねー」
「そうだな。家に着いてから10分くらいは経ってるよな」
ほんと、ルリ姉遅いんだから。
一体何をしてるんだか。そう思った瞬間
プルルル・・・プルルル・・・
「あ、電話。ちょっと出てくるね」
あたしは茶の間を出て廊下に向かい、すぐに電話に出る。
「はい、五更です」
「日向?」
「ルリ姉?」
ルリ姉、なんで電話?
・・・なんかものすごーく嫌な予感が。
「日向。あなたの偽りの姉が、混沌の儀式のため現世へと転生できないと伝えて頂戴」
「・・・・・・・・・」
ま、また出た・・・ルリ姉のダメなところ・・・
何言ってるのかわかんないし。ていうか考えたくないし。
「んっふ。所詮人間風情には我が言霊を理解することなど」
「・・・バーゲンセールで買い込むために、すぐには帰れない、でいいの?」
「・・・ええ、人間の言葉にするとそうなるわね」
分かってしまう自分がイヤすぎる・・・
ルリ姉も、もう高校生なんだから、そういうの卒業してよね。
「・・・それと、ごめんなさいって」
「わかった。伝えとく」
「それじゃあお願いね。それと―――」
予想通り、ルリ姉は帰ってこれなくなっていた。
うちはそれほど裕福じゃないし、ルリ姉は、家事もだいぶお母さんの代わりにしているから、
結構こういった、ルリ姉がすぐには帰って来れない事はある。ただ、タイミングが悪いなー
その後も、家事に関する細々とした指示を聞いて、やっと電話を切ることができた。
それにしたって、意外と電話で時間をかけてしまった。
珠希は大丈夫かな、と思いながら(高坂くんも居るし、大丈夫だよね?)
あたしは茶の間のドアを大きく開けようとした。
「ぁ・・・」
珠希は、いつの間にか、疲れて眠ってしまっていた。
ううん、そうじゃない。そんな事が問題なんじゃなくって・・・
疲れて、桐乃さんのひざに頭をのせて眠ってしまっていた珠希。
その横で、肩を寄せるように座っている、高坂くんと桐乃さん・・・
さっきまでと違って、優しそうに微笑んで、でも『お互い』見つめ合ってるわけじゃない。
幸せそうに『二人で』珠希の頭を撫でて・・・『二人で』珠希を見つめて・・・
お父さん、お母さん・・・
気がつくと、あたしは胸が苦しくなって、切なくなって、
泣きそうな気分になってしまっていた。
あたしは、お父さんとお母さんにもっと甘えていたかったのかな?
今の珠希みたいに、お母さんにひざまくらして欲しかったのかな・・・?
それだけじゃない。胸を刺すような強い痛み。
そっか・・・お姉ちゃん。もう、高坂くんの恋人じゃないんだ・・・
なんとなく、なんとなくだけど分かってしまった。
・・・もう、おにいちゃんって呼ぶ事も、ないんだ。
引越しをしてからこれまでの事を思い出してしまう。
・・・お姉ちゃんは・・・
―――何で、『普通に』してられるの?―――
あたしは、居たたまれなくなって、部屋から離れる。
高坂くんも、桐乃さんも、ルリ姉の『友達』なんだ。
それも、きっと、とっても大切な、大切な。
だから、あたしは・・・こんな顔をしているあたしは、顔を合わせられないよ。
あたしは、部屋に戻り、押入れの布団に突っ伏す。
目から何かがあふれてきたけど、もう、気にならない。
それに・・・一つ、素晴らしい事も発見できたんだ。
ルリ姉は・・・あたしのお姉ちゃんは
あたしが思ってるより、ずっと強くて、ずっと素敵な人なんだって。
End.
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最終更新:2011年06月03日 14:27