320 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/06/05(日) 20:53:35.31 ID:w7Po/tI20 [2/2]
SS『名前』
とある日曜日のこと
久しぶりに沙織と黒猫が遊びに来ると言う事で、
俺たちはその準備をしていたのだが・・・
「そういえばさ、子供出来たら名前どうする?」
「ブッ!?」
い、いきなり何を言い出しやがる!?こいつは!?
何の脈絡もねーだろ!?
「お、お前な、いくらなんでも気が早すぎるだろっ!」
「って事は、あんたも子供を作る気が有るって事じゃん」
「ぐっ・・・だ、だけどよ・・・」
ま、まぁ、桐乃とは彼氏彼女の関係を長く続けてるしよ、
彼氏彼女ならやりそうな事は一通り済ませちまってるのも事実なんだけどよ?
だからよ、当然っつーか、その先の事まで考えちまうんだよな、これが。
想像してみろよ。桐乃の子供だぜ?
女の子なら超絶美人だろうし、男の子でもぜってーイケメンだろ?
そのうえ努力家で器量良し。そのうえ可愛らしい!
・・・ところで、俺の血が混ざる事については触れないでくれ。
何にしても、愛する人の子供だぜ?欲しくないわけねーだろ?
でもよ、まだ俺たち学生だぜ?
いつかは子供を作るにしても、まださすがに気が早すぎるだろ?
「わかってる。あたしたち、まだ何も出来ないから、子供は作れないって事くらい」
「そうだな。わかってるなら―――」
「でも、名前くらい今のうちに決めててもいいじゃん?」
な、なるほど、今子供が欲しいんじゃなくて、子供の名前を決めたいって事か。
・・・まあ、無駄ってわけじゃないよな。
将来を見据えていくためには、そういった事も考えてみると、現実味が増すよな。
「わかったぜ。名前、考えてみようぜ?」
「うんっ!」
桐乃は直視することすら難しいくらいの笑顔を俺に見せてくれる。
そんなに嬉しいことなのか?・・・いや・・・
そうだな、具体的に将来を一緒に考えていけるんだ。とても嬉しいことだよな。
「で、何か考えてみたのかよ?」
「え、えっと・・・」
「思いつきだったのかよ・・・」
「う、うっさい!あんたも考える!」
ま、まぁ、しゃーねーな。
可愛い妹様の頼みだ。考えてやろうじゃないか。
名前名前っと・・・・・・・・・!?
「ぜ、全然かんがえつかねー・・・」
「でしょ?」
「い、いや、一応頭の中に名前は出てくるんだけどよ、
知り合いの名前とか有名人の名前とか、顔まで一緒に出てくるじゃねーか・・・」
「うん。あたしも・・・つい、あやせとか加奈子とか沙織とか、
知り合いの名前ばっかり浮かんじゃう」
い、意外と難しいのな、名前付けるのって・・・
あー、名前を紙に何度も書いては捨てるって、アニメかドラマで見たっけか?
今までギャグにしか思ってなかったけどよ・・・難しいよな・・・
「そういや、俺たちの名前、親父達はどうやって付けたんだろうな?」
「う~ん・・・聞いてみる?」
「いや・・・」
聞いてみたい気もするけどよ、あの親父の事だ、早とちりして暴走する危険があるのがな。
つか、お袋なら大丈夫かなー・・・
「そういえばさ、京介とお父さん。二人とも『介』の字がついてるよね」
「そうだな・・・桐乃とお袋も『乃』が共通だよな」
「そうだね。・・・それじゃ、そういう名前から考えてみる?」
「よし、そうしてみるか」
確かに、いい着目点かもしれない。
親の・・・俺たちの名前から一文字取ってみるってのも。
「それじゃ、女の子は・・・『理乃』・・・とか?」
「いや、それ、おまえの小説の主人公」
「そっか、そだよね・・・」
いや、悪くはねーよ?だけどなんつーか・・・
ああ、とりあえず男も考えてみっか。
『介』が付く名前だよな?
「男の子は、『龍之介』とかか?」
「あんた、それエロゲーの主人公じゃん」
「う・・・」
まさかのエロゲー主人公かよっ!
・・・俺も相当に毒されてるよな?
「じゃあ、逆に、あたしたちの名前を使って、『桐花』と『京一』とかはどう?」
「んー、悪くないんじゃね」
「何よ、その中途半端な態度」
「いや、良いと思うんだけどよ、何かしっくりこねーっつーか」
「そっか・・・実はあたしも・・・」
うーん、何でだ?特に悪い気もしないし、
俺たちの名前から普通に取っただけなのによ?
「・・・違うな。」
「えっ?」
「名前が悪いんじゃない。つーか、どんな名前でもしっくりこねー気がする」
「あたしも今、色々考えてさ、それこそ大好きなエロゲーの妹の名前も考えたんだけどさ」
考えたのかよ!
「やっぱり、どこか違うなーって気がするんだよね・・・何でだろ?」
やっぱそうだよな。
他にも色々良さそうな名前も思いついたけどよ、
何かがおかしいというか・・・
「そういえばさ、そもそも、名前ってなんで付けるのかな・・・?」
「は?・・・そりゃ、おまえ・・・」
言い出したものの、その先が続かなかった。
そうだ、そもそも何で、子供に名前をつけるのだろうか?
単純に識別のため?そりゃ、勿論、そういった意味もあるだろう。でも・・・
「あたしたち、さ、色々名前を考えたけど、
生まれてくる子供のこと、何も考えてなかったよね」
「そうだな・・・そうだったな」
名前はただの記号じゃない。
例えば俺が『桐乃』と言うとき、その名前には、
俺の妹で、生意気で、可愛くて、オタクで、意外とエッチな体をしていて、
そして・・・俺が世界で一番好きで、俺の事を世界で一番愛していてくれてる女。
という意味が込められてる。
子供に付けられた名前も、多分同じなんだろう。
その子がどうなるかはまだ分からない。
でも、その子がどう成長していくのか。どんな大人になっていくのか。
そういった、親の・・・俺たちの期待と希望を、この『名前』に込めるのだろうな・・・
「今、考えた事、言っても良いか?」
「ううん。言わなくていい・・・多分、同じ事考えたから・・・」
俺たちは、お互い向き合わず、だけど同じ所を見据えている。
見えないけれどもわかる。
そして、俺も・・・桐乃も、多分微笑んでいるんだろう。
「男の子だったらさ・・・」
桐乃が言う。
「たぶん、京介に似て、みんなのことを大事にする、優しい子になるね」
「そうだな」
「でも、ちょっとエッチで、すぐ女の子にデレデレして・・・」
「だけど、お前に似て努力家で、俺よりちょっとイケメンだな」
「うん・・・」
ああ、そうだな。
俺は、俺の子供が、こんなになってくれたら良いなって考えてるんだな。
その輪郭がはっきりするに従って、今まで考えてきた一つ一つの名前を、
これまでとは異なった感触でとらえる事が出来る。
今なら、子供につける名前が、しっかりと決められそうな気がする。
それに―――
「もし、女の子ならさ・・・」
「うん」
「おまえに似てもの凄く可愛くて、友達や家族をとても大切にして・・・」
「う、うん」
桐乃と、どっちが可愛いんだろうな・・・
「少し寂しがりやで、でも、誰にも負けない強い気持ちをもって・・・」
「そして、京介みたいなエロゲーマーかもっ!」
「エロゲーマーかよっ!」
おいおい、そもそもそれは、おまえに似てるところだろ?
・・・ってのも無粋だよな。
「ふふっ」
「はははっ」
お互い、なんとなく笑みがこぼれてしまう。
兄妹の間の空気とも、恋人間の空気とも違う。
「やっぱり、あたしたちに似るんだね」
「そうだな。俺とおまえの子供たちだろ?絶対に良い子に育ってくれるさ」
「うん、京介・・・愛してる・・・」
俺たちは、どちらからともなく近づき―――
「そ、その~・・・非常に良い雰囲気の所申し訳ないのでござるが~・・・」
!!!?
「さ、沙織っ!?」
「黒猫もっ!?」
み、見られてたっ!?つか、いつからだよっ!?
「んっふ、さすがビッチ兄妹ね。空間全部がピンク色に染まっているのが観えたわ」
「だいぶ前から見ておりましたが、いやはや・・・魔眼の力をもたぬ拙者にも、
ピンク色のオーラがそこかしこから吹き上がっているのが見えましたぞ?」
だ、だいぶ前・・・だと・・・!?
「ぐ、具体的には・・・?」
「『子供を作る気が有るって事じゃん』あたりからね」
「だ、だれか、あたしを殺してっ!今すぐっ!!!」
桐乃は恥ずかしさのあまり、悶え苦しんでしまっている。
「つーか、ほとんど始めからじゃねーか!」
「いやー、お二人ともお互いに夢中でして、拙者たちの事に全然気が付かないでござったよ」
「ククク・・・子作り相談まで進んでるとはね。兄さんの事見直したわ♪」
ギャーーーーーーー!!!
お、俺も死にてーーーーっ!!!
結局、その後もずっとからかわれ続けて、解放された時には、
俺も桐乃も半死半生の体たらくだったのさっ!
でも・・・
この日の会話のおかげで、また一歩、未来に向かって踏み出せた気がしている。
桐乃と・・・また一歩、夫婦に近づいている気がしている。
そして、これからも桐乃と二人、周囲の人の助けも借りながら一歩一歩進んでいくんだろう。
何しろ、俺はこう思ってしまっているんだからな
―――俺の妹はこんなに愛しい―――
ってな!
End.
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最終更新:2011年06月07日 14:36