717 名前:SS[sage] 投稿日:2011/06/07(火) 23:34:03.20 ID:UaXmxerF0

【雨の日】



 学校からの帰り道。急な大雨の中を、俺は必死に走っていた。
 道行く人たちの視線が、ちょっとくすぐったい。

「京介、今日は夕方から雨が降るらしいから、ちゃんと傘持ってくのよ?」
「へいへい。 大丈夫だっつの」

 ガキじゃあるまいし―――そんな遣り取りが、今朝あったかもしれない。今となってはどうでもいいが。
 もう、こんなズブ濡れなんだ。お袋にはイヤミのひとつも言われるだろうさ。

 足取りが重いのは、決して雨に濡れた靴が重いというだけではなかった。だが、決して悪い気分でもない。

 指差して楽しそうに俺を嘲笑う誰かさんの顔が浮かんできたところで、ドザーっと冗談だと思いたくなる
 音を立てて、さらに雨脚が強くなってきた。

 ………なんだこりゃ。たとえ台風にしたってこれはないだろう。よりにもよって傘の無い日に!
 ていうか、なんで警報出てないの!?通学しちゃダメだろこれは!何やってんだ気象庁!?

「うおおおおぉおォ…………―――――――!!」

 たまらず、近くの軒下に走り込む。
 勢い余って、膝もとまで下りたガレージに軽く頭をぶつけてしまった。
 額に張り付いた前髪をあげ、おでこをスリスリと擦っていたところに、

「なにやってんの、あんた」

 そう声をかけられた。
 ビックリして声の主を確認すると、間違いなく桐乃だった。
 そして妹は、俺同様の濡れ鼠だった。

「なにって………見りゃわかるだろ。 おまえと同じだよ」
「え? あんた今朝、傘持ってたじゃん」
「―――あぁ―――なんだ、その…………」

 ちょっと照れくさくて、ポリポリと頭をかく。

「……色々あって……つまり、学校に忘れてきた」
「…………………ふぅん」

 あれ?
 てっきりお決まりの「バカじゃん」が帰ってくると思ったんだが、桐乃はそれ以上何も言わなかった。
 それどころか、

「ほら、じっとして」
「は? なんだよ?」
「拭いてあげるから、じっとしてなさいって言ってんの。 風邪ひくでしょ」

 そう言って、桐乃は手に持ったタオルを俺の顔や髪に当て、せっせと拭いてくれる。
 心配そうに。
 いつか、階段で転んだ俺を手当てしてくれた時のように。

 距離が近いからか、そんな甲斐甲斐しい桐乃の顔をじっと見てしまう。
 しっとりと濡れた髪が、端正な顔にぴったりと張り付いていた。メイクが落ちて普段より幾分幼く見える
 はずなのに、桐乃は妙に色っぽい。
 水も滴る―――そんな言葉がぴったりだ。
 やっぱりこいつは、化粧なんてしない方が……………可愛い。

 桐乃に体を拭かれている、ちょっとの間。
 俺はそんなバカみたいなことを考えていた。





「はい、おしまい」

 うむ、と納得した様子で桐乃が頷く。
 
「感謝しなさいよ。 こんな優しくて、ちょうカワイイ妹がいてさ。 シスコンのあんたには最高のご褒美
 なんだからね」
「へっ。 なに言ってんだか。 ……ありがとな、桐乃」

 どういたしまして……と、いつかのような返事はなかった。別に期待なんかしちゃいないさ。
 でも、またあの時のように、素直に感謝し合える日が来るだろうか。またあんな桐乃の笑顔を見る事が出
 来る日が。
 早くそんな日が来ればいいと、願わなくもない。

 桐乃の濡れた髪に触れ、頭を撫でる様にしてやる。くすぐったかったのか、妹は一瞬笑ったように見えた
 が、直後にはむっと唇を尖らせた。

「もう……やめろっての」
「っと……悪りぃ」
「あんた、最近あたしにセクハラしすぎ!」
「どこがセクハラだよ! 頭撫でただけだろ!?」
「だから、普通の女の子はイキナリ髪触られたら怒るから」
「……なんだそりゃ。 俺たちは兄妹だろうが」
「現実に兄に頭撫でられて喜ぶ妹がいるかっての! あんた、あたしを二次元の妹ちゃんと同じだと思って
 んじゃないの?」
「んなわけねーだろ!? おまえなんて、黒猫の妹に会ったときは完全に変質者だったろうが!」

 よみがえる、あの日の悪夢。怯える日向ちゃんと、状況が分からずに、はしゃぐ瑞希ちゃん。
 そして戦慄に震える黒猫―――。

『くっ……予想以上だわ。我が全盛をもっても、止められるか――!?いえ、必ず、この命に代えても!』

 そりゃ命がけだろうさ。あの台詞は掛け値なしの本心だろう。

「しょ、しょーがないじゃん! ヒナちゃんタマちゃんが可愛すぎるからいけないの!
 あたしは絶対悪くない!!」

 開き直りやがった。
 ムキ―!と地団駄を踏む桐乃。
 面白いので調子に乗ってからかってやる。

「へっ、やっぱおまえ、二次元と三次元の区別できてねーんじゃねえの? あーキモいキモい」
「か、こ、こんの……!!」

 おおきく振りかぶって―――桐乃は俺に平手打ちを喰らわせようとする。
 予想の範疇だ。
 俺がなんなく避けると、雨のせいか足を滑らせた桐乃が倒れそうになった。

「きゃっ!?」
「――桐乃!!」






 桐乃を庇うように下敷きになった結果、俺の背中は雨に濡れたアスファルトのせいで、ぐっちょりと
 濡れてしまった。なのに痛みを感じる逆側――地面とは打って変わった柔らかさに、体が動かない。

「う………ぁ………」
「……っ……………」

 相反する、強烈な二つの感触のせいか、思考が働こうとしない。
 それは、ビックリした顔のまま、林檎のように赤く染まった桐乃も同じだったのだろうか。
 俺たちはそのまま、どのくらいか分からない時間を過ごした。……やがて、目をギュッと、唇をきつく
 噛みしめた桐乃が立ち上がるまで。

「だ、大丈夫?」
「……あ、ああ。 大丈夫だ」

 桐乃が差し出してくれた手につかまる。しっとりと濡れた手もまた、柔らかく、暖かかった。
 立ち上がって声をかけようとしたところで―――

「…………あ」
「! や、やだ!」

 桐乃の制服がびっしょりと濡れて、下着が透けているのに気付いてしまった。
 細いのに、出るところは出たその造形がくっきりと分かってしまう。
 慌てて目を逸らした。

「わ、悪りぃ!」
「…………もう、もう…………!!」
「ほら、これ着てろ!」

 俺は急いで上着を脱ぎ、桐乃に差し出す。当然ぐしょぐちょだが、そういう問題ではない。
 風邪をひく可能性もないではないが、そういう問題でもない。

「は? で、でもアンタ……」
「いいから! 誰かに見られたら最悪だ! 頼むから着てくれ!!」
「ん……わ、わかった……」

 桐乃はしぶしぶながらも承諾してくれた。
 俺の制服だからブカブカだし、桐乃の制服ともデザインが合わないから、けっこうカッコ悪い。
 モデルのこいつには、ちょっとキツイ注文だったかもしれないな。

「あ~……なんかダサい……」
「わ、悪かったな」
「……でも……………あったかい、かも………」
「え?」
「な、なんでもない………」






 それから俺たちは、何分か軒下でボーっと過ごしていた。
 その間、桐乃にタオルを借りて体を拭いたりしたが、特に会話も無く、ただ雨が上がるのを待つだけだった。

「…………ねぇ」
「あん?」
「さ、さっきの続きだけどさ」

 さっきの……ああ。二次元と三次元の妹は~って話か。

「やっぱさ、現実は二次元とはちがうじゃん? だから、頭撫でたりとか、す、スキンシップ、とか……
 そういうの、おかしいと思うんだよね」
「いや、スキンシップって……!?」

 ……いつ俺たちの間にそんなヤバい事が起きたんだ。いや、さっきのアレは事故だぞ!?この前のアレとか
 ソレとかもな!

「あと、プリクラ張ったり……ま、待ち受けとかも」
「……まぁ……それは」

 おかしいよなぁ。わかり切った話だが。

 ちなみに内緒だが、未だに俺の携帯には見えないところに、例のツーショットプリクラが張ってある。
 待ち受けは流石に変えさせられた。画像は残してある。
 ああ………………うん。こりゃ、おかしいわ。

「と、とにかく!! あんまべたべたすんなってこと!」
「な!? 別にべたべたなんて……!?」
「してるから! 兄妹でこんな…………やっぱ、ヘンだよ……」
「………むぅ」

 それは……そうかもしれない。
 一般的な思春期の兄妹ってのは、やっぱお互い触れあったりはしないだろうさ。キモイとかウゲー、みた
 いな反応の方が、むしろ真っ当かもしれない。
 間違っても、ツーショットプリクラを携帯に張ったり、お互いの写真を待ち受け画像にしたりはしないだろう。
 確かにヘンだ。妹と仲良くなろうと焦って、俺がやりすぎたってのもある。

 でも、多分、桐乃が言いたい事はきっと、そういう事じゃなくて……。

「……なあ。 やっぱ、おまえは俺の事、嫌いなのか?」
「………」

 桐乃は下を向いて、答えない。
 沈黙は肯定、なのだろうか。

『兄貴なんて大っ嫌い―――』

 夏の日の叫びが、頭の中でリフレインした。
 ……響くたび、胸が痛む。心臓に釘を打たれるように、少しずつ。深く。

「………あんたは?」
「え?」
「あんた、あたしのこと、嫌いなんでしょ?」
「な、なに言って………」

 そんなの――決まってんじゃねぇか。
 俺が、お前をどう思っているかなんて。
 ……………………。

「おぉ~~~っ! 桐乃みっけ~~~~!!」

 ドキッとして、乱入者に目を向ける。
 ツインテールの小柄な少女――加奈子だった。その後ろからあやせもついてくる。
 
「あれ。 あやせと加奈子、どうしたの?」
「やー、加奈子はマジだりぃからヤダっつったんだけどなー。 あやせがどうしても桐乃に傘渡しに行くって
 しつこくってさー。 あとでなんか奢れよー?」
「加奈子? わたし達、友達でしょ? どうしてそんなこと言うのかなぁ……?」
「いいって、いいって! ありがとね、二人とも。 マジ感謝してるから」
「む……まぁ、桐乃がそう言うなら」

 あやせが顔をほころばせる。
 危険なスイッチが入りかけたようだったが、桐乃が間に入ったことで発作には至らなかったらしい。

「つか桐乃、なんだよその格好! マジありえねーくらいダサいんですけどー?」
「あ、ああ。 これね。 これは……」

 そこで桐乃がちらっとこちらを見る。加奈子はようやく俺の存在に気付いてくれたらしい。
 どんだけ俺は眼中にないんだろう。ちょっぴり悲しい。

「よ、よう。 久しぶり」
「ん? あれぇ。 こないだの桐乃の彼氏じゃん」

「「「…………へ?」」」

 桐乃とあやせと、そして俺の声が見事にハモった。

 ぎゃあ! 忘れてた! こいつには桐乃とのデートを見られてたんだった!
 桐乃も忘れていたんだろう。口をパクパクさせて驚いている。

「…………へぇ。 どういうことか、説明していただけますかね? お兄さムグぅ!?」

 素早くあやせの口をふさいで肩を握りしめる。うおおおおおおぉ危ねぇ!?
 ばっか野郎あやせ! 加奈子に兄妹でデートしてた事がバレちゃうじゃねぇか!!
 間違っても「お兄さん」なんて口にするなよな!
 いや、事情を説明すればいいんだけど、とりあえず無用な誤解は避けたい!
 にしてもなんで加奈子も俺を覚えてんだよ!? 興味無い奴の顔は覚えないんじゃなかったの!?

「あ、あとで説明するから、ちょっと黙ってろ。 な!?」
「むーーー!? むぐぅーー!!」

 暴れるあやせの肩に手を回して、動きを抑える。
 ――はぁ。はぁ。はあ………。別に心の声じゃなく、マジで焦ってたので息が荒い。
 ……あやせの髪から爽やかな香りがする。

「あやせから離れろ! この変態っ!!」

 ガツン!背中に衝撃。桐乃の奴がけりを入れてきやがった。
 綺麗にはいったので、ちょっと呼吸が出来なくなる。蹴られたところを押さえて抗議した。

「っぉ……はっ……いてーな! なにすんだ!」
「トボケんな変態! さっきからあ、あやせを抱きしめてハァハァしてたくせにっ!!」
「ハァハァなんてしてねーよ!!」

 ちょっとだけしか! あと別に抱きしめてたわけでもないから!

「あやせ、大丈夫!?」
「ぅうっ……桐乃ぉ……」

 桐乃があやせを抱きしめる。
 あやせは桐乃の肩に抱きついて、真っ赤な顔でぐしゅっと鼻を鳴らした。

「うへぇ。 桐乃の彼氏、マジ最悪ってか変態じゃん。 ケーサツ呼んだ方がよくね?」

 違うんだ!誤解なんだ!と加奈子を見るが、ずざりと引かれてしまった。
 時、既に遅し………自分の迂闊な行動が恨めしい。
 ……これで晴れて知り合いの女子中学生2人から変態のレッテルを張られたわけか。チクショウ。

「大丈夫だよ、あやせ。 あたしがついてるから。 ね?」
「……うん……ごめんね、桐乃。 ありがとう」

 うぅ……完全に悪者だ。どうしてこうなった……。

「……なんつーか……。 桐乃ってなんでコイツと付き合ってんの? 信じらんねー」

 グサリグサリと心に突き刺さる女子中学生の言葉。

「はぁ!? こんなのと付き合ってるわけないでしょ!?」
「え? だって前は彼氏彼女だって言ってたじゃん」
「そ、それは……」
「それは?」
「…………今は、もう彼氏じゃないから」

 は? 今こいつ………なんて言った?
 『今は』って……おいおい。なんだそりゃ。普通に誤魔化すとか、事情を説明するとかすればいいじゃん。
 なんでそんな……俺とお前が付き合ってたのに別れた、みたいな言い方を……。

「それに、京介は………今は、他に好きな娘が、いるから」
「ふ~ん……ま、加奈子ってば優しいから、あんまり詳しくは聞かないでおいてやんよ」
「あは。 ありがと、加奈子。 あたし、アンタのそういうとこ、大好き!」

 二ヒっと笑い、二人が爽やかにハイタッチした。
 ふと気付くと、あやせが桐乃を心配そうに見つめていた。自分も混ざりたかったのだろうか。置いてけぼり
 にされたみたいで、不安に思ったのかもしれない。 



「はい。 これ、桐乃の分の傘ね」
「ありがとー! マジ助かるよ~」

 あやせは帰宅途中、雨が降りだしたのを見て、桐乃が傘を持ってきてなかったのを思い出したらしい。
 それで加奈子とお茶してたのを切り上げて、わざわざ傘を買って来てくれたのだそうだ。
 本当にいい友達だ。兄として、彼女らには感謝せねばなるまい。
 …………ま、それはそれとして。
 大変美しい友情に水を差すようで、まことに恐縮だが……とりあえず。

「なぁ、ちょっといいか」
「うげ。 なんだよ、変態」
「(ぐっ……!)あ、あのさ……お前ら、どうして俺たちがここにいるって分かったの?」
「あ? そういや、なんでかな。 加奈子、あやせが『こっちで間違いないよー』とか言うのについてきて
 やっただけだかんなー」
「…………そうか。 ありがとう。 十分だ」
「お? そっか」

 背筋がぶるぶる震えているのは、決して上着を着てないからではない。
 しかし、俺は知っている。この世には知らない方がいい事もある、と。だから追及はやめよう。
 ………………あやせたん、マジ怖い。

「あの~、やっぱ俺の分の傘は無いんスかね?」

 気を取り直して問いかけると、あやせはきょとん、と可愛らしく目を見開き、直後、天使のような笑顔でこう
 言った。

「やだな~もう。 そんなのあるわけないじゃないですかー!」
「ハハハっ! ですよねー!」

 あやせさん、怒ってますもんねー!さっきの事とか、この前の事とか!
 日ごろの行いというものは、良くも悪くも本人に帰ってくるものである。

 ……あー……はやく雨やまないかなー……。
 天を見上げる。ここに駆けこんだときよりは大分マシな雨脚になっていた。

「………ちっ。 ホラ、傘持ちなさいよ」
「えっ?」

 桐乃があやせから受け取った傘を差し出してきた。

「バーカ。 折角あやせたちがお前のために持ってきてくれたんだから、お前が使えよ」
「……はぁ? なに言っちゃってんの?」
「え? 俺に傘使わせてくれるんじゃないの?」
「アホか! なんでアタシがアンタに傘譲ってあげなきゃいけないのよ!? 意味わかんない!」
「じゃあ、なんだよ?」
「だ、だぁからー………もう、なんでそんなバカなの!?」

 ……わけが分からないよ。俺にどうしろって言うのさ。
 助けを求めて視線を向けると、あやせと加奈子が何やらひそひそと話している。

「……うへぇ。 ありえなくね? つーかありえなくね?」
「あはは……まぁ……ああいう人だから」
「ん~? なんだよあやせ。 あいつの事、知ってたんか?」
「え? いや、そうじゃなくて、なんとなく、そうなんじゃないかなって」
「ふ~ん? ま、別にいっけどさー」
「……………お前ら、なにコソコソ話してんの?」
「「なんでもない」」
「?」

 はて。また何かやってしまったんだろうか。
 自意識過剰かもしれないが、なんとなく俺の事を話してたんじゃないかな、と思ってしまう。

 そこでバッ!と傘を広げる音がした。
 桐乃が傘を開いたまま、こっちに寄ってくる。
 ん、と俺に広げた傘を持つよう、促してきた。反射的に受け取ってしまう。
 桐乃は俺に身を寄せ、なんと傘を持つ俺の腕に、自分の腕を絡めてきた。

「お、おおお、おまえ! なにしてんの!?」
「うっさい! しょうがないでしょ! 傘狭いし! こうしないとアタシらのどっちかが濡れちゃうじゃん!」
「だからって……ほら! 友達の前だろうが!」
「二人はもう知ってるんだから、別にいいの」

 二人が何を知ってるって言うんだ!聞いた人が誤解するような事を言うんじゃねーよ!?
 ほら、あやせさん睨んでる!めっちゃ俺を睨んでるから!!
 だから腕を離しなさい!暖かいだろうが!俺が死ぬだろ!?

 …………いかん。落ち着くんだ俺。言ってる事がおかしいぞ。
 そうだ、これは以前の偽デートのときと同じ、そう思えば何の問題も無い……!

「よ、よし、帰るか、桐乃!」
「う、うん」

 あやせと加奈子に礼を言って、俺たちは歩きだした。
 桐乃と腕を組んで、相合傘のまま。

 後日、兄妹のラブラブ相合傘を目撃したご近所の奥様からお袋へのリークで、俺が酷い目に遭ったりもしたが、
 それはまた別の話である。







「………ふ~ん」
「どうかした、加奈子?」
「いんや~? 前会ったときは、なんつーか、恋人って感じじゃなかったんだけどさ―」
「え? なんの話?」
「なんでもない。 それよか、加奈子ハラへっちまったよ~。 今日付き合ってやったんだからさ、なんか
 奢ってくんね?」
「ふふっ。 もう、しょうがないなぁ。 じゃあ、さっきのカフェに、もう一回行こうか」
「あれ? いいのかよ?」
「いいの! なんだか私も安心したし、お腹空いちゃったから」
「ひひっ。 一番高いの頼んでやるかんな―」
「えー。 それはちょっと勘弁してよ―」






 FIN




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最終更新:2011年06月11日 19:39