423:名無しさん@お腹いっぱい。: 2011/06/15(水) 01:09:47.69 ID:THt4kK020
【SS】恋多き乙女・桐乃

「でさーあいつったらさー」

あたし―来栖加奈子はひさしぶりにダチの高坂桐乃、新垣あやせと会っていた。

夏休みっていっても加奈子はメルルのイベントで引っ張りだこだし、あやせは読モ、
桐乃は陸上と再開したらしい読モの仕事があるからけっこう急がしーんだよね。
ランちんなんてずっと連絡取れねーしよ。

だからさぁ、この三人で顔を合わすのも二週間ぶりくらいなんだよね。
そんなわけで加奈子も結構楽しみにしてたんだけどさぁ~

「ほんと、マジキモくない~?」

なんで延々1時間も桐乃のお兄さんの話聞かされなきゃなんねーの?

初めの10分くらいは懐かしさから聞いてやってたけどよー
さすがに今はもう飽きて、食べながら聞き流してるんだよね。

ったくよーこれ以上おなかぷよぷよになったら桐乃のせいだかんな。

「へぇ、そんなことがあったんだ」

あやせはずっと笑顔で聞いてるけどさーあれぜってー目が笑ってねーよな。
あやせが加奈子を『おしおき』する時もあんな目してんだけどさぁ・・・・・・桐乃のお兄さん平気かな。

「それでね~、あいつをからかってやろうと思って偽者の彼氏をでっち上げて家に連れてきたんだけどさ~」

まだ続くのかヨ。今来たワッフル食ったら次は何にすっかなー。

ぱくっ もぐもぐ・・・・・・

はぁ~やっぱここのワッフルはうめーなー。

・・・・・・ん?桐乃の偽の彼氏?

なぜかそのフレーズが加奈子の頭に残った。

桐乃の彼氏ってーとどっかで聞いたことあんだよな。

「初めは気にしてない態度とって部屋に引っ込んだの。
 可愛い妹が彼氏連れてきてんのに一言もなしだなんてちょっとムカついたんだけどさ」

あぁそうだ!この間ブリジットと一緒の時に出会った奴じゃん!

「少ししたら帰ってきて、『俺より桐乃を大切にする奴じゃなきゃ認めねぇ』って偽彼氏に詰め寄ってんの。
 本当にマジシスコンだよね~。
 そもそもさ、あのバカ兄貴よりあたしを大切にできる奴なんているわけないじゃん?」

・・・・・・前から思ってたんだけどよぉ~桐乃って超ブラコンじゃね?でもさぁ、加奈子にもバレバレってさぁ・・・・・・

バギリッ

桐乃のお兄さん、マジやばくね?あとあやせの顔、目以外も笑ってねーんだけど。

「いえ、でもお兄さんがいる限り桐乃に彼氏ができる心配がないと考えると・・・・・・」

なんか隣からブツブツ聞こえてくっけどジュソとかじゃねーよな?

それにしてもさー確かに地味面すぎて桐乃にはあわねーって思ってたけどさ、もしかしてあいつって・・・・・・

「なぁ桐乃ぉその偽彼氏ってさぁ~もしかしてあの時一緒にいた地味面のヤツかよぉ~」

「え?」

「やっぱなー。加奈子、桐乃とあの地味面は彼氏じゃねーって思ってたんだよね」

「ふ、ふ~ん。確かにあいつは彼氏じゃないけどさ、どうしてそう思ったの?」

「どうしてっていわれても困るけどよ」

なんていうかイワカンってのがあったんだよね。
ブリジットみたいなお子様にはわかんなかったみてーだけどよ、ケイケンホウフな加奈子にはイチモクリョウゼンだってーの。
だってさ、桐乃と地味面の距離感て

「なんかさ、二人の温度差ってゆーやつ?あれがさ、加奈子と加奈子に寄ってくる男たちと一緒なんだよね」

「ねぇ加奈子。それってどういう意味?」

あれ?なんであやせがそんな顔でこっち見てんの?

「えっとー、加奈子に言い寄ってくる男たちってさー加奈子の事好きなんだけどさ、加奈子としては遊んであげてるだけなわけよ。
たしかに面白かったりカワイイって思ったりもすっけどさー、恋愛とは別って感じ?」

「ふ、ふ~ん、加奈子にはそう見えたんだ・・・・・・」

「それによー桐乃はあいつのこと好きだって言ったけどよ、あいつは桐乃のこと好きって言わなかったじゃん?
 桐乃も地味面もホンネを言ってたみたいだし、仲は良かったけどヨ、別に好き合ってるわけじゃねーんだなって」

「・・・・・・」

あれ?でもそれだと桐乃の片思いっつーことになんね?

「へぇ、桐乃そんな事言ったんだ」

あやせってばさっきからマジ怖いんだけど。

「えっと、ほら、確かにあいつにも良いところあるし?
あたしを気にかけてくれるところあるからさ、そういうところが好きかなーって。
ほんと、そんだけだから!」

ん?あやせって偽彼氏のこと知ってんの?

「それでお兄・・・偽彼氏の方はどんな事言ってたの?」

「えっとぁ~桐乃が頑張り屋だとかぁ、桐乃のおかげで楽しい事が増えたとか言ってたっけなー」

地味面にはキョーミなかったしあんま覚えてねーや。

「・・・・・・そう思ってるんだ」

なに?もしかしてあやせもあの地味面のこと気にしてんの?
桐乃もあやせもあんな地味面のどこがいーんだろーな。

・・・・・・

「なぁ桐乃~」

「なに?」

「その偽彼氏って恋愛対象じゃねーんだよな?」

「・・・・・・うん、そうだけど?」

「じゃあさ、加奈子に紹介してくんね?」

「「はぁ!?」」

「だってさー、桐乃がイヤなヤツに偽者の彼氏役なんか頼むはずないじゃん?
 それにさーそいつって優しくて頼りになんだろ?
 ならさ、結構いいヤツっぽいじゃん」

「「駄目、絶対駄目!」」

おっ、身を乗り出してくんなんて、二人そろって地味面に結構入れ込んでね?

「あいつバカだし、鈍感だし」

「変態だし、いい加減な事ばかり言うし」

「「絶対に加奈子に合わないって!」」

地味面クン、てめーかなりひどい事言われてるぜ?
けどよーここまで言われると逆に気になってこねー?

「そっかぁ?加奈子だってバカだし不器用だけどよ、二人と違って淑女【レディ】だからそれくらい受け止めてあげられるぜ?
 それによー人を好きになるってーのはさー、ダメなところよりもイイところを見てやるべきじゃねーの?」

「そうかもしれないけどさ、でもあいつは―」チャラララー

桐乃にメール?この着信音って一年位前から聞くようになったよな。

桐乃はちっと舌打ちするとケータイを取り出してメールを確認する。

「ったく、あのエロ猫、それくらい自分で判断しろっての」

桐乃は不機嫌そうにつぶやくと返信を送る。

桐乃のこんな顔見るようになったのも一年位前からだよな。
それにしても桐乃のケータイって今時・・・・・・ん?

ケータイに張ってあるアレって・・・・・・

「ごめんね、話し遮っちゃって。
でね、あいつはさ加奈子が思っているような―」

「あぁ~やっぱいーや」

「え?」

「別に紹介してくれなくってもいい~って言ってんのぉ」

「でもさっきまで」

「だって桐乃さぁ~あの地味面のことぉ~結構気にしてんだろぉ~?
 桐乃とあやせの反応が面白かったからぁ紹介しろっていったけどさぁ~、
 別にダチの大切なヤツをとるほど加奈子落ちぶれちゃいねぇーし」

「べ、べつにあいつのことなんて!」

「ひひ、じゃあさぁ~そのケータイの裏のプリクラは何なのかなぁ~?」

桐乃はあっと声を出すとケータイを隠す。

ひひっもう遅いってーの。

「その男ってさぁあの時の偽彼氏っしょ?
 そんな目立つところに張っちゃうくらい好きなんだからさぁ、加奈子に紹介できるわけねぇ~よなぁ~?」

「えっと、これは、そのね、あいつと張り合って貼っちゃっただけで、別に他意はないっていうか・・・・・・」

うっわぁー桐乃顔赤くしてやがんの。かっわい~♪

「桐乃?」

うわぁー桐乃顔青くしてやがんの。ゴシュウショウさまー。

そもそも桐乃は好きなヤツに偽彼氏役を頼んだっての自体どーよ?
もしかして地味面をお兄さんに彼氏として紹介したら反対されちまって、仕方なく偽彼氏ってことにしたんじゃねーの?
ブラコンなのはいーけどよー、ちゃんと必要な時には好きなヤツを選んであげなきゃダメだぜ?

ちゃんとキモチを伝えておかないと、男はすぐ違う女んとこ行っちまうんだからさ。

「桐乃が偽彼氏が好きなのはわかったけどよー」

「だからあんなやつ好きじゃないって!」

「じゃあ他のヤツ、そのピアスくれたやつとはうまくやってんのかヨ?」

「え?ピアス?」

「たしか正月ぐれーからずっとつけてっけどよぉ~それ大切なヤツから貰ったやつだろぉ?」

そのハートのピアス、趣味はいいけどさ、桐乃がつけるには安っぽいんだよね。
何時も見られることを意識してる読モ様が、そんなアクセをつけてるなんて怪しいと思ってたんだよねー。

「緊張したときに触ったりとかぁ、いつもキレーに手入れしていたりとかぁ、バレバレだっつぅ~の。
 それでさぁ、そいつってどんなヤツなんよ?」

「・・・・・・地味だし、甲斐性なしだし、なに考えてるかわかんないし、あたしの事嫌ってるみたいだけどさ」

ピアスを撫でながら桐乃がほほえむ。

「あたしにもできない事をやっちゃうような、すごいやつ」

「・・・・・・ふ~ん。なぁ、あやせぇーそいつの事どー思う?」

「許せない」

「なんでだヨ!」

なんで今の感想からそんな結論になんだよ。わけわかんねぇっつーの。

「その男ってさぁ~、恋愛対象じゃねーんだよなぁ?」

「・・・・・・うん、そうだけど?」

「じゃあさぁ、加奈子に紹介してくんね?」

「「駄目、絶対駄目!」」

まぁそう言うと思ったけどヨ。

あとまたあやせもそいつの事知ってんのな。加奈子の知らない奴って事はモデル関係かよ?

「あいつ3万の指輪も買えないし、ヘタレだし」

「会うたびセクハラしてくるし、嘘ばかり言うし」

「「絶対に加奈子に合わないって!」」

・・・・・・なんかさぁ加奈子の知らないところですごいことになってね?

こいつらのシュラバも気になっけど、加奈子そこまでムシンケーじゃねーし、聞かねー方が良さそうだよな。
というかあやせと桐乃がミョーな視線で見つめ合ってっけど、この視線の間に入れるほどの命知らずっていんのかよ?

ん~じゃあ他に良さそうな男っていやー

「じゃあヨ、桐乃のお兄さんでいいや」

「・・・・・・はぁ?」

「見た目は覚えてねーほど地味だし?加奈子の趣味からはずれっけどよぉ、
 桐乃の話聞いてるとさぁ、恋人のことすっごい大事にしそうなんだよねぇ。
 色々口ウルサそーだけどさぁ、それってちゃんとこっちのこと見てくれてるっとことじゃん?
 加奈子は恋人にはちゃんと『あたし』を見てほしいしぃ、ジュージュンなヤツじゃなくてぇ、対等なヤツがいいーんだよねぇ」

「あいつは絶対に駄目!」
「お兄さんは絶対に駄目!」

「あいつバカだし、鈍感だし、貧乏だし、ヘタレだし、あたしにあんまかまってくんないし」

「変態だし、いい加減な事ばかり言うし、会うたびセクハラしてくるし、嘘ばかり言うし、桐乃ばっかりかまうし」

「「絶対に加奈子に合わないって!」」

なんかさっきの二人を合わせたくれーボロクソ言ってっけどよー、最後の方にホンネが出てね?

「ふ~ん、桐乃もあやせも桐乃のお兄さんのこと大好きなんだぁ」

にやにやと笑いながら言ってやる。

・・・・・・あやせにすごい顔でにらまれたけど気にしない。

「と、とにかく!あいつは駄目なの!
わかった!?」

ひひ、ほんと、桐乃ってわかりやすいでやんの。

けどよ、ちょっと気になったんだけどヨ、

「桐乃ってばよぉ、今の三人の中でさぁ、ダレが一番好きなんよ?」

「はぁ!?」

「話を聞ぃてっとよぉ~、桐乃どいつもこいつも好きみてぇじゃん?
 ならよぉ、そん中でダレがどれだけ好きなんよ?
 それともぉ~三人ともアソビなワケぇ?」

やっぱりさ、ユウセンジュンイって大事だって思うわけよ。
自分の中で一番を決めておかないと、結局みんな傷つくことだってあるしさ。
加奈子、そんなの好きじゃねーし。

「え、えっと・・・・・・三人の中から選べって、そんなことできるわけないじゃん・・・・・・」

桐乃のことだからお兄さんが一番かと思ったけどよ、別にそういうわけじゃねーんだな。

「もしかしてぇミツマタってやつぅ?
 加奈子ぉ桐乃の書いた小説読んだけどぉ桐乃はいろんなヤツと恋愛したいわけぇ?」

桐乃の書いた小説は読んだけどよ、あんまり加奈子の好みじゃなかったんだよね。
話の中でリノは結構いろんなヤツにカラダ許してるしさ。
リノが相手のことが大好きなのもわかるし?
そういう恋愛があるのもわかるんだけどよ、
加奈子としては最初から最後まで、一人のことが大好きな話が好きなんだよね。

「あ、あれはただの創作だもん。
 それにモデルだって一人のヤツだしさ」

「あ~!やっぱ一番に好きなヤツいんじゃんよぉ~。
 話からするとぉ、ピアスのヤツ?」

桐乃が小説書いてたのってクリスマスくらいだったよな。
話の中にもピアス買ってくれたヤツがいたし、そいつがモデルじゃね?

「それ、私も気になるな。
 桐乃、その人のことどれくらい好きなの?」

あやせが笑いながら桐乃につめよる。

「え、えっとぉ~」

あやせが怖い顔してっけどよ、そのおかげで怯えた桐乃からホンネが聞けそうじゃん。

「そ、そんなの、言えるわけないジャン・・・・・・
 あたしにとってあいつがどれだけ大切かなんてわかんないし・・・・・・」

「ふ~ん。別に大切なんかじゃないって言わねぇ~んだぁ?」

桐乃の顔が赤く染まる。

・・・・・・あれ?桐乃の今の返事、ちょっと違くね?


⇒A.『好きか』って質問に『大切』って答えたよな?
 B.まぁ、いいか。それよりも告白とかしねぇの?


「なぁ桐乃ぉ、今『好き』じゃなくて『大切』って答えたけどよぉ、そいつの事オトコとして見てねぇの?」

「え?」

「そいつがどいつだかわかんねーけどさ、そいつって恋愛対象外なワケ?
 そいつとはどんな関係なんよ?」

「え、えっと~」

桐乃がチラチラとあやせの方を見る。
あやせはニコニコ笑っている。
もちろん、目は笑ってねーけどな!

「ねぇ桐乃」

「な、なに?」

おお、桐乃キョドってやがんの。
みんながあやせは怖くないって言うから、もしかしてあやせが怖いのって加奈子だけなのかもって不安だったけどよ、
やっぱりあやせってば誰が見てもメチャ怖いじゃん。

「私も桐乃がお兄・・・その人のことどう見てるのか知りたいな。
 教えてくれるよね?」

・・・このあやせ、いつもの百倍くらい怖くね?
あやせは隠し事されるの嫌いだけどよ、これは度が過ぎてね?

あと、今明らかに『お兄さん』って言いかけたけどよ、さすがにそれはねぇべ。
・・・無いよな?

「う、うん。でも絶対に誰にも内緒だよ?」

「わかってるって。絶対に誰にも話さないから。
 ねぇ、加奈子?」

「当たり前だっての」

これでも加奈子のお口のチャックは硬いんだからな。
だからよぉ、その目で加奈子を見るのはやめてくんね?

「えっと、あいつとはずっと昔からの付き合いなんだ」

ふ~ん。幼なじみってやつかな?

「ずっと昔は仲良しでずっと付いて回ってたんだけど、大きくなってからはまったく話さなくなって、
 また話すようになったのはつい最近なんだ」

「そうだったんだ。そういえば前はあんまり話を聞かなかったもんね」

「うん。お互いに無視しあってたからね。
 で、あやせと喧嘩するちょっと前にさ、あいつに助けられたの。
 あいつ、お父さんに思いっきり殴られても、あたしの大切なものを守ってくれたの」

桐乃のお父さんて警察官だったよな。
やっぱりそいつって根性のあるすげぇヤツじゃん。

「それで思ったの。
 もしかしてあたしってそんなに嫌われてないのかも。
 ちゃんと大事にされてるのかもなって」

桐乃が嬉しそうにほほえむ。

「その後もあやせとの喧嘩を仲裁してくれたり、
 小説の取材に付き合ってくれたりしてさ。
 嫌がっててもちゃんとあたしを助けてくれるの。
 あたしの事嫌いなのは間違いないのにさ」

ああ、あの時のあやせは怖かったなぁ。
桐乃がいる時もいない時もずっと今みたいな顔で怒ってんの。
あと二三日あのままだったら、加奈子ダチやめてたね。

そういえば、桐乃とあやせが加奈子の前で猫かぶるのを止めたのもこの辺りからだったかな。

で、ひとつ聞きたい事あるんだけどヨ、

「さっきあんまり嫌われてないって言ってたじゃん。
 どうして嫌われてるっと思うわけよ」

桐乃がさびしそうに笑う。

「わかるよ。だってあたし、あいつの事嫌いだし」

「はい?」

「あいつがあたしを嫌ってるから、あたしもあいつが嫌いなの。
 お互いに嫌いあってるんだもん。それくらいわかるよ」

「本当に、嫌いなの?」

あやせが不思議そうにたずねる。

「うん。大っ嫌い。
 でもね、あたしの事が嫌いなのにさ、あたしがダメになりそうな時にすぐに来てくれてさ、
 『お前が心配なんだ。お前がいないと寂しくて死んじまうかもしれない』って言ってくれたんだぁ」

桐乃が幸せそうに笑う。

なぁ桐乃、それさぁ、ぜってぇノロケ話だって。
ってか、その話どっかで聞いた事ある気がするんだよな。

「でもそんな事があってもあいつの態度は変わんないの。
 あいつがあたしの事どう思ってるのか益々わかんなくなってさ、
 あたしもあいつにどう見て欲しいのかわかんなくなるの」

「あたしとあいつが恋仲になるなんてありえないし、
 あいつがあたしの中で一番てわけじゃないんだけど、
 あいつにはあたしをもっと見ていて欲しいの」

桐乃の言葉が止まらない。
目の前に加奈子たちがいるっていう事も絶対に忘れてんな。

「あたしが一番でいて欲しいの。
 あたしを一番大切にして欲しいの。
 あたしの一番そばにいて欲しいの。
 ずっとあたしを見ていて欲しいの」

「あたしだけを見ていて欲しいとか、
 あたしだけを好きでいて欲しいとか、
 ずっとあいつといたいとか、
 恋人になりたいとか、
 そういうんじゃないんだけどさ」


「あいつのことなんか大っ嫌いだけど、もう絶対に別れたくない。
 そんな関係かな」


桐乃が笑う。
加奈子にはうまく表現できねーけどさ、ジアイっていうか寂しげっていうか、そんな表情だった。

「「・・・・・・」」

加奈子もあやせも言う言葉が見つからない。

「あ・・・・・・」

加奈子たちの視線に気がついたのか、
我に返った桐乃が今言ったセリフに気がついて顔を赤く染める。

今のは忘れてって顔してるけどよ、絶対に忘れてやらないかんな♪

しばらくたって桐乃の顔の赤みが消えるころ、桐乃が口を開いた。

「恋人になりたいってワケじゃないし、そいつが一番だってワケじゃないんだけどさ、
 それでもそいつの一番でいたいって思うなんて、やっぱり駄目かな?」

「そんなの駄目に決まって―」
「ん~別にいいんじゃね?」

「「え?」」

桐乃とあやせが加奈子を見る。

「桐乃がさぁ、そいつと仲良くなったのって去年くらいからだろ?」

「うん、そうだけど。何でわかったの?」

あやせとのケンカのちょっと前くらいって聞いたのもあるけどよ、それ以上にあのころから桐乃が変わったんだよね。

「去年くらいからさ、桐乃すっごい輝いてるじゃん。
 読モの人気がすっごい上がったし、小説とか書き始めるしよ、陸上でも記録出したんだろ?
 
 加奈子も気になるヤツがいるからわかるけどさ、そいつに良い所見せたいってのはすっごい力になるんだよね」

初めてのイベントの時、さすがの加奈子も緊張したけど、あいつに加奈子のすっごいところを見せようと思ったらすっごいがんばれた。
あの糞マネ今は何やってんのかな。

「加奈子たちってまだチューガクセーじゃん。
 ガキなんだからさ、恋愛とか愛情とかまだよくわかんねーし。
 でもさ、加奈子たちは女の子で、そういうのが力になるんならさ、そういうの大事にするのは間違ってねーって」


「―そうだね。
 あいつが応援してくれるともっと早く走れる。
 あいつが見てくれるともっと綺麗になれる。
 あいつがそばにいてくれるなら、あたしを一番に見てくれるなら、あたしは何だってできる。
 うん。悪くないね。そういうの」


桐乃は愛おしそうにピアスをなでる。

―なぁ桐乃、気付いてねーだろうけどよ、桐乃の今の顔さ、まさに『恋する乙女』だぜ?


「まったく、加奈子ったらそんな事言ったらまた桐乃のお兄さん好きが・・・」

加奈子の隣であやせがコーヒーを飲みながらブゼンとした顔でブツブツつぶやいてる。
さっきの怖い顔じゃねーけどよ、やっぱりそのつぶやいてんのってジュソとかじゃねーよな?

「ねぇ加奈子、加奈子がさっき言ってた気になるヤツって誰?」

しばらくして桐乃がそんな事を聞いてきた。

「ん~?加奈子さぁ、前にコスプレのイベントに出たじゃん?
 あの時のマネージャーが気になってんだよね」

ブッ!

なんかとなりであやせがムセてんだけどよぉ、気をつけねーともっとブスになっちまうぜぇ?

「加奈子、あの人のこと好きだったの?」

「ん?別に好きじゃねぇけどよ、面白かったから遊んでやってもいいかなって」

「ねぇ加奈子、前も言ったけどあの人って私にセクハラして解雇されたんだよ?
 なんで会いたがるの?」

そのリユーだけどよ、なんかナットクいかないんだよね。

「あの糞マネとはほとんど会ってねーけどさ、あいつそんなことするヤツには見えないんだよね」

第一あやせにセクハラなんかしたら今頃山に埋められてるっつーの。
・・・まさか、埋められてねーよな?

「イキチガイがあったんならさ、ちゃんと誤解をといてやらねーとカワイソーだろ?」

あと埋められてるならせめて掘り返してやらねーとカワイソーだろ?

「加奈子勘違いしてるよ。
 あの人は会うたびにセクハラしてくるし、
 好きでもない人にプロポーズするような最低な人なんだから」

「あの糞マネはそんなヤツじゃねーし。
 あやせが勘違いしてるだけじゃねーの?」

「そんなことないよ~。
 加奈子は子供だから相手にされてないだけじゃないのかな?」

あやせが『いつもの』笑顔で言う。

・・・ふ~ん。そんなこと言うならぁ、加奈子ぉお口のチャックが軽くなっちゃうなぁ♪

「ところで加奈子ぉ~あやせに聞きたい事があったんだけどぉ~」

「な~に?」

「最後にランちんに会った時聞いたんだけどぉ~、近くの公園でぇ~、男の人と密会してるんだってぇ?
 加奈子ぉ~そのお兄さんの事知りたいなぁ」

ピキリ

ん?あやせの額に青筋たってね?

「えぇ~!あやせ付き合ってる人いたんだ~」

桐乃が目を好奇心に輝かせてあやせにつめよる。

ひひっ。どーよ。大好きな桐乃に彼氏について詰め寄られる気分はよー。

「あはは・・・
 そんな人じゃないって~
 ただの知り合いだよ~」

「ほんと~?
 あやせってさ、浮ついた話あんまり聞かないじゃん。
 それなのに二人きりで会うなんて、結構気に入ってるんじゃないの?」

「だから~ただの知り合いだって。
 優しいけど地味だしね」

「ね~教えてよ~。
 あ、そうだ!今度会わせてよ!」

「え?」


「その人がうちの兄貴みたいに変なヤツじゃないか、見て確かめてあげる!」


プツン

ん?いまどこかで何かが切れた音しなかった?

「ねえ加奈子」

「なによ」

「ちょっと、お話があるんだ」

あやせが加奈子の肩をつかむ。

ぐぎりりりり

痛ぇ!超痛ぇって!

「ねぇ桐乃」

「な、なに?」

「私、加奈子とお話があるからお手洗いに行って来るね」

「い、いってらっしゃい」

桐乃が乾いた笑みを浮かべる。

なぁ桐乃!助けろって!加奈子を見捨てるつもりかヨ!
なんで売られていく子牛を見るような目で加奈子を見てるんだヨ!

ツインテールを引っ張られながらトイレに連れて行かれる中、加奈子は思った。


―加奈子ってば、どこで選択肢間違えたんよ?


-DEAD END?-





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最終更新:2011年06月19日 19:41