564:【SS】居場所 : 2011/06/15(水) 23:38:02.30 ID:cxUkoESdP
流れがゆっくりになっているようなので、ここらでちょっと息抜きにSSでも。切ないようなあたたかいような、そんな短編です
ある日の真夜中。
水の中からゆっくりと浮上するように、緩やかにあたしは目を覚ました。
うっすらと開いた目が光を捉えることはなく、それが今が夜だということを教えてくれた。
何気なく身じろぎをしようとして、体が何かに抱きしめられていることに気付く。
寝ぼけた頭を上げたそこに、京介の顔を見つけた。
「あ……」
そこで漸く今の状態を思い出す。
― 昨日は京介と一緒に寝たんだったっけ……
今日は何でかどうしても京介と一緒に寝たくて、甘えるようにおねだりをして無理矢理承諾させて、
ちょっと悪いかなと思いつつも引き下がれなくって。
きっと京介も困ったと思う。だってこいつはシスコンで、あたしの彼氏で、ちょっとだけ――エッチだから。
あたしも口では変態変態というけど、こいつが本気でそういうことをするはずがないって知ってる。
それでも、一緒に布団に入ってからは中々寝付けなかったんじゃないかなって思う。
だって、あたし可愛いし、妹だし、こいつの彼女だし。
それとも、逆にすぐに寝ちゃったんだろうか。それはそれでちょっと複雑だケド。
きゅっと京介の服を掴んで、少しだけ擦り寄った。それに反応してか京介のあたしを抱きしめる力も少しだけ強まる。
寝てるときでもあたしのこと離さないとか、どんだけシスコンなのよ。―――嬉しいケドさ。
すぅっと匂いをかぐ様に息を吸う。鼻につくのはうっすらとした汗の匂いと、それに混ざった男の――京介の匂い。
京介に抱きしめられて、胸の中は京介の匂いで一杯で。幸せで心が満たされた。
ずっと求めていた居場所。それが今、ここにある。
一度目は知らないうちに失って。それを取り戻したくてもがいても、それは離れていくばかりで。
漸く少しだけ近付けて、そのぬくもりを少しだけ取り戻すことができて、それで満足したと思ったあたしは今度は自分からそれを手放した。
けど、それはまったくの錯覚で、一度取り戻した温かさを忘れられなくて、あたしはまたそれを求めてしまった。
前よりもまた少しだけ近くなったそれを求めるあまりにまた空回りをして、それを諦めるしかなくなって、でも諦めきれなくて。
色んな遠回りをして、あたしはやっとこの居場所を手にいれた。
ここはとても幸せで、大好きなぬくもりに溢れていて、でも、それは酷く――脆い。
あたし達の関係は歪で、世間ではそう簡単には受け入れられないことだって言うのはわかってる。
バレてしまえば、もしかしたら無理矢理に離されてしまうかもしれない。
いつまでも続いてほしいという希望と、明日にでも壊れるかもしれないという恐怖と。
そんなものに耐えられなくなったあたしの弱い心が、京介のそばにいることを望んだのかもしれない。
しらずと服を掴む手に力がこもる。ぬくもりがほしくて、顔を京介の胸に寄せた。
トクントクンという京介から伝わる鼓動。その音があたしに安心感を与えてくれる。
「き…りの……」
ギュッとさっきよりも強い力で抱きしめられた。
強い力は少しだけ苦しかったけど、それ以上に嬉しさがこみ上げる。
あたしが京介を求めるように、京介も自分を求めていてくれることが嬉しい。
ずっとずっと、これから先も絶対に離さないからね。
そんな温かさに包まれているうちに、だんだんとまた眠気が襲ってきた。
これならきっと、ぐっすりと眠れるに違いない。
あたしはもう絶対に失くさないと誓った、この居場所のあたたかさをもう一度かみ締めて
「おやすみ、京介」
幸せな眠りに落ちていった。
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最終更新:2011年06月19日 19:49