716: 名無しさん@お腹いっぱい。 [sage] 2011/06/20(月) 15:08:07.42 ID:ENqNVAOa0

SS『とある結末の続き(妄想版)』(黒猫視点)


あの女に出会ってから、もう、15年にもなるのね………
私は、遠い記憶を懐かしみながら、あの女の家へと向かう。

最近は直接会う機会も一年に数回しか無い。
私は仕事で、あの女は仕事と子育てで。
お互いに時間を合わせる事が難しかったのだ。

それに―――
悔しいじゃない?
あの女が幸せ一杯で居る所をわざわざ見にいくなんて………

でも、今日は特別だ。
私にとって、特別な日になった。

こんな大事な事を報告するのは、沙織とあの女を置いて他には居ない。

―――ピンポーン―――

「はーい!どちらさまですかー!?」
「五更です。お母さんは居るかしら?」
「はい!いま開けますー!」

インターホンからは、元気で可愛らしい女の子の声が響いてくる。
もう、小学生になった頃だろうか?

「こんにちは、おじゃまするわね」
「黒猫のおばちゃん、こんにちは~!」
「お、おば………」

な、なんて事をいうのよ、この子はっ!
私はまだ20代よっ!
それに結婚もしていないし、十分に若く見える筈だわ。

「えっと、あたし、変な事言いました?」

私の心に、無邪気な視線が突き刺さる。
………そうね、子供って残酷よね………

「ま、まあいいわ。それより、お母さんはどうしたのかしら?」
「『今、ミルクをあげてるからちょっと待って』って」
「ああ、そうよね。あなたお姉ちゃんになったのよね」
「うんっ!」

チャットで聞いてはいたけど、二人目………か。
あの二人の事だ。相変わらずお盛んなのだろう。
そう思うと少し妬ましくもある。

「そういえば、お父さんも元気?」
「はい!でも、お父さんったら、いっつもお母さんにベッタリでほんと困るの!
 あたしだってお母さんに甘えたいのに、すぐに『桐乃~今日会社で~』とか言って
 お母さんに抱きつこうとするんだから!」
「そ、そうなの………」

相変わらずのヘタレなのね。
妹に慰めてもらわないとちゃんと出来ないなんて、
本当に社会人として上手くやってるのかしら?

「それに~、日曜日は家に居るけど、部屋に閉じこもってゲームばっかりやってるの!」
「そ、そうなの!?」

子供も居るのに、一体何をしているのかしら?
まあ、どうせ『妹ゲー』でもしているのでしょうけど………

「それじゃあ、お父さんの事、嫌いなのかしら?」
「ううん?」

即答だ。

「好き?」
「うん!大好きっ!
 だって、土曜日にはいつも、お出かけに連れて行ってくれるんだもん!」
「そう。どんな所かしら?」
「え~とぉ~。遊園地でしょ?水族館でしょ?動物園に~、おもちゃ屋さんに~」

ちゃんと『お父さん』もしているのね。
安心したわ。

「それに~アキハバラ~」

………………………
あ、あの二人、あ、秋葉原は子供を連れて行くところじゃないでしょう!?
こっちの面で英才教育を施してどうするつもりよ!?

「わ、わかったわ。
 その………お父さんとお母さんの言う事は全部本気にしちゃダメよ?」
「う、うん?わ、わかった?」

頭に?マークを浮かべて、よく分かってない風だが、しょうがない。
この子には、まだ早過ぎる世界だ………つくづく、そう思うわ………

「あ、ごめーん、黒猫、待った?」
「ようやく来たのね?このビッチが」
「びっち?」

しまった、子供の前でなんて事を………

「あのね、お母さん、今から大事なお話があるからね。
 お部屋に戻ってなさいね?」
「は~い!」

とてとてと、階段を上っていく音を聞きながら思う。
親に似て、本当に可愛らしくなってきたものだ。
私も別の選択をすれば、今とはまた違った気持ちでいられたのだろうか?
いえ、それでも尚、私は、私自身である事を選択したのだから、後悔など無いわ。

「それで?メールで言ってた『大事な話』って何よ」
「んっふ………そう。それを話すために、私ははるばるここ、
 千の葉の舞い散る都に顕れたのよ」
「はいはい、邪気眼乙ー。ってか、ほんと何の用よ?」

せっかく久しぶりの再会を祝して一言述べようと思ったのに、残念ね。

「実は、あなたにも相談しながら書いていた、私の小説ね………」
「何!?まさか!?もしかして!?」
「この度、大手出版社から、出版される事になったわ」
「よっしゃーーーーー!やったじゃん!マジすごいじゃんっ!」

な、何そんなに喜んでるのよ。
は、恥ずかしいわ………

「んっふ。これも、我が真の能力がいよいよ覚醒しだしたからね」
「30になっても厨二病wwwそれにあたしより15年遅れwww」
「わ、私はまだ29よっ!それに、あなただって、すぐに30じゃないっ!」
「あたしは邪気眼厨二病を発症してないからいいのーwww」
「それに、私のは流行に乗った作品じゃなく、その作品の中身が評価されて」
「はいはい。分かったから分かったから」
「ま、まったく………」

ほんと、口を開けばよくよく罵詈雑言が飛び出す事ね。
私も、どうしてこの女と友達を続けてるのかしら?

「というか………………………」

あら?
顔を赤くして、どうしたのかしら?

「おめでとう………ね」
「相変わらず、人を褒めるのは苦手なのね?」
「う、うっさい!」

昔から、ほんと、不器用ね………

「まあ、売れるかどうかは分からないし、そこまでは期待してないわ」
「あんた今じゃ結構有名人でしょ?それなりには売れるんじゃない?」
「ええ。でも、私は本を名前で売りたいのではなく、
 その中身を汲んでくれる人に、本を売りたいのよ。」
「相変わらずの邪気眼マジで乙ー。つーか、まさか設定資料集とかついてないよね?」
「………………………企画段階で却下されたわ」
「………………………あんたも相変わらずだよね」

ええ。あの編集………。
中学時代からの恨み、後で晴らしてやるから覚えてなさい。

「そういやあんたさ、今勤めてるところ、どうすんの?」
「続けるわ。あの編集も、兼業の方が良い物が出来そうだって言ってくれてるわ」
「そっか。それじゃ次会うまで、また結構日が開くね」
「ええ、そうね………」

本当に、それだけがとても残念。

「ま、でもさ、今日みたいに来れる日ってまた有るよね?」
「ええ、必ず時間を作るわ」
「うん。………安心した」

だって、私はあなたの事が大好きなのだから。

「それじゃ、今から沙織のところにも行かないといけないから」
「うーん。せっかくの機会だったのに、短かったなー。マジ残念だしー」
「言ったでしょ?また必ず時間を作るって」
「わかった。我慢する」

出来る限り、我慢させないように頑張るわ。

「それと………………………」
「何?」
「桐乃………ありがとう………」
「う、うん」



高坂家を出た私は、電車に揺られ、沙織のもとへと向かう。
私、桐乃、沙織………
中学生だった当事は、こんなにも、この関係が続くとは思わなかった。

勿論、当時とは異なってる部分も多々有るだろう………
それでも尚、私は、この稀有な関係を持てた事を、
とても嬉しく思うことが出来るようになっている。

そして、そう思える自分自身に、
ほんの少しだけの自信が芽生えてきた気がしている。



End.





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最終更新:2011年06月22日 21:23