331 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/06/22(水) 17:56:49.72 ID:1Ci+Gytr0 [1/2]
SS『とある日々』
春のうららかな陽射しがリビングに柔らかく差し込んでいる、そんな日曜の事。
俺と妻は何をするのでもなく、ただソファーに座り、寄り添っている。
妻の名前は桐乃。言うまでもないことだが、俺の妹だ。
マタニティードレスを着た桐乃のお腹は、はっきりとふくらんで、
妊娠の後期に入った事を示している。
「そういえばさ………」
ふいに、桐乃が口を開く。
「ん?どうしたんだ?」
「ずっと慌しくて、聞けなかったんだけどさ。あんた、なんであたしを選んでくれたの?
まなちゃんも、黒猫も、あやせだって………今でもあんたのこと、好きなんでしょ?」
「ああ、そうだな………」
あんなにも、『あたしが一番じゃなきゃイヤなの!』だの、
『あたしが一番京介を愛してる!』とか言ってたクセに、妙な事を気にするやつだな。
「俺が麻奈実や黒猫、あやせと付き合って、結婚して………
そういう未来も確かにありえたとは思うぜ」
「そっか………そだよね」
おいおい、俺はそんなに浮気性っぽく見えるのかよ?
「でもよ、そういう未来は簡単に想像できるけどよ、なんつーか………
逆に言ってしまうと、あまりにも『普通』なんだよな」
「えっ?」
「わかんねーかな?先の事が簡単に想像できすぎて、面白みがねーんだよ。」
だって、考えても見ろよ。
麻奈実と結婚すりゃ、田村屋を継いで、そこそこの生活を続けるんだろうし、
黒猫やあやせと結婚したら、ごく普通にどこかの会社勤めのサラリーマンになって、
普通に子供を作って、子供を育てて、引退して………
いや、別に普通が悪いって言ってるんじゃない。
それはそれで幸せだと思うし、その中でしか掴めないものだってあると思う。
だけどよ、俺はおまえと一緒に居すぎて、必死の努力で得られるもんだったり、
或いは、その過程で得られる様々な気持ちに慣れちまったんだよ。
『普通』じゃあ、もう、満足できねーんだよ。
「それとな」
「うん」
「おまえが可愛すぎるのもいけないんだぜ?」
「ばっ!?馬鹿じゃん!?」
そう、その態度からして、可愛すぎるじゃねーかよ、もう!
「いつだったか、『げ、ゲームで言ってたんだけど、
兄貴のみるくってお肌に良いっていうからっ、のっ、飲ませてっ!』とか」
「ギャァァァーーーーーー!!!」
さ、叫ぶこたぁねーだろ?
つうか、お腹の子供がびっくりしちまうだろーが。
「あ、あれはっ、気の迷いっていうかっ!
え、エロゲーの会話を真に受けたって言うかっ!」
「でも、それだけ俺の為に、もっと綺麗になろうって思ってくれたんだろ?」
「う、うん………だって、あんた、すぐに他の女の子に目が向いちゃいそうだし………」
お、俺は根っからの浮気者だってか!?
いや………高校時代の俺の事を考えると、そう言われても仕方ないかもしれないな。
「それに、この子についてもだな?
俺が『そろそろ子供、作りたくないか?』って言ったら、
おまえ、『こ、子供って、ど、ど、どうやったら出来るの!?
こ、コウノトリを捕まえたらいいのっ!?』とかなっ!」
「うっ………うぅっ………」
「これまで散々エッチな事してきたのに、あまりの純情乙女に、
おまえのこと、惚れ直しちまったぜ?」
「も、もう、や、やめてぇ………」
ぷっ。恥ずかしくて死にそうになってるおまえも可愛すぎだって。
「それにな」
「ま、まだ続くのっ!?」
「何よりも、俺がおまえの事、一番に好きだから、だぜ?」
ふっ………決まった。
「あー、はいはい」
桐乃はプイッっとそっぽを向いてしまう。
な、なんだと………?
この程度の言葉には動じないのかっ!?
「そんなの、分かってるに決まってるじゃん」
いや、良く見ると、さっきより顔の赤みが増してね?
それに………なんか、手が震えてね?
そっか、やっぱ、恥ずかしいんだな!
それじゃあ、もうちょっと恥ずかしがってもらおうか!
俺は桐乃の耳元に口を近づけ、こう囁いた。
「桐乃。愛してるよ」
End.
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最終更新:2011年06月22日 23:24