494 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/06/23(木) 00:23:13.43 ID:2E9teJZS0

【SS】純情純真純白乙女・桐乃

「で裏にはあたしとのツーショットプリクラ貼って、待ち受けはあたしの水着写真を設定してんの」

あたし―来栖加奈子は今日も今日とてダチの高坂桐乃、新垣あやせと会っていた。

夏休みが終わって毎日会ってっけどよ、お互いに自由な時間がカチ合わなくってさ、
ずっと一緒にお茶する時間も取れなかったんよ。
あ、ランちんは今日も欠席。
もしかしてあやせに埋められたのかとも思ってたけどよ、ケータイもつながらないイナカに帰ってただけだって。
新学期にはちゃんと学校に来てたぜ?まぁ今日はいねーけどよ。

こうしてのんびりとお茶しながら話すのは二週間ぶりくらいなんだよね。
そんなわけで加奈子も結構楽しみにしてたんだけどさぁ~

「そんで、あいつがなに考えてるのか知りたくなって、
 あたしもあいつと同じ風に設定したケータイ見せて、なんでこんなことしたと思うって聞いたの。
 そしたらあいつ、『プリクラを携帯に貼るくらい・・・俺のことが好きってこと?』っていうワケ。
 それってあいつは、あたしのこと好きだからケータイをデコったっていう事でしょ?
 いくらあたしの事が好きだからってさー、マジありえないよねーあのシスコン♪」

なんで延々2時間も桐乃のお兄さんラヴ話聞かされなきゃなんねーの?
しかもなんか前より嬉しそうだし。ノロケが強くなってるし。

初めの30分くらいは懐かしさから聞いてやってたけどよー
さすがに今はもう飽きて、食べながら聞き流してるんだよね。

ったくよーこれ以上おなかぷよぷよになったら桐乃のせいだかんな。

「へぇ、そんなことがあったんだ」

あやせはずっと笑顔で聞いてるけどさーあれぜってー目が笑ってねーよな。

あやせが加奈子を『おしおき』する時もあんな目してんだけどさぁ・・・・・・桐乃のお兄さん平気かな。

・・・ん?前回お茶したときもこんな事考えてた気がするんだけど。
でもこの間の事はあんま覚えてないんだよね。

あやせに埋められる夢を見たり、
リセットして選択肢をやり直したり、
二回同じ会話を聞いたりした気がするけど気のせいだよな。

あの時は桐乃の彼氏(?)の話をしたけどよ、結局どうなったのかな?

「ねぇ桐乃ぉ」

「なに?加奈子」

「あの後彼氏とはどうなったんよ?」

「彼氏?」

「大嫌いだけど一番大事にして欲しいってヤツ」

「!!!」

桐乃の顔が一気に朱に染まる。
おぉ、おもしれー!

「ん~?その様子だとぉ、何か進展があったのかなぁ?」

「///」

桐乃は赤い顔のままモジモジする。
うわぁ、からかいたくなるようなしぐさしやがんの。
まぁからかったらあやせに埋められるからそんな事はしねーけどよ。

「言わなきゃ、ダメ?」

桐乃が上目遣いに加奈子を見る。
なにこの可愛い生き物。
これが桐乃じゃなかったら、お持ち帰りしてるっつーの。
・・・隣の女がよだれ出しそうになってるのは気にしねー方がいいよな?

「言いたくねーならいいけどヨ。
 けどぉ~加奈子にはぁノロケたがってるように見えるんだよねぇ?」

「べ、別にノロケ話なんかじゃないから!」

その慌てよう、認めてるようなもんだぜぇ?

「・・・まぁ、加奈子にはお世話になったし、あれからどうなったか教えてあげる」

?加奈子なんかしたっけ?

「えっと、ね。あたし―


 あいつに告白しちゃった」


「・・・・・・」

へぇー。告白しねぇって言ってたのにしたんだ。
キゲンいいみたいだしよ、うまくいったのかな。
ところでよ、

「・・・・・・」

なんか加奈子の隣に(元)あやせの石像が出現してるんだけど。
まぁ、ショックなのはわかるけどよ?

「あ、勘違いしないでね?
 愛の告白とかそういうのじゃないから」

「そ、そうだよね。桐乃がお兄―あの人にそんな事するはずないもんね」

あ、あやせの石化が解けた。
ちぇ、もう少し固まっててもバチはあたらねーんじゃね?

「うん。


 あいつに、『あたしが一番じゃなきゃイヤ』って言っただけ」


「・・・・・・」

なぁ桐乃。
桐乃が気付いてないからあえて言わないでおいてやるけどよ、
それって相手からすると愛の告白だぜ?

「・・・・・・」

少なくても、加奈子の隣の(元)あやせ(黒髪の現役ヤンデレ読者モデル。生命活動が感じられないものを指す)はそう思ってるみたいだよな。

「なぁ桐乃ぉ、もうちょっと詳しく話してくんね?」

いきなりそんな事言われてもどう反応していいかわからないべ?
・・・べつに、あやせをいじめたいわけじゃねーからな?

「うん。そうだね。
 えっと、どこまで話してたんだっけ?」

「桐乃には大嫌いだけど大切なヤツがいてぇ、そいつに彼女ができたけどぉ、
 絶対にあきらめないってところ」

なんかあの日の会話の順序が思い出せねーんだけど、そんな話を聞いた覚えはあるんだよね。

「えっとね、あいつ結局夏休みの最後にフラれちゃったの」

「ふ~ん。
 加奈子の見立てではぁ、彼女のことを大切にするいいヤツっぽかったけどよぉ、ケンカでもしたのかよ?」

「ちゃんとは話してくれなかったけど、あたしが原因みたい。
 ・・・あいつさ、ちょっと前にあたしが彼氏を作るのに反対したの」

そんな事言ってたな。
・・・あれ?反対したヤツって確か・・・

「だからさ、あたしがあいつが彼女を作るのを反対したらあいつも恋人作れないじゃん?
 あいつが誰かと付き合うのなんかすっごいイヤだけどさ、告白した子はすっごい良い子なの。
 すっごい良い子で、優しくて、臆病なのに必死で想いを伝えたの。
 ならさ、付き合うなって言えないじゃん」

その子も桐乃にとって大切なヤツなんだろうな。
でもよ、

「桐乃がその男と付き合うって選択肢はなかったのかヨ?
 『そいつと付き合うくらいならあたしと付き合えー!』って」

誰かに取られるくらいなら、いっそ自分のものにしたくなんねーの?

「それはありえないから。
 あいつのことなんか、嫌いだし・・・」

よくわかんねーけどよ、なんかフクザツなジジョーがあるみたいだよな。

「でもね、後で後悔しそうになってた。
 せっかく前みたいに仲良くなれたのに、あいつだって仲良くしてくれようとしてるのに、
 すっごい遠くに行っちゃった気がしたの」

「自分でもイヤになるけどさ、あいつがフラれたって知ったときはほっとしたよ。
 正直嬉しかった。また仲良くなれるって。
 でもあいつが悲しんでる姿を見てたらムカついてきて、
 あいつと一緒にフッたヤツのところに、文句を言って仲直りさせに行ったんだ」

桐乃、本当にそいつの事が大事なんだなぁ。
それにしてもよ、桐乃は人が良すぎるってばよ。
付き合って欲しくないヤツをワザワザ復縁させようだなんて普通考えねえって。
まぁ、それだけその二人が大切だってことなんだろうけどよ。

「そしたらさ、その子『あなたはそれでいいの?』って聞いてくるの。
 あたしは前と同じで『いい』って答えた。
 あたしは我慢するって答えちゃった」

「そしたらその子が我慢するってどういう意味かって聞いてきたから・・・あたし・・・」


「あいつに『嫌いだけど、すっごい嫌いだけど、・・・あたしが一番じゃなきゃイヤ!』って本音を言っちゃった。
 それから、『彼女ができるのはイヤだけど、それより泣かれるほうがもっとイヤ。だから仲直りさせに来た』って」


泣かれるほうがイヤだから、復縁させるのかよ。
時々思うけどよ、桐乃ってカッコいいよな。
もし桐乃が男でそんなところ見せられたらホレてたかも知んねーな。

「この間加奈子たちに言ったことを言っちまったのかぁ。
 よりにもよって、大切な男の前でヨ♪」

桐乃は顔を真っ赤に染めながらうなずく。
恥ずかしかったのはわかるけどヨ、それだけじゃねーべ?

「―まぁ、良かったんじゃねーの?
 その男は鈍感みたいだしよ、言わなきゃ絶対に気づかなかったって。
 桐乃は言いたくなかったみたいだけどさ、それでもわかって欲しかったんだべ?
 
 だからよぉ、わかってもらえたから、今そんなに嬉しそうなんだろ?」

「・・・そうだね。
 あいつにあたしの気持ちが知られたのはイヤだけど、
 あいつの事嫌ってるだけじゃないって知ってもらえたのは嬉しい、かも」

「あいつとは長い間口も利いてなかったからさ、お互いどんなものが嫌いなのか、どんなものが好きなのか、
 どんなことを考えてるのか、どんな気持ちなのか分からなくなってるんだ。
 
 だから、あたしはあいつがどんなものが嫌いで、どんなものが好きで、どんなことを考えてるのか、どんな気持ちなのか知りたい。
 それと、あいつにあたしがどんなものが嫌いで、どんなものが好きで、どんなことを考えてるのか、どんな気持ちなのか知って欲しい」

「あいつとはこれからもずっと付き合っていくんだし、あいつに好きになって欲しい。あいつの事をもっと好きになりたい。
 もっと一緒にいたいし、もっと色々な話をしたい。
 
 
 だからあいつに少しでもあたしのホンネを伝えられたのは、分かってもらえたのは、とっても嬉しい事だなって思ってる」


桐乃が笑う。
加奈子にはうまく表現できねーけどさ、ジアイと優しさが混じった、前に見たのとは違う、魅力的な表情だった。

なぁ桐乃。
桐乃は気づいてねーのかも知れねーけどさ、その気持ちを世界は『恋』って呼んでるんだぜ?
それにしても、『もっと好きになりたい』かぁ・・・
ひひ。あとでからかってやろぉっと。


「ねぇ、加奈子。
 ありがとうね」

「・・・?
 加奈子ってばなにかしたっけ?」

「うん。加奈子の言葉がなくちゃ自分の気持ちを受け入れられなかったし、
 あいつのためにあんなに頑張る事もできなかったかも知れない。
 後で後悔したかも知れない。
 本当に、ありがとう」

「そ、そんなことねーよ。
 桐乃なら一人でもやれたって」

恥ずかしくなり、顔を背ける。

「ううん。何時もみたいに、どこかで怖気づいてたと思う」

「桐乃でも怖気づく事あんのかよ」

「うん。あるよ。
 特に、あいつに対しては一歩を踏み出せずにいたんだ。
 だから、兄貴みたいに行動するのは本当は怖かった。
 ちゃんとやれるのかな、迷惑をかけてるんじゃないかなって。
 
 加奈子にはめるちゃんみたいに勇気をもらったんだ」

めるちゃん?
桐乃、メルルのこと知ってんのかよ。
加奈子の仕事までちゃんとチェック入れてるなんて、さすがだなー。


「加奈子って格好いいよね。
 もし加奈子が男だったら、あたしホレてたかも」


桐乃がフワリと可愛くほほえむ。

「バ、バーカ!
 加奈子をからかうんじゃねー!」

加奈子の顔が一瞬で熱くなったのがわかる。

そういうのは面と向かって言うもんじゃねーの!
じゃねーと、

「・・・・・・いいなぁ、加奈子・・・・・・」

いつの間にか復活した隣の女に埋められるからよ?



「で、話を戻すけどよぉ、彼氏との話はどうなったんよ?」

「だから彼氏じゃないってば。

 えっとね、あたしが本音をあいつに伝えたら、相手の女があいつに
 『桐乃の本心を知って、あなたはそれでも私を選んでくれるの?』って・・・」

おぉ!三角関係泥沼グチョグチョのシュラバじゃね?

「それで、あいつが答えようとしたんだけど、その子が倒れちゃって・・・
 その子、あたしの本音を引き出すためにあいつと別れたらしいんだ。
 その子本気であいつの事好きだったらしいから、その心労だと思う」

その子、せっかく好きなヤツと付き合い始めたってのに、
ライバルと同じ条件で戦いたいからって別れたのかヨ。
桐乃といいその子といい、ジュンジョーすぎねぇ?

「あたし、兄貴ならこうするって思って動いたんだ。
 でもその子は倒れちゃうし、あいつはフラれちゃうし・・・
 たぶんうまくやれなかったと思う」

「でも桐乃、お兄さんだって万能じゃないんだし、立場が逆でも変わらなかったんじゃないかな?」

「ううん。兄貴ならさ、やれたと思うんだ。
 嘘ついて、傷ついて、嫌われて、それでも自分以外は傷つかないようにしたと思う。
 
 加奈子も言ってたけどさ、あいつバカだから、自分がそうしたいと思ったらこっちの事情も考えずに突っ走るの。
 だからさ、相手の心に遠慮なく踏み入って、助けられるの。
 ほんと、あたしの兄貴があんなに―はずないってのに」

最後のつぶやきは加奈子の耳には届かなかった。
まぁ、なんとなく予想は付くけどヨ。

「でも、その、お兄さんほどじゃなくても桐乃は頑張ったと思うよ?
 その人も元気になったんでしょ?
 それに、あのお兄さんみたいにやれる人なんていないって」

「うん。分かってる。
 あいつ、後であたしにお礼を言ってくれたんだ。
 『ありがとな』って。
 あいつがあたしに気を使ってそんな事言うはずないからさ、あいつを救う事はできたんだと思う。
 それにね―」

桐乃は幸せそうな笑みを浮かべ


「あたしに彼氏が出来るのイヤだから、あたしがイヤなら彼女を作らない。
 あたしに彼氏ができるまで彼女を作らないってさ。
 
 そんな事言ったら、お互いに恋人が出来ないで、ずっと一緒にいるしかないのにね。
 
 
 ホント、妹になに言ってるんだろうね。
 京介ってばマジ最高のシスコンなんだから♪♪」


へぇ~結局彼女はぁ、作らない事に決めたんだぁ~。
桐乃の好きなヤツってぇ、京介って名前なんだぁ~。
京介ってぇ、桐乃にとって最高のシスコンなんだぁ~。
てか、やっぱり桐乃の大切なヤツって―

『加・奈・子?』

背筋がゾクリとアワ立つ。

・・・加奈子は何も聞かなかったからよ、その
『誰かに言ったらブチ殺しますよ』
って視線止めてくんね?



「ねぇ桐乃、もしも、もしもだよ?
 私がその人に告白して、その人が告白を受けてくれたら、桐乃はどうしてた?」

桐乃の話が一段落ついて、加奈子が追加のイチゴのミルフィーユを食べ終わったとき、あやせがそう切り出した。

「え?あやせが?」

「うん。
 私がその人のことがすっごい好きで、その人が私のことを桐乃と同じくらい好きだったらどうしたのかなって」

そんなの、『あやせには似合わないって』の一言で・・・

「・・・・・・」

あれ?本気で考えてね?

「・・・多分ね、夏休みの前なら、あたし我慢できたと思うんだ。
 あいつならあやせのことを幸せにしてくれると思うし、
 あいつのことは大切だけど、あやせにならいいかなって」

「じゃあ、今は?」



「・・・・・・ごめん。今は、無理」



「あいつさ、あたしに彼氏が出来ると泣いちゃうんだって。
 んでさ、あたしもあいつに彼女が出来ると泣いちゃうの。
 
 あたしさ、あいつにあたしが一番じゃないとイヤって言ったの。
 だからさ、あたしにとってもあいつが一番じゃないとダメなの。
 
 それを認めちゃったからさ、あいつにとっても、あたしにとっても、
 お互いよりも大事なヤツじゃないと認められない」

「あやせのことは大好きだし、一番の親友だし、あいつと同じであたしの一番なんだけどさ、
 それでも、あたし泣いちゃうと思うからさ」


「だから、今は無理」


その言葉を聞いて、あやせが上を仰ぎ見る。

「・・・お兄さんはずるいなぁ・・・」

・・・加奈子は耳が悪いからよ、今の言葉は聞こえなかったぜ?



「ねぇ加奈子、一つ相談したいんだけどさ」

加奈子が二層のベイクドチーズケーキに手を付けたとき、今度は桐乃が加奈子に声をかけてきた。
桐乃がタノミゴトなんて珍しくね?

「なによ?」

「その、あいつとさ、もうちょっと仲良くなりたいんだけど、どうすればいいかな?」

ギロッ

・・・隣から
『なんで私じゃなくて加奈子に相談するの?
 私たち、親友だよね?』
って気配を感じるんだけど。

「彼氏彼女になりたいってことかヨ?」

「そ、そうじゃなくて!
 今まで何度も助けられてるし、今回あんな事言っちゃったからさ、
 感謝の気持ちとか、これからどうしたいかとかを伝えたいんだケド、
 どうしたらいいか分からなくてさ・・・」

なぁ、あやせぇ、あやせは
『気持ちはわかるけど、そんなことしたらますますお兄さんと桐乃の距離が縮まっちゃう!』
って顔してるから桐乃から相談されねぇっての、わかってねぇんじゃね?

「プレゼントとかどうかな?
 桐乃センスいいし、服とかアクセサリーとか送ったら絶対に喜ぶって!」

あ。ムリヤリ会話に参加してきた。
変な行動される前に、なんとかブナンな方向に持って行こうってコンタンかな?

「う~ん。あいつセンス無いから服とかアクセとかあげるのはいいんだけど・・・
 あいつって地味だけど素材は意外といいじゃん?
 だから変に着飾ると変な虫が寄ってきちゃうんじゃないかなーって」

「うっ。
 確かにお兄―あの人は良く見ると優しそうだし、顔は整ってるもんね」

地味男クン、あいかわらずけなされてるのか、ホメめられてるのかわかんねーな。
あといい加減お兄さんって認めてもいいと思うんだけどよ。

「じゃあさ、あの人の趣味のものをプレゼントするのは?
 桐乃なら詳しいでしょ?」

「あいつって無趣味なんだよね。
 あえて言えば眼鏡なんだけど・・・
 絶対に眼鏡なんかかけてあげない」

眼鏡が趣味?
どういう意味だってばよ?

「前にあたしの好きなのをプレゼントしたんだけどさ、
 泣いて喜んでくれたんだけど、あんまり使ってくれなくてさ。
 やっぱりあいつが一番欲しいものじゃなきゃ駄目なのかなーって」

「そうなんだ・・・
 私なら、桐乃のくれたものなら何でも嬉しいのに・・・」

あやせがショボンとうなだれる。
たぶんそいつも喜ぶんだろうケドよ、それだけじゃ駄目ってことなんだろうな。

「ねぇ加奈子、どうすればいいかな?」

そうだなぁ・・・

コツン

ん?足をあやせに蹴られたような・・・

『変な事言わないでね?』

あやせがコウサイの無い目で加奈子を見てやがる!
目は口ほどにモノを言うっていうけどよ、あやせの目ってば語りすぎじゃね?

『なんて言って欲しいんヨ?』

『私とお兄さんと桐乃で遊園地に行くとか・・・』

『それただのあやせの希望だべ?
 遊園地に行くとしても、あやせがいない方が仲良くなれるんじゃねーの?』

『桐乃とお兄さんがこれ以上仲良くなったら困るじゃない』

『桐乃の相談に乗る気ねぇのかヨ!』

『あ、そっか・・・
 どうしよう。桐乃の力にはなりたいけど、お兄さんとは仲良くなって欲しくないし・・・』

やっぱりあやせに相談しようとしなかった桐乃の判断は正解じゃね?
あやせが隣にいるのに相談してきたのはどうかと思うけどよ。

「やっぱり、すぐに仲良くなることなんかできないのかな?」

桐乃がさびしげに顔を伏せる。
あやせとのアイコンタクトを、二人で悩んでるんだと思ったみたいだな。

「桐乃もそいつも、お互いに仲良くなりてーんならさ、そんなの簡単だって。
 たとえばぁ―」

考えるフリをしてあやせを盗み見る。
あやせはにっこりと笑い、口を小さく動かす。

ウ・メ・マ・ス・ヨ♪

・・・加奈子ってばドクシンジュツなんて覚えてねーからよ、ただの気のせいだよな?

あやせの気持ちもわかるけどよ、桐乃の力にもなってやりてーんだよな。
でも加奈子は器用じゃねーし、できることは一つしかないからさ。
だから加奈子の選択肢は―

 A.桐乃に助言をする。
 B.『二人』を仲良くする。
⇒C.加奈子にできる事をする。

どれも一緒なワケよ。
あたしはばかだからカケヒキなんてできねーし。
思った事をするしかないからさ。

だからさ、桐乃、あやせ、二人とも―


「素直に甘えてみればいいんじゃね?」


「「え?」」

「桐乃はさ、今までそいつにワガママ言ったり、頼み事ばっかしてきたんだろ?
 そんでそいつはさ、イヤイヤでも桐乃を助けてきた。
 そうやって仲良くなったんならさ、ムリに変える必要ないじゃん」

「でもそれじゃあ、あいつに感謝の気持ちを伝えられないじゃん」

「桐乃ってばよ、そいつにキツく当たってきたんだろ?
 ずっと素直になれた事ないんじゃねーの?」

桐乃が『大切な人』のこと話す時、いっつも言い回しが素直じゃないんだよね。

「うっ。まぁ、あんまり素直になれたことはない、かな?」

「じゃあよ、いきなり感謝したりとかできねーと思うんだけどヨ。
 突然プレゼント渡したりするとこ考えてみ?」

「・・・たぶん、渡せないか、変な事言っちゃうか、ビンタしたりすると思う。
 前のときもそうだったし・・・
 今ならもうちょっとうまくやれるとは思うんだけど・・・」

「だべ?ならさ、とりあえず今までのお礼はおいといて、
 ちょっと甘えて、それに対してお礼してみるのはどうヨ?」

「買い物に付き合ってもらって、買った小物を上げたりお礼したりするってこと?」

「そうそう」

「それくらいなら、できる・・・かな?」

「ならそこから少しずつ素直になるのに慣れていけばいいんじゃね?」

桐乃はガンガン先に行こうとすっけどよ、少しずつ仲良くなるのも恋愛のダイゴミだと思うわけよ。
特に『フクザツなジジョー』があるならさ、いきなりガラッと変えても気まずくなるだけだと思うんだよね。

「でも今までもいっぱい迷惑かけてるのに、これからもまだ甘えたりしたら、嫌われたりしないかな・・・?」

「ん~相手にもよるけどよ、甘えるのは悪いってワケじゃないと思うんだよね。
 最近はあんまやってねーけどよ、加奈子に声かけてくる奴らって、加奈子がロリ可愛いからよってくるわけよ。
 そういうヤツらはさ、ホゴヨクっていうの?
 そういうのがあるから、加奈子に甘えられるのが好きなんだよね」

「う~ん。
 そういうものかな?」

いまいちナットクできてねーみたいだな。
・・・あんまり話したくねーけどヨ、しかたねーから、加奈子の体験談を話してやるか。

「なぁ桐乃ぉ。
 桐乃はブリジットって知ってるべ?」

「うん。あるちゃ―じゃなくて、前にあいつといた時に加奈子と一緒にいた子だよね」

「ブリジットってよー、事務所じゃ加奈子の後輩なんだけどさ、しょっちゅう付きまとってくんのよ。
 ホント、マジウザくてイラつくんだけどよぉ。
 
 それでもよ、あいつイッショーケンメーだし、頑張ってっし、カワイイからよ、
 ブリジットに頼られたり、甘えられたりするのってキライじゃねーんだよな」

ミョーに気恥ずかしくなり、顔をそらす。

「なんていうかさ、加奈子妹いないからよくわかんねーけどさ、妹ができたみたいっつーの?
 世話焼くのは悪い気分じゃねーっつーか・・・」

「加奈子・・・
 少し心配してたけど、ちゃんと頑張ってるんだね」

あやせが加奈子を優しく見つめる。

「うっせ!」

もう一度顔をそらす。
まったく、顔があちーじゃねーかよ。
やっぱ、言うんじゃなかったな。

「あるちゃんが妹・・・じゅるり」

加奈子が視線を戻すと桐乃が壊れていた。
最近桐乃のこんな顔をよく見るんだけどよ、どっか違う場所でも見た気がするんだよな。
どこだっけ?

「ってかよ、桐乃だって頼られるのは嫌いじゃないべ?」

「あたし?あたしは・・・」

加奈子はちらりとあやせに視線を向け、

「たとえばよ、あやせに頼られたり甘えられたりすると嬉しいんじゃねーの?」

「あやせに?
 うん。好きな人とか、大切な人に頼られるのは嬉しいな。
 信頼されてるんだって思えるし、力になってあげたいし」

「桐乃・・・」

あやせが頬を染める。
桐乃ってばよ、こういう時すっげー素直にしゃべるよな。
意識してるわけじゃなくて、天然のタラシなんだよなー。
大切な人にもよ、そんだけ素直になってやれっつーの。

「そいつもよ、結構なオセッカイやきみてーだからさ、
 頼られるとなんだかんだで喜んでると思うぜ?」

「でもあいつ、あたしが何頼んでも嫌そうにするんだよね。
 せっかくあたしがかまってあげるっていうのにさ。
 あいつ単純だから、嬉しいなら嬉しそうな顔すると思うんだけど」

「それってよ、変なリユーつけてるからじゃねーの?
 『あんたしかいないから仕方なく~』とか『責任とって~』とかヨ。
 自分じゃなくてもいーんじゃねーかって思ったらさ、素直に喜べねーって」

桐乃いっつも『仕方ないからあいつをつれていったわけ』とか、『そんなことするからお詫びに~させた』とか言ってっけどよ、
加奈子たちにテレかくししてるとかじゃなくて、ホントにそう言ってんだべ。

「確かに素直に誘えたことはない、かな?」

「桐乃はよ、色々なことができるからさ、誰かに頼ることなんかめったにねーじゃん?
 なら頼ってばっかのそいつって、桐乃にとって特別なヤツなんだろ?
 それならよ、ちゃんと『特別なんだ、信頼してるんだ、だから甘えたいんだ』ってわかってもらわないといけないぜ?
 
 桐乃にとっての特別だって知って、嬉しくないヤツなんかいねーからよ」

「本当に、喜んでくれるかな?」

間違いないよ。
桐乃に相談されて、加奈子も嬉しいんだからさ。

「うん、分かった。
 できるか分からないけど、素直に甘えてみる。
 
 あ、えと、加奈子・・・」

「なによ?」

「ありがとうね。相談に乗ってくれて。
 
 
 それとね、あいつだけじゃなくて、加奈子もあやせも、あたしにとって特別だから・・・」


桐乃が頬を染めてにっこりと笑う。
だからよぉ、加奈子をオトそうとすんなっつーの!



「桐乃ってさぁ、時々『あるちゃん』とか『めるちゃん』とか言ってっけどよぉ、メルルのこと知ってんの?」

「え?えと、あの、その・・・」

おぉ、桐乃がきょどってる。
まぁ恥ずかしいのはわかるけどよ、なんたって

「わかってるって。
 加奈子の仕事について調べてくれたんだべ?
 桐乃が子供向けアニメなんか見ねぇのわかってからよ、勘違いしねぇって」

「!そうなの!
 加奈子の仕事の内容が知りたくてさ、ちょっと見てみたんだ」

やっぱなー。
桐乃のヤツ、最近加奈子の仕事についてよく聞いてくるし、
思い込みの激しいあやせと違ってちゃんと下調べすっからよ、そうだと思ったんだ。

「BDも第一期第二期両方とも初回特典付きで集めたし、もちろん劇場版も初日に見に行ったよ。
 第三期だって毎週録画しながら見てるし、BDは全巻予約済み。
 あ、予約特典は全部欲しいから―」

桐乃が目をグルグルさせながらすごい勢いで喋りだす。

・・・・・・下調べだよな?

「桐乃!」

あやせがあわてて桐乃の名前を呼ぶと、桐乃の動きがぴたりと止まった。
桐乃の顔色が真っ青に変わっていく。
あと、加奈子を見るあやせから表情が消えていく。

大声で喋って恥ずかしい姿を見られたからって、そこまで慌てなくてもよくね?

「ねぇ加奈子」
『黙っててくれるよね?
 私、まだ加奈子とサヨナラしたくないんだ』

あれ?今あやせの声が二重音声で聞こえなかった?
加奈子の危機察知能力がスキルアップしたんかな?

とにかく、今のはスルーしろってことだよな。

「ちゃんと調べてくれてるのは嬉しいけどよ、ワザワザ買わなくてもいいっつーの。
 事務所から渡されたのがあっから、言ってくれたら貸してやんよ」

加奈子のせいで桐乃がオタになんのも困るからよ。

「あ、うん。それもそうだね。
 でもさ、ちゃんと見るからには製作者に何か返さないといけないじゃん?」

ふ~ん。作家様からしたらそういう考えなのかもな。
まぁとにかくメルルのこと嫌いじゃねーみたいならさ―

「それで加奈子ぉ、今度遊園地でメルルショーやるんだけどぉ、
 よかったら『大切なヤツ』と一緒に見に来ねぇ?
 いい席取っておいてやっからヨ」

「え?」

「それならそいつをデートに誘う口実ができるっしょ?
 あ、誘うときは素直に『一緒に行きたい』って言えヨ?
 さすがにそこまで面倒見きれねーかんな」

「あたしが、京介と一緒に、加奈子に招待されて、メルルイベントでデート・・・」

桐乃の顔がだらしなく溶ける。
・・・何考えてんのかわかんねーけどよ、見てて不安になんだけど。

・・・しかたねーな。

「ちゃんとやれっか心配だから加奈子もついていってやりてーんだけどヨ、
 リハとかしねーといけねーし、あんまり桐乃にかまってやれねーんだよな」

ちらりとあやせの方を見る。

「なんならあやせも一緒に来たらどうヨ?」

「え?私も?」

あやせが目を丸くする。
さっき一緒に行きたいって目で合図してたじゃねーかよ。

「あ、それいいかも」

桐乃が賛同する。

「駄目だよ。私が行ったらお邪魔になっちゃうし・・・」

「いいって、いいって。
 あいつもあやせのこと気に入ってるしさ」

「でも・・・」

「・・・ねぇ、あやせ」

桐乃が正面からあやせを見る。

「前ならさ、あやせとあいつを会わせたくなんかなかったけどさ、
 あいつ、あたしを選んでくれたし、今なら少しくらいあいつを信じてもいいかなって思えるから。
 
 それに、あやせだってあいつに会いたいんでしょ?

 あいつのことは大事だけど、あたしにとってあやせもすっごい大事だし、
 あいつと、あやせと一緒ならもっと楽しめると思うんだ」

あやせの顔が朱に染まる。

「う、うん」

「それにさ、」

桐乃は身を乗り出し、あやせの耳元に顔を寄せる。
なんだよ、加奈子は置いてけぼりかヨ。

「あたしが・・・暴走・・・心配だし・・・
 だけじゃ・・・」

「うん、確かにね」

「・・・兄貴が・・・の時も・・・していいから」

「あはは、それなら私が必要だね!」

・・・加奈子、無視されて寂しいんだけど・・・


「それで、結局来るのかヨ?」

しばらくして桐乃が離れたのを見計らって、そう切り出した。

「うん。加奈子のイベントには絶対に行く。
 そのせいであやせやあいつが来ないって言っても、絶対に行くからね!」

来てくれるのは嬉しいけどよ、それってホンマツテントーじゃね?

それにしても今の桐乃の顔、はじめてみるくらい楽しそうだな。

「加奈子、これで何度目になるかわかんないけどさ、
 色々とありがとうね。
 本当に嬉しい」

「・・・加奈子と桐乃はダチだべ?
 ならよぉ、桐乃のために頑張るのは当たり前じゃん?
 いちいち礼なんか言わねーでいいっつーの。
 
 代わりにちゃんと、その鈍感な『大切なヤツ』に言ってやれよな」

桐乃と話すのは楽しいんだけどよ、

「加奈子は優しいね。

 うん、ちゃんと言ってみる」

そんな顔されると、こっちの調子も狂っちまうじゃねーかヨ。



「ところであやせぇ、いつになったら糞マネ連れてくんの?」

この間あやせにつれてきてくれって頼んだんだけどよ、
糞マネは受験生のアルバイト君だったらしくて、時間が取れないって言うんだよな。
時間が合えば連れて来るって言ってたけどよー、もうずいぶんと経つぜ?
やっぱりあの糞マネ、あやせに埋められちまったんかな・・・

え?加奈子の方こそ、この間あやせのゲキリンに触れて埋められたんじゃなかったかって?
・・・・・・よく思い出せねーや。
よくわかんねーけど体も震えるし、思いださねーほうが良い気がすんだよな。

「え、えっとー」

あやせが加奈子から目をそらし、桐乃のほうを見る。
桐乃がコクリとうなずく。

?桐乃も糞マネのこと知ってんの?

「桐乃が良いなら・・・
 加奈子、その人なら今度のイベントのときに会えるかもしれないよ」

「今度ってーと、桐乃とあやせが見に来るときかヨ。
 ひひ。そりゃ楽しみだなー」

桐乃の前でショーをやるのは緊張するかも知れねーけど、あの糞マネがいてくれるなら、
きっと加奈子は最高のパフォーマンスを見せてやれるだろうなぁ。

桐乃、ちゃんと楽しんでくれると嬉しいな。

「でも加奈子、あの人は筋金入りのシスコンだよ?
 ・・・妹に頼まれたからって彼女を作らないくらい」

ふ~ん。
桐乃のお兄さんみたいなヤツって結構いるんだな。
それに、糞マネの妹も桐乃みてーにブラコンなんかよ。

まぁでも、問題ないべ。
糞マネがすごいシスコンだとしてもよ、


「平気だっつーの。
 要はぁ、加奈子がその糞マネの妹よりも魅力的だって認めさせてやればいいんだべ?
 
 
 なら、あいつを加奈子しか見えないくらいにメロメロにしてやんよ♪」


-HAPPY END?-




おまけ

「ところでよ、ランちんなんだけどよぉ、この間誰かに助けられて、そいつのこと探してんだってヨ」

「ふ~ん。その恩人てどんな人なの?」

「なんて言ってたっけなぁ。
 そうだ!
 確かよぉ、目は死んだ魚みたいだしぃ、地味な雰囲気だけどぉ、
 よく見ると顔は整っててぇ、優しくてぇ、頼りになるヤツだとか・・・」



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最終更新:2011年06月25日 00:24