379 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/06/29(水) 02:54:41.24 ID:ZJ2eDmw10
【SS】『美咲さん』

「きょ~うす~けく~ん。遊びましょ!」
「断る」
九月半ばの午後、暇を持て余した僕が高坂家に来て言った言葉に、京介くんはそう返した。
「相変わらずだなぁ、京介くんは」
大分仲良くなってきたと思うんだけど、二回目にこの家に来たときとまったく変わっていないね。
「なんで今更お前が俺を遊びに誘うんだよ。
 遊びたけりゃゲー研のところに行きゃいいじゃねーか」
本当に僕に構いたくないのなら、さっさと玄関の扉を閉めればいいだろうに、
わざわざ僕の話を聞こうとしてくれるなんて京介くんは優しいなぁ。
「うん、そうなんだけど、夏休みと違って学校が始まっちゃうと一人だと遊びに行きづらいんだよね。
 ほら、僕って目立つからさ、一人で学校に行くと女の子たちから騒ぎ立てられてゲー研までいけないんだ」
「やっぱり帰れ」
やる気のない目を細め、京介くんはそう言った。
あれ?今僕京介くんに嫌われるようなこと言った?
「・・・・・・仕方ないなぁ。
 仕事場の近くに来ているらしいし、桐乃さんとどこかに行こうかな」
「・・・・・・分かったよ、お前をゲー研まで連れて行ってやる」
京介くんが険悪な顔で睨んでくるけど、ゲー研まで連れて行ってくれるみたいで嬉しいな。


「へぇ、黒猫さんとは別れたんだ」
「・・・・・・あぁ。おかげで今はフリーだよ」
「ふ~ん。そうなんだ」
桐乃さんほどじゃなかったけど、黒猫さんも京介くんのこと好きみたいだったし、
結構お似合いだったから意外だな。
それにしても、京介くんは今フリーなのか。
それなら前よりももっと僕に構ってくれるようになるかな。
「なんか今、イヤな気配を感じた気がしたんだが」
「気のせいだよ。それで、妹さんとは上手くやれているのかい?」
「・・・・・・桐乃か」
京介くんは言いづらそうに視線をそらす。
また喧嘩でもしたのかな?
桐乃さんは京介くんの事大好きなんだから、いっぱい構ってあげないと駄目だよ?
「あのな御鏡、おまえに折り入って相談があるんだが・・・・・・」
このフレーズはこの前も聞いたね。
「妹さんのことについての相談なんだね?
 ―分かった。今度こそ僕もちゃんと力になってあげられるよ。
 全力で協力させて欲しい」
京介くんにググイと近づき、熱弁する。
京介くんは『相談する相手を間違ったか』とでも言いたげな表情で少し身を引き、
「お、おう・・・・・・助かるぜ。
 じゃあ・・・・・・言うぞ?」
「いつでもどうぞ」
「・・・・・・おまえも気づいてなかったと思うけどよ。

 桐乃って、俺にとっての一番でいて欲しいんだってさ」

「ごほっごほっ!」
いまさらなんてことを言うんだ君は!
それに気づいていなかったのは君だけだよ!
「きょ、京介くん!君は!」
「ふ、ふざけて言ってるわけじゃねえぞ!
 桐乃がそう言ったんだからな!」
桐乃さんに直接言われるまで気づかなかったのかい!
「よ、ようやく気づいたのかい・・・・・・」
「うるせえ!
 俺はおまえと違ってエロゲ脳じゃねえんだよ!
 気づくはずねえだろうが!」
いや、エロゲ脳とか関係なく、普通なら好意をもたれていることくらい気づくんじゃないかな?
僕に偽彼氏を演じさせてまで振り向いてもらいたかった桐乃さんが、可哀想になってきたよ・・・・・・
「まったく、俺のことが大嫌いだってのに、一体何を考えてるんだろうね、あいつは」
「・・・・・・いい加減疲れたから突っ込まないけど。
 それで京介くんの相談は一体何なのかな?」
「あ、あぁ。
 おまえとの一件もあったし、そんなこともあったからよ、最近桐乃と仲良くなろうと努力してんだけどよ」
「それは素晴らしいね!」
桐乃さんも喜んでいるだろう。
「けどよ、どうにも上手くいかねえんだよ。
 この間も桐乃と仲良くなろうとハートフレームのツーショットプリクラを携帯に貼って、
 待ち受けを桐乃の水着写真にしたらあいつ激怒しやがって。
 それと同じプリクラを携帯に貼って、待ち受けを俺の写真にして俺に嫌がらせしてくるしよ」
「なんでそれが嫌がらせなのか、僕には理解できないよ」
「自分で嫌がってたのに、それを俺にしてくるなんて嫌がらせだろ?」
詳しい経緯は分からないけど、また京介くんの勘違いの気がするなぁ。
「昔は仲良くしてたんだけど、そのときのことをなんかよく覚えてなくてさ、
 それでおまえに、仲の良い兄妹が何をするか聞きたいと思ったんだけどよ」
「それなら僕よりも瀬菜さんに聞いた方がいいんじゃないのかな?
 瀬菜さんにも仲の良いお兄さんがいるって聞いてるんだけど」
「アレは駄目だ。
 あいつらはすごいブラコンにシスコンだからな。
 何より瀬菜は腐りきってる。俺と兄貴をカップリングして悶えてるんだぜ?」
その話は聞いたけど、腐女子ってあそこまですごかったんだ。
けど、京介くんたちよりもすごいブラコンシスコンはそうそういないと思うけど。
「僕には兄しかいないから、上手く相談に乗れるか分からないけど。
 ところで最近はどんなことをして上手くいったんだい?」
「う~ん。そうだな。

 ケーキのイチゴを食べさせあったり、
 祭りの後、誰もいないところで二人きりで月見をしたり、
 満員電車であいつを守るためにギュッっと抱きしめたりしたな。
 
 あと、いつもベッドの上で二人で妹モノのエロゲしたりしてる」

「明らかに兄妹ですることじゃないよね、それ!」
普通の恋人でもしないようなことしてる気がするんだけど。
僕も時々『ちょっとずれてる』って言われるけど、それくらい分かるよ!
「そうか?仲の良い兄妹ならこれ位するだろう、普通」
『何を言ってるんだお前は』って言いたげな目で僕を見ないでくれないかな。
それは僕が言いたい台詞だよ。
「まぁ、山手線で一駅乗りすごしたからってそのまま一周したのは、ちょっとやりすぎたと思ってるけどよ」
「抱き合ったまま一周したの!?」
参ったな。この二人は僕が想像しているよりもはるか先に行っているらしい。
「悪いかよ。離れるきっかけがなかっただけだっての。
 それでよ、俺はあいつに何をしてやればいいのかな?」
まだこれ以上先に進みたいの!?
京介くんは僕のことをエロゲ脳とか言っていたけど、京介くんの方がおかしなことになってると思うよ。
「う~ん。まじめな相談みたいだし、きちんとした回答が出来そうな女性に聞いてみる」
「・・・・・・それってやっぱり」
「うん。『美咲さん』」
「参考にならねえ女ナンバーワンじゃねーか!」
「平気。今度は間違いなく参考になるよ」
「本当かよ・・・・・・」
京介くんは呆れ顔で言う。
前回の一件でずいぶん信用をなくしてるなぁ。



京介くんに『ちょっと待っててね』と断りをいれ、少し離れてから登録した電話番号を呼び出す。
仕事中ではなかったのか、相手はすぐに電話に出た。
「もしもし、僕です」
「あ、御鏡さん?」
「そうです。ちょっとお時間いいですか?」
「うん、今ちょうど休憩中だから問題ないよ」
電話の先で『美咲さん』がそう答える。
「ありがとうございます。
 少し相談があるんですけど、答えられる範囲で構いませんので答えていただけませんか?」
「わかった。あたしでいいなら力になるよ」
やっぱり『美咲さん』は親身になって相談に乗ってくれようとするいい人だな。
「僕の友人から相談されていることなんですけど・・・・・・
 頑張り屋で素直じゃない妹に、自分を一番に見て欲しいという想いを打ち明けられたらしくて、
 その人ともっと仲良くなりたいそうなんですけど、僕の友人は何をしてあげればいいと思いますか?」
「へぇ、そんな健気で可愛い妹さんが三次元にもいるんだ」
いるんですよ、『美咲さん』。
「う~ん。あたしの経験からすると、その友人は早く死んだほうがいいと思うよ」
「それって酷過ぎませんか!?」
「可愛い妹さんにそこまで思われて気づかないって、明らかにニブ過ぎるって。
 死なないにせよ、その可愛い妹さんのために今後の一生を費やすべきだと思う。
 それでさ、その友人て妹さんのことどう思ってるの?」
「直接聞いたことはないから分かりませんけど、大切には想っているみたいですよ。
 ・・・・・・少なくても、妹に紹介された彼氏に喧嘩を売るくらいには」
「何それ、最悪じゃん。そいつ、妹のことなんだと思ってるの?
 兄貴ならさ、妹の恋路を邪魔するんじゃなくて、もっと妹に優しくするとか、
 自分の魅力とかで妹を繋ぎ止めとけっていうの」
「妹談義は後で聞きますから、今はどうやったらその妹と仲良くなれるか教えていただけませんか?」
「そうだね。その妹さんのためにも、その友人を早くどうにかしないと。
 その友人と妹さんがどれだけ仲がいいのかは知らないけど、仲がいい兄妹でする事といったら・・・
 
 ツーショットのプリクラを携帯に貼ってみたり、
 イチゴのショートケーキを買ってきてケーキのイチゴを食べさせあったり、
 お祭りの後二人きりになって身を寄せ合って一緒に月を見たり、
 満員電車で妹を守るために抱きしめてみたり、
 あとは、ベッドの上で二人で妹モノのエロゲしたりするくらいかな?」

「明らかに兄妹ですることじゃないと思うんですけど」
その行動が初耳なら思い切り叫んでたと思うよ。
「そうかな?
 昔なら、毎日一緒にお風呂入ったり、毎日一緒に寝たり、四六時中抱きついたりしてたから、それよりはマシだと思うんだけど」
「昔も昔で兄妹っぽくはありますけれど、結構レベルが高いですね。
 それなら、今お兄さんにして欲しいこととかはありませんか?」
「兄貴に?
 ・・・・・・特にない、かな」
「・・・・・・ないんですか?」
僕にあんな頼み事をしてまで関係を変えたかったのに?
「うん。して欲しいことはないよ。


 あたし、兄貴がしてくれることなら、なんだって嬉しいから」


「そうですか」
今の状況に満足しているようなら、良かったですね。
まぁそれはそれで、京介くんへの返答には困るんですけど。
「あ、でも一つだけ」
「なんですか?」
「昔みたいに、ギュッとして一緒に寝たいかな」
「・・・・・・分かりました。そう伝えておきますね。
 相談に乗ってありがとうございます」
「・・・・・・ねぇ、ふと思ったんだけど、もしかして―
 ―ううん、なんでもない。
 その鈍感な友人と、可愛らしくて頑張り屋で素敵な妹さんによろしくね」
「はい。僕も二人が上手く行くことを祈っています。
 では、失礼しますね」



『美咲さん』との電話を終え、京介くんの方へと振り向く。
京介くんは僕と『美咲さん』の会話を気にしていたみたいだけど、聞き耳を立てることもなくずっと待っていてくれたみたいだ。
「美咲さん、なんだって?」
「ギュッっと抱きしめて寝るのがいいって」
「なわけねーだろ!彼女でもねえのにそんなことできるか!
 やっぱり絶対おかしいよあの人!」
「『家族で男と女というのは、夫婦という契約状態にあるのと一緒なんだから、それくらいしてあげないと可哀想でしょ』って言ってた」
嘘だけど。でも本物の美咲さんならこんな言い方をすると思う。
「・・・・・・御鏡、おまえの正直な意見を聞きたい。
 すでに中学生を卒業しようかって言う妹を抱きしめて寝るのは兄として普通か?」
「抱き合って寝るくらい普通だと思うよ。
 僕の知っているゲームの中では」
「エロゲの話じゃねえよ!」
「でも、山手線一周するまで抱き合ってるなんて、ゲームでもそんなシチュエーション見たことないよ」
「・・・・・・妹を守るためなら、兄貴はなんだってできるのさ」
格好良い台詞だけど、いくら混雑時の山手線でも一周の間ずっと込み続けることはないと思うんだ。
「一体、何が不満なんですか?」
「・・・・・・そんな状況、俺のリヴァイアサンが黙っちゃいねえからだ」
リヴァイアサン?
「満員電車のときでもやばかったんだぞ。
 桐乃を抱きしめて寝るなんてことになったら、おっぱいぐらい揉んじまうかもしれねえ」
「うーん。
 京介くんも桐乃さんもお互いのことが一番大事なら、それくらいいいんじゃないかな?」
「よくねえよ!おまえはエロゲと美咲さんに毒されすぎだ!
 もっと常識を身に付けやがれ!」
「あはは。妹相手にそんな心配をする人に言われたくないなあ」
「いきなり常識的な台詞を言われた!?
 くそっ!もうおまえには金輪際相談しねえからな!」
「それは残念だなぁ。
 僕はもっと京介くんの相談に乗りたいのに」
「・・・・・・おまえ、瀬菜の前でそんなことは言うなよ?
 あの腐りきった眼で見られるのはぞっとしねぇ」
僕は別に構わないけどな。
「相談の最後にちゃんと言っとくけど、
 桐乃さんは京介くんがしてくれることなら、なんだって喜んでくれると思うよ。
 うん、これは絶対に本当だから」
「どうだかね。何かをプレゼントしたらセンスがないって言われるだろうし、
 どこかに行こうと誘ったら『なんであたしがあんたと行かないといけないワケ?』って言われるだろうさ」
けどプレゼントはずっと身に着けてくれるだろうし、
結局一緒に遊びにいけて、そこではすごく嬉しそうにするだろうね。
「心配なら、そういうときこそ僕の出番だろう?
 大丈夫。二人のために、格安で最高のマリッジリングを作ってあげるよ」
実はもうデザインはできてるんだ。
「マリッジリング?よくわからねえけど、確かにアクセサリーならおまえのセンスなら間違いないだろうな。
 おまえが作ったモノが桐乃の手に渡るのは気にいらねえけど」
何気なくヤキモチを焼く京介くんも可愛いなあ。
「分かったよ。今度作ったら持ってくるね」
「金はそんなにないから―
 っておまえは趣味なら原価ギリギリで仕事をするようなやつだったな」
うん。リングを渡される桐乃さんが見られるなら、むしろお金を払っても良いくらいだよ。
「やっぱりすげえわ。おまえも、桐乃も・・・・・・」
気づいていないかもしれないけど、そういう京介くんもすごいんだよ。

そうこうしている内にゲー研の前に到着する。
いつもと比べて、すれ違う女の子たちが僕に向ける視線が違っているように感じたけど、どうしたんだろう。
京介くんが隣いるからかな?
「どうもありがとうね」
京介くんに礼を言う。
「礼を言われるような事はしてねえよ。
 それより俺の方こそ相談に乗ってもらってサンキュな。
 役に立たねえけど」
「手厳しいなあ。
 でも、抱きしめてあげるのは良いと思うよ。
 大切な人に抱きしめられたら、女の子は誰でも喜ぶからね」
「そうかね?
 どうせそういうのもイケメンに限るんだろうさ」
「あと、どさくさにまぎれておっぱいを揉んでも許されるから」
「そういうこと言うからいまいち信じられねえんだよ!
 あと何?俺っておまえにおっぱい星人に見られてんの?」
「うん。彼女ができた翌日、知り合ったばかりの僕に相談してきたり、
 瀬菜さんと出会い頭にセクハラしたりしたから、僕の中では京介くん=おっぱい星人で登録されているよ」
「うぐぁぁぁ!」
京介くんがのた打ち回る。
ここが目立たないところだからって、周りの目を気にせずにそんな行動を取れるなんて、やっぱり京介くんはすごいなあ。
「あ、高坂せんぱいに御鏡さんじゃないですか!」
廊下の向こうから瀬菜さんが手を振り近づいてくる。
「高坂せんぱい、何こんなところで悶えてるんですか?
 も、もしかして人目が少ないのを良いことに、御鏡さんに攻め落とされていたんですか!?
 高坂せんぱいの鬼畜攻めに御鏡さんの健気受けだと信じてたのに!
 あ、でも温和な御鏡さんの激しい攻めも見てみたいっ!」
「うっせぇ雌豚!
 こちとらおまえのせいで桐乃に
 『ねぇ、あんたせなちーのお兄さんと突きあってるってホント?』
 ってマジ顔で聞かれたんだぞ!
 お詫びにその乳揉ませやがれ!」
やっぱりおっぱい星人じゃないか。
「御鏡さんとの絡みを見せてくれるならいいですよ」
「なにその二律背反!
 なんでホモ疑惑をかけられたお詫びを得るためにホモ行為しないといけないの!?」
「まぁまぁ、こんなところで喋るのもなんですし、早く中に入っちゃいましょう。
 最近高坂せんぱいが来てくれないんで真壁せんぱいも部長も寂しがっているんですよ」
「おまえの考えてる寂しいと、世間一般で言う寂しいって意味違ってるよな!」
京介くんと瀬菜さんが掛け合い漫才をしながら部室の中に入っていく。
瀬菜さんも何時もより楽しそうだ。
本当に、京介くんはみんなに好かれてるなぁ。

それにしても

『あたしなら、「ずっと思い続けてきた大切な人」が相手で、その、ムードとか気にしてくれるなら、
 両思いになったその日でも触らせてあげてもいい、かな?』

『美咲さん』が言うんだから問題ないと思うんだけどな。


-END-




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最終更新:2011年07月02日 00:29