707 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/07/06(水) 17:35:16.12 ID:Rx+W1JuU0 [1/3]
SS『簡単なお返事』


最近のあたしは少しヘンだ。
ううん。もしかすると、これまでのあたしの方がヘンだったのかもしれない。

お父さんたちも居ないのに、大好きなエロゲーも早々に切り上げた。
アニメもそんなに見ていない。今までの半分程度だ。
モデル活動も長い事していない。
陸上部も、受験前で引退という扱いになってしまっている。

そして今、普通の女の子のように、ただ、大嫌いなあいつの事ばかり考えている。

勿論、勉強を疎かにしたりはしていない。
でも、ふと気が付くと、ドアの方を見てしまっているんだ。
だって、仕方ないじゃない。
このドアは、あいつにとって唯一の入り口なんだもん。

「それにしたって………」

こんなにも大事だったハズのエロゲーを、プレイする気力が湧かないなんて………。
だって、エロゲーは、この数年間のあたしの人生の半分を占めていたんだもん。
ネットでよく『エロゲーは人生』みたいな書き込みを見るけど、本当だった。
アレがないと生きられない、あたしがあたしじゃなくなるって、本気でそう思ってた。

でも、仕方ないじゃん。
この二ヶ月、あたしの周りで起こった事は、
『それなんてエロゲ?』としか言いようが無いことばかりだった。
現実がほとんどエロゲー並みなんだもん。
わざわざエロゲーをする必要なんてないよね!

………本当は分かってる。そんな理由じゃないって事は。
でも、どうしようもないよね?あいつは、あたしの兄貴なんだし。

でも………それでも………もしかしたら………

そうだ。あいつったらあたしに彼氏が出来るのなんて許さないって………
それに、あたしのからだ、あったかいって………
あたしがいなきゃ死んじゃうって………

でも、あいつは………あたしの、兄貴、なんだし………

そう。最近はいつもこんな感じ。
大っ嫌いなあいつの事が、頭から離れてくれない。

手は、頭とは関係なく目の前の問題を解いていく。
さっきから問題集のページが3ページは進んでいる。
このペースなら、今週中にはこの問題集も終わらせられるはず。
………でも、頭の中にある問題は、たぶん、一行たりとも進んでいない。

ドアを見る。
この前は、あいつ、あたしの寝てる間に入りこんで、あたしに覆いかぶさって―――
も、もしっ、あの時、あ、あたしが起きなかったらっ………!?

―――お兄ちゃんのお嫁さんになれたのかな?―――

そんな事ない。
そんな事ないって分かってるのに、想像するだけで顔がにやけるのが止まらない。
あいつ、告白するときに、どんな事言ってくれるんだろ?
え、えっちしたい時、どうやって誘ってくるんだろ!?
こっ、子供は何人欲しいのかなっ?家は?仕事は?

トントン

「桐乃、いるか?」
「なっ、何よっ!?」

妄想を追いやって、慌てて答える。
急に、ドアの向こうから、ノックの音と京介の声が聞こえてきたのだ。
あたしは、にやつく顔をなんとか隠そうと必死に不機嫌そうな顔をする。
顔につられて、声まで不機嫌そうな声になってしまった。

「入っても、いいか?」
「………勝手にすれば?」

部屋に入ってきた京介は、ほんの少しだけど寂しそうな顔をしていた。
あたしの………せいかな。

「これ、借りてたゲームな」
「うん」

そっか、あたし、また京介にゲームを押し付けてたっけ。
まだクリアしてないゲームを押し付けるなんて初めてだけど、
あたしは忙しいからしょうがない。

椅子から立ち上がり、ゲームを受け取る。
―――『俺の妹はこんなに可愛い』―――
タイトルから考えても、絶対かわいい妹が出てくるよね!
そう考えて買ったはずなんだけど、良く見ると『妹』の見た目があたしに似てるんだよねー
さすがに性格とか設定とかは違うだろうケド………

でも、それでいて内容が地雷だったら目も当てられないじゃん?
だから、ネットで感想とか出揃うまで手をつけない事にしていたんだっけ。

「で、どうだった?あたし、まだプレイしてないから、感想聞きたいんだよねー」
「そ、そうだったのか?ネタバレしちまうけどいいのかよ?」
「うん。じゃ、お願い」

本当はネタバレとか好きじゃないけど、でも、京介の生の感想も聞きたいし。
それに、あたし似のキャラを………その………してくれたのか、気になるじゃん。
あたしはベッドに腰掛け、京介も横に座るよう促した。
………やっぱ、あたしと京介の座る高さが違うって、良くないじゃん。

「ここ、いいのか?」
「さっさと座る。で、感想は?」
「そうだな、それじゃ…すっげー良かった。
 まず、キャラクターだけどよ?ヒロインの凛だが、おまえに似てて、もの凄く可愛かった」
「なっ!?」

何言い出すのよ!こいつっ!

「いつも兄の事、キモいとか変態とか罵ってるけどよ、
 その言葉の端々に、兄の事を本当は心配しているってのがにじみ出てるじゃねーか」
「そ、そうなの?」
「ああ、本当に、おまえに似て可愛いよな」

あんた………一体どこまで本気なのよ………
そんな事言われたら、あたし、勘違いしちゃうじゃない………

あたしはなんとなく落ち着かない気分になって、隣に座る京介に、少し体重を預けた。

「イ、イベントシーンなんかだと、印象深かったのは、これだな。
 過去編で、妹と壁一枚隔ててるだけなのに、会話する事すら出来なくなったシーンとか、
 寂しすぎて、死ぬかと思った」
「そ、そうなんだ」

そ、そんなシーンあるの?
それに、あんたも………寂しかったんだ?

「その後に、寂しいからって幼馴染や友達の女の子に接近していく主人公のヤロー、
 マジで死ねばいいと思った。つか、最悪すぎだろ!?」
「えっ、えっ!?」

う、嘘っ………
我ながらゲームの選択が最悪すぎた。
これじゃ、あたしが京介を糾弾するために、このゲームを渡したみたいじゃない!

「そ、そのっ」
「ん?」
「ごめんなさい。あたし、ゲームの内容知らなくって………」
「いや、おまえは悪くないよ。俺が、このゲームの主人公みたいに鈍感すぎたんだよ」
「で、でもっ………」

京介は、とても落ち着いた優しい声で答えてくれてる。
でも、だからこそあたしは―――

「俺、おまえの事、大好きだ」

あたしの聴覚を、耳慣れない言葉が通過する。
待ち望んでいた言葉。聞くことなんて有りえないと思っていた言葉。


―――『大好き』―――


「俺はおまえの事、一人の女の子として大好きなんだ」

あたしの口からは声が出てこない。
感情は言葉を上へ上へと押し上げてくるのに、言葉はのどに張り付き、出て来れない。

「それに、おまえの事、妹としても同じくらい大好きなんだ。
 妹と女の子、両方のおまえが大好きなんだ!」

力強い断言。
その響きが懐かしくて、あたしは………
子供のころに戻ったかのように、京介の胸に抱きついて、
ただひたすらに、感情のまま、泣きついていた………





「京介、ごめん、服、濡らしちゃったね………」
「気にすんな。洗えばいいだけだ」
「うん」

どれくらいの時間泣きじゃくっていただろうか。
あたしは、京介の胸に抱きしめられていた。

「それと、落ち着いてきたな」
「うん」

あたしの耳の辺りから、京介の優しい声が聞こえてくる。

エロゲーなら、この後は………だよね………
でも、でもまだ………あたし………

「さすがに、今日はもう疲れただろ?」
「うん………」
「それじゃあ、俺は今日の所は退散するけどよ………」
「うん」

意外だけど、ほっとしている自分がいた。
京介と結ばれたいけど、兄貴とは結ばれちゃいけない。
そういう自分の思いに、あたしは、まだ、決着をつけていない。

「おまえが、もし、良かったら………
 いつか、おまえ一人だけで、俺の部屋に来てくれないか?」
「う、うん!」

京介は、決着をつけた。
次はあたしの番だ。

「それに、その…そういった事じゃなくても、俺の部屋に勝手に入っていいからな?
 つーか、入ってきてくれ。やっぱ、おまえが居ると嬉しいから」
「い、いいの!?」
「あ、ああ」

そういう京介の顔は、なんとなく、
昔のように覇気に満ち、自信に満ちあふれているように見えた。

そんな京介に………部屋を出て行こうとする京介に、
あたしは、さっき泣いてしまって、出来なかった返事をした。


言葉なんかなくたって分かる。
世界で一番簡単な返事を。



End.






―――以下おまけ―――









あいつ、あたしに部屋に入って欲しいとか、マジシスコン過ぎwwwwww
で、でも部屋に入ってどうしよ!?
え、えっちなことはいけないってどこかの人も言ってたし、
まだあたし15だし、早すぎるよね!?
ほ、他に、部屋ですることって!?

そういえば、兄貴が居なくても部屋に入って良いってことだよね!?
つ、つまり、それって………


!!!兄パン取り放題!!!


あ、兄貴、ぜったい、あたしが兄パンくんかしてるって知ってるよね!?
それじゃ、あたしが兄パンもらっていいって認めてくれたってことだよねっ!?
兄パンくんかなら、えっちなことじゃないから大丈夫だよねっ!

そ、それに………あ、兄ベッドも自由につかっていいんだよね………!
兄パン嗅ぎながら、兄ベッドの中で、兄匂いくんかしていいんだ………!!!
兄パンはいっぱい嗅いでるけど、兄ベッドの匂い!!!
枕は兄貴の頭の匂いだし、背中とお尻の匂いも違うよね!?
それに、タオルケットは兄貴のリヴァイアサンが近いし、
足のあたりだって全然違う匂いのはずだよねっ!
あ、兄シャツもあるし!、兄体操着!、兄ーカー!

………全部嗅いだら、あたし、兄貴の部屋で死んじゃうかもぉ………




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最終更新:2011年07月09日 11:55