414 名前:【SS】思い出に残る受験勉強 1/3[sage] 投稿日:2011/07/09(土) 17:42:07.08 ID:UXDYbfEa0 [2/10]
2828系のイベント思いついたけど、あえて日常系で書いてみる。


「ちょっとこの部屋にいていい?」
コンコンと扉をノックしつつも、俺の返事を待たずに空けた桐乃が、顔を半分だけ覗かせながら、そう言ってきた。
「なんだ?俺とシスカリでもしたいのか?」
今は勉強中なんだが、桐乃から誘われたら断りきれる自信がない。
「そ、そうじゃなくて・・・ただ一緒にいたいだけなんだけど・・・ダメ?」
駄目なはずないだろうが。
俺はシスコンだからおまえにそう言われて嬉しいぜ!
っと言いたいところだが、桐乃の顔色は少し悪く、甘えているわけではないようだ。
「何かあったのか?」
俺は心配になりそうたずねる。
「・・・聞きたい?」
桐乃はおどおどとした調子で言う。
「言いたくなけりゃいいけどよ。そんな態度されると心配しちまうだろ?」
理由を言おうと言うまいと桐乃を部屋に入れるのは問題ないが、
このままだと気になって勉強に身が入らないかもしれない。
もちろん、桐乃の気が変わって自分の部屋に戻ってしまったとしてもだ。
「バカにしない?」
「俺がおまえの事バカにするはずねぇだろ」
俺の返事に意を決したのか、桐乃はするりと部屋の中に入ってきた。
「これ見てたの」
桐乃が手に持っていたノートPCの画面を俺に見せる。
なになに・・・「死ぬ程洒落にならない話を集めてみない? まとめサイト」?
あぁ、2ちゃんにある怖い話をまとめたあのサイトか。
俺も昔ネットサーフィンで興味半分に覗いたが、気づくと半日がつぶれた上に一睡も出来なかった。
なるほど、これを読んで怖くなったから俺がいるこの部屋に逃げ込んで来たのか。
「これの『小学生を埋めようとしていた女に見つかったんだけど、俺はもうダメかもしれない』っていうのが怖くて・・・」
その話は俺も知ってる。
夜の山中に迷い込んだ男が、中高生ぐらいの女の子が小学生ぐらいの少女を生き埋めにしているところを目撃すると言う話だ。
2ちゃんに実況スレがたって盛り上がったのだが、逃走中に突然スレ主からの応答がなくなり、犯人に殺されたんじゃないかという終わり

方だった。
スネークに行った人たちも何人か帰らなかったらしいし、
あまりに話がリアルなので、釣りではなく実際に起こった事件なのではないかという意見もある。
舞台が千葉な事もあり、それを読んだ夜はあやせのことを思い出しながらベッドの中で震えたものだ。
「そうか。俺もその話は読んだけどよ、確かに1人でいると『あやか』に連れて行かれそうで怖くなるよな。
 わかった。落ち着くまで俺の部屋にいてくれ」
ちなみに『あやか』はこの話に出てくる山中で生き埋めを行った少女の通称だ。
なんでも見た目が似てるらしい。
「・・・勉強中なのにごめん」
桐乃はいつになくしおらしく謝ると、俺のベッドに腰掛けた。
「あたしの事は気にしなくていいから」
桐乃は俺のベッドに寝転がると毛布に包まり俺の枕を抱きかかえPCを操作し始めた。
むぅ。そんなことされると俺の毛布と枕に桐乃の匂いがついちまうんだが・・・
まぁ、何かに包まりたくなる気持ちはわかるし仕方ないか。

415 名前:【SS】思い出に残る受験勉強 2/3[sage] 投稿日:2011/07/09(土) 17:43:23.76 ID:UXDYbfEa0 [3/10]
二時間ほど集中して勉強した後ベッドのほうを見ると、桐乃はネットサーフィンをしているようだった。
毛布には包まったままだがだいぶ顔色も良くなっており、随分とリラックスしているようだった。
俺の部屋に逃げ込むくらいだから心配だったが、もう大丈夫そうだな。
ほっと胸をなでおろす。
俺の視線に気づいたのか、桐乃はこちらを見ると二時間ぶりに口を開いた。
「ねぇ、あんたの勉強手伝ってあげようか?」
桐乃が俺の勉強を手伝う?確かに桐乃は学業優秀だが、さすがに大学受験の手伝いはできんだろう。
・・・いや、あいつはアメリカに留学してたわけだし、英語なら俺より上かもな。
「ネットにセンター試験とか大学の入試問題とか載ってるみたいだからさ、あたしが問題を出してあげる」
確かにそれなら桐乃でも手伝えるな。
・・・もしかして、さっきからネットでその事を調べてくれてたのか?
いや、考えすぎだろう。
「それじゃあ、そうだな。
 数学とか国語だと面倒だし・・・化学か現代社会の問題を頼むわ」
「オーケー。
 あ、そうだ。成績悪かったら思いっきりバカにしてあげるから」
「ケッ。俺の実力なめんなよ?」
これでも目標の大学には結構余裕があるんだぜ?
第一、おまえの前で馬鹿な姿を見せたら、おまえが俺に気を使って遊びに誘ってくれなくなるかも知れねえじゃねえか。
いつお前の無茶につき合わされても良いように、今まで余裕を持てるように頑張ってきたんだ。
ここでいつも俺を馬鹿にしてるおまえの鼻を明かして、もっと遊びに誘いやすくしてやるぜ!
・・・・・・

「次の中で三重結合を持つ分子は何でしょう」

・・・・・・

「エタノールの化学式は?」

・・・・・・
「えっと・・・85点かな?
 ボーダーラインが71点だから・・・合格だね。
 あんたにしちゃやるじゃん」
桐乃は機嫌が良さそうに足をパタパタと動かす。
「少しは見直したか?」
実は内心かなり緊張していたんだが、何とか満足の行く結果を出す事ができた。
「うん。昔と違って、あんたも頑張ってるじゃん」
おまえを見習って、全力で頑張るようにしてるからな。
そう言おうかと思ったが、照れくさくなって口にすることは出来なかった。
「それじゃあ次は―」
「なあ桐乃、勉強もいいけどよ、もう一時だぜ?
 おまえ寝なくていいのか?」
次の問題を探そうとする桐乃に待ったをかける。
前に桐乃の部屋を訪ねたときは一時に寝ていたし、これ以上俺につき合わせて夜更かしをさせるわけにはいかない。
「あ、もうこんな時間なんだ・・・
 そうだね、もう寝ないと」
桐乃はノートPCを閉じると身体を起こす。
「ところで桐乃、もう平気なのか?」
「・・・あ!」
どうやら何で俺の部屋に来たのか忘れていたらしいな。
「なんなら一緒に寝てやってもいいぜ」
「―キ、キモ!
 い、妹相手にギュッとして寝るだけの簡単なお仕事しようなんて、このブラコン、マジキモい!」
桐乃が顔を真っ赤にして憤慨する。どうやら調子は完全に戻ったみたいだな。
ちなみに俺はおまえを抱いて寝るとは一言も言ってないぞ。
一緒に寝るとしても、普通おまえがベッドで、俺が床だろ?
「この部屋にいたらいつ襲われるかわかんないから、あたしは自分の部屋で寝るから」
桐乃はそう言うとPCと枕を小脇に抱えて出て行ってしまった。

416 名前:【SS】思い出に残る受験勉強 3/3[sage] 投稿日:2011/07/09(土) 17:44:09.66 ID:UXDYbfEa0 [4/10]
ふぅ。
来たときには随分大人しかったが、帰るときには騒がしく出て行ったな。

・・・・・・元気になって、本当に良かった。

さて、俺も寝るか。
一度大きく伸びをして部屋のドアの方を見ると、桐乃がひょっこりと顔を覗かしていた。
「なんだ?」
「・・・ねぇ、あたし邪魔じゃなかった?
 その・・・勉強手伝ってあげるって言ったけどさ、少しくらい役に立ったかな?」
桐乃との勉強を思い出してみる。
桐乃が出した質問と、俺が出した答え、桐乃の反応。
全部思い出せる。
これは、記憶に残る勉強じゃなくて、思い出に残る勉強だ。
「少しどころじゃなく役に立ったよ。
 もし試験でおまえとやった問題が出題されたら、絶対に正解できるね」
問題を見て、桐乃のことを思い出し、桐乃の言った答えを思い出すだろう。
この何時間かは、絶対に無駄じゃなかった。
「ふ~ん。あたしと勉強したところは忘れないなんて、あんたやっぱりシスコンだね。
 ・・・・・・じゃあさ、あたしも中学の勉強だけじゃつまらなくなってきたし、
 今度気が向いたら、また勉強手伝ってあげるから」
「そうか。その時はよろしく頼むな」
「うん。よろしく頼まれてあげる。
 ・・・じゃあ、おやすみ、兄貴」
「おやすみ、桐乃」
バタンと扉が閉じる。どうやら今度こそ自分の部屋に帰ったようだ。
俺は再度体を伸ばすと机に向かった。
―桐乃との勉強のときに恥をかかないよう、もっと頑張らないとな。
横目で桐乃のいたところを見て、ふと気がついた。
「・・・そういえばあいつ、俺の枕を持って行っちまいやがったな」


こうして、この日から桐乃が俺の部屋に尋ねてくることが多くなった。
暇だとか何だとか理由をつけて入ってくるが、しばらくすると俺の勉強を手伝ってくれる。
そして今日も、ドアの隙間から顔を覗かせて言うのだ。

「『知り合いに埋められそうでマジヤバいんだけど』っていう話が怖くて・・・」


今日も、忘れられない思い出が作られる。




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最終更新:2011年07月10日 02:26