65 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/07/12(火) 02:39:12.54 ID:yQreNWvv0 [2/2]
【SS】特効薬
風邪を引いた。
暑いからといって、窓全開、扇風機強、タオルケットもかけずに寝たのが悪かったらしい。
そしてこういう日に限って親父もお袋も朝早くから家を留守にしてるし、
昨日の夜桐乃も用事があるとかで帰りが遅いと言っていた。
とりあえず薬と水を枕元におき、布団を用意、学校と両親、あと一応桐乃にも連絡を入れたところで力尽きた。
『ねぇお兄ちゃん。あたまがいたい』
『平気か?桐乃』
目が覚めたのは何時間後だっただろうか。
上体を起こされ、タオルで体中を拭いてもらっていた。
「ありがとうな」
朦朧とした意識の中で、誰とも知らぬ相手にお礼を言った。
「お礼なんていいから、あんたは寝てなさい」
身体を起こされてるのに寝るのなんて無理だろう。
そう考えたが、体を拭く優しい感触が心地よく、俺はすぐに眠りについた。
『体をふいてやるからな』
『きもちちいいよ、お兄ちゃん』
次に目が覚めたのは三時くらいだった気がする。
いつかどこかで見たヨーグルトが置いてあった。
その隣には「食べたら薬を飲むこと」という書き置きがあった。
お腹がすいていたからその心遣いに感謝しつつ、ヨーグルトを平らげた。
薬を飲みそのヨーグルトをどこで見たのか考えていたら、いつの間にか眠りについていた。
『えへへーこのヨーグルトだいすきー』
『ほら、しゃべらないでちゃんと口をあけろ。
食べさせられないだろ?』
六時に目が覚めると服装がジャージになっていた。
前に目が覚めたときも服が変わっていた気がするが、二着あった予備のパジャマも全滅したんだろうか。
下着も変わっているが、あまり頭が働かない。
しばらくぼーっとしてると、桐乃がお盆に茶碗を乗せて入ってきた。
「あ、起きてたんだ。
調子はどう?おかゆ食べれる?」
「・・・頭が痛い。体が重い。
おかゆは食べれると思う」
「そう。じゃあ食べて」
桐乃はスプーンを俺に渡そうとするが、俺は体がだるくて取る気になれない。
しばらく桐乃はスプーンを突き出していたが、
「ちっ。
ほら、あたしが食べさせてあげるから」
俺が動かないのを確認すると、桐乃はスプーンでおかゆをすくい、息を吹きかけて冷ますと俺の口元に持ってきた。
「ほ、ほら。
・・・あ~ん」
「あ~ん」
桐乃に言われたとおりに口を開く。
何か恥ずかしい事をしている気がするが、頭が働かない。
「・・・うまいな」
どこかで食べた事がある気がした。
「・・・・・・まなちゃんに手伝ってもらったの」
そうか。昔麻奈実が作ってくれたのか。
美味しかったので、催促するように口をあける。
「こら、がっつくな。
ちゃんとよく噛んで食べること」
俺はコクリと頷いた。
「どう?少しは楽になった?」
おかゆを食べ終わり薬を飲むと、俺は再度横になった。
「全然駄目」
先ほど桐乃に体温を測ってもらったが、39度近くあった。
朝からあんまり良くなってない。
「もうすぐウィルスが全滅するだろうから、そしたら熱が下がると思う」
「・・・・・・」
もうしばらく続くのか。
「・・・つらいの?」
桐乃が俺の顔を覗き込んで尋ねる。
俺は頷く。
「・・・そう」
桐乃は何か逡巡しているようだった。
しばらく迷ったあと、桐乃が口を開いた。
「あとで、特効薬をあげる。
それですぐに良くなるから。
だから今は眠って」
特効薬か。
ちょっと胡散臭いが、桐乃が言うなら信じていいだろう。
俺はコクリと頷くと、すぐに眠りに落ちた。
『お兄ちゃん、チューして』
『何言ってんだよ、桐乃!』
『チューしてくれたらげんきになるから・・・』
目が覚めると夜中だった。
今までのことが嘘に思えるくらい身体の調子が良い。
「桐乃の『特効薬』が効いたのか?」
身体を起こそうとして、誰かが手を握っている事に気がついた。
「桐乃・・・」
見ると、桐乃が俺の手を握り、ベッドに寄りかかりながら寝ている。
ずっと俺の隣にいてくれたのか・・・
「ありがとうな」
桐乃の頭を撫でてやる。
「う~ん」
よく眠ってるみたいだ。
このままここにいられるのはまずいし、起こすのも悪いな。
俺は桐乃を抱き上げると、ゆっくりと桐乃の部屋に運ぶ。
幸い、桐乃は目を覚ます様子は無い。
やさしく桐乃をベッドに横たえ、ブランケットをかけてやる。
「お休み、桐乃」
もう一度頭をなで、部屋を出ようとすると、服の袖をつかまれた。
「早く、元気になって」
起こしてしまったのかと桐乃の様子を伺うが、どうやら寝言らしい。
ずいぶん心配をかけちまったようだな。
服の裾をつかむ指を少しずつはずし、手をブランケットの中に戻してやる。
ゆっくりとベッドから離れるが、今度は服をつかまれなかった。
自分の部屋に戻り横になると、すぐに睡魔に襲われる。
俺の身体は、どれだけ寝りゃ気が済むんだろうな・・・
『えへへ~なおった!』
『良かったな、桐乃』
『うん!
こんどお兄ちゃんがびょうきになったら、きりのがおにいちゃんに『とっこーやく』をあげるね!』
起きると朝になっていた。
・・・・・・何か、昔の夢を見た気がする。
病気のときにはどうしてこう、実際にあったのかなかったのか微妙な夢を見るんだ。
伸びをしながら、何故か枕元においてあった携帯に手を伸ばす。
赤城や麻奈実から看病メールが届いている。
とりあえず麻奈実からの返信メールを空けてみる。
『ちゃんと桐乃ちゃんにお礼を言うこと! 麻奈実』
?なんで麻奈実が、桐乃が看病してくれたことを知ってるんだ?
そもそも、返信メールだけどよ、何に対しての返信なんだ。
送信箱にはなんも残ってねーぞ?
不思議に思いながらも着替えて一階に下りると、桐乃と鉢合わせた。
「おはよ。昨日はありがとうな。
おかげで完全に快復したぜ」
麻奈実にも言われたことだし、素直にお礼を言ってみる。
「・・・・・・」
桐乃は顔を赤らめてそっぽを向いた。
なんなんだいったい。
それにしても、桐乃の顔が赤いのって、まさか熱があるのか?
「ちょっとおでこ貸せ」
桐乃の肩をつかむと、無理やりおでこを合わせた。
「ちょっ!あんたなにやってんの!?」
桐乃が暴れるが、抱きすくめて熱を測る。
熱い。
少なくても平熱ということはないだろう。
「おまえ熱あるぞ。
まさか、俺の風邪が移ったのか?」
桐乃は俺の手を振り払うと、俺から距離をとった。
「熱があるなら無理しねぇ方がいいぞ。
薬飲んでゆっくり休め」
それに対し桐乃は先ほどよりも顔を赤らめながらもにこりと笑い―
「あたしは大丈夫だよ!
昨日特効薬貰ったから!」
-END-
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最終更新:2011年07月16日 04:29