739 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/07/19(火) 20:19:01.66 ID:gFSbEKPsP [4/10]
とある休日の前夜、俺は珍しく浮かれていた。
何故かというと、なんと、大学の友人から合コンに誘われたのだ。
ひゃっほう! 合コンだぜ合コン! 合同コンパ、略して合コン!
いやあ、まさか実際に誘われることがあるとは思ってなかったぜ。
俺の人生にはまったく縁のないもんだと思ってたけど、こういうこと、あるところにはあるもんだな。
……まあ、俺みたいなやつを誘う辺り、人数あわせのようだとは思うが。まぁそれはそれ、これはこれだ。
一つ断っておくと、彼女が出来るかも、なんて事を考えて浮かれてるわけじゃないからな。
大学生としての一つの楽しみを謳歌できることを純粋に楽しみにしているだけだ。
友人柄、何かとオタクがらみの遊びばかりなので、こういった所謂一般的なイベントは新鮮なのだ。
そもそも俺は桐乃に彼女は作らないと言っているし、作るつもりもない。
俺は桐乃が一番大事で、その桐乃が彼女を作って欲しくないって言ってるんだからな。
それに、俺の中で女の子の基準が桐乃になってしまってるせいで、相手がどれだけ可愛くてもどこかイマイチという感想が
でてしまうから、結局のところどれほど心惹かれなかったりするわけなのだが。
シスコン? 言ってろ。今やそれは俺にとって褒め言葉だよ。
「さてと、それじゃあさっさと返事しないとな」
「ねえ」
「!!?!?」
いきなり背後からかけられた声に、みっともなく俺は体を盛大にびくつかせた。
驚きも冷めないうちに後ろを振り向くと、その可愛い顔を怪訝そうに歪めてこっちを見つめる桐乃が立っていた。
風呂から上がったばかりなのか、心持ち顔が火照っていてどこか色っぽい。ついでに何やらいい匂いも漂ってくる。
やっべ、忘れてたけどここリビングだった。さっきまで誰もいなかったから油断しちまったぜ。
ちなみに、今日親父は仕事がらみで留守。お袋は仲のいい知り合いの家に泊まってくるとかで家を空けてる。
前にもまして放任の度合いが上がった気もするが、その分気が楽になったのも確かだった。
「な、なんだ桐乃か。驚かせるなよ」
「あんたが勝手に驚いただけでしょ。あたしがここに来たことにも気付かなかった京介が悪い」
まさしく正論である。返す言葉がみつからねえよ。
しかし不味いところを見つかったな。今から返事を返そうってタイミングとは。
別に悪いことをしようってんじゃないんだが、何故か桐乃の前だと気が咎める。
気分はまるで、奥さんを前に上司との付き合いでキャバクラに行くための返事をする夫のようだ。
……何故だろう、異様に今の例えがしっくりきている様な気がするのは。
「あんたさっきから携帯を持って何をソワソワしてるわけ? はっきり言ってきもいんですケド」
「う……。俺、そんなにソワソワしてたか?」
「してた。超キモかった。それにな~んかだらしない顔してるし。何? もしかして浮気?」
「意味わかんねえよ! なんでそうなるの!? ただ大学の友達から合コン誘われただけだっての!」
何で浮気とかそういう話になっちゃうの!? いや、確かに桐乃が一番だって言ったけどさ!
「へぇ~。それであんた浮かれてたわけ? ……キモ。何勘違いしてるかしんないけど、やめといたら?あんたみたいな地味面
がモテるわけないんだから、行かない方がいいんじゃない? どうせ誘った人も数合わせ要員くらいにしか思ってないよ」
「うるさいわ!!」
何だってこいつは人が気にしてることをこうもズケズケと言えるかな!? それぐらいわかってるっての!
俺だって最近頑張ってるんだぞ? 顔はどうしようもないとしても、最近ますます綺麗になった桐乃と出かける時に
桐乃が恥かかないようにって服とか結構気にしてるのによう!
お前だって時々褒めてくれる時あるじゃん! 何でこういう時に限っていつもそういった努力を認めてくれてくれないの!?
「何キレてんの? 意味わかんないんですケド。あたしは当然のこと言っただけじゃん。ていうかなに? あんたマジで、その、
合コンに、行くわけ?」
「そりゃ当然だろ。せっかく誘ってくれたんだし、誘われたからには行かないわけにはいかないだろ」
「……ふ~ん、あっそ。
……チッ。最近京介……カッコイイ…………余計な虫が……どうしよう……」
「あん? 何か言ったか?」
舌打ちの後に何か言ったような気がしたけど、よく聞き取れなかったな。何をボソボソとつぶやいてんだか。
「何でもない。それよりさ、さっさとお風呂入っちゃってくんない?お母さんからも節電しろって言われてるし、早くお風呂の水抜
いちゃいたいから。 あんたが入りたくないってんならすぐにでも抜いちゃうけど」
「今すぐ入らせていただきます!」
「じゃあ早くして。洗濯物はちゃんと籠いれといてよ」
「へいへい」
まったく、桐乃は何をあんなに不機嫌になってるんだろうかね? アレじゃ可愛い顔も台無しじゃねえか。
腰掛けていたソファから立ち上がり、リビングを出た。そのまま着替えを取りに部屋へと向かうために階段を上っていく。
あ、そういや携帯リビングに置きっぱなしだな。……まあいいか。風呂あがった後でも返事はできるだろ。
湯抜かれる前にさっさと風呂入っちまうか。こうも汗をかいてるのに風呂に入れないのはカンベンだしな。
そう思いながら俺は着替えを持って風呂へ向かったのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「バカ京介」
リビングから出て行く京介の背中に文句を浴びせる。
こっちの気も知らないで合コンなんかに浮かれちゃってさ。あーキモキモ。死ねばいいのに。
……わかってる。これが幼稚な嫉妬だなんて事はよくわかってる。
だってさ、しかたないじゃん。京介が合コンなんか行ったら絶対に余計な虫がついてくるに決まってるもん!
最近の京介はカッコイイ。これはわりとお世辞抜きの褒め言葉だったりする。
ちょっと前まではそうでもなかったけど、ここのところ服のセンスがグッとよくなった。
時々あたしが見惚れるぐらいにピシッと決まっててびっくりすることもあるぐらいだ。
これもあたしの指導の賜物よね、とほくそ笑んでいたこともあったけど、今回はそれが完全に裏目にでた。
あたしが認めるぐらいにカッコイイ京介が合コンに出る。そんなことをすればどうなるかなんて火を見るより明らかだ。
そりゃさ、京介が彼女を作らないって事は信じてるし、確信してる。
だってあいつシスコンだし。あたしのこと一番大事だって言ってくれたし。いつもあたしの事可愛いって言ってくれるし。
――じゃなくって!
うん、これは別に惚気とかそんなんじゃないから。絶対に違うし。うん。……それはともかくとして!
と、とにかく! それはそれ、これはこれなの!
あたしの見えないところで京介が他の女とイチャイチャしてるのは絶対にイヤ!
千歩、いや、一万歩譲って黒猫やまなちゃんと遊んでるのは許せても(それでも絶対に連絡はさせるケド)、
知らない女なんて言語道断よ!
あいつにその気がなくて気にしなくてもあたしが気にするっての!
どうにかして京介に合コンに出ることをを断らせないと。
「でもあいつ、結構義理堅いところあるんだよね」
そこがいいところでもあるんだけど、今回はそれがネックだ。どうしよう……
ヴィ~~~~ッ! ヴィ~~~~ッ! 「!?」
そんなことを考えていると突然机の上から何かが振動する音が聞こえた。
何かと思ってみれば、それは京介の携帯だった。
マナーモードにしてあったせいか音はならなかったけど、そのせいで余計にびっくりしてしまった。
振動はすぐに止まった。時間的にメールかな、と思ったところで、もしや、という考えに思い至る。
「もしかして、さっき言ってた合コンのメール、かな?」
人の携帯を勝手に見るのはマナーに反する。でもしかたないよね。だってあたしは京介の妹だし。
妹としては、兄の人間関係を把握しとくのは当然のことだよね。だからこれは合法なの。合法合法。
そんな言い訳を自分にしながら京介の携帯を手に取った。
いけないことをしているという背徳感と、まるで夫の秘密を暴こうとする奥さんのような心境にドキドキと鼓動が高まる。
「――って、お、お、お、奥さん!? ば、バカじゃん! あ、あ、あたしってば何考えてんの!?」
顔がカァァーーっと赤くなるのがわかってしまった。
ああもう、こんなこと考えてる場合じゃないのに。でも奥さんか……えへへへ。
ってダメダメダメ! 今はそんな場合じゃないって。とりあえず今来たメール? を確認しないと。
ブンブンブンと頭を振って余計なことを吹き飛ばし、携帯をパカッっと開いた。
そこにデデンと映し出されるあたしの水着写真。
あ、あいつ、まだあたしの水着写真待ち受けにいてたんだ。しかもこれ、この間二人きりの時に撮ったちょっとエッチなやつ
じゃん。なんでこんなもん待ち受けにしてんのよ。他の男に見せたら承知しないって言ったのに……バカ兄貴。お風呂から上
がってきたらお仕置きしてやんないと。
顔から熱が引かないのを無視してポチポチと携帯を操作し、メーラーを呼び出す。そこに出てる新着メール一件の表示。
送り主のところにある名前は自分が知らないものだ。題名は……「明日の合コンの詳細だからちゃんと見るように」。
予想通り、合コンのメールだったみたいだ。
「何? よりにもよって明日? 最近仕事とか部活で忙しいかったせいで京介となかなか遊びに行けなくて、明日久しぶりにの
んびりできるから、京介と一緒にどっか行こうと思ってたあたしにケンカ売ってんの?」
カチンときた。それはもうこれ以上ないほどに。
そのまま中を開いて内容を確認する。もはやその手つきに迷いはなくなっていた。
そこには明日の合コンの場所と日時、メンバーの人数なんかが詳しくのっていた。
そして最後の一文に、早めに返事が欲しいと書いてあった。
どうやら文脈から察するに、京介はまだ返事をしていないらしい。……これはチャンスかも。
今見てるメールに返信するために携帯を操作する。
送信先はさっきの送り主。内容は明日の合コンを断る旨を簡単に書いた。もちろん京介を装うことを忘れずに。
そしてそのままメールを送信!
しばらくして送信完了の文字が出る。よし、ミッション完了!
「いひひ。あたしをほっといて合コンに行こうなんて思っても無駄なんだってこれで京介もわかるでしょ」
あ、そうだ。いいこと思いついた!
さっき来たメールを消して、明日の場所と時間を京介にばれないようにしてっと。
ポチポチと作業を進め、最後に携帯を閉じて机に置いた時、リビングの戸が開いた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ふぅ~、スッキリしたぜ」
やっぱり汗を流した後は気分がいいな。部屋戻る前に麦茶飲むか。
風呂上りの一杯を飲もうとリビングに入ると、桐乃がソファに座っていた。
あれ、もしかして桐乃、俺が風呂入ってる間ずっとここにいたのか? もしかしてわざわざ待っててくれたのかね?
そんなことを思いつつそばに寄ってみると、桐乃は随分ご機嫌なようだった。
俺が風呂に入る前はあんなに不機嫌だったのに……何かあったのか?
「あ、お帰り」
「おう、ただいま」
「お風呂、水抜いといてくれた?」
「ああ。その辺は抜かりなしだ。桐乃、俺麦茶飲むけどお前も飲むか?」
「うん。お願い」
返事をするために俺に向ける顔もにこやかだ。マジで何かあったらしい。一体何があったのやら。
「はいよ」
「サンキュ」
桐乃にコップを手渡して、その横に座りグイッっと麦茶をあおる。うん、美味い。やっぱ風呂上りは麦茶が最高だな。
チラッと横目に桐乃を見てみれば、両手でコップを持ってコクコクと麦茶を飲んでいた。←超可愛い。
その姿が妙に小動物っぽくて、つい顔が緩んでしまった俺は決して悪くないはずだ。
「ねえ京介」
「ん? なんだよ?」
「さっき言ってた合コンのことだけどさ」
「おお、そうだ。早く返事しねえと」
風呂入ってスッキリしたら頭もスッキリして忘れるところだったぜ。
「大丈夫。その必要ないから」
「あん? どういう意味だよ?」
「あたしが断っといたから。だからあんた別に返事しなくていいよ」
「……は?」
今桐乃はなんつった? 断った? 明日の合コンを? マジで!?
「お、おま、何でそんなこと勝手に……!」
「大丈夫。ちゃんとあんたっぽくメール打ったからばれないって!」
「いや、問題はそこじゃねえから!」
なんで桐乃が勝手に断っちゃってんの!?
急いで携帯を確認してみれば、そこには俺を誘ってくれた友人に合コンの断りメールが送信されていた。
おいおいおいマジかよ。流石にこれは俺も予想外だぞ。
急いでさっきのメールが誤解だと新たにメールを作成しようとした矢先に携帯が震えた。
来たのはメール。差出人は俺を誘ってくれた友人。内容は、さっき桐乃が送ったであろう断りメールの了承と、代わりのメン
バーはもう見つかったという報告。時既に遅し。完全に手遅れだった
「ふ~ん。代わりのメンバー見つかったんだ? よかったじゃん。これであんたも合コンで相手にされなかったからって凹んで
帰ってくることもなくなったね」
俺の後ろから覗き込むようにそのメールを見ていた桐乃が、俺の耳元でそう言った。
覗きこむ顔はさっきと同様、いや、さっきと比べても若干機嫌がいいのかもしれない。
何でお前そんなに笑顔なわけ? 人の予定潰しといて何がそんなに楽しいの? 流石の俺も泣くぞ。
「お前さ、なんでこんなことしたわけ? 事情によっちゃ流石に俺も怒らざるをえないんだけど」
「何? もしかして合コン潰れて怒ってるの?」
「当たり前だろ。こういっちゃ何だが、俺だってそれなりに楽しみにしてたんだ。それを潰されたら怒るに決まってんだろ」
「キモ。何そんなに必死になってんの? 合コンなんてどうでもいいじゃん。それよりあんた明日暇なんでしょ?」
「おかげさまでな!」
お前に潰されたおかげで俺の予定はパーだよ! おかげで明日一日暇になっちまったじゃねーか!
「あ、合コン明日だったんだ? ごめん、知らなかった」
「嘘だろてめえ」
「うん」
悪びれもしないよこいつ! なんなの? 俺そんなに悪いことした!?
「そっかー。じゃあ暇だよねえ。せっかくの合コンが潰れちゃって、みんなが合コンで楽しんでる間家で引き篭らせるのも可哀想
だし、あたしが明日一緒に出かけてあげてもいいよ?」
「え?」
出かけるって、桐乃と? お前最近仕事と部活がずっと忙しくて、しばらく遊べないって言ってただろ。
明日だって仕事で無理だって前に……
「ちょっと頑張って仕事してみたら明日時間が空いちゃってさ。部活もないし、丁度いい暇つぶし探してたんだよね。だから、あ
んたが連れてってくれるなら一緒に出かけてあげてもいいよ?」
「…………」
んだよ。つまり……そういうことなのか?
桐乃は明日時間を作るために必死で仕事を頑張って時間を空けたのに、俺がその日を合コンで埋めようとしてたから、こんな
ことをしでかしたって事か?
……まったく。それならそうって素直に言ってくれれば俺だって無碍になんかしないってのに。
俺は桐乃が一番大事なんだぞ? お前より優先するものなんて何もないのによ。
ほんっと……素直じゃねえよなあ。
「……そうだな。んじゃ悪いけど、明日の予定のない可哀想な俺と一緒に出かけてくれませんかね?」
「そんなにあたしと出かけたいの?」
「そりゃもちろん。なんたって俺は妹が大好きなシスコン野郎だからな。妹と出かけられるならそれにこしたことはないぜ」
「そんなにあたしと出かけたいんだ。考えてあげてもいいケド……でも、その言い方じゃダメ。もっと違う言い方できないの?」
素直じゃない上に我侭ときたもんだ。ホントに手間のかかるやつだなこいつ。
まあでも……
「ん――そうだな。俺は〝桐乃″と一緒に出かけたいんだ。だから明日俺と一緒にデートしてくんね?」
「しかたないなあ……しょうがないから付き合ったげるわよ。わざわざ付き合ってあげるんだから楽しませないと
許さないかんね?」
「精一杯努力するよ」
そんな桐乃が大事で、大切で何より――
「じゃ、明日はよろしくね。……楽しみにしてるから」
「おう」
この笑顔が、そんで何よりも、桐乃自身が大好きなんだしな。
ちなみに、その翌日。
何故か向かった先に合コンに誘ってくれた友人他合コンメンバーがいたり、
その友人達に桐乃が、自分が俺の恋人だと説明して、デートならしかたないなと友人どもを納得させたり、
更にその翌日にその友人達に俺が散々からかわれたとかいうのは、また別の話だ。
おわり
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最終更新:2011年07月20日 23:46