804 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/07/30(土) 22:11:48.87 ID:5Xm3eCHL0 [2/2]
【SS】魅力的な彼女の魅力

「どう?似合う?」
試験勉強中の俺を邪魔するかのように突然現れた妹様は、しなを作りながらそう言った。
今日の桐乃は生地が薄めの白いブラウスに、桐乃にしては丈の長い、ひざぐらいの長さの藍色のスカートといった服装だ。
珍しいし初めて見る服装だから、おおかた次の撮影の前準備に買ってきた服なのだろう。
それはまぁ別にいい。
問題はその顔に眼鏡をかけていることだ。
眼鏡のタイプは薄い水色のアンダーリム。伊達眼鏡らしく、度は入っていないようだ。
いつもより清楚かつ大人しそうな服装と眼鏡により、雰囲気が普段とまったく違うものになっている。
これで黒髪なら土下座して求婚していたかも知れんが、相手は桐乃だからな。
「まぁ似合うんじゃないか」
無難な誉め方をしておく。
変な誉め方をして機嫌を損ねられてもたまらないしな。
「それだけ?
 もっと他に言う事ないの?」
桐乃は眼鏡のブリッジを中指で上げそのパーツを強調する。
「えっと・・・初めて見る服だな。
 たまにはそういう格好もいいんじゃないか」
俺の言葉に桐乃はムッとした表情をすると、近づいて俺の顔を覗き込んできた。
「・・・・・・・・・」
そんなに近寄るんじゃねえ!顔を近づけるんじゃねえ!見惚れちまうじゃねえか!
耐え切れず、顔が赤くなる前に目線を横にそらす。
「何で顔をそらすの?」
「そういうおまえこそ、何で眼鏡かけてるんだよ」
質問に質問を返す形になったが、桐乃は気にせずに引いてくれた。
ふぅ。これで桐乃に視線を戻す事ができるな。
「今度眼鏡に合ったコーディネートの特集する事になったから、その下準備してるの。
 この服もさっき買ってきたんだ」
仕事の前の下調べと準備は欠かさない。
相変わらずこいつのプロ意識はすごいな。
「まだあやせにも見せてないんだからね」
「じゃあ何で先に俺に見せるんだ?」
「あんた、この近所で知らない人がいないくらいの眼鏡フェチでしょ?
 あたしたちとは違う目線での助言が欲しかったの」
「いつの間にそこまで知られてんの!?」
お袋、桐乃だけでもヤバイってのに、ご近所にまで息子の趣味をひけらかすとか、何を考えてんだよ。
まさか、麻奈実の耳には入っていないよな?
「というワケで、何でもいいから意見を聞かせて。
 それともまさか、眼鏡に一番合うのは裸だなんて言い出さないわよね?」
「言わねえよ!」
そもそも眼鏡は服装とマッチしてこそ意味があるのだ。
「知ってるって。
 『眼鏡 かけたまま』なのも重要だけど『服 着たまま』なのも重要なんでしょ?」
「ごめんなさいもっと真面目に褒めますから許してください」
俺は土下座した。
何で桐乃が珍しく大人しめな格好をしてるのかと思えば、俺のお宝DVDの女優が着てた格好を意識してやがるのか!
絶対にこいつ、俺のお宝グッズをチェックしてるだろ!
「わかればよろしい。
 まぁ、有用な意見が聞けたら眼鏡着用中のあたしの生写真貰ってきてあげるから」
桐乃はニヤニヤ笑いながら「嬉しいでしょ?」と聞いてくる。
仕方がない。
桐乃の写真が欲しいわけじゃないが、桐乃のためだし、桐乃の写真が欲しいわけじゃないが協力しよう。
断っておくが、眼鏡をかけた桐乃の写真が欲しいわけじゃないからな。
しかし、どんな事を言って褒めればいいんだ?
「似合ってるとか、センスがあるとかじゃダメなんだよな」
「当たり前じゃん。
 似合ってるとか、センスがあるとか、綺麗だとか、可愛いとか聞き慣れてるし。
 そもそもそんな当たり前な事言われなくったってわかってるって。
 ・・・・・・もしかしてあんたがさっき顔をそらしたのって、あたしに見惚れそうになったから?」
『そんなわけないだろ』
そんな言葉がのど元まで出かかったが、なぜか発する事はできなかった。
自分でもよくわからないが、たぶんそんなことを言うと桐乃のモデルとしてのプライドを傷つけると思ったんだろうさ。
かと言って肯定の言葉を出すわけにはいかないため、結果として俺は顔を赤く染め、目を逸らすに留まった。
「ふ、ふ~ん。そうだったんだ」
からかうような桐乃の言葉を覚悟したが、実際にはそんな事はなくむしろ戸惑っているように見える。
それとも照れてるのか?
あれ?こういう反応って慣れてるんじゃなかったの?
(あたしに見惚れてくれるのは嬉しいんだケド、その理由が気に入らないわね。
 そんなに眼鏡って良いの?これからはずっと眼鏡をかけるべきなのかな?)
なんだかブツブツ言いはじめた。
なんか眼鏡とか聞こえたんだが・・・そうか。俺があんな反応をしたのは桐乃が眼鏡をかけていたからだな!
そうに違いない!
「とにかく!綺麗とか可愛いとかって言ってくれるのは、ちょっとは嬉しいし、いっぱい言ってくれたほうがいいケド、
 できればどこがどう良いのか聞きたいの」
まぁそうだろうな。漠然と褒められてもどこが良いいのかわからないし、困るだろうな。
「でもよ、今までそんなことしたことないし、どう褒めればいいのかなんてわからないんだが」
「そんなんだからあんたってモテないんだよね」
うるせえ。おまえ以外のヤツはそれなりに褒めてるっつーの。
「思ったことをそのまま言えばいいから。
 あんたに豊かな語彙とか期待してないし、とりあえず目に付いた事、思いついたことを一つずつ言ってみて」
そう言われてもな。
妹を前にベタ褒めするのってかなり勇気がいるんだが。
「あんたが恥ずかしいのはわかるけど、面と向かって言われる私だって恥ずかしいの!
 でも仕事なんだし、少しでもいいものを作りたいなら仕方がないの。
 ・・・・・・それともあたしって魅力ない?」
桐乃が節目がちにこちらを見る。
その姿はとても寂しげで、見ているだけで心が痛む。
はぁ、いつもは自信に満ち溢れているのに、何で時々こうして弱い自分を見せちまうんだろうな。
妹である桐乃にそんな姿を見せられたら、兄貴である俺は全力で答えなくちゃいけなくなるだろ?
「おまえは魅力的だからそんな顔するな」
桐乃に近づき頭を撫でてやる。
「誰かの容姿を褒めるなんてしたことないから戸惑っただけだ。
 俺でよかったら力になるからさ」
「ん」
桐乃は頭上に手を上げ俺の手を払う、かと思いきや、優しく俺の手を包み込み、微笑んだ。

「それじゃあ、いーっぱい、褒めてね?」

「お、おう」
その様子に初めに思い浮かんだ言葉―『その笑顔が素敵だ』―は俺の口からは出す事ができなかった。



桐乃を褒める事になったものの、依然として何を言えばいいのかわからない。
とりあえずイスに座って、ベッドに腰掛ける桐乃を見る。
桐乃は何も言わずにじーっとこちらを見ている。
心なしか期待に目を輝かせているようにも見える。まぁ、俺の勘違いだろうけどな。
服装と眼鏡、そしてそれがどう似合っているのかを言えばいいんだろうが、どうにも言葉が浮かばん。
「仕方がないな。とりあえず格好の前に思いつくものから適当に褒めてみるわ。
 そうすれば次第に慣れてくるだろ。
 それでいいか?」
桐乃がビクリと揺れる。
こいつも緊張してるんだな。
「格好以外も褒めてくれるの?嬉しいけど・・・
 あ、でもちょっと待って!」
桐乃はくるりと後ろを向き俺に背中を見せると、何かもぞもぞとし始めた。
メイクでも確認してるのか?そんなことしなくても十分なのにな。
「これでよし。それじゃあ、おねがいね」
何も変わったようには見えんが・・・・・・まぁいいだろう。
さて、どこを褒めてみるかだが・・・・・・そうだな、まずは無難に顔や髪にしとくか。
「桐乃、おまえの髪だが・・・・・・」
「う、うん」
「そのライトブラウンの髪、それがとてもおまえに合ってる。
 確かに俺は黒髪ロングが好きだが、おまえの顔や表情は明るいから黒い髪よりもその明るさを引き出す髪色のほうが似合ってる。
 その色はおまえが選んだんだろうが、すごくセンスがいいな。自分のイメージをよく把握してると思う。
 そしてフワリと広がるロングヘアにその愛嬌のあるくせっ毛。おまえの顔は整いすぎて場合によっては近寄りがたい雰囲気を放っちまう

が、
 そのくせっ毛と髪の広がりがそれを和らげてる事に一役買っている。おまえは結構気にしてるみたいだけどな。その髪型を―」


―略―


「―といったところか。次に顔だが、おまえは丸顔を気にしてるけどな、おまえの近寄りがたい優等生のイメージが―」
「―意志の強さを感じさせる、その強い瞳。色素が薄くて角度によってはグレーに見えるその色はどんな宝石よりも眩しく―」
「―つまり、大事なのはその目元を映えさせるための、つけまつげなんか必要としない、長すぎず短すぎない―」
「―誰をも虜にするような薄い桜色の唇は口紅がむしろ邪魔になるくらいに綺麗で、そこに触れることを考えるだけでだな―」
「―まさにパーフェクトな形の耳と、それを彩る派手すぎず地味すぎないハート型のイヤリング。俺はアクセサリのことはよく知らねえけ

ど―」


―略―略―略―


「―とまぁ、顔はこんな感じか」
机の上においておいたペットボトルでのどを潤す。
「・・・・・・うん」
喋る事に夢中で気がつかなかったが、桐乃の顔がすごい赤くなっている。
桐乃自身もぼーっとしていて、心ここにあらずといった感じだ。
「桐乃、平気か?」
「う、うん。平気・・・・・・
 ちゃんと聞いてるから」
「そうか?体調が悪いなら続きは止めて今度にするぞ」
「まだ続きがあるの!?」
「当たり前だろ?まだ顔について少し話しただけだろうが」
何を言ってるんだ。俺のターンはまだ始まったばかりだぜ。
「・・・・・・聞く。このまま聞きたい」
「気分が悪くなったら言えよ?
 それじゃあ次は首からだな。
 顔から首、肩にかけてのなだらかなラインもさることながら、いつもは長い髪に隠されていて見えないうなじ。
 初めて俺に日本人女性のうなじについてときめかせたそここそが、桐乃の首を語る上で一番重要だ。
 いつも隠されているからこそ、髪をかきあげた時、髪を結い上げたときにしか露にされない、逆に言えばその瞬間―」


―略―略―略―略―略―


「―首から繋がる肩、水着や薄着のときにしか露出しないが、そのラインこそが体全体の調子を整えて―」
「―そのブラウス、上から二つのボタンを空けてるおかげで、桐乃の美しい鎖骨が見えてるのがいい。女の美しさの基本は鎖骨が―」
「―そもそもそのブラウス薄すぎねえか?そのせいで桐乃のピンク色の下着が薄らと透けて見えちまうんだが。だがその薄さが―」
「―だが、確かにそのブラウスと桐乃の相性はいいな。いつもとは違って控えめにあしらわれてるそのフリルが桐乃のカワイさを―」
「―ブラウス越しのゆったりとした、だがしっかりと存在感のある胸の膨らみ。つい触りたくなっちまうような、柔らかさを感じさせる―


「―そのくせウエストはきゅっと引き締まった54cmで、抱きしめたときにはたぶんその細さに驚いて―」
「―背中から腰にいたるその曲線が―」―略―「―ずっと抱きしめたくなる―」―略―「―いいケツだ―」―略―「―身体をひねたときに

できる服のしわが―」
「―陸上で鍛えた引き締まった、だが女性的な丸みのあるふともも―」―略―「―いつものミニスカやホットパンツにはない、その膝丈の

スカートから―」
「―瑞々しい、水滴が珠となる肌―」―略―「―野外で活動する事も多いのに日焼けもシミもまるでない―」―略―「―水密桃なんて表現

じゃその柔らかさと甘さを表現しきれない―」


―略―略―略―略―略―略―略―


「―とまぁ、体はこんな感じか」
机の上においておいたペットボトルでのどを潤す。
よし。自分でもなんて言ったのかよく覚えていないが、今度はちゃんと服装と、服装と桐乃の相性を褒める事ができたぞ。
桐乃もだいぶ満足したか?
「・・・・・・・・・・・・」
喋る事に夢中で気がつかなかったが、桐乃の顔がさらに赤くなっている。耳どころか首まで真っ赤だ。
目も潤んでいて、右手で自分の身体を抱きしめて、左手はふとももの間に挟むようにしてモジモジしてる。
な、なんだ?泣く位怒らせちまったのか?
でもそれにしてはなんだか色っぽいぞ?
「桐乃?」
「・・・・・・・・・・・・」
声をかけるが、ボーっとして反応しない。
身体も熱っぽそうだし、まさか熱中症か?
ペットボトルを手に立ち上がり、桐乃の前に立つ。
桐乃のおでこに手を当ててみると、かなり熱い。
「おい桐乃、とりあえずこれを飲め」
「ん・・・・・・」
桐乃はボウッとした様子のまま俺からペットボトルを受け取ると、口をつけて飲み始めた。
「・・・・・・兄貴の味がする」
お茶を飲み干し、桐乃がポツリと呟く。
ふぅ、どうやら意識がはっきりしてきたみたいだな。顔の赤みも少しだけ薄くなったみたいだ。
「あ・・・・・・間接キス・・・・・・」
ん?また少し赤くなったような。
「桐乃、平気か?」
「うん。ありがとう。だいぶ落ち着いた。
 ・・・・・・飲み干しちゃったから、後であたしのお茶あげるね」
桐乃の異変に気が付かなかった俺にも責任があるんだし、そんなに気を使わなくてもいいんだが。
それにどうせ冷蔵庫の麦茶を移したものだしな。
「様子が変だったが、ちゃんと聞こえてたか?
 もう一度言いなおしてもいいぜ」
「ちゃ、ちゃんと聞こえてたから!
 京介があたしをちゃんと見てたことも、どういう想いでどこを見てたのかもちゃんと伝わったし・・・・・・」
そうか。それならいいんだ。
さすがに今までの言葉を全部言いなおすのは大変だし、そもそもなんて言ったか覚えていないからな。
「さすがにもう終わりだよね?」

「何言ってるんだ?
 まだまだ伝えてない事がいっぱいあるんだが」

「まだ続きがあるの!?
 もう顔も、身体も、服もすっごい褒めてくれたじゃん!」
当たり前だろ?そんな十分二十分で桐乃の良い所を褒めきれるはずがないだろうが。
「ただの見た目以外にも色々あるだろ?
 匂いだとか、雰囲気だとか、何かをするときの動きだとか、仕草だとか・・・・・・
 モデルはただ立ってればいいもんじゃないんだろ?
 なら、服装と動きの調和なんかも重要になるんじゃないか?
 それに、今のだってただ桐乃の特徴を表面的になぞっただけじゃねえか」
ようやく口も滑らかになってきたんだ。その気になれば今の十倍は軽いぜ。
桐乃は赤みの残る顔を若干引きつらせ、
「も、もう今日のところは勘弁して・・・・・・
 これ以上聞いてたらダメになりそう・・・・・・」
ダメになる?落ち込んじまうって事か?
確かに何度か駄目だしはしたが、大体は俺の趣味的なところだったり、改善が簡単なところだったりだから平気だと思ったんだが・・・・・・
まあ、桐乃が嫌がるのなら仕方がない。体調もだいぶ悪いみたいだしな。
「そうか、なら今日のところはこれでお終いだな。
 ・・・・・・体調悪いなら俺の部屋で休んでいくか?」
「きょ、京介の部屋で休憩!?
 だ、ダメ!それはダメ!
 今京介と同じ部屋で寝ちゃうなんて、あたしが耐えられないから!」
「・・・・・・そう、か」
一緒の部屋にいるのが耐えられない、か。
どうやら妹様は大分機嫌が悪いらしい。
褒め方を間違えたのか、あるいは触れちゃいけないことに知らずに触れていたのか。
「あたしは今から部屋に帰って、京介が言ってくれたことを聞きなおしてくるから」
桐乃は手元をごそごそと何か動かすと、立ち上がりドアへと向かうが、その足取りはふらふらと覚束ない。
「桐乃、部屋まで連れて行ってやろうか?」
「い、いい!」
「・・・・・・そう、か」
また拒絶されちまった。
そりゃ嫌いなやつに変な風に褒められたら嫌だろう。
もっと桐乃の反応を確かめながら言葉を選んでいくべきだったんだろうか。
「あ・・・・・・」
落ち込む俺の顔を見て、桐乃の顔色が変わる。
「えっとね、あんたに触られるのが嫌ってワケじゃないから」
「そうなのか?」
「うん。でも、今触られたり、優しくされたりするとあんたにすっごい甘えちゃいそうで・・・・・・
 気持ちが落ち着いてないのに、そういうことしたくないから」
「?」
よく意味がわからない。
怒っているんじゃないのか?
「・・・・・・ねぇ、さっき褒めてくれたのって、お世辞じゃなくて、本心から、素直に言ってくれたんだよね?」
「ああ。俺はお世辞なんて器用なことできないからな」
「うん。知ってる。
 ・・・・・・あんたが素直な気持ちで言ってくれたから、勘違いしてるみたいだし、あたしも素直に言うけどさ。

 あんたが褒めてくれたの、すっごい嬉しかったから」

「え?」
桐乃が俺に褒められて嬉しかった?
「あんた、あたしのファッションとかあたしの姿にまったく興味ないみたいだったからさ、
 ちゃんと見てくれてるのがわかってすっごい嬉しかった。
 京介に綺麗だって思われてるって知って、すっごい幸せだった」
桐乃はほんのりと頬を染め、リラックスした様子でフワリと笑う。


「あたしを見てくれて、あたしを褒めてくれて、ありがとうね」


そうか。俺自身なんていったか覚えてないが、ちゃんと伝わってたんだな。
「そうか。それならいいんだ」
「ん。そういうことだから。
 ・・・・・・あんたの意見結構参考になったからさ、あたしの写真だけじゃなくて、
 もっとすごいのもプレゼントしてあげるね」
「それは嬉しいな。
 楽しみにしてるぜ」
「受け取り拒否は認めないから。
 覚悟しててね?」
桐乃は頬を染めたままにんまりと笑うと、扉を開けて外へ出て行った。
受け取り拒否のプレゼントか。なんだろうな。
「まぁ、どうせエロゲかなんかだろうさ」
あるいはアニメか。それ以外の選択肢は思いつかん。

時計を見ると、桐乃が来てから二時間近く経っていた。
ほとんど俺が思いつくままに喋っていただけで、ほとんど時間は経っていないと思っていたんだが。
自分でもなんて言ったのかほとんど覚えていないが、たしかにこれだけの時間褒められれば桐乃も悪い気はしなかったのだろう。
まぁ、桐乃は褒められなれてるだろうし、俺の褒め言葉なんか聞き慣れているぐらいでしかないだろうがな。
「・・・・・・まずいことは言っていなかったよな?」
自分の言ったセリフを思い出してみる。
・・・・・・天使だとか、女神だとか、嫁にしたいだとか、そういう妹に聞かれてはまずい言葉は言っていなかったはずだ。
なら問題ないよな。
ん?だがしかし、

「あ。しまった」

二つ気がついた。
まず一つ。
確かに言ってはまずいことは言った覚えがない。
言った覚えはないが、言わなくちゃいけなかったことを言わなかった覚えならある。
「これじゃあ桐乃に後でもう一度褒めろって言われちまうな」
なぜなら

「眼鏡を褒めるのを忘れてた」

元々は桐乃に眼鏡のことを褒めろと言われていたのに、結局そのことについては触れず、桐乃自身のことばかり褒めてしまった。
しかたがない。
後で眼鏡について触れておこう。
ついでにその際に褒めそこなった場所についても言及しておこう。
桐乃は褒められるのが好きみたいだしな。

そしてもうひとつ。

「まぁ、こっちは言わなくて正解か。なんたって」
ふと、さっき見た桐乃の笑顔を思い出す。

『あたしを見てくれて、あたしを褒めてくれて、ありがとうね』

そう言って幸せそうに微笑んだ桐乃の笑顔は―



「『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』からな」


-END-






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最終更新:2011年08月13日 16:10
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