842 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/07/31(日) 01:43:44.08 ID:OS2Y9fSw0 [2/3]
SS『子猫はいつも見ています』
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私の名前はメルル。
とある2組の夫婦が住む家で飼われている可愛い子ネコよ。
一見怖そうだけど実はとっても優しい旦那様と、カレー味の猫マンマがやたらと多いことは玉に瑕だけど明るい笑顔でいつも見守ってく
れる奥様。
そして私の命の恩人の若旦那様と、私の名付け親の若奥様。
温かな家庭で飼われて、私はとても幸せ者だと思う。
もっとも、生まれたときからこの家に住んでいる訳ではなくて、少し前にこの家の若旦那様に拾って貰ったの。
満足に食べるものも与えられず捨てられて、ダンボールの中でぐったりとしていた私を助けてくれた若旦那様。
あの時の若旦那様――京介さんの心優しい顔を、私はきっと生涯忘れないと思う。
――で、京介さんが私を抱きかかえて帰宅すると、若奥様の桐乃さんがぐったりと弱っていた私の世話をしてくれた。
ミルクを用意してくれたり、ごはんを食べさせてくれたり、お風呂で汚れていた身体を洗ってくれたり。
よほど心配だったのか、桐乃さんは一晩中傍にいて寝ずに看病してくれていたみたい――。
夫婦揃って本当に心優しい人達だと思う。
翌朝――元気になった私を見てようやく落ち着いたのか、『この子の名前はメルルで決定よ』と主張しつつも、眠気に負けて眠ってしま
った桐乃さん。
そんな新妻の桐乃さんを優しくお姫様だっこで抱きかかえていた京介さんの姿を印象深く覚えているわ。
そう言えば若旦那様の京介さんは、桐乃さんのことが絡むと、とても頼もしいし、いつもより優しさの度合いが増していると思う。
心から若奥様のことを愛しているのね。
それはきっと誰の目にも明らかなのでしょうけど、ネコの目で見れば一目瞭然なの。
きっとヒトの世界では知られていないと思うけど、実はネコの目には“つがい”を見分ける眼力があるのよ。
子供を産む時期がやってきた時、争いごとをなるべく避けるために、見るだけでその雄と雌が既に“つがい”になっているのかどうか判
るようになっているという訳。
だから私はこの家に連れて来られてすぐに判ったの。
この家には“つがい”――つまり、夫婦が2組いるって。
特に若夫婦の方の熱々ぶりは凄いというか、度を越えているというか。
新妻の桐乃さんは、普段は京介さんに対してツンツンした態度を見せることが多いのだけど、部屋に篭って二人きりになると、途端に甘
え始めてしまうの。
京介さんも若奥様が可愛くて仕方ないのか、目尻を下げて嬉しそうに髪を撫でてあげたりしているし。
そう言えば、どうして若旦那様と若奥様の部屋は別々なのかしら。
夫婦なのに寝室が別だなんて、ちょっとおかしいと思う。
まあでも、夜遅くになると毎晩のように桐乃さんが枕を抱えて京介さんの部屋を訪れて一緒に眠っているし、問題はないと思うのだけど
――。
だったら、最初から一緒に寝ればいいのに、と思ってしまう。
夫婦なのだから、それが自然だと思うわ。
このままだと子作りにも影響が出てしまうかもしれないわね。
誰に遠慮しているのか判らないけれど、子作りの行為をしている様子はないし――少し心配だわ。
こんなにも愛し合っている夫婦なのだから、毎晩のように求め合ってもおかしくはないのに……。
――と、そんな心配をしていたのだけど、杞憂だったのかもしれない。
この前、年長の方の旦那様と奥様の二人が外泊された時は、夫婦仲良く一緒にお風呂に入っていたの。
京介さんが先にお風呂に入っていて、後から忍び込むように桐乃さんも浴室に入っていったのだけど――どこか初々しい新妻らしさがあ
った、と言うところかしら。
その時の桐乃さん、恥ずかしいのか頬を真っ赤にして、更には意を決したような表情で服を脱いで浴室に入っていったっけ。
でもどうして一緒にお風呂に入るのが恥ずかしいのかしら。
仲の良い熱々の夫婦なのだから、一緒にお風呂に入るぐらいあたりまえだと思うのだけど。
まあでも、その一緒の入浴を境にして、一層に桐乃さんは京介さんに甘えるようになっていったし、これなら子作り開始も時間の問題な
のかもしれないわ。
相変わらず年長の方の旦那様と奥様の前では、京介さんに対してツンツンした態度の演技を続けているのだけど、2人きりになると途端
にいちゃいちゃしてしまうし。
京介さんに抱き締めて貰ったり、京介さんの頬に自分の頬を擦り寄せたり、京介さんの胸に顔を埋めてくんくんとニオイを嗅いでみたり
。
一緒に寝るのは当然として、おやすみのキスとおはようのキスは毎回丹念に何度も何度も繰り返ししているし。
いつも傍で見ている私もさすがに呆れてしまって、桐乃さんのお友達の加奈子さんが時折口にしている「うへぇ」の呟きが私の口からも
零れるようになってしまっていた。
そんな日常が続いていたある日のこと。
私は衝撃の真実を知ってしまう。
それはもう青天の霹靂。
ネコは聴覚が自慢なんです。絶対に聞き間違ったりはしません。
けれど、さすがに自分の耳を疑わざるをえない奥様の言葉でした。
「ねえ、京介、桐乃――あなた達、いつもいつも休日は2人で出かけたりしているけど、そろそろお互いに恋人を作った方がいいんじゃな
いの?
いつまでも兄妹同士で仲が良すぎるのはちょっとねぇ……」
えええええええぇぇぇぇ?!
兄妹?
京介さんと桐乃さんって、夫婦じゃなかったんですか?!
どこからどう見ても夫婦としか見えなかったんですけど!
一緒にお風呂に入ったり、毎晩一緒に寝たり、それに暇さえあればイチャイチャしてますよ、この2人!
キスだって日常茶飯事だし、それにあんなコトや、こんなコトまで!
そもそも、上の方で触れたとおり、ネコの目には“つがい”を見分ける眼力があるんです。
絶対に見間違えたりすることなんてないんです。
それなのに、それなのに、本当に兄妹なんですか?
あんなに仲がいいのに。
あんなに熱々なのに。
あんなにイチャイチャしていて――それに相性もバッチリなのに。
ええ、もう兄妹でもいいじゃないですか。
血が繋がっていても無問題です。
早く結婚しちゃって下さい。
それが自然の摂理というものです。
きっと周りの皆さんもそう思ってますよ。
でないと私、落ち着かなくてあの言葉を呟いてしまう回数が増えてしまいそうです。
「なあ、桐乃ンとこのこの子猫、妙な鳴き声をするよな。
でもなんつーか、不思議とこいつの気持ちがわかる気がするんだケドさ」
判ってくれますか、加奈子さん。
昨夜はもう“10うへぇ”級の連発でした(汗)
-おわり-
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最終更新:2011年08月03日 07:30