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暮香さんのさがしもの いち - (2007/05/14 (月) 22:24:35) の編集履歴(バックアップ)


ここは、世界のどこか、宇宙のどこか。
 もう少し詳しく言えば、太陽系第三惑星地球にある日本国、その政令指定都市がひとつ霧生ヶ谷市。
 そんな市の西区にある「霧生ヶ谷最悪」と異名をとる激安アパートとの一室から、一人の女によって、この話は引き起こされる。
 既に早いとは言えないが、それでもまだ十分朝と呼べる頃。
 心身を浄化するすがすがしい朝霧をかき消して、騒動の種子は産声をあげた。
「あーーーーーーーーっ!!!!」
 今日も一日が幕を開ける。


 
 やけに幼い印象のある一人の女、日根野谷 璃衣子(りいこ)が今時珍しいインターホンもないドアを叩いた。
 休日ということでおろした水玉模様のワンピースが妙に似合って、まるで小学生のよう。
 これでも一応二十代なのに…
「暮香さ~ん?
もしもし、暮香さぁん?
今日は一緒に買い物に行くんじゃなかったんですか~?
暮香さ~ん!」
「あーもー、見つかんないわっ!!!」
「…あ、暮香さんっ!!
…って、いきなりそんなあられもない格好で出てきて、しかも大声出さないでくださいよぅ…
人が見てたらどうするんですかぁ」
「りいこ、今はそんなこと気にしてる場合じゃないわ!!
ないのよ、アレが!!」
「ないって、いきなり何なんですかぁ?」
「さっきからずっと部屋の中探してるんだけど、見つからないのよ!」
「確かに部屋が凄い事になってますねぇ…
強盗でもこれよりは丁寧に探しますよぅ?」
「そんなの強盗じゃない!!
シーフだわっ!!」
「同じですよぅ…
…で、一体何を探してるんですか?」
「何って、そりゃもちろんアレよ!
ほら、あの…」
「…あの?」
「…
…何探してるのか忘れちゃったわっ!!」
「開き直らないでくださいよぅ!」
「仕方ないわ、忘れた何かを、探しに行くわよっ!!」
「わけわかんないですって!
忘れたんだったらいいじゃないですかぁ!」
「ダメよ、この忘れた何かは、とっても重要で不可欠なもの…
…だった気がするもの!!」
「それは気のせいですよぅ!」
「いくわよっ!
ロマンはどこだっ!」
「著作権法と服装をもうちょっと気にしてくださいよぅ!
って、え? あの、引っ張らないで~!!」



 いつものようにハイテンションの南 暮香(ちゃんと服は着てますよ?)は、片手で色々と悲しむりいこを引き摺りながら、通勤客を押しのけて通りを突き進む。
 その足が向かう先は、一軒の飲茶カフェ。陽光で照らされたその店の名は「紅蘭」。
 一体何様なのか、これでもかという勢いよく扉を開け、驚く客や店員に目もくれず、最奥のテーブル席に佇む一人の女性の対面席に勝手に座る。
 女性は、どことなく浮世離れした空気を纏う、黒髪の美女。
「おや、あなたは…」
「テリさん、おっひさ~!
ちょっと探し物があるんだけど、占ってくれない!?」
「相変わらず、南さんはにぎやかですね」
「…えと、暮香さん?」
「何?」
「この美人さんは、どういう人なんですか?」
「Miss.テリアスって呼ばれてる、その道じゃ有名な占い師よ!」
「いえいえ、私なんてそれほど大したものでもありません。
挨拶が遅れましたね。
はじめまして、日根野谷 璃衣子さん」
「こちらこそはじめまして、テリアスさん…って、あれ?
私名乗りましたか?」
「何言ってるのりいこ、そんなこと、占い師なんだからわかって当然よ!!」
「ええっ!?凄いんですねっ!!」
「しかも彼女の手にかかれば、簡単な問題ならすぐに解決するらしいのよっ!
私は占ってもらった事ないから知らないけどね!」
「な、なんとぉっ!?凄いですよ、テリアスさん!」
「…あの、そろそろ占ってもいいかしら…?」

 やっと沈静化した二人が見守る中、テリアスは古びたタロットカードを複雑な手順で切り、山を作り、また混ぜてゆく。よどみのない手際が、彼女の技量を物語る。
 最終的にできた山は、三つ。
 逆三角形に置かれたそれの一番上のカードが、占いの結果となる。

「大アルカナ・タロー…タロット占いには様々なやり方があるのですが、これは比較的簡単な占いの方法です。
これら三つの山の一番上が、それぞれが『過去』『現在』『未来』を意味しています。
では、まず過去のカードを」
「…わくわく!」
「…これは…ラッパですか?
さかさまなんですけど…」
「Judgement(審判)の逆位置…
このカードは正位置だと復活や発展を意味するのですが、逆だと行き詰まりや後悔、悪い知らせとなります。
つまり、その失くしたもののせいで、南さんは何かがうまくいかず、憤り後悔したのではありませんか?」
「言われてみれば、そんな気もするわっ!!」
「最初から思い出してくださいよぅ!!!」
「では次に現在ですが…」
「…これって、高台ですか?それとも、馬車?」
「いえ、Chariot(戦車)です。これは正位置。
意味は勝利や勢い・援軍に勝利への力…
探し物の探索は、現在状況を踏まえてちゃんと上手くいくであろうことを暗示しています。
また『戦車』という特性から、一箇所を探すよりも足を使って色々な場所を探すべきでしょう。
さらにこれから…」
「ねぇテリさん!」
「なんですか、南さん?」
「もっとこう…ちゃっちゃとできないの!?」
「まぁ、できませんね。占いは手順を踏む事も大事ですから」
「そんなことまだるっこしいっ!!
もういいから、私はちゃっちゃと探しにいくわっ!
代金はこれでいいわねっ!」
「って、あれ、暮香さん、まだ未来のカード開けてませんよー…」
「未来は自分で突き壊すものよっ!!」
「壊してどうするんですかぁ!!
テリアスさん、ありがとうございました。
私もまた占ってもらいに来てもいいですか…?」
「はい、構いませんよ」
「何やってるの、さっさと次の場所行くわよっ!」
「ああっ、引っ張らないでくださぃぃ…」

「あらあら、やっぱり南さんは結果を見ずに行きましたわね…
彼女達がここに来た時から、わかっていたことですけど。
さて、最後のカードは…
…へぇ、Wheel of Fortune(運命の輪)の逆位置…
なんともまた彼女らしいカードね…
ふふ、今日の霧生ヶ谷は、なかなか騒がしくなりそう…」
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