「ところで、姫がいないようだけど……」(青い目の隻眼)
「っ!」(栗色の髪の少年)
「ちっ……」(黒髪の男)
「うそ」(白い何か)
<やっと気づいたか。それもこの少女は計算していた。おそらく、既に姫とやらはその桜の樹の中であろう>(アルトゥ)
「おいおい、瑠威は計算してたって、どれだけ物事の把握をしてんだよ……」(ガロ)
<この世界のハカリゴト全てが分かっているわけでもないが、予測と計算での推測・推論は常時していると思われる。何しろ、彼女は本来この世界をただの”本の中の世界”ととらえていただけであったからな。だが、それが現実に触れるし、話すこともできる環境になっては世界は何も一つではないと、異世界、つまり異次元や並行世界の存在は本当であったと信じた。まぁ、吾は神であるゆえにその存在を知っていた。ある意味、この少女がいた世界だけ神はあまり手出しはしなかったから、神の加護の薄い世界の出身なのだがな>(アルトゥ)
「君はその世界出身なんでしょ?アルトゥ」(レイスケ)
<ああ、確かにこの少女の生まれる千年前に奉られて行使はされていた神ではある。しかし、戦争や語弊によって宗教と政治は分かれる国が多く存在し、奉る事はあっても守はそれを受け止めて加護はしない。吾が生まれる前には神が人へ助言しなおかつ加護を与えたそうだが、それがもとで醜い争いが生まれたから、その戒めとして加護はしない>(アルトゥ)
「……なるほど、で。加護しねぇつって言うのに、なぜそこの少女に加護を与えた?」(黒髪の男)
<なかなかいい指摘をする。加護の無い世界があれば、もちろん加護のある世界もある。後者の世界はやはり醜い争いが多い。そう、君たちのような旅人を産まなければいけなかったあの世界もそうだ。”それらの世界を平定せよ、手段は各々で任せる”と神々の中で方針が決まってな。吾らは世界を回ることにした。ただし、直接手を出すわけにもいかぬ。なれば使者あるいは代行者を選定し、遣わす。今回は代行者ということで瑠威が吾の加護を受けた>(アルトゥ)
「訳アリってことだよねぇ。で、彼女にほとんどを任せているってことでいいのかな?」(青い目の隻眼)
<そう取ってくれて構わぬ。彼女にも非があるゆえに、取引をしたとだけ言っておこう。さぁ、時間が惜しい。長達について森へ行きなさい。二日間あるとしても、素材は見つけにくい所にあるようだからな>(アルトゥ)
「!……では、ご案内していただけますか?」(栗色の髪の少年)
「……アルトゥ殿」(三代目)
<任せたぞ、吾はまだここに居る故>(アルトゥ)
「確かに承りました」(三代目)
火影は、シカクとやらに目配せし一緒に来た道を戻っていった。
カカシside
「で、結局。今回の事態、大蛇丸の奴はサスケを何にしたかったの?」(カカシ)
<言わねばならぬか?まぁ、うすうす気づいておるだろう。器だろう。それも入れ物としての器であり、彼個人の意思は必要ないという、な>(アルトゥ)
やっぱりか。
瑠威がはぐらかしていた事を聞くとやはりそういうことであったらしい。
客観的に考えて、確かに”うちは”という血族であることは敵にとって旨味だが、サスケは既に下忍。攫うならばイタチが居なくなった直後、もしくはアカデミーにいる間が頃合い。
それをこの中忍試験まで待つということは、それなりの理由だと思ったが。
よりによって、器。おそらくそれも使い捨てだろう。
瑠威のような長寿ではない手段で延命しているというならば、肉体に負荷がかかるし、その肉体の元の意思は無くなるんだろう。
そう考えただけでも寒気がする。
"お前はもう部下持ちなんだ"
ああ、これが瑠威の言っていた事か。
確かにこの状況になるなら、俺は彼女を警戒している場合ではない。
それよりも周りと一緒に行動し、部下となったサスケやナルト、サクラを守っていかねばならない。
瑠威にはオビトとリン、イタチの治療に集中してもらって……
いや、だが彼女はおそらく自来也様について行くつもりだ。
里のほうには、分身と狼にでも任せておくのだろう。
眠る前のセリフからそれを読み取れるが、いったい何をそこまで焦っているというのか。
瑠威、貴女はいったいナンバーⅡの地位を何だと思っているというのだろう。
重鎮だからこそ、どっしりと構えてもらわねばならないと思うし、そんな地位にある人はそうそう前線に出るべきではない。
しかもナルトの横に移住してくるなんて、なぜそこまでするというのか。
なぜそこまで……。
いくつも考えながら結論を出そうとするが、俺の中でその言葉が響くだけだった。
カカシside end
猿飛side
次元を渡ってきたという少年たちを死の森へと案内していた。
違う世界へと来たというのに、彼らには迷いはない。
なぜ、そのような瞳をできるか。
経験上、相当の覚悟をしたのだと、ワシは直感した。
その覚悟をした理由を聞くのは野暮というものだろう。
「火影様、彼ら忍びでもないのにあの森に案内などして大丈夫なのですか?」(ゲンマ)
「ああ、それはワシも気にしていたのじゃが」
振り返って、彼らに顔を見る。
「どのような場所かを教えてくだされば何とかこちらで対処します」(小狼)
「だな。俺はいま獲物もあるし、ありたいていの事は何とかなる」(黒鉄)
「黒鉄はほんと物理で何とかしようとするねぇ。まぁ、それだけで無理なら僕が何とかするから大丈夫だよ~。魔法使いなんだから」(ファイ)
どうしてそう言い切れると、ゲンマは思っているだろう。
「なるほど、いくつもの世界を既に渡った後であり、その経験上であればということか」
「さっすが~。ここでの責任者」(ファイ)
一番雰囲気的には飄々としていそうな青年が笑顔で返す。
瑠威殿と接していることが常の状態になっていたワシだからこそ、こ奴が一番最年長ではないかと察した。
「ゲンマ、どうやらこやつらは相当強そうじゃ。案ずる必要はない。とりあえず、注意すべき事項を教えておくとよかろう」
「火影様がそう言うのならば、わかりました」(ゲンマ)
ゲンマにそう言うと、彼らに説明しだした。
本当に瑠威殿は何を隠しているというのだろう。
皆を集めてにじり寄って吐かせてみたものの、結局のらりくらりと躱してしまい、彼女の心中の感情を吐き出させるまでには至らなかった。
やったことの大筋は話してもらえたが、本音は話してくれなかった。
彼女の真の敵とはいったい何なのか。
ワシとて、うちはを狙った者が本当に大蛇丸の手の物だったというのは、定かではない。
今回の木の葉崩しは、確かに奴の仕業だ。
しかし、可笑しい。
仮にも師であるワシの目からすれば、あやつは”うちは”の一族全てを敵に回すほど愚かではない。
流石にそれは実力で何とかなるモノではない。
うちはは一人でいても敵に回すとしたら厄介な実力者の一族。
一族全体を狙ったのは、大蛇丸ではなくダンゾウの方だ。
瑠威殿が屠ってくれたが、おそらく、大蛇丸はあくまでそのおこぼれ狙いだったのだろう。
ならばなぜ……。
……もしも、今回の木の葉崩しすら裏で操ってる者がいるとするならば、それも納得がいく。
大体これは推測にすぎない。そもそも、いったいどこで瑠威殿はその情報を仕入れたのだ?
情報がらせん回廊のように渦巻いて、思考が鈍る。
歳を取るというのは、経験ばかりが増えてこういう情報処理的な思考が鈍るからあまり迎合すべき点ではない。
現状では情報の整理は無理かと、いったん思考を切る。
少年たちを送り届け、ワシらは死の森の入口にて待つ事にした。
ゲンマからは「火影様直々に待つなど」と、言われたが見守ることだけはしたいのだ。
懇願されたとはいえ、ここまで連れてきたものとしての責任だけは取りたい。
それにおそらく、今後は火影ではなくなるであろう自分。
瑠威殿に引き継ぎたかったが、彼女はそれを拒み、ワシの弟子に引き継ぐという構図を望んだ。
彼女の情報は、確かに表にはない。
裏にあってもそれもわずかだ。
だからこそ、彼女は拒んだ。
火影とは、皆に認められてなるモノなのだから、と。
今後、ワシは姉弟子である瑠威殿の本音を聞く事が出来るのだろうか。
別の人の役目である気もするが、彼女の本音は聞きたいものだ。
猿飛side end
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