「さて、説明してもらおうか?」
ベッドに押し倒されそうな形で質問するとは。
セブルス、実は天然か?
『良いですよ』
動揺を隠しつつ、ベッドからソファへと移動する。
杖をふって紅茶を出し、セブルスに勧めた。
セブルスはムッとしつつ、ソファに移動した。
いきなり盛ってもらっては、冷静に言えることも言えませんからねぇ。
『さて、どこから話しましょうか』
「大前提がというところからだ」
『それを話すのに当って、一つ話さなくてはいけませんね』
「?」
『セブルス、私のイメージカラーって、スミレ色なんだって。で、アルバスじいちゃんのイメージカラーは白なんだって。で、もちろんセブルスは黒。あ、ミネルバはワインレッドだそうですよ』
「――」
『まず、私が見つけた場所は、四つ。そのうちの二つは既に”知っている”知識。一か所目は“トイレ”、二か所目は”森”。この二つが最初っから知っている場所ですね。で、他の二つが探さなければいけない場所だったわけですが、今日確認した”かがり火の柱”のところともう一か所。これが意外にも、難しい場所にありましてね。吃驚することに時計塔にありました』
「それが一体……」
『気づきません?これ全て微妙にそれぞれの寮の特色を醸し出している場所なんですよ』
「!?」
『トイレは水回りというところから水色。森は緑色。かがり火の柱は赤色。時計塔は中のゼンマイから黄色』
「――」
『それぞれがある場所の表す意味も結構確信を突いてます。さて、セブルス。そこから導き出されることは?』
「……まさか」
『そのまさかでしょうね。大体完全に敵対していたなら、わざわざ灯台下暗しの状態に自分の秘密基地なんて作りません。見えず、完治も不可能な場所に作りますよ。誰にも見つからぬ場所にね』
『セブルス。”知る覚悟”はある?』
「ふん、我輩を誰だと思うておる?もう情報に惑わされるのも嫌だ。真実を知る覚悟など、とうに出来ておる」
流石は”元”死喰い人。
確かに、そのなった経緯は情報に惑わされたと言ってもいい。
『心配はいりませんでしたか。では、さっそく明日乗り込みましょう』
「もちろん、我輩はついてくぞ?」
『是非そうしてください』
ちなみにこの後、ポンフリーとハグリッドが部屋に来た。
この二人が残りの心配していた人たちだったようだ。
ポンフリーは私とハリー、ロンに「怪我なかったか」と聞き、ハグリッドはハリーの様子をすごく気にしていた。
ポンフリーはもはや職業病だよ。
ハグリッドは……まぁ、連れてった責任感じてんだなぁ……。
とにかくその二人をなだめて、帰らせた。
その後、セブルスが盛るかと思ったが、気を効かせてただ寝るだけにとどめてもらった。
抱きしめられたまま眠るのは、少し慣れてないんだけどね。
ちゃんとしっかり寝て二人して昨日と同じ”かがり火の柱”へと向かう。
素早くスイッチを押し続け、手際よく最期のルビーのスイッチを押す。
赤く光る面が現れた。
『行きましょう』
「ああ」
赤く光る扉(?)をくぐる。
くぐれば、岩でできた階段が下の方へと続いていた。
『あら、意外。階段があるなんて思いもしなかった』
「……確かに」
転倒に気をつけながら、下へと降りてゆく。
ところどころに燭台らしきものがあった。
広がる闇は少し、あざ笑ったかような空気を漂わせている。
「禪」
『ん?』
「勝算はあるのか?」
『勝負云々じゃ、ありませんよ』
今回の目的は、バジリスクと会話するためだ。
蛇語じゃなきゃとか思われるだろうが、慧による翻訳魔法があればそんなのは関係ない!
意志疎通さえできればこちらのものである。
十分ほど下に降り続けて、やっと秘密の部屋の端へと出る。
『お、着いたかな?』
「ここが?」
『あー、端だけどね』
「薄暗いな」
『まぁ、長年放置されてきたんだし、こうなりますよ。床も壁も埃(ほこり)だらけですし』
「本当にここか?」
『……疑うのも分かりますけど、事実ですねぇ。ま、本題のいるとこまで進みましょう』
部屋の一端からゆっくりと歩き、部屋の中央らしいところまで行く。
するとそこには、映画や原作通りに蛇の柱が左右に並んでいる。
うわぁー、映画のワンシーンそのものだなぁ。
私たち二人じゃ、違和感あるけど。
「いかにもスリザリンだな」
『シンボルですからねぇ。でも、注目はそこじゃないでしょう』
指でスリザリン(?)の壁に掘られた像を指す。
「?!」
『いやいや、そこは吃驚せずとも……権力者ってこういう趣味とかありましたし、案外別の理由かもしれませんからね』
スリザリンの石像から適度な距離で止まり、深呼吸して精神を研ぎ澄ます。
『セブルス、少しだけ離れていて』
雰囲気を変えた私に、セブルスが三歩ほど下がる。
『慧』
【御意】
返事とともに、翻訳魔法がかけられる。
『起きなさい。バジリスクよ。話があります』
<だ……誰だ?>
『通じましたね?起きてください』
<何の用だ?私はもうずっと寝ていたい>
どこの引き籠り?
【主よ。我が話をつけよう】
『慧?』
慧が顕現し、私の横に立つ。
【さて、蛇の王よ。我は蛇の神。姿を見せよ】
<!?どういうことだ?人が神を降(くだ)しているだ、とっ?!>
「!?」
吃驚するバジリスクとセブルス。
そりゃ、神は神でも”蛇”の神とは、いろいろ都合悪いと思ったから話していなかったからね。
【別に我は降されたわけではない。この子の考えと魔力に気が惹かれただけだ。何の戦闘もしておらぬ】
<しかし!神である貴方様が?!>
ああ、もはや敬語だね、バジリスク。
【別によいであろう?さぁ、そこから出てくるのだ】
<で、ですが――私は眼を向けるだけで死を撒き散らしてしまう……>
【ふむ、そんなことか。では、なおさら出てこい。我がその眼の呪いを取り除いてやろう】
<なんと!ありがたい!>
『ついでに毒も取り除いてあげましょうか?』
<それは、困る。この牙は我の誇りだ>
『牙は折りませんよ。抜きもしません。ただ毒だけ無くすだけです』
【主よ。確かこの者の牙は今後役に立つのであろう?この者自身に行かせればよい】
『あー、そうね。けど取りあえず、毒に関しては後回しにしましょう。まずは眼の能力を取り除いてあげなくては』
【と、言う事だ。大人しく出てこい】
<本当に、この呪いを解いてくれると?>
【くどい】
ぎぎ……ごごごご……
映画のように石像の口が低い音を立てて開き、白く巨大な蛇が出てくる。
その眼は閉じられていた。
【では、主よ。少し魔力を貸してもらってもいいか?】
『もちろんよ。この子の先天的な能力だとしても、見るだけで殺してしまうなんての嫌でしょう?』
【やはり、主は寛大だな。背後にいる者は言葉もないというのに】
ん?
あ、セブルスが口をポカンとあけてる。
吃驚しすぎたか。
【まぁよい。では、貰うぞ?】
慧が手を私の背中に当てる。
その動作で魔力経路が接続された。
……私の背中にコンセントでもあるのだろーか。
【もう少し前にこい。そうだ。しばらくじっとしていろ】
バジリスクに指示を出して、慧が手をかざした。
その手から赤い光が溢れだし、バジリスクの巨体を包んでいく。
包み込まれると、次第に光がバジリスクの身体に浸透していくように消えてゆき、慧も手を降(お)ろす。
【もう大丈夫だ。試しに、右側にを向いて眼を開けてみよ】
<で、ですが――>
『大丈夫、そっちにいるのネズミだから』
<でも――>
【くどいぞ。主が気を効かせているのだ。そろそろ観念して、眼を開け】
慧の一言に、バジリスクはおそるおそる右を向き、眼をゆっくりと開ける。
バジリスクの視線上にいるネズミは――石にならなかった。
<!!>
【どうやら成功だな】
『これで普通に見る事ができるな』
<ほ、本当に?私は――>
驚いて、確認し始めるバジリスク。
まず尻尾で顔をなぞり、、続いて私達に視線を向ける。
もちろん私達は固まる事もない。
「いったい何がどうなって……」
あ、セブルスを蚊帳の外にしたままだった。
その後、バジリスクはすごく感謝してきた。
何度も何度も頭を下げ、終いには身体をすり寄せてくる。
感謝しきれないと、私に忠誠を誓うほどだ。
え、マジで忠誠誓ってくるの?
『あー、さてどうしようかな?』
「禪、すごいことになったな。だが、さすがに目立つぞ?」
【そこはどうとでもなろう?主よ、クィレルに使った手をこやつにも使ってやればよい】
『あ!そういうことですね!』
ネックレスを外して、バジリスクに――ってちょい待て。
『うーん、元の姿に戻れなかったらどーしよ』
【主よ、そのような事は大丈夫だ。本来、主のは人に使用するものだ。それを蛇の王に使用するとなれば、人型にもなれる蛇が出来上がるだけのこと】
『?慧みたいに?』
【そうだ。まぁ、少し違うがな。私は自分の意志で姿を変えられるが可能だが、バジリスクには禪の意志が必要となる】
『つまり自身じゃなくて、私の許可が必要なのね。うん、理解できたわ。じゃ、始めるね』
再びネックレスを押し当てて、呪を唱え始める。
『我、炎と土に加護されしもの。
眼下に映せしこの者を解析せよ』
私の色とされるスミレ色の魔力がバジリスクを包み込む。
『続いて身体構造を分解。
カタチを固定・再構成!
魂に沿って、我の前に姿を顕現せよ!!』
光が強くなり、それが納まると白髪の青年がいた。
「これは――!」(バジリスク)
『どうやら、魂の形とやらで人に当てはめてみるとそういう事になるのね。結構イケメンじゃない』
「イケメン?」(バジリスク)
『ああ、美形って事よ』
白髪といえど、ルシウスほどの気障さはない。
当り触りはサラリとしていて、ねちっこくはない。
背はセブルスより十㎝は高かった。
『人型にしたら、かなりシンプルな衣服ね。まるでローマ時代だわ』
【杖の影響かもしれぬな】
『?でも慧は平安時代……』
【国は違えど、それは西暦でいえば七百八十年くらいからのこと。我はちょうど八百年頃の波乱の時期から見守っていた。だが、その我よりもこの杖に使われている木の芯は古い】
「杖の芯は貴様であろう?」
【セブルスとか言ったな。我が芯に使われただけで、本当にそれだけでこの世に留まると?そのようなことはなかろう。我を留めるために、我の一部を巻くためだけの素材も使用されておるのだ】
「それが古いと?」
【ああ。主の知識の片隅に埋もれている知識によればかなり貴重で古い】
『え、どれ?いろいろあるよね。力あるものを抑制するための道具って』
いや、まさか……うん。
色々突っ込みどころあるけど、あえて追求しないでおこう。
何とかの糸なんてことないよね……。
とりあえず、人型になったバジリスクを連れて秘密の部屋をウロウロする。
『かなり水が溜まってますね』
「ここに初めて来たときは、そんな事は無かったのですが……」
すっかり敬語になってしまったバジリスクの言葉を聞きながら、推測してゆく。
慧は疲れたと言って、杖に戻ってしまった。
『ちなみに部屋はここ一か所だった?』
「私が知る限り、この広間が一番大きく、私が入っていた場所を含めて七つくらい部屋があったと……」
意外と多いね。
『うーん、ということはみんな水没?又は分かりにくくしてあるのかな?』
目を凝らしてみるが、水は少し淀んでいてわからない。
『セブルス。地上でどこ辺りが空いてます?』
「?水でもくみだすつもりか?……ならば、ハグリッドの小屋の近くにある岩などどうだ?」
『岩……あれか!なんかあそこ空っぽの池みたいなやつ』
「それだ」
『りょうか~い』
杖ではなく、右手を振って水をそこまで移送する。
「なんと!貴方様も杖なしで行使を!?」
驚くバジリスク。
『ああ。ま、珍しいわよね』
本の中でも、そう語られぬ魔法の行使の仕方だ。
『でも、部屋がそんなにあるなんて……。何を未来に見ていたのかしらね』
「私には、”ここで後継者が来るのを待て”という以外は何も話されませんでした」
バジリスクがしゅんとする。
犬?!
え、性格的なのかな?
蛇のはずなのに犬っぽいんだけど?!!
『とにかく、まだ新学期までは時間ありますし、この夏休みの間に探しましょう』
今日はしないでおこうと決め、バジリスクとセブルスを見る。
『今日はここまでにして、いったん地上へ帰りましょう。バジリスク、貴方も来なさい。独りはあまり好きじゃないでしょう?』
「……なんでわかって」
『身体をすり寄せてきた時あたりから』
「……本当はそう、なんだ。だから……」
『”ずっと寝たい”って言ってたのはそういうことだったのね。現実に目を背けるために』
目を伏せるバジリスク。
その様子を見て、セブルスは目を細め渋い顔をした。
『大丈夫。もう大丈夫よ、バジリスク』
手を取り、目線を合わせる。
『罪もあるけど、ずっとここに独りでいたのでしょう?もう充分すぎるわ。だから、私もセブルスも責めやしないよ。行こう』
そう言うと、バジリスクが抱きついてくる。
泣いているようだ。
大きな弟が出来たみたいだなぁ。
なんとかバジリスクが落ち着いた頃。
私たち三人は地上まで戻り、とりあえず校長室を目指した。
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